家の傾きは何度までが許容範囲? 調べ方と対処法を建築士が解説

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家が傾いているかもと気づいたら、すぐに対処する必要があります。傾いてくる原因として考えられるのは、土台部分の腐食、シロアリ被害、新築時の施工不良などがあります。軟弱な地盤の上に十分な補強をせずに家を建てた場合は、地盤の調査や補強工事が必要になってきます。

本記事では、家が傾いてきている状態でリフォームする場合の傾きの限度、また家が傾いてくる原因について紹介します。

傾きをそのままにしておくと、予想できない健康被害などに見舞われることがあります。放置せず、施工事業者にすぐ相談しましょう。

家が傾く原因とは

家が傾く原因は、大きく「家」と「地盤」に分けられます。原因が異なれば対処法も異なります。まずは専門業者に依頼し、傾きの原因究明をすることが大切です。

シロアリ

家の基礎や柱を主食にするシロアリは、表面上は分からなくても触ると簡単に崩れてしまうほど柱の内部をスカスカにしてしまいます。被害範囲によりますが、通常であればシロアリ被害を受けた柱や基礎部分を交換して補強することで対処します。

地震による液状化

大規模な地震によって、地盤のズレや「液状化」が起きてしまうと、家の基礎自体が傾いてしまうことがあります。
液状化とは、水で飽和した砂地盤に振動が起こることで、それまで安定していた地盤が、液状になり流動しやすくなることを指します。液状化した部分が圧力を受けたとき、完全な密閉状態にあれば、流動化することはありませんが、水道(みずみち)ができると、そこに液状化した部分が流れ出し、地上に水と砂が噴き出します。これにより地盤が沈下します。

地盤沈下

建物が建っている地面自体が沈むこともあります。特に「不同沈下」は一部の面だけが沈んでいる状態のため、家も傾いていきます。原因は地震などの自然災害もありますが、井戸水の汲みすぎや、近隣での掘削工事など人為的原因によるものも考えられます。

老朽化

柱や梁が長年の雨風により傷んだり、カビで腐食したりしてしまうこともあります。建物の外壁寿命は約10年ほどですので、定期的に検査を行うことで、このような老朽化を防ぐことができるでしょう。

施行不良

通常あるべき部材の長さが足りない、強度がない、または必要な金物を省いた欠陥工事によって傾きが生じることはあります。施行不良が認められれば、施工者の責任で改修を依頼できることもあるでしょう。補償期間が設定されている場合もあるため、早めの対応をおすすめします。

家の傾きを確認する

実際に家の傾きを確認してみましょう。具体的に気になる症状があっても、どのくらい傾いているのか、またそれらが住宅性能として許される範囲内なのかを知ることで、リフォームの判断基準になります。

当てはまったら要注意!家の傾きチェック項目

以下の項目に心当たりのある方は、専門業者に調査を依頼することをおすすめします。特に体調不良に関わる項目は、傾きが原因ではなかったとしたら重篤な病気が潜んでいることも考えられます。
また、人間は環境に慣れてしまう生き物です。自分は気にならなくても、ご家族や、たまに遊びに来る友人などにヒアリングしてみるのもよいでしょう。

▼家の傾きチェック項目
  • ドアや窓が閉まりづらい
  • ドアや窓を閉めても勝手に開く
  • 球状のもの(ビー玉やゴルフボール)を床に置くと一定方向に転がる
  • 外壁に亀裂がある
  • 家に居るとめまいや頭痛がひんぱんに起こる

傾き測定方法

傾きを測定する方法の代表例として、ホームセンターでも購入可能な「水平器」があります。また、最近では携帯アプリでも調べることができます。ただし、測定できる距離が短いため、より正確に計測するのであれば、「下げ振り(垂球)」という方法がおすすめです。これは、糸の先端に逆円錐形のおもりをつけた道具です。壁に下げ振りを当てて、約1mの糸をたらしたときの、壁と糸の距離、おもりの中心と壁の距離から傾斜を測定します。

傾きの許容範囲はどこまで?

国土交通省が設けている技術的基準(※1)では、3/1000〜6/1000が構造耐力上主要な部分に瑕疵(かし)が認められるボーダーラインとなっています。 阪神・淡路大震災で液状化被害が発生した芦屋市の住宅約100棟を調査した結果によると、居住者の多くが5/1000の傾斜角で初めて傾斜を感じると回答し、8/1000で傾斜に対して苦情が多発したとされています。つまり3mm以上傾くと、健康被害や建具の不具合などが起きやすいということです。現状気になる点がなくても、3mm以上の傾斜が確認された場合には原因究明を急ぐことをおすすめします。
また、3mm以上の傾きのある住宅は、通常のリフォームを行うとこれまで保たれていたバランスが崩れ、さらに傾きがひどくなることも考えられます。まずは傾斜を改善するリフォームを行うのが先決です。

表【床の傾斜に対する瑕疵の存する可能性】

レベル

住宅の種類

構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性

木造住宅、鉄骨造住宅、鉄筋コンクリート造住宅または鉄骨鉄筋コンクリート造住宅

1

3/1000未満の勾配の傾斜

凹凸の少ない仕上げによる床の表面における2点(3m程度以上離れているものに限る)の間を結ぶ直線の水平面に対する角度をいう。以下この表において同じ。

低い

2

3/1000以上6/1000未満の勾配の傾斜

一定程度存する

3

6/1000以上の勾配の傾斜

高い

国土交通省「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準 平成12年7月19日 建設省告示第1653号|p.2 表(2)」を基に筆者作成

【原因別】傾きのリフォーム方法

傾きの原因によってリフォームの方法は異なり、そのなかでもさまざまな種類があります。
周辺環境や予算、工期との兼ね合いもあるため、どの方法がふさわしいのか慎重に検討しましょう。

液状化&地盤沈下

液状化や地盤沈下のように地盤自体に問題がある場合は、下記のいずれかの方法でリフォームを行います(※2)。なお、基礎の形状、傾きの程度、隣地感覚によって対応できる工法が異なります。

工法

概要

硬質ウレタン注入工法

1階床下に潜り込み、基礎下にウレタン樹脂を注入しその発泡圧力で基礎を押し上げ、傾斜した住宅を基礎ごと元に戻す工法。

工期が短く、生活への支障は最小限に留まる。

グラウト注入工法

1階床下に潜り込み、セメント系液薬を家屋下に注入し、注入量と注入圧により傾斜した住宅を基礎ごと元に戻す工法。

工期が短く、生活への支障は最小限に留まる。

アンダーピニング工法(ジャッキアップ)

家の基礎下の土を掘り起こし、家の荷重とジャッキの力を利用して地盤に杭を打ち込んで支持させ、傾斜した住宅を基礎ごと元に戻す工法。

費用が高いものの、再び沈下する危険が小さい。

耐圧盤工法(ジャッキアップ)

家の基礎下の土を掘り起こして固定ベースジャッキを設置し、ジャッキで修正後、地盤との隙間に無収縮グラントを圧入し傾斜した住宅を基礎ごと元に戻す工法。

プッシュアップ工法(あげ舞い工法)

土台よりジャッキアップしてあげ舞い後、隙間を無収縮モルタルにて閉塞する工法。

シロアリ

シロアリによる被害の場合は、床を支える根太(床を貼るための横材)や床束(床を支える小屋組)の取り替え工事、防蟻剤の散布が必要です。被害の進捗状況や構造、被害範囲によって施工方法は異なるため、費用も十万〜数百万円台と幅があります。
また、1匹いれば100万匹いると言われるように、初期調査で被害がないと思われていた部分も工事を始めたら被害が広がっていたという場合が考えられます。そのため、余裕を持った予算組みと、再度同じ被害に合わないよう予防策を講じることが大切です。

老朽化&施行不良

既存の部材の取り替えもしくは補強を行います。被害範囲にもよりますが、シロアリ被害と同様、根太や束、梁や柱の交換を行います。既存の部材は残しつつ金物などで補強することもあります。また、新築工事日から10年以内の物件の場合、条件を満たせば、施工瑕疵(かし)が認められることもあります。

国土交通省指定の住まいの困りごとを相談できる窓口では建築家や弁護士などの専門家が相談に乗ってくれるため、家の傾きが気になったら放置せず早めに対応しましょう。

家の傾きをリフォームで直し、安心安全な暮らしを手に入れましょう

家の傾きは放置しておくと危険なだけでなく、健康面にも大きな被害を与えます。また、売却時の価格に影響することもあります。
大切なマイホームに長く住み続けるためにも早めの対策で安心を手に入れましょう。

※1 住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準 平成12年7月19日建設省告示第1653号

※2 一般社団法人地盤安心住宅整備支援機構「液状化と沈下修正工事〜工法一覧〜