トイレリフォームでウォシュレットはつけるべき? 健康上の観点から医師が詳しく解説

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今日、自宅に限らず駅や商業施設など、さまざまな場所のトイレには温水洗浄機能が付いています。さまざまな機能が備わった温水洗浄便座も販売されているので、リフォームをきっかけに便座の交換を検討する人は多いことでしょう。
トイレを快適に使うことのできる温水洗浄便座ですが、使い過ぎによる健康リスクも指摘されています。さらには、耐用年数も10年程度となっています。
温水洗浄便座の特徴や使用上の注意点を知って、正しく活用しましょう。

「温水洗浄便座」が一般名

ところで皆さんは、便座から温水が出るトイレを、何と呼んでいますか? 一般的に意味が通りやすい「ウォシュレット」はTOTO、「シャワートイレ」はLIXILの商標で、一般的には「温水洗浄便座」の名称で呼ばれています。このほか、さまざまなメーカーから温水洗浄便座が販売されています。

温水洗浄便座の歴史

温水洗浄便座は、身体障害によってお尻を拭くことができない方のために医療用としてアメリカで開発されました。日本では伊奈製陶(INAX)が1967年に発表した「サニタリーナ」が初の温水洗浄便座です。その後、1969年にはTOTOも温水洗浄便座を発売。独自に研究開発されたノズル角度や温水温度の設定が功を奏し、CM展開とあわせて「ウォシュレット」の名前が定着します。
温水洗浄便座の普及率は、平成のはじめには10%台でしたが、現在は80%を超え、家庭のみならず鉄道や公共施設などでも見かけるようになりました。(※1)

温水洗浄便座の仕組み

温水洗浄便座は、ボタンを押すと便器に取り付けられたノズルから洗浄用の温水が吐出されます。肛門(おしり)と会陰(ビデ)のボタンが異なるのは、ノズルの角度と位置の違いによるものです。
温水洗浄便座の機能はお尻を洗うことにとどまりません。便座があたたかいのはもちろん、着座を感知するもの、消臭機能を持ったもの、音を出す装置を持ったものなど、付加価値を持つ機種が各メーカーから販売されています。また、ノズルの洗浄機能が付いたもの、温水マッサージ機能が付いたもの、節水・節電機能の高いものなど、温水洗浄の本体部分も改良されてきました。
リフォームなどで便座の交換を検討される際は、予算やお手入れのしやすさなどを含めて自宅にあったものを選択しましょう。賃貸住宅などで大がかりな工事が難しい場合でも、便座の交換で対応できる商品が販売されています。

温水洗浄便座の効果

温水洗浄便座を使う一番の目的は、肛門や会陰周囲の洗浄・清潔です。紙で何度も汚れを拭く必要がないため、皮膚をこすって傷つけることがありません。また、こびりついた汚れを温水で湿らせることで簡単かつ効率的に拭き上げることが出来ます。

肛門をきれいに保つ

肛門は排便時に大きく開いて閉じるという動作を繰り返しています。そのため、肛門はしわができやすく、しわの間に付着した便を拭き取ることは困難です。いぼ痔とよばれる外痔核のある人は皮膚が平らでないために便が付着しやすく、何度も紙で拭くことで出血や痛みが悪化するおそれもあります。切れ痔と呼ばれる裂肛も、痛みのあるなか、紙で便をふき取ることは大変です。その点、温水洗浄便座を使用すると、肛門周囲をやさしく洗えて清潔を保てるほか、痔核に対しても温水を当てることにより、血流改善が期待できます。

会陰をきれいに保つ

女性の会陰洗浄にも温水洗浄便座は効果的です。月経時の経血やおりもの、出産後の悪露(おろ)とよばれる血が混ざったおりものによって会陰は汚れがちになります。
デリケートゾーンの洗浄にぬるま湯の入った洗浄ボトルを用いる方法は以前から行われていますが、温水洗浄便座を同じように使用することで、血液などのこびりついた汚れを温水でやわらかくして効率的に汚れを除去することができます。妊娠中など、うまくおしりを拭けないときにも温水洗浄便座は役立つでしょう。

温水洗浄便座の注意点

肛門・会陰を清潔に保つことのできる温水洗浄便座ですが、使用にあたっていくつかの注意が必要です。

ノズルの汚染

メンテナンスが行われないままのノズルは汚染の心配があります。たとえば、下痢などでノズルが汚染された場合、菌が繁殖し病気の原因になることもあります。一般的にノズルの衛生環境は水質に影響しないとされていますが、定期的な清掃・メンテナンスは大事です。ノズルの洗浄機能が付いた商品も発売されているため、それを検討するのも選択肢のひとつです。

温水便座症候群

長時間の洗浄、強い水圧、高い水温、強い乾燥といった温水洗浄便座の過度の使用が皮膚のバリア機能低下をまねき、肛門のかゆみなどを引き起こす「温水便座症候群」につながることが指摘されています。これは肛門がかゆくなる肛門掻痒症のひとつであり、軟膏などで対応できます。温水便座との明確な因果関係は報告されていませんが、肛門にかゆみがある場合は強い水流ではなく、ソフトな水流を短時間あてるだけにとどめ、専門医の診察を受けるようにしましょう。(※2)

不適切な温水洗浄便座の使用に注意

温水洗浄便座の普及率が80%を超えても健康被害が増加していないことから、適切な使用をする限り温水洗浄便座は安全といえるでしょう。換言すると、温水洗浄便座の使用にともなうトラブルは、適切な使用方法が守られていないがために起こる場合があると言えます。具体的には以下のような使用方法が不適切です。

  • 長時間の洗浄や洗いすぎ
  • 局部内を洗浄する
  • 便意を促すために肛門に水流をあてる
  • 洗浄しながら故意に排便する
  • 痛みや炎症がある状況で使用する

日本レストルーム工業会では温水洗浄便座の過度の使用に注意を呼びかけており、メーカー共通の注意喚起をおこなっています。(※3)

温水洗浄便座を適切に使用し、快適なトイレライフを

温水洗浄便座は便利で快適な道具であることは間違いありません。使用方法を守ってトイレの時間を安全快適に過ごしましょう。

※1 内閣府経済社会総合研究所 景気統計部 消費動向調査 令和3年3月実施調査結果 P6 P7

※2 矢野 孝明「温水便座症候群」は存在するのか?:日本医事新報(4658)P53-56. 2013

※3 一般社団法人 日本レストルーム工業会 温水洗浄便座の使用上のご注意について