介護に適したリフォームと費用負担 考え方の基本を看護師が解説

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在宅医療の推進や病床機能の役割分担などにより、自宅で介護を受ける人が増えました。また、介護者自身、「住み慣れた家で過ごしたい」と思う人も多くいます。
国土交通省の資料(※1)によると、高齢者の半数近くは「可能な限り自宅で介護を受けながら住み続けたい」という希望をもっているそうです。

自宅で介護を受けるにあたって必要なのが、介護生活に適した住まいです。リフォームで手すりを付けたり、段差をなくしたりすることで、住まいを整えることはできます。しかし、高齢者にとって慣れ親しんだ環境が変わるのは大きなストレスになり、心身ともに不調をきたしてしまうおそれがあります。

今回は、リフォームを進めるうえでの問題点を解説したうえで、できるだけ負担が少ないリフォームの進め方を考えていきます。

住み慣れた家をリフォームする必要性と現状

人は年齢とともに身体機能が低下します。住み慣れた環境であっても思わぬ事故が起こらないとは限りません。その点、必要に応じてリフォームを行えば、安心して暮らせます。

国土交通省の資料には、高齢期にできるだけ自立的な生活を続けるためには、下記3点を確保することが大切だとしています。(※1)

1.トイレや浴室への手すりの設置
2.床の段差解消
3.車イスの通行が可能な廊下幅・扉幅

高齢者は筋力が低下するため、転倒のリスクが高まります。また、骨ももろくなるため、転倒から骨折につながることも多く、そうなると歩けなくなってしまうこともあります。そのため、手すりや床の段差解消は、転倒を防ぐためにまず行いたいリフォームです。また、車イスが通れる幅の確保も大切なポイントです。車イスの生活になったときに廊下や扉の幅を広げるリフォームをしようと思っても、すぐにできるものではありません。そのため、事前にリフォームをしていると、いざというときに安心できます。

しかし、総務省の調べによると、高齢者のいる世帯のうち、高度のバリアフリー(2カ所以上の「手すりの設置」と「段差のない屋内」、さらには「車イスで通行可能な廊下幅の確保」)を行われている世帯は、2018年現在8.8%とごくわずか。2013年の8.5%から見ても、普及が進んでいるとはいえない状況です。

総務省「平成 30 年住宅・土地統計調査|表1-1」の情報を一部加工して引用

これらの結果から、リフォームの必要性は何となくイメージできていても、実際には実行に移せていない人が多いことが分かります。

リロケーションダメージとは? 環境の変化が高齢者に与える影響

環境の変化は、私たちにとってストレスになりやすいという特徴があります。たとえば、引っ越しや転職など、イメージすると分かりやすいかもしれません。特に、高齢者にとって住み慣れた環境が変わることは、大きなストレスになります。年齢が上がるにつれて、環境の変化に適応しにくくなるためです。

環境の変化が原因となって起きる問題点のなかで、よく知られているのが「せん妄」です。せん妄とは、入院による環境の変化や手術の影響などによって、幻覚を見たり、興奮状態になったりすることをいいます。ただし、せん妄は一時的なもの。適切な治療やケアが受けられれば治ります。

せん妄のように病的なものではありませんが、「リロケーションダメージ」という問題点もあります。これは、住む環境が変わることで精神的ダメージを受けることです。これにより、食事量が減ったり活動的でなくなったりなど、身体面に影響が出ることもあります。
リロケーションダメージを防ぐためには、急激な環境の変化を避けることが大切です。

早い段階でのリフォームが難しい理由

超高齢化社会の日本に住む私たちにとって、親の老後を見据えて住環境を整えることは必要なことです。ならば、早めにリフォームをしておこう、と考える方もいると思いますが、簡単に進められないいくつかの理由があります。

その人の状態によって、必要なリフォーム内容が違う

リフォームと一言でいっても、内容はさまざまです。段差をなくしたり廊下の幅を広くしたりすることは、どの高齢者にとっても必要なリフォームと考えられるものの、なかにはせっかくリフォームしても、その人の状態によっては意味をなさないものもあります。
たとえば、手すりです。右半身が麻痺になった場合、トイレには左側に手すりが必要になります。そのため、「利き手でにあるほうが便利だろう」とあらかじめ右側に取り付けた場合は、意味をなさなくなってしまいます。
このように、リフォームは、その人の状態に合ったものでなければ意味がありません。その人のからだの状態がどのようになるのか予測できないことから、早めのリフォームは判断が付かず、難しくなります。

お金や手間といった負担が増える

リフォームにはお金と手間がかかります。要支援や要介護と認定されれば、支給限度基準額(20万円)の9割(18万円)が上限として支給されます。(※2)しかし、介護認定を受ける前であれば、この制度は利用できません。介護保険だけでなく、自治体によって助成を行っているところもありますが、条件を満たさなければ利用できません。
加えて、時間や労力といった手間も見逃せません。先ほどの手すりの事例で考えると、手すりを右側に取り付けていたとしたら、左側に設置し直さなければいけません。再度業者に依頼しなければならず、費用の負担も発生します。このような理由から、早い段階でリフォームするのは注意が必要です。

住み慣れた家で負担を抑えながら安心して暮らすためにできること

ここまで、早めのリフォームは大切なものの問題点もあることが分かりました。
しかし、親が住み慣れた家で安心して暮らすため、できることはやっておきたいという方も多いと思います。親の精神的ダメージを少なくしながら住まいを整えるためにできることを、4つのポイントにまとめました。

1.古い設備を見直し、必要に応じて新しくする

リフォームは、目に見える箇所を新しくすることだけではありません。長年住んでいる家の場合、設備が整っていなかったり古いままになっていたりすることも多いものです。そのような場合、必要に応じて新しくすることを検討しましょう。
たとえば、高齢者の事故で多いもののひとつに「ヒートショック」があります。ヒートショックとは、寒暖差が原因で循環器や脳に負担がかかり病気を発症することです。特に、冬場の浴室やトイレで起こりやすいという特徴があります。ヒートショックを予防するためには、暖房設備が役立ちます。浴室暖房機能を設置することで、冬場でも快適に入浴できます。
そのほか、古い設備を新しいものにする、家の耐震機能をチェックするなども、安心して暮らすために重要です。
このようなところから始めることで、急激な環境の変化を避けることができるので、精神的ダメージを抑えることにもつながります。

2.必要な範囲内でバリアフリーにする

ここまでお伝えしてきたとおり、必要なリフォームはその人によって異なります。そのため、事前に行う場合には、比較的誰にとっても必要であろうと考えられるリフォームに絞ることをおすすめします。たとえば、下記のリフォームであれば、どんな状態の方であっても不便になることは少ないと考えられます。

  • 家の中の段差をなくす
  • 玄関の上がり口に段差を増やして、足を少し上げただけで昇れるようにする
  • トイレを広くして、車椅子でも入りやすく、介護者が入ってもゆとりがあるようにする

3.本人の意向を大切にする

いくら子どもが良かれと思ってリフォームしても、親が望まないこともあります。もちろん、安全と安心を確保するためにリフォームは必要ですが、親が納得していなければ意味がなくなってしまいます。可能な限り、本人の意向を聞きながら、一緒に進めるようにしましょう。本人がいつも過ごしていた落ち着ける場所はそのまま残しておく、思い出のものや写真はすぐ手に取れるところに置くなど、精神面にも配慮したリフォームができるとお互い納得感をもって進められます。

4.地域包括支援センターに相談する

初めての親の介護となると、分からないことがたくさんあります。そのようなときは、地域包括支援センターに相談しましょう。地域包括支援センターとは、65歳以上の高齢者やその家族を対象とした支援機関で、その地域に住んでいる人であれば誰でも利用できます。住み慣れた家で長く暮らすためにはどのようにしたらいいのか、専門家に相談することで、より個別的なアドバイスをもらえます。

まとめ

リフォームと聞くと、大がかりなものをイメージしがちですが、それだけではありません。古い設備を新しくすることも、住み慣れた家で長く暮らすために大切なリフォームのひとつです。
親の意向を大切にし、精神的ダメージの少ないリフォームをするため、無理なくできるところから始めましょう。

※1 国土交通省 「高齢社会の住宅政策|P2

※ 厚生労働省 「福祉用具・住宅改修(参考資料)|P14