階段や玄関の手すりに必要な機能とは? リフォームのアイデアは? 建築士が解説

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ふとした時、壁によりかかっていたり家具を支えにしていたり。そういう方はいませんか? こうしたとき、家の動線上に手すりがあると安心です。手すりには、転倒や落下を防止する安全のため、立ち上がりやふらついてしまいそうな不安な動きを補助するためなど、さまざまな目的があります。

では、どんな場所にどんな手すりがあると良いのでしょうか。今回はそんな、「手すり」に特化したリフォームを考えてみましょう。

移動を助ける手すり

手すりと聞いて、まず思い浮かぶ場所は、階段ではないでしょうか。建築基準法では、「階段には、手すりを設けなければならない」(※1)と制定されており、高さが1mを超える階段にはすべて適応されます。住宅の中の階段には、ほぼ手すりが設置されているはずです。
また、病院や高齢者施設などでは、廊下の手すりをよく目にします。移動をサポートしてくれる手すりは、わたしたちにとって身近な存在です。

国土交通省は建築物のバリアフリー化のいっそうの推進のために「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計基準」というガイドラインを策定しており、この中ではいくつかの注意点が挙げられています。そのひとつが、「起点から終点まで連続している」ことです。手すりに頼って移動してきたのに、目的地までつながっていないようでは安全に辿り着くことができません。しかし、実際の住宅では、廊下の途中に別の部屋の出入り口があったり、廊下が曲がっていて手すりが途切れていたりすることがあります。こうした時には「遮断機式」の手すりが重宝します。

図)遮断機手すりのモデル 筆者作成

普段は手すりを跳ね上げておき、必要な時には踏切の遮断機のように手すりを下ろしてつなげることができるので、臨機応変に対応できます。

「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計基準」では手すりの高さや素材についても言及しています。高さは、手すりの上端で75〜85cm、幼児や高齢者のために設置をする場合は2本目を設けて60〜65cmの高さとすることが書かれています。(※2) 素材については、冬に寒さを感じないものを選ぶことが勧められています。(※3)たとえば、金属製だと冬場は冷たさが際立つため、手すりに頼る方の不安やストレスにつながってしまいます。安全のための手すりですから、安心して利用できる物を選びたいですね。

なお、ガイドラインには示されていませんが、他にもいくつか注意したい点があります。
まずは手すりの端の処理です。水平の手すりの端部を直線に伸ばしたままにしておくと、端部が服の袖口に入ってしまうことがあります。そうなると、動きを制限され、つまずきや転倒を引き起こしてしまう危険性がりあります。手すりの端部には専用のエンドキャップをとりつける、壁側や床側に曲げる処理をするなど、安全対策を施しておきましょう。

図)手すりの端部を壁側に曲げる例(左)と下に曲げる例(右) 筆者作成

加えて、階段の手すりを左右どちらに付けたら良いのか迷った場合は、降りるときに利き手側になるように設置することをおすすめします。階段は昇るよりも降りるほうが不安定であり、落下の危険があるからです。

図)階段手摺の取付け側 筆者作成

なお、握力や手すりを握る動作に不安がある方には「平手すり」がおすすめです。通常の手すりは握りやすいように直径が4cm程度の丸い形につくられていることが多いのですが、この平手すりは平らな断面になっていて、手を載せる面の幅が広くつくられています。そのため、丸い手すりのように握らずに、手や肘から先の前腕を載せて移動するようにして使います。肘を曲げて載せることができるので、丸い手すりよりも高い位置に設置するとより効果的です。

設置の際は手すりの利用者に合った高さを第一とし、製品の説明書をよく確認するようにしましょう。

動作を助ける手すり

手すりには、さまざまな動作を助ける機能もあります。たとえば、玄関で靴を着脱した際の立ち上がり、トイレでの立ち座りや排泄姿勢の維持、入浴の場面などが想定されます。特に入浴の場面では、足元が濡れていて滑りやすいほか、浴槽をまたぐときの動きも大きく、また服を着ていないため、万が一のときのケガのリスクが高くなります。安心した入浴時間を過ごすためにも、手すりの設置は優先的に行いたいものです。

なお、立ち座りといった動作をサポートする手すりには、階段や廊下の水平手すりとは違ってI型やL型の手すりが用いられます。座った姿勢になったときに、縦手すり部分が身体より少し前方にくる場所に設置するのがおすすめです。反対に、身体に近い位置にあると、座る動作の途中で身体が後ろに倒れやすくなってしまい、転倒の危険があります。

トイレなど狭い空間に多くの機能が入っているような場所に手すりを設置するときは、機能と手すりがぶつからないよう、よく確認しましょう。ありがちなのは、横に伸びた手すりと、紙巻き器やリモコンが交差してしまうことです。手すりを使うときの動作、紙巻き器やリモコンを使うときの動作を確認したうえで、取り付けを行いましょう。

トイレ内で使用できる手すりにはこのほか、排せつしやすい姿勢を保つような、はね上げ式のもの、収納カウンターと手すりを兼ねたものがあります。調べてみると思わぬニーズを解決してくれる製品に出会えるかもしれません。また、立ち座りの動作以外にも、ドアの開閉時の動きをサポートするドア横用の手すりもあります。開き戸や引き戸を開閉する時、扉の動きや重みにつられてバランスを崩すことのないよう、扉の取手側の壁にI型の手すりを設置すると、安心です。

屋外にも手すり

手すりを設置するのは屋内だけではありません。屋外にも手すりを設置する場所があります。建築基準法では次のように書かれています(※4)。

「屋上広場又は二階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが一・一メートル以上の手すり壁、さく又は金網を設けなければならない。(建築基準法施行令第126条第一項)」

このように屋外では主にバルコニーの手すりについて規定されていています。建築基準法で定められている高さの他に、間隔はこどもの頭がすり抜けてしまうことがないよう110mm以下、こどもがよじ登ってしまわないよう縦桟にするのがのぞましいと言われています。(※5)

図)バルコニー手すりの高さと手すり子の間隔 筆者作成

屋外では、道路から玄関までのアプローチに手すりを取り付ける場合があります。これは、フローリングや畳敷きの屋内と違って段差や傾斜があることが理由です。仕上げによっては凹凸がある場合もあり、石やタイルなど硬い仕上げの場合も多いので、転んだ時のリスクは屋内以上に大きい場所です。また、荷物を持って移動することが多い場所なので、とっさのときに頼れる手すりがあると心強いものです。

屋外手すりの取り付けは、外壁や塀、屋外床など屋内に比べて取り付けることに難しさを感じる人もいるかもしれません。しかし、最近は工事不要の置き型手すりもあり、選択の幅は広がっています。屋外にも手すりを設けて安全に移動できるようにしましょう。

まとめ

健康に動けるうちは、手すりはあまり気に留めない存在かもしれません。しかし、体調が優れないときや足をケガしたとき、幼い子どもが歩いているとき、年配の方と一緒のとき、きっとありがたみを実感するはずです。

いますぐのリフォームは必要ないかもしれませんが、いずれくるそのときのために普段から住まいの中に目を配り、どんな場所のどんな動作が不安になりそうか、気に留めておくと良いかもしれません。「そのとき」は、突然やってくるものです。

※1 e-GOV法令検索「建築基準法施行令第25条第一項

※2 国土交通省資料「2.14 A 手すり(2)設置方法②高さ」p.2-238

※3 国土交通省資料「2.14 A 手すり(2)設置方法④その他」p.2-239

※4 e-GOV法令検索「建築基準法施行令第126条第一項

※5 東京都商品等安全対策協議会 | 東京くらしWEB「(資料4)法令規格基準と事故防止対策等 p.8 2.手すりの間隔の条件