【看護師が解説】終末期を住み慣れた自宅で過ごすために 看取り環境を整えるリフォームとは

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「最期は住み慣れた自宅で過ごしてほしい」
「自分ができることは、やってあげたい」

家族が終末期になり最期のときが近づいてきたとき、このように思う家族はほとんどでしょう。しかし、実際にはどのような環境が適切なのか分からず、本当に自宅で看取れるのか不安になってしまうことがあります。また、本人の希望を優先した結果、家族の負担が増えてしまうことも多いようです。

今回は、看取りに必要な家庭環境の基本に触れたうえで、環境を整えるときのポイントを解説します。

「自宅で看取られたい」「看取りたい人」はどのくらい?

実際、終末期を自宅で過ごしたいと思う人はどのくらいいるのでしょうか? ここでは、2021年に発表された日本財団の調査結果を紹介します。

子ども世代に対して「あなたは、親御さんに死期が迫っているとわかったときに、人生の最期をどこで迎えさせてあげたいですか。」、親世代に対して「あなたは、死期が迫っているとわかったときに、人生の最期をどこで迎えたいですか。」という質問を行ったところ、子ども世代も親世代も「親自身の家」「自宅」と答えた人が最も多く、次に多かった「医療施設(病院・診療所)」の約2倍多くなりました。ここからは、親も子も最期は自宅で過ごしたい/看取りたいと思っている人が多いことが分かります。

日本財団 「人生の最期の迎え方に関する全国調査|P20」の情報を基に作図

人生の最期を迎えるうえで一番望ましい場所を「自宅」と選んだ理由を見てみると、「安心できる・なじみがあるから」「最期まで自分らしく過ごしたいから」「家族に囲まれていたいから」などの理由が挙げられました。(※)
たしかに住み慣れた自宅は病院と比べるとリラックスできますし、自分の好きなスケジュールで一日を過ごせます。家族にとっても面会時間の制限もなく、こまめに様子を確認することができます。

実は問題点も 自宅で看取るときに考えたいこと

自宅で看取ることはメリットばかりではありません。同じく日本財団の調査結果から、自宅で看取るときの問題点を考えていきます。

「もし、親御さんが、最期を「自宅」で迎えることを望んだとしたら、心配な点や困りそうな点、気になる点はありますか。」という子ども世代への質問に対し、「どのくらいの期間が必要かわからない」が回答として最も多い結果になっています。

どのくらいの期間が必要なのかは、その人や病状によって異なります。医師がある程度予測したとしても、その通りになるとは限りません。「看取り」は、心身ともに負担が大きくなりやすいので、家族が不安に思うのは当然のことでしょう。

日本財団 「人生の最期の迎え方に関する全国調査|P8」の情報を基に作図

次に多かった「何をしたらよいかわからない」という回答ですが、これにはさまざまな要素があるでしょう。たとえば、「自分にどのようなケアができるか」「どのような手続きが必要か」だけでなく、「看取りの環境をどのように整えるか」もあると考えられます。自宅は病院のように設備が整っているわけではないので、本当に自宅で看取りができるのか不安になる方もいるでしょう。しかし、事前にポイントを押さえておけば、不安を最小限にすることができます。

看取りのための療養部屋はどう選ぶ? 適した環境とは

自宅で看取りを行うための「療養部屋」を用意するにあたり、本人の自室や寝室を考える人が多くいます。しかし、このような理由だけで決めてしまうと、いざ療養が始まったあとに後悔してしまうかもしれません。
ここでは、療養部屋をどのように選んだらよいのか、3つのポイントから考えてみましょう。

1.広さ

広過ぎる必要はありませんが、ベッドの周囲に少しゆとりのある部屋がおすすめです。理由は、終末期には介護用品や医療機器などを置く可能性が高いためです。家族が介護をする場合も、ゆとりがあったほうが動きやすくなります。広さが足りないようであれば、お部屋を片付けてスペースを確保しましょう。

2.階数

療養部屋は1階に用意するのが望ましいでしょう。介護用品を搬入したり、病院へ搬送したりするときに負担を軽減できるためです。例外として、キッチンや浴室など本人の生活に必要な場所があれば、生活動線を考えたうえで療養部屋を選ぶとよいでしょう。

3.部屋の場所、位置

「家族のすぐ近くがいい」「静かな部屋で過ごしたい」など、本人の希望を聞いたうえで検討しましょう。大切なのが家族にとって無理のない環境です。たとえば、家族が集まるリビングの隣に療養部屋を設定したとします。メリットとしては「異変にすぐ気づける」「本人が寂しくない」などがありますが、一方で家族がなかなか休めないというデメリットもあります。このような点を踏まえて、総合的に判断しましょう。

心地よい看取りの環境を整えるためのポイント

看取りの環境には、先に紹介したような「選び方の基本」がありますが、それ以外にも意識したいポイントが4つあります。

1.本人の希望と家族の希望をすり合わせる

どのような環境で最期を過ごしたいかは、その人によって異なります。場合によっては、本人の希望通りにすると家族の負担が増えてしまうこともあるかもしれません。家族としては、「本人の希望を尊重したい」と思うかもしれませんが、先に触れた通り看取りの期間がどれくらいになるのかは予測が難しく、予想以上に長くなることもあります。
大切なのは本人の希望を尊重しながら、家族にとっても負担にならないような環境を選ぶことです。お互いにとってベストな環境が選べるように、可能な限り希望をすり合わせるようにしましょう。

2.途中で方針を変えてもいい

初めての看取りの場合、環境を整えるにあたって分からないことが多く、戸惑うこともあると思います。このような場合、初めから環境を完璧に整えるのは難しいものです。ある程度は予測して準備することになりますが、途中で変更することはもちろん可能です。どのような環境が適しているのか、その都度本人や専門職と話し合いながら調整しましょう。

3.介護保険を利用して福祉用具をレンタルする

介護保険を利用すると、費用を抑えながら介護用品をレンタルできます。要介護度によって異なりますが、レンタルできるものは手すりや電動ベッドなどさまざまです。これらは購入すると全額自己負担ですが、介護保険を利用したレンタルであれば費用の1割負担で済ませることができます(所得によって、2割や3割負担の場合があります)。また、レンタルだと交換ができるので、本人の状況が変わっても最適な介護用品を用意できます。
介護保険の第1号被保険者は65歳以上ですが、40歳以上で末期がんやその他の特定疾病がある場合は第2号被保険者になります。終末期を自宅で過ごす方向性になったら、病院の看護師やソーシャルワーカーなどに相談し、介護保険の申請を検討するとよいでしょう。

4.迷ったときは、気軽に専門職に相談する

自宅で終末期を過ごす場合、訪問看護師やケアマネジャーなどの専門職がサポートしてくれます。終末期は徐々に身体機能が低下していくため、適した環境が変わることも多くあります。迷ったときは専門職に相談し、その状況に合った環境を整えるようにしましょう。

まとめ

最期の時間を大切に過ごすためには、看取りの環境を整えることが大切です。本人と家族の希望をすり合わせて、お互いにとってどのような環境がよいのか考えてみてください。気負い過ぎず、迷ったときには専門職に相談して、適切な環境を考えていきましょう。