高齢者の転倒を防止しよう バリアフリー住宅リフォームの考え方を詳しく解説

公開日: 更新日:

高齢者にとって、転倒は骨折などの大けがの原因になるだけではなく、寝たきりにもつながりかねない重大事故です。厚生労働省が行った調査では、介護が必要になった主な原因のひとつとして「骨折・転倒」が挙げられています。しかも、転倒事故の多くは「自宅」で発生しています。

▼高齢者の転倒事故の発生場所(令和2年に東京都(稲城市、島しょ地区を除く地域)で救急搬送された65歳以上)

東京消防庁ウェブサイト「安心・安全>日常生活における事故情報>救急搬送データからみる高齢者の事故」より引用

しかしながら、加齢にともない身体の機能は少しずつ衰えていくものであり、それにともない転倒リスクも高まります。だからこそ、からだが動くうちに自宅をバリアフリー化するなど、転倒しにくい環境づくりに積極的に取り組む必要があります。

今回は、高齢者が転倒しやすい理由と自宅内で転びやすい箇所を解説したうえで、転倒リスクを減らすリフォームのアイデアを提案します。

高齢者はなぜ転びやすいのか

厚生労働省の資料によると、家庭における転倒・転落による死亡事故は、階段など段差のあるものよりも、同一平面上の転倒で多く発生していることがわかります。高齢になると、なぜ平面上でも転倒しやすくなるのでしょうか。

▼家庭における転倒・転落事故による死亡者数の推移

消費者庁News Release「10月10日は「転倒予防の日」、高齢者の転倒事故に注意しましょう!-転倒事故の約半数が住み慣れた自宅で発生しています-」(令和2年 10 月8日)より引用

加齢にともなうからだの変化

加齢にともなうからだの変化は、だれにでも生じるものです。加齢変化は改善が難しく、徐々に進行するため、本人の自覚が乏しいという問題もはらんでいます。

転倒要因となる加齢変化の例

  • 筋力の低下(瞬発力や持久力の衰えに直結)
  • 運動速度の低下
  • 姿勢の変化
  • 柔軟性の低下
  • 平衡感覚(バランス感覚)の衰え
  • 視覚・聴覚の衰え(危険に気付くのが遅くなる)

病気や薬の影響

病気や薬の副作用が転倒をまねくこともあります。

転倒をまねくおそれがある病気と症状の例

  • 起立性低血圧:ふらつき・立ちくらみなど
  • パーキンソン病:歩行障害
  • 脳梗塞後遺症:まひ
  • 認知症:運動障害、集中力低下、焦り、幻覚
  • 変形性関節症:足がまっすぐ伸びない、からだの重心が後ろにずれる

転倒をまねくおそれがある薬の例

  • 寝つきを良くする薬や眠気の副作用がある薬(睡眠導入剤、アレルギーの薬など)
  • 立ちくらみの副作用がある薬(一部の高血圧治療薬など)
  • 薬の効き過ぎで転倒リスクが高まる薬(糖尿病治療薬:低血糖時にふらつきや眠気などが生じる場合がある)

運動不足

日常的に運動する機会が少ないと運動機能や感覚機能が低下して転倒リスクが高まります。運動不足が続くと骨がもろくなりやすくなり、転倒時に骨折をまねくおそれがあります。

自宅内で転倒リスクが高い箇所

つづいて、自宅内で転倒リスクが高い場所を見ていきましょう。以下は、令和2年に東京都(稲城市、島しょ地区を除く地域)において、転倒事故で救急搬送された65歳以上の方のデータです。

▼住宅など居住場所における高齢者の転倒事故発生場所上位5つ(令和2年中)

東京消防庁ウェブサイト「救急搬送データからみる高齢者の事故

それぞれの箇所では、何が原因となって転倒事故が起きているのでしょうか。実際の事例を紹介します。

事故が起きた場所

事故が起きた原因

居室

コード類に引っかかる

カーペットで滑る・つまずく

床に置いた新聞紙や雑誌で滑る

リモコン類を踏んで転ぶ

寝室

夜間のトイレ移動時に転ぶ

布団につまずく

コード類に引っかかる

玄関・勝手口

上り框(かまち)など段差につまずく

靴の脱着時にバランスを崩す

玄関マットで滑る

廊下・縁側・通路

スリッパや靴下で滑る

マットで滑る

障害物につまずく

部屋への出入りの際につまずく

階段

足元が見えず、踏み外す

足元が見えず、うまく着地できない

上り下りの途中でふらつく

スリッパや靴下で滑る

トイレ

立つ座るの動作からくる血圧変化によるふらつき

ドアや便器のフタの開閉時にバランスを崩す

立ち上がるときにバランスを崩す

洗面所・脱衣所・浴室

ぬれた床で足を滑らせる

出入り口の段差でつまずく

浴槽の出入りでバランスを崩す

台所など

キッチンマットで滑る

吊り戸棚から物を出そうとしてふらつく・倒れる

踏み台から落ちる

庭や駐車場

水たまりで滑る

草やコケで滑る

車止めや段差などでつまずく

このように、場面によって転倒リスクとなる要因は異なります。したがって、リフォームで転びにくい家づくりを目指す場合は、自宅のレイアウトや生活様式などにも配慮した対応が必要になります。

転倒リスクを減らすリフォームのアイデア

リフォームの際、どのような点に注意すると転倒リスクは減らせるのでしょうか。ここでは、各箇所の転倒原因に着目し、リスク軽減に役立つリフォームのアイデアを提案します。

場所

転倒原因

リフォームのアイデア

居室

コード類に引っかかる

コンセントの位置の変更

コード類が動線を遮らないようにする

カーペットで滑る・つまずく

床暖房の導入(カーペットなしでも過ごせるようにする)

床に置いた物で滑る・転ぶ

手の届きやすい場所に収納場所を用意する

寝室

夜間のトイレ移動時に転ぶ

手元で操作できるリモコン式ライトと交換

布団につまずく

ベッドに変える

玄関・勝手口

上り框など段差につまずく

段差をなくす

スロープや手すりの設置

踏み台の設置

靴の脱着時にバランスを崩す

ベンチの設置

玄関マットで滑る

マットを取り除く

滑りにくい床材にする

廊下・縁側・通路

スリッパや靴下で滑る・マットで滑る

マットを取り除く

滑りにくい床材にする

障害物につまずく・足元が暗くてつまずく

足元ライト、センサー式自動点灯ライトの設置

部屋への出入りの際につまずく

敷居をなくす

段差解消用のスロープを設置

階段

段差がよく見えず踏み外す・足元が見えずうまく着地できない

足元ライト、センサー式自動点灯ライトの設置

目立つ色のテープを貼る

滑り止めの設置

段差を低くする

上り下りの途中でふらつく

手すりの設置

スリッパや靴下で滑る

滑りにくい床材にする

トイレ

立つ座るの動作からくる血圧変化によるふらつき、立ち上がるときにバランスを崩す

手すりの設置

ドアや便器のフタの開閉時にバランスを崩す

トイレの扉を引き戸にする

自動開閉機能付きのトイレと交換する

洗面所・脱衣所・浴室

ぬれた床で足を滑らせる

乾きやすい床材にする

滑りにくい床材にする

手すりの設置

入り口の段差でつまずく、浴槽の出入りでバランスを崩す

踏み台やスロープ、

手すりを設置する

台所

キッチンマットで滑る

キッチンマットを取り除く

滑りにくい床材にする

吊り戸棚から物を出そうとしてふらつく、倒れる

踏み台から落ちる

昇降式の吊り戸棚を設置する

使いやすい位置や高さの収納を増やす

庭や駐車場

水たまりで滑る

水はけを良くする

草やコケで滑る

不要な草木を植えない

車止めや段差などでつまずく

段差を減らす

手すりを設置する

まとめ

転倒リスクを減らしてケガを予防することは、健康寿命を延ばすことにつながります。また、ケガをしにくい暮らしやすい家は、高齢者の自立性を高めることにも役立ちます。しかしながら、介護が必要になってからリフォームすると慣れない生活によって、ケガのリスクがかえって高まるだけでなく、動くことが億劫になり自律性を損なうことにつながりかねません。
繰り返しになりますが、からだの動く元気なうちにリフォームに取り組み、健康長寿が叶う家づくりを目指しましょう。