古民家への断熱リフォームの注意点と実例 ~歴史的文化財と家族の健康を守るために必要なこととは~

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旧家・古民家は本来、風通しの良さを重視して造られています。風が通る方向に向けて大きな窓があったり、風が家の中全体を通るように襖や障子などの間仕切りを多く使用したりしていました。

(引用)旧家再生研究所 旧家ものがたり Vol.05『民宿の記憶』 住友林業ホームテック

これは日本特有の湿度の高い気候が関係しています。柱や壁などの重要な構造体がカビに浸食されたり腐食したりすることを防ぐためです。この構造により、湿気が家の中にこもることがなく、床下に常に風が通ることで土台の腐食も防ぎ、厳しい気候の変動にも長年耐えることができています。

当時は囲炉裏や火鉢などを用い、比較的狭い範囲を温める暖のとり方をしていました。しかし、現代はエアコンやストーブなど、空間全体の空気を暖める暖房が多く使われています。

これらの暖房器具には、風通しの良い気密性が低い古民家の工法は不向きであり、電気や燃料などを使用するのにも、とても非効率な環境なのです。無駄なエネルギーを抑え、家の中の寒さを改善するためには、断熱リフォームが必要でしょう。

とはいえ、古民家や旧家は歴史的価値のある大切な建造物。長年受け継がれてきた家を守りながらも、現代の生活に添ったリフォームの方法をご紹介していきます。

古民家・旧家の構造と、現代の生活に不向きなポイント

100年以上の歴史がある旧家・古民家は「伝統構法」という基礎がなく、玉石の上に柱が直接立っている工法(建物の重さで安定させる昔ながらの工法のこと)で造られています。そして実は、夏に快適に過ごせることを前提に造られているのです。換言すると、冬の寒さには適していない、寒くて当然とも言える構造です。

基礎は、柱のひとつひとつを単独の束石で支える「石場立」という工法です。この工法により、床下を空気がより良く通り抜けていきます。室内は障子や襖で仕切られる間取りが多いため、広い空間が多く開放的で人が集まるのに適しています。昔は和室を奥座敷、次の間、中の間などとし、用途や来客の身分などによって使い分けていました。

外壁は、柱と柱の間に竹で作られた格子状の下地に土を塗り重ねた造りです。屋根も同じ構造で、竹の下地の上に土の土台、そしてその上が瓦葺や茅葺となっています。基本的には断熱材などは一切使われておらず、土や木の材料自体が持つ保温性のみに頼った構造です。

しかし、この工法や土や木などの部材たちが湿気や風雨の浸食を防ぎ、吸湿と乾燥という働きを繰り返し、長い間、家を守ってきたのです。

こうした木材の耐久性を生かし、古民家の強さを守りながらも新たな機能を備えた家に進化させるのが、古民家の理想的な断熱リフォームでしょう。

古民家断熱リフォーム実例

一般的に床には断熱シートや断熱ボードを敷きますが、古民家の場合は床板1枚、その下は地面、という構造も少なくありません。こういった場合は、まず断熱材を入れるための下地を作る工事を行います。断熱材は湿気に弱いので、断熱材の下には防湿シートを張っていきます。

(引用)旧家・古民家の省エネルギーリフォーム技術

施工の際、和室の畳をめくると囲炉裏がある部屋もあるかもしれません。全面に断熱材を敷いてしまうと囲炉裏は使えなくなるので、残したい場合は囲炉裏を避けての施工することも可能です。

基本的には在来工法と同じ、グラスウール等の断熱材を使用します。壁の構造や使われている壁材によっても、内側に施工するか外側に施工するか等の工夫が必要ですが、この場合も既存の部材をなるべく壊さないリフォームが理想です。

(引用)旧家・古民家の省エネルギーリフォーム技術

壁の内部を解体することで柱など他の部材にダメージを与えてしまう場合は、既存の内部壁の上から断熱材を入れる方法もあります。ただし、断熱材の施工には気密性を高めるぶん内部結露が発生しやすくなります。
壁など手が届く場所なら、個人でリノベーションしたいと思う方もいるかもしれませんが、結露を防ぐ断熱というのは非常に難しい技術なのです。DIYなど専門家以外で行うリフォームはあまりお勧めできません。

天井

天井裏は、伝統工法の場合、屋根との間に広い空間が出来ています。断熱材を敷くことにおそらく問題点は無いと考えられますが、屋根自体に損傷がある場合はその補修が前提となります。

(引用)旧家・古民家の省エネルギーリフォーム技術

古来の瓦は耐久性にも優れているため、目立った損傷は無いかもしれません。しかし、その下地の土や竹や木材等は、雨の浸食により崩れたり、ヒビが入っていたりすることもあります。天井材に一般的に使用するグラスウール等は、漏れると断熱性能を失ってしまうため、屋根の補修を確実に行いましょう。

古民家の場合、窓は単層の薄いガラスである場合が多いのです。風でガタガタと揺れる建具は古民家らしい風情もありますが、窓枠も無くレールがあるだけなので、これが隙間風などの原因にもなっています。
複層ガラスの建具への取替えや二枚窓の設置が効果的です。

(引用)旧家・古民家の省エネルギーリフォーム技術

複層ガラスはひとつの窓に2枚のガラスが取り付けられており、冷気を伝えにくい構造です。ただし、昔からある古い建具やガラスは、現代では製造が不可能な場合もあり、なかには歴史的価値のある貴重な製品ということもあります。すりガラスや模様入りの板ガラスなどは、材質や製法によっては二度と同じものは手に入らないものも少なくないでしょう。
こうした建具をこの先も残したい場合は、内窓の増設による二重窓がお勧めです。これにより既存の建具を撤去せずとも断熱効果が得られます。

古民家をさらに長持ちさせるための除湿・防湿加工と換気設備

旧家・古民家の断熱で重要なポイントとも言えるのは、湿度管理です。
現代の暖房は、昔と比べると遥かに過剰な暖房で、発生する結露や湿気もかなり多くなっています。これはカビの原因になり、最終的には構造部の腐食につながってしまうため、湿気対策が不可欠です。

基本的には防湿シートなどを断熱材の施工の際にしっかりと施工することで外からの水気の浸入をシャットアウトします。結露は、外の冷気と室内の暖気の温度差により発生するため、この温度差を緩和することが結露防止になります。熱伝導率の低い材質のものを下地材や仕上げ材に使用し、結露の発生自体を抑えます。

木材や土壁、漆喰などの自然素材は、熱伝導率が低く、吸湿性にも優れています。内装や外装を新しくする場合も、古民家の見た目と機能性を失わせない木材は積極的に取り入れると良いでしょう。
また、断熱リフォームでは建物内の換気設備もしっかりと整えることが重要です。24時間換気や、浴室、キッチンの換気扇の設備と使用を徹底し、窓を開けての換気等も手入れとして日常的に行いましょう。

旧家・古民家の断熱リフォームの注意点

古民家や旧家は、現代主流の在来工法とは構造が違う部分も多く、専門的な知識と見立てが鍵となります。ですので、古民家・旧家のリフォームの実績が多く、伝統工法の技術を持っている工務店など、専門技術を持っている業者を選ばなくてはなりません。一般住宅やマンション、水まわりなどの専門業者ですと、誤ったリフォームを行ってしまう恐れもあります。

不安な場合はしっかりと内容を確認して、しっかり説明をしてもらいましょう。専門の業者であれば、きちんと対応してくれるはずです。特に断熱リフォームに関しては、既存の状態や現状の湿度や結露、リフォーム後の結露状態などの確実な数値を算出することが非常に重要です。それらを考慮したうえで断熱材の種類や、施工箇所、厚さなどを決めていきます。これはどの業者でもできることではなく、場合によっては古民家鑑定士や、旧家や古民家のリフォームに精通したリフォーム会社など、専門家の指導が必要な場合さえあります。また、DIYによる断熱リフォームを検討している場合は、事前に必ず専門家に調査してもらい、施工方法の指導を受けると良いでしょう。

まとめ

旧家・古民家の中には、民宿や醸造、商売をしていた歴史がある家もあり、現代の家族が住むのにそもそも不向きな間取りであることも少なくありません。
旧家・古民家リフォームの醍醐味である、天井が高く現わしになった梁や各所の吹き抜けといった開放感のある間取りは、モダンかつおしゃれであり、憧れている人も多いでしょう。

住まう人に合わせたリフォームをすることで、広い空間の中でもいつでも家族を近くに感じられる造りになります。こうした間取りで暖房を効率よく使い、省エネルギーに抑えるためには断熱リフォームは不可欠でしょう。

断熱リフォームは、住む人のためのリフォーム。
これからも安心して快適に住み継いでいけるよう、ぜひ早期の導入を検討することをおすすめしています。