疲れずに介護のできる家とは リフォームのアイデアを看護師が解説

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手すりをつける、段差をなくすなど、介護リフォームの方法はいくつか思い浮かびます。
ただ、その人によってからだの状況が違えば、暮らしている家の構造も違います。単純に「こういうリフォームをしたらいい」とは、なかなか言えないものです。

リフォームの必要性は分かっているものの、具体的にどのようにしたらいいのか分からないときは、どうしたらよいのでしょうか?

今回は、看護師である筆者の経験から、病院や施設の特徴に着目し、自宅で介護リフォームをする際に参考となるポイントを紹介します。

なぜ介護リフォームが必要なのか

親が高齢になり「そろそろ介護リフォームをしようかな」と考える方は多いのですが、そもそもなぜ介護リフォームが必要なのでしょうか。まずは根拠となる部分を押さえておきましょう。

1.本人が生活しやすいようにするため

高齢になると、少しずつからだの機能が低下します。若いときには何ともなかったことが、年齢を重ねるにつれて気になったり、億劫になったり。それらが、生活のしにくさにつながることも実際あるものです。 内閣府が全国の55歳以上を対象に行った調査によると、以前は問題なくできていた活動を、現在も「難しいと感じることはない」と答えた人はもっとも多いものの、「少し重い物を持ち上げたり、運んだりする」「立ったり座ったりする」「階段を1階上までのぼる」といった、日常生活での何気ない活動を「特に難しいと感じる」と答える人が一定数見られています。この年齢から、からだの機能の衰えを実感する方が増えてくるということではないでしょうか。 これらは生活が不便になるだけでなく、行動にためらいが生まれることが精神的な落ち込みにもつながります。そのため、リフォームによって親ができるだけ生活しやすい住まいにする必要があります。

内閣府 「平成29年高齢者の健康に関する調査(全体版)第2章 調査結果の概要|P.15 図表 2-1-3-1 特に難しいと感じる活動(Q3)(複数回答)」より引用

2.家族が介護をしやすくするため

介護を担う家族の負担を軽減するためにも、介護リフォームは重要です。 内閣府のまとめによると、令和元年現在、同居している主な介護者のうち、「ほとんど終日」介護に要しているという方は、19.3%でした。これは全体の割合であり、要介護度別に見ると、要介護3以上では「ほとんど終日」がこの割合をグンと超えています。 介護時間が長くなれば、自分自身の予定が思うように進まなくなったり、余暇の時間が少なくなったりします。この蓄積が心身の大きな負担となった場合は、共倒れになるおそれもあります。想像以上に長い介護時間を減らすために、介護しやすい住まいに向けたリフォームを考える必要があります。

内閣府 「令和3年版高齢社会白書(全体版) 第2節 高齢期の暮らしの動向 2 健康・福祉|P.35」より引用

病院や施設の特徴とは 介護リフォームのヒント4つ

病院や施設は、ケアがしやすいように構造が工夫されています。住宅と比較してどのような違いがあるのでしょうか。

1.動線が工夫されている

入院患者のいる病棟では、ナースステーションの近くに重症患者の部屋を設ける場合が多くなっています。重症患者は状態が変わりやすく、体調の変化を常に観察する必要があるからです。ケアの回数も多いですが、ナースステーションから近いため、すぐに駆けつけることができます。

2.廊下やトイレなどに手すりがある

病院や施設の廊下は長いものですが、手すりが設置されていて、患者がつかまりながら歩けるようになっています。また、トイレやエレベーターなどさまざまな場所にも手すりがあります。こうすることで、患者さんが移動しやすく、転倒を防ぐこともできます。

3.段差がない

入口にはスロープが設置されており、部屋と部屋の間にも段差はありません。これは患者が歩きやすく転倒のリスクを減らす目的もありますが、看護師や介護士が車いすを押しやすいというメリットもあります。

4.空間が広い

病院や施設では、廊下やトイレなどの空間が広く設計されています。広くすることでからだを動かしやすくなり、スムーズに介助ができます。

看護師が考える介護しやすい家とは

病院や施設の持つ特徴すべてを住宅に取り入れることは難しいのですが、リフォームの参考にできます。どのように活かすことができるのか、考えてみましょう。

1.動線を短くする

家の中を何度も行ったり来たりするのは効率が悪く、時間がかかってしまいます。自宅でも動線を短くできないか、考えてみましょう。たとえば、親の寝室をリビングや自分の寝室の近くにすれば、何かあったときにすぐ行くことができますし、通院やデイサービスなどで外出しやすいように玄関の近くにすれば、スムーズに移動の介助ができます。
こうした工夫であれば、リフォームの必要はなく、部屋の移動だけで済む場合もあります。

2.手すりを設置する

病院や施設ではあちこちで目にする手すりですが、自宅の場合はまず立ったり座ったりすることが多い場所への設置を検討しましょう。たとえば、トイレやお風呂、玄関などです。動作が楽にできるようになりますし、介助する側の負担も少なくできます。
手すりの種類はさまざまあるので、自宅の状況や本人の状態を見ながら最適なものを選ぶようにしましょう。

3.部屋や廊下を広くする

狭い場所での介護は、慣れている人であってもやりづらさを感じます。部屋やトイレ、廊下などを広くすると、自分のしやすい体勢で介護ができるので楽になります。また、車いすや歩行器を使用する場合、スペースが狭いと通れないこともあります。このような点も考えたうえで、広さは十分なのかを考えてみましょう。

4.段差をなくす

高齢になると筋力が低下し、少しの段差でもつまずきやすくなります。車いすでの上り下りも難しいため、段差はできるだけなくすようにしましょう。リフォームで段差をなくす以外にも、移動式のスロープを設置することもできます。

すぐにリフォームできない...... 迷ったときはどうする?

介護しやすい家にしたいけれど、いますぐのリフォームはできないというご家庭もあるでしょう。そのようなときの対処法を3つご紹介します。

1.介護用品をレンタルする

たとえば、手すりを設置しようと思っても、業者に依頼して設置が完了するまでに時間がかかります。そのような場合は、移動式の手すりをレンタルできます。トイレが狭くリフォームが難しい場合には、ポータブルトイレを利用する方法もあります。リフォームの代替案やリフォームまでのつなぎとして、介護用品のレンタルはおすすめです。

2.部屋を移動する

部屋を移動するだけで、楽に介護ができるようになる場合も多いものです。たとえば、より広い部屋に移動する、寝室を2階から1階に移すといった方法です。
これまでの習慣から「この部屋はこう使う」という考えからなかなか抜け出せないかもしれませんが、どの部屋にしたら介護が楽になるのか柔軟に考えてみましょう。

3.ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談する

困ったときに頼りになるのが専門家です。介護認定を受けている場合はケアマネジャー、そうでない場合は地域包括支援センターに相談しましょう。本人の状態に合ったリフォームの方法を一緒に考えてくれたり、費用の負担を軽減する制度について教えてくれたりします。

まとめ

介護リフォームは、家族が介護しやすくなるための有効な手段です。それだけでなく、介護を担う本人にとっても生活しやすくなるというメリットがあります。

介護リフォームの方法はさまざまにあるので迷ってしまうかもしれませんが、今回ご紹介した病院や施設の特徴を参考に、ご自宅や親の状況に合ったリフォームを考えてみてください。