家相や風水は気にしたほうがいい? 住まいと方角の関係性を建築士が解説

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テレビや雑誌、ネットニュースなどで「家相」や「風水」の話題を耳にしたことがある人は、多いのではないでしょうか。なかには、病気などの健康問題や災いの原因を家相に結び付けて説明するようなケースもあり、そのすべてを信じることには、慎重な姿勢が必要です。
その一方、風水や家相は、住宅を設計する際に気にする施工主が多いのも事実です。
住宅設計では、家主の要望や設計士からの提案、敷地の問題や建築基準法など、クリアしなければならない条件がいくつもありますが、方角と間取りの関係性も優先度の高い条件になっています。

実際、家相や風水という考え方は住宅の性能や住む人の健康に対し、具体的にどのような影響があるのでしょうか。

家相とは

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家相とは「家の配置や間取りの吉凶を判断する」という考え方です。起源は中国古来の風水の考え方によるものですが、気候や風土などの自然環境と密接な関係があるため、日本に取り入れられてから独自に発展していきました。

家相を判断するうえで重要と考えられているポイントは「鬼門」「裏鬼門」です。北東が鬼門、南西が裏鬼門にあたり、「鬼が通る道=不吉な方角」という考え方があるようです。これは、多くの人が耳にしたことのある言葉かもしれません。

科学的な根拠はいったん脇に置きますが、歴史的に見ても、この2つの方角は多くの人たちに影響を与えています。都や御所、幕府などの鬼門・裏鬼門の方角には、鬼除けのためのお寺を建造するなどの工夫がなされているのです。

家屋の場合は、中心(四隅から直線を引いた交点)から、北東・南西の方角を指す線が鬼門線です。鬼門線から30°の範囲が、鬼門・裏鬼門の範囲です。

風水と住まいの関係

家相を考えるうえでは、「鬼門・裏鬼門に三備を設けず」という言葉があります。この「三備」とは、「玄関」「台所」「トイレ」を指します。

玄関は全ての入り口であり、悪いものも入ってくる、という考えから、避けるべきとされています。また、鬼門・裏鬼門上は「気の流れが乱れやすい場所」と信じられてきており、水を流したり、火を使ったりすることで、より気の流れを乱しやすいと考えられてきました。

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たとえば、上記の間取り図では赤い線の内側が鬼門・裏鬼門となり、ここに玄関とキッチンが当たっています。一般的に信じられている家相を当てはめるなら、いわゆる"良くない家相"ということになるでしょう。
では、家相が悪いと、住まいの環境にどのような影響があるのでしょうか。なにか根拠があるものなのでしょうか。

環境科学の視点からも合理性はある

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家相や風水に基づいた考え方は、迷信の域を出ないというのが科学的な考察でしょう。その一方で、家や住人の健康を考える上で一部には合理的といえる点があるのも事実です。鬼門である北東の方向は「日当たりが悪い」「湿気が溜まりやすい」場所でもあることから、冷気や水まわりの凍結、湿気などの問題が多く発生しやすい場所でもあるからです。そのため、ここにキッチンやトイレ、お風呂を設置すると、カビの繁殖や冷気によるヒートショックなどの原因につながるため、水まわりと非常に相性の悪い方角といえるのです。

また、南西の方角は、西日が強く当たり熱気がこもりやすいため、食材の保管や衛生面の管理に適していません。エアコンのない、夏は暑く冬は寒い季節を過ごしてきた時代の人であれば、なおさらだったでしょう。

このように家相は、自然環境に適した住みよい間取りにつながるため、現在でも根強く信じられているのです。

鬼門・裏鬼門の対処法

鬼門・裏鬼門に水まわりや玄関が当たっている場合、どのようなリフォームをしたら良いのでしょうか。

間取りを変更する

もともと間取り変更リフォームを検討していた場合では、鬼門線を考慮して計画してみると良いでしょう。鬼門を避けるように水まわりや玄関を配置すると、自動的に採光や換気に配慮された間取りになるので、プランニングがスムーズです。

玄関の向きを変える

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玄関の出入口、もしくは玄関ドアが鬼門に触れてしまっている場合は、出入口の位置や向きを変えることで、ドア部分だけでも鬼門を回避する、という方法があります。大がかりな間取り変更をしない場合や、玄関の位置を変更できない場合では「ドアだけでも鬼門を避ける」といったプランニングを考えてみましょう。

設備の配置を変える

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鬼門にキッチンやトイレが引っ掛かってしまう場合でも、玄関同様、部分的な回避をする方法があります。たとえば、キッチンスペースやシステムキッチン本体は鬼門に当たっているけれど、シンクやコンロに当たっていなければOK、トイレは便器さえ鬼門に当たらなければOK、という考え方です。
水まわりの設備が鬼門に当たってしまっている場合でも、設備本体の位置や向きを変えるだけでも鬼門を避けられることがあるので、間取り変更を必要とせずに回避できます。

換気扇や空調設備、家電を使う

間取りを変更することが難しい場合には、どうしたらいいのでしょうか。
鬼門・裏鬼門は空気のよどみや、湿気が溜まりやすいことで、生活環境や健康に影響を与えているというのが、家相の基本的な考え方でした。であれば、空気の流れや湿気を、空調設備や家電で直接回避しまうのもひとつの手段です。これであれば、大掛かりなリフォームを施さなくても問題を回避できるでしょう。
問題の本質にフォーカスすれば、意外と簡単に済むようなお話であるかもしれません。

まとめ

この記事では、鬼門・裏鬼門と言った考え方を中心に家相を見てきました。といいつつも、家相や風水をみるうえでもっとも難しいのは「家の中心をどこに設定するのか」です。間取りが単純な四角形であれば中心を取るのは簡単ですが、複雑な形状の場合、どこを家の四隅とするのかには、いろいろな考え方があるでしょう。
これには明確な定義がないため、個人の判断で構いません。そして、四隅の取り方によっては、鬼門の位置も当然変わります。

建築図面では、登記された公図のデータや、真北測定器などで計測した数値を元に正確な方位を図面に記入しています。その一方で、不動産資料などの簡易的な方位表示や、スマホの方位磁石などを参考に方位を取った場合では、方位そのものがズレてしまっていることも考えられるでしょう。さらには、鬼門線の範囲もこの記事のように30度の範囲とする場合があれば、45度、60度という説もあり、人によってその判断はさまざまです。

つまり家相は、「見る人によって結果が違うもの」と言っていいでしょう。家相をみるうえで共通しているのは「北東と南西は悪方」という点ですが、それ以上の細かい部分はあまり気にしなくてもよい、ということで良いのではないでしょうか。

より良い住環境をつくるために、設計上、家相は大切な判断基準となりますが、家相を気にしすぎて気を落としてしまうほどのものでもありません。家相は霊感商法などの被害につなげられるケースもあるため、詐欺被害を防止するためにも、気にしすぎないことが大切です。