"新しい下宿"のカタチ 家族や友人ではない同士が生活を共にする「異世代ホームシェア」とは 

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日本は世帯主が65歳以上の世帯が増え続けており、自身の健康や介護、住まいの管理や防犯などに不安を抱えている人も少なくありません。核家族化の影響により、高齢者世帯の孤立なども問題となっています。

高齢者の孤立は、日常での刺激や感情の変化が激減するため、筋力や脳の衰えにも影響し、介護のリスクを高めることにつながりかねません。高齢世帯の抱える不安を解消するためには、人付き合いを絶やさないことも必要となるでしょう。

そこで、いま注目され始めているのが「異世代ホームシェア」という住まいかたです。 ホームシェアと聞くと、兄弟や親戚、友だちやサークル仲間や同僚など、何かしらの関係のある人同士でするもの、というイメージがあるかもしれませんが、この異世代ホームシェアは、縁もゆかりもない赤の他人同士である若者と高齢者の同居を指しています。

「赤の他人と同居だなんてとんでもない!」と思ってしまうかもしれませんが、異世代ホームシェアは、実は非常に理にかなったシステムであり、メリットがたくさんある住まい方なのです。
この記事では、異世代ホームシェアがどのようなものなのか、詳しくご紹介します。

異世代ホームシェアとは

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異世代ホームシェアとは、高齢者が自宅の空き部屋を低家賃もしくは無償で若者に貸し出し、若者は家賃の代わりに買い物や住まいの管理など家の雑務を請け負う、という一般的な賃貸とは少し違った形式のホームシェアです。

老夫婦や高齢単身者のなかには、持ち家があり生活資金に余裕があるものの、健康や労働力に不安を抱えている人もいることでしょう。一方、一人暮らしの学生など若者は、健康や体力に余裕があるものの、都心の賃貸に高いお金を払いながら生活していくことに不安や負担を抱えていたりするものです。

こうした、高齢者が抱える問題と若者が抱える問題をホームシェアにより補い合っていきましょう、というのが異世代ホームシェアです。また、そればかりではなく、孤独感の解消や規則正しい生活など共通のメリットも多くあります。

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異世代ホームシェアを始めるには高齢者と若者のマッチングが必要ですが、2022年現在、一部の地域の自治体やNPO法人が登録制による同居人探しをサポートしています。

ホームシェアに必要なルールや条件

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異世代ホームシェアは他人同士で共同生活するため、どちらか一方に過度な負担がかかることなく、お互いに依存しないよう、それぞれが自立して生活できることが前提条件とされています。その詳細は登録する団体や自治体によりますが、ホームシェアでよく見られるルールは以下のようなものです。

  • 平日1日1回は食事を一緒にとる
  • 門限の設定
  • 家事の分担
  • キッチン、浴室、トイレ等の使用方法や使用可能時間
  • 家族や友人の宿泊の可否
  • 外出時間、家事時間、消灯時間等のスケジュール設定
  • 外泊の可否や、外泊時の連絡
  • ルールが守られなかった場合の対処

これらの条件やルールは必ず課せられるものではなく、まずは条件に合うもの同士でマッチングが行われます。条件に合う者同士でペアができた場合には、顔合わせ→条件の確認やルールの設定→住宅のチェック→試用期間→契約、というのが基本的なプロセスです。

ホームシェアのルールは、ホームシェアの目的や、生活にかかる費用に関わるものであり、「ルールを厳守することが絶対条件」です。

異世代ホームシェア向けのリフォームとは

異世代ホームシェアは、高齢者が所有かつ在住する住宅をシェアするものですが、その実現は、住宅や間取りの下見、部屋や設備の確認を行ったうえで、お互いに同意することが大前提となるため、同居人さえ良ければ特別なリフォームは必要としません。
とはいえ、水まわりがキレイで使いやすく、家電も新しく機能が充実しているほうが、希望者は集まりやすく、マッチングしやすくなります。さらにプライバシー性や安全性の高い住まいであると、トラブルの防止やお互いの安心感にもつながるでしょう。具体的には以下のような間取りや設備を整えることが考えられます。

  • トイレ、洗面、浴室はそれぞれ独立の個室とし、鍵を取り付ける
  • 個室は別々の階にするなど、なるべく離れた場所にする(プライバシーや騒音対策)
  • 個室にエアコン、テレビ端子、鍵を設置する

また、余裕のある場合は、内装のリフォームや、コンセントの増設、便利家電の導入や導線の改善といった家事の軽減に資するリフォームを検討するとよいでしょう。
賃貸住宅と同様に、設備が整っていて、間取りも良く、キレイな住まいであるほうが、やはりニーズは高まります。特に女性同士で同居したい場合は、リフォーム済みかどうかは大きく影響するでしょう。家事の手間を軽減する食洗機や乾燥機能付き洗濯機なども設置してあると、より需要が高まります。

とはいえ、いざリフォームを行うにも、卓上型の食洗機なら既設のキッチンに設置できますが、埋め込み型を設置したい場合は、専門業者によるリフォームが必要です。また、乾燥機能付き洗濯機やドラム式洗濯機は、一般的な縦型洗濯機と比べて幅が大きく、既設の洗濯パンに収まらないこともよくあります。大型の家電などを新たに導入する場合は、既設の住宅に設置できるかどうかを確認してから購入するようにしましょう。

異世代ホームシェアの問題点と注意点

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高齢者と若者では生活様式や生活時間帯、日常的に使用する家電や食べ物の好みなど、何もかもが違ってきます。そのため、家族同士で同居する二世帯住宅などでも、生活時間や騒音、食事の好みなどがトラブルの原因になるケースが多くみられます。

その点、異世代ホームシェアは家族同士の同居ではないため、他人と割り切って明確なルールさえ設ければ、トラブルを回避することは家族同士よりも簡単とも考えられるでしょう。しかし、異世代の他人同士が同居することへの課題は多くあります。たとえば、勉学やアルバイトに追われる学生は、毎日のスケジュールがそれなりに過密であり、高齢者のお世話や住宅の管理と両立できる人は限られるでしょう。高齢者にとっても、若者に気をつかったり、電気や水道がムダに使われないかと気を揉んだりしなければならないかも......と考え、独居の方が気楽という結論に落ち着く人も多いでしょう。このほか、体力のある若者による暴力や、金銭的に優位な立場にいる高齢者によるハラスメントなど、対人関係の危険や支配関係に陥ってしまう不安も潜んでいます。そのため、第三者や仲介機関、それぞれの家族が、ホームシェアの状況や様子を定期的にチェックすることが必要といえます。

まとめ

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現在の住宅は、30年ほど前の住宅と比べて耐久性も向上し、メンテナンスやリフォームを行うことで長寿命化が可能です。そのため、家主が独居になったり介護が必要になったりしても、家自体はこの先もまだまだ住める、というケースがこの先増えてくるでしょう。
住まいの状態がいいのに家の手入れができないことで劣化が速まる、広すぎて不便だから手放す、という事態になるのはもったいないものです。その点、空き部屋の有効利用でもある異世代ホームシェアは、掃除やメンテナンス、換気などが行き届くため、住む人の健康や安全はもちろん、住宅の長寿命化にも有効といえます。

異世代ホームシェアは、個人同士の壁が厚い日本で浸透するには時間がかかるかもしれません。その一方、日本には「下宿」という文化があります。
異世代ホームシェアは、商売としての下宿文化とは少し違い「助け合う」ことが目的の一つです。「下宿文化を現代に合わせて進化させた住まいのカタチ」といえば、関心を持つ層も徐々に増えていくかもしれません。