家の外壁を自由にリフォームできないことも? 「景観法」のルールとは

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外壁のリフォームを検討する際、「景観法」という法律の制約を受ける場合があります。
街並みとの調和を図る目的で制定されている法律ですが、住宅のリフォームにおいて具体的にどのような点に注意すればよいのか悩む方も多いでしょう。

本記事では景観法の概要と各自治体の事例、リフォーム時に気をつけたいポイントを解説します。

景観法とは

景観法とは、「都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため、各地方自治体に景観計画の策定を促し、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を進めていく」ことを目的に、2005年に制定された法律です。「都市緑地法」「屋外広告物法」とともに「景観緑(みどり)三法」とも呼ばれます。

景観法施行の背景

1980年代以降、多くの地方都市がそれぞれの地域の特色を活かすために独自で条例をつくり、街づくりに励んできました。しかし、それだけでは法的拘束力も弱く、景観を守るという目的を果たせなくなってきた現状を打開するために景観法が制定されました。
ポイントは、この法律自体に建物の外観に具体的な規制を加える効力はないという点です。各都市が景観行政団体となり、この法律にのっとり各エリアをより輝かせることができる計画や条例を施工していくことになります。

▼景観法にまつわる各用語のまとめ(※)

用語

意味

景観行政団体

景観行政の主体的な担い手。景観法に基づき、景観計画をたてる。

景観条例政令市、中核市、都道府県は自動的に景観行政団体となる。

その他の市町村は、都道府県知事との協議・同意により景観行政団体になることが可能。

景観計画

景観行政団体が街の景観を保全もしくはより豊かなものにするためにまとめる基本計画のこと。

区域を指定し、一定の行為に対する届出の基準設定や、届出対象に対する勧告の有無などまで定める。

景観条例

各地域によって特徴のある美しい街並みや環境を保全すべく、地方自治体が定めた条例のこと。

景観法の色彩基準

景観条例で色彩基準を設ける際に使われるのが「マンセルカラー指標」です。景観法施行前から、いくつかの自治体で使われており、色相・明度・彩度の3属性によって明確に色を数値化することが可能です。この指標を用いることで、届出された建築物等の色彩を担当者が確実にチェックできるようになりました。

色相は計10色の基本となる色、明度は色の濃淡を10段階表した指標、彩度は無彩色からどれだけ鮮やかなのかを表した指標です。同じ赤でも鮮やかなものから存在感の薄いものまでさまざまですが、それをこの3つの指標で数値化することが可能です。

なお、東京都では色彩基準を次のような視点で定めています。

これらが適用される一般地域は主に20m超えの高層建築物や1000㎡超えの大規模建築物が多いのですが、歴史的建造物が多いエリアや豊かな水辺環境のあるエリアでは高さ10m以上の建物にも適用されています。

  • 原色に近い高彩度の色彩は避け、空や樹木の緑、土や石などの自然の色と馴染みやすい、暖色系で低彩度の色彩を基本とする。
  • 水辺をいかした景観形成を図る地域や、庭園周辺等の緑が景観の構成要素として重要な地域では、地域の景観特性を踏まえた基準を定め、色彩の誘導を図る。
  • 地区計画や面的開発の区域などを対象に、一定の広がりの中で地域特性を踏まえた色彩基準が定められ、良好な景観形成が図られる場合や石材など地域固有の自然素材を使用する場合については、これを尊重する。

東京都都市整備局 都市づくり政策部 緑地景観課 街並み景観担当「東京都景観色彩ガイドライン|p.5凡例

一般的な住宅地で2階建ての戸建の場合、建物の高さは7〜9m程度になります。他の地域でも景観条例が適用されるのは比較的大規模な建築物に限られるので、そこまで気にする必要はないといえます。しかし、コンビニやガソリンスタンドといったお店の建物や看板の色が、通常と異なるカラーリングをしているのを見たことはありませんか? この場合、そのエリアは伝統的建造物保存地区に指定されており、住宅地であっても地域一帯で景観づくりに取り組んでいる場合があるため注意が必要です。

景観計画の事例

景観法にのっとって、日本全国さまざまな地域が景観条例を定めています。色彩以外にも建物の高さや照明の使い方など、地域の良さを活かすため具体的にどのような事例があるのかを紹介します。

光を使った街づくり【東京都】

東京都では、2018年から夜間における景観形成について新しい方針を追加しています。"眠らない街"と表現される東京では、高層ビルが多く立ち並ぶエリアはもちろん、街路のライトアップなど夜景を楽しめるエリアが数多く存在します。
新しい方針では、照度や過度な照明演出を制限し、環境に配慮した照明計画を進める一方、エリアごとの個性がより際立つような夜間照明をしていくよう示しました。

歴史と風情を守る街づくり【京都市】

京都府は全国の中でもかなり厳しい景観ルールを設けていることで知られています。建物の高さ制限、眺望景観の保全、屋外広告の規制の3本柱で各地域の特性を生かした景観を保っています。特に屋外広告は屋上看板や点滅式照明、可動式照明は市内全域で禁止するとともに、各地域で看板のサイズや取り付け位置、デザインについて基準を定めています。また、優良屋外広告物への表彰や補助金制度を設け、企業や商店を巻き込んだ街づくりが特徴です。意匠的に認められた看板には面積基準の緩和制度もあります。

積極的な条例活用で街並み保存【倉敷市】

倉敷市は市街地を流れる水路や大小の山並み、歴史的街並みが美しい人気の観光地です。2021年に改訂された景観計画では、現在の街並みの要素に対応したより細かい指標が示されています。
これまで建築物のデザインは事前に届出を行うのみでしたが、工事完了後には完了届の提出が求められるようになり、適合しない場合には変更命令を出すことができるようになりました。自動販売機の色にも言及し、赤などの目立つ色ではなく、白や茶など設置する場所の背景に合わせることも求められています。

外観リフォームで気を付けるポイント

ここまで、自治体単位で景観に関するルールが決められていることをお分かりいただけたでしょうか。
外観リフォームで色選びに困った場合、施工会社に相談すれば、地域の条例に則った色を選んでくれるはずですが、リフォームが外壁改修となった場合、家全体の印象を左右する大きなものになるため慎重になってしまうものです。
ここでは、外観リフォームで気を付けるポイントを解説します。

配管やサッシとの組み合わせ

住宅の外観は壁、窓、屋根、配管、玄関扉など、たくさんの要素で出来上がっています。外壁の色は比較的自由がききますが、配管や窓サッシなどはグレーや黒、茶など決まった色が多いものです。もしいくつかの色で迷ったら、こうした変更のきかない既存の窓枠や配管の色との取り合わせで選ぶとよいでしょう。

素材サンプルを屋外でも確認

室内の壁紙にもいえることですが、壁素材のサンプルはだいたいA4前後のサイズです。室内で小さなサンプルだけを見て決めると、大きな面に貼られたとき、「こんなはずじゃなかった」ということになりかねません。まずはサンプルサイズで見るときよりも一面の壁に貼るほうが、明るく見える傾向にあることを覚えておきましょう。加えて、太陽が出ている時間帯に素材サンプルを住宅の外観にあてて見ることが大切です。お庭があるようなら、植栽との相性も確認してみるとよいでしょう。

地域のルールを守って外壁リフォームしてみよう

お住まいの地域によって景観に関するルールはさまざまです。基本的には工務店や設計事務所の方が、条例違反にならないようにサポートしてくれるでしょう。どうしても実現したい色合いやデザインがある場合は、事前に確認しておくことをおすすめします。

これから住み替えを検討する方は、新しい住まいがどのような地区にあるのか、事前に確認することで、不要なトラブルを避けることができるでしょう。

※ 公益財団法人都市づくりパブリックデザインセンター「景観行政ネット