和室か洋室か? 介護するうえで知っておきたいメリット・デメリット

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「自宅で家族中心に介護を受けたい」
「自宅で家族の介護と外部の介護サービスを組み合わせて介護を受けたい」
内閣府の調査では、「自宅」での介護を希望する高齢者の多いことが分かっています。

内閣府「平成30年版高齢社会白書(全体版)| 2 健康・福祉 第1章 高齢化の状況 どこでどのような介護を受けたいか」より転載

自宅で介護を受ける場合、家族による介護であっても、外部サービスによる介護であっても、自宅に介護しやすい環境を整えることが必要です。バリアフリーでは内装の基本は洋室としていますが、これは和室と比べて洋室のほうが介護しやすい環境に適しているからです。

では、和室で介護をすることは難しいのでしょうか? もしも介護を受ける人が「和室がいい」と言ったら?
この記事では、和室と洋室の介護のメリット・デメリットと、和室で介護するためのポイントを紹介していきます。

介護するためにはどんな部屋がいいのか

内閣府ウェブサイト「平成30年版高齢社会白書(全体版)|第2節 高齢期の暮らしの動向(4) 4 生活環境」より転載

高齢者の事故は「住宅」内で発生することが多く、またその事故場所の半数近くが「居室」であることが分かっています。この結果からは、介護をする部屋に求められる大きなものとして、高齢者の安全性の確保が重要になるといえるでしょう。また、安全性を保つために、手入れや衛生管理がしやすいことも大切です。

具体的に以下のような項目が、バリアフリーに適しています。

  • ベッド(できれば介護用の電動ベッド)を使用する
  • 滑りにくい床材
  • 拭き掃除がしやすい床材、壁紙
  • エアコンなどの空調設備
  • 換気と採光のための窓
  • 十分な広さの引き戸や折れ戸

介護をする部屋では安全性や使いやすさが大切ですが、それと同じくらい重要視してほしいのが「介護を受ける人の快適性」と「介護する人の負担軽減」です。特に忘れがちなのが、介護する側の負担です。この点を考慮して計画しないことには、介護疲れや介護ストレスの問題点と直結してしまいます。また、利便性や福祉用具の使用などを優先しすぎて、部屋に生活感がなくなってしまったり快適性を損ねたりしてしまうと、せっかく自宅にいても、やすらぎや安心感を得られなくなりかねません。介護を受ける人と、介護をする人、どちらにとってもメリットの多い部屋づくりを計画することが大切です。

和室のメリット・デメリット

(引用)リフォーム事例  住友林業のリフォーム

介護をする、または将来的に自宅介護をする前提で、和室にはどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。順にみていきましょう。

メリット

介護するうえで、和室のプライバシー性の低さはメリットになり、見守りやすさや安心感につながるものとなります。また、庭に繋がる縁側や掃き出し窓がある場合では、外の景色を楽しめることや、部屋から屋外への出入りも可能でしょう。通所サービスを使用する場合では、昇降リフトなどを用いることにより、車いすのままでも屋外への出入りができます。

デメリット

和室の特徴でもある自然素材は、あたたかさや情緒があり日本人の好みや生活に適しています。しかし、福祉用具や機械を使用するには耐久性が低く、メンテナンスがしにくい素材といえるでしょう。特に畳は摩擦や重いものに弱く、襖や障子などの紙素材は、汚れやシミなども付きやすいものです。また、襖や障子は断熱性能が低いため、空調効率が悪くなってしまうというデメリットがあります。

掃き出し窓がある場合では、窓からの熱気や冷気も大きく影響するため、二重窓や断熱窓等の対策が必要でしょう。

洋室のメリット・デメリット

(引用)リフォーム事例  住友林業のリフォーム

介護に適している洋室であっても、和室と比べた場合のデメリットがいくつかあります。

メリット

洋室は耐久性が高く、手入れしやすいよう人工的に合成された素材を使用していることも多く、汚れにくく掃除がしやすい内装が特徴です。また、フローリングは、ベッドや福祉用具の使用にも適しており、安全で利便性の高い部屋を実現できるでしょう。
基本的にはどんな内装材であっても合わせやすく、応用の幅も広いことから、特にこだわりや要望がない場合では、洋室で介護することがおすすめです。

デメリット

フローリングは硬い素材であるため、物音や生活音が響きやすいというデメリットもあります。また冷えやすく、かといって靴下などを履いている状態では畳よりも滑りやすいこともあり、転倒の危険や、転倒した際のダメージが懸念されるでしょう。

介護を意識したリフォームではフローリングであっても、滑りにくい仕上げのものの使用と、床暖房の設置などを検討してみましょう。
洋室では和室と比べると窓が少なく、内装も殺風景になりがちであることから、部屋での楽しみをなくさないような工夫も必要となります。

和室で介護する場合のポイント

高齢者の家庭内事故が多いことから、消費者庁では家庭内事故を防ぐための注意喚起を行っています。

消費者庁リーフレット「みんなで防ごう高齢者の事故」より転載

上記の図のような状況は、特に和室で多く見られるのではないでしょうか。こうした事態を引き起こさないために、和室で介護をするために気を付けて欲しいポイントをご紹介します。

ベッドを使用する

和室であってもベッドの使用は必須といえます。和室での床からの立ち上がりの動作は、筋力を保つことには役立ちますが、高齢者にとっては関節への負担が大きく、足腰を痛める原因となりやすいものです。仮に足腰が不自由でなくても、足腰を守るためにベッドの使用が推奨されます。
介護用のベッドであれば、転落防止など安全設計されており、介護する側の負担軽減にも大きな効果があります。

床はフローリングや塩ビシートとする

(引用)リフォーム事例  住友林業のリフォーム

床材は滑りにくく、拭き掃除がしやすい材質のものを選びましょう。和室であっても床はフローリングがおすすめです。カーペットなどをどうしても敷きたい場合は、端に足をひっかけてつまずかないよう、必ず全面敷きとしてください。
洋室向けの床材では、コルクやカーペットなどやわらかくあたたかい床材も豊富にあります。やわらかい床材は転倒時の衝撃を和らげるのに役立ちますが、摩擦による抵抗が強いため、車いすなどの使用が困難になるなどのデメリットもあります。
また、病院や福祉施設などでも使われている塩ビの床材は、手入れがしやすく丈夫で安全性も高いものですが、見た目が無機質でいかにも"施設感"がでてしまうため、介護のレベルに合わせて選びましょう。

床で生活しない

たとえば、「床に座布団を敷いて座る」のではなく、「和室でもイスやソファを使用する」など、高さのある家具で生活できるよう計画しましょう。床に座って生活していると、新聞などの読み物や座布団、生活雑貨を床に置きがちですが、これらは転倒の原因にもなりやすく、危険要因になってしまいます。床に物を置くことを防止するためにも、床からの距離をとることが大切です。

小上がりを活用する

(引用)リフォーム事例  住友林業のリフォーム

どうしても畳が欲しい場合は、一部に畳スペースを設置するのもおすすめです。この場合は、あえて段差を付けた小上がりにするのが良いでしょう。膝までの高さくらいの小上がりであれば、段差が大きいためつまずく危険が少なく、段差を利用した上り下りがしやすくなります。

1階でトイレに近い間取りとする

介護が必要ない場合でも、高齢者の寝室はトイレに隣接、もしくは近い方が良いでしょう。トイレからの距離も、介護をする部屋を選択する判断材料のひとつになります。

照明の配置にも考慮する

和室では基本的には天井照明がひとつあるだけのことも多いものですが、照明の配置にも注意してください。天井照明は、ベッドに横になったときに照明の光源が直接視界に入ってしまうため、これが睡眠のジャマになるなど、ストレス要因となってしまいます。メインの天井照明とは別に、就寝用の間接照明を設置しましょう。

まとめ

介護の場では和室はあまり使用されませんが、だからといって必ず洋室で介護しなければならないということはありません。しかし、和室で介護をするには、床や壁、照明や建具など、多くの箇所をリフォームしなくてはならず、手間と費用が多くかかってしまうものです。また、床に布団を敷いている場合では、介護する人への負担や苦痛が大きく、介護を受ける人の安全や快適性にも影響してしまいます。
和室で介護をする場合は、デメリット面や部屋のメンテナンスなども十分に考慮し、介護をしやすい環境を確実に整えることが大切です。