生活をコンパクトに リタイヤ後に考えたいリフォームのポイントとは

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退職や子どもの独立などをきっかけに、リフォームを考える人は少なくないでしょう。実際、日本では長寿命化が進み、いわゆる「第二の人生」の期間も長くなっています。来るべき老後のためにリフォームを考えるのはごく自然なことです。
しかしながら、平均寿命と健康寿命は必ずしも同じではありません。「令和3年版 高齢社会白書」によると、平均寿命と健康寿命の差は男性で約8年、女性では約12年もあります。

健康寿命と平均寿命の推移

内閣府「令和3年版高齢社会白書(概要版)|第2節 高齢期の暮らしの動向」からの引用

一方で、半数以上の人が、身体機能が低下したあとも自宅で暮らすことを希望しています。

身体機能が低下した場合の住居

国土交通省「高齢期の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン(概要説明資料)|P3. ■身体機能が低下した場合の住宅」からの引用

では、身体機能が低下しても暮らしやすい家とは、どのようなものなのでしょうか。今回は、高齢になっても暮らしやすい「合理的」な家づくりのアイデアを提案します。

高齢者の暮らしの現状

まずは高齢者がどのような暮らしをしているのかを見ていきましょう。
「令和3年版 高齢社会白書」によると、65歳以上の人がいる主世帯では8割以上が持ち家に住んでいます。

内閣府「令和3年版高齢社会白書(全体版)|4生活環境」の情報を基に作図

また、平成30年に行われた調査によると、60歳以上の人のうち、現在の住居に「31年以上」住み続けている人は51.1%と半数を超えています(※)。しかし、30年以上前、つまり子育て期に建てた家は高齢者にとって広すぎる場合がほとんどであり、広ければ維持管理が大変になってきます。また、古い建築基準で建てられた住居は耐震性能が低く、断熱性や設備・バリアフリーの面でも十分な機能を備えているとはいえません。もちろん、リフォームして住み続けている住宅もあるでしょう。しかしながら、広すぎる家や暮らしにくい家に住んでいる高齢者は相当数いると考えられます。

高齢になっても暮らしやすい「合理的」な家づくりに役立つ工夫

高齢になってからも暮らしやすい「合理的」な家にリフォームするにはどうすればよいのでしょうか。ここからは身体的負担が少なく、空き部屋など余剰スペースの有効活用にもつながる家づくりの工夫を紹介します。

動線を整理する

高齢になると、身体機能の低下などにより転倒のリスクが高くなります。そのためリフォーム時には、動線を短くすると同時に動線のバリアフリー化を考える必要があります。生活の合理化を目的として動線を整理する例としては、以下が考えられます。

動線の整理を目的とするリフォーム例

合理化される内容・避けられるリスクなど

寝室とトイレを近くに配置する

夜間のトイレ利用が容易になる

移動時の転倒リスクが減る

介護者の負担が軽減される

洗面・脱衣所を広くして家事室を兼ねる

家事動線の短縮

脱衣の補助がしやすくなる

室内干しスペースを洗濯機のある場所に設ける

家事動線の短縮

重たい洗濯物を運ばなくてよくなる

生活スペースを一階に集約する/平屋へのリフォーム

家事動線の短縮

階段を利用するリスクの軽減

転倒・転落リスクが減る

介護者の負担軽減

なお、将来、車いすを利用することになっても困らないように、行き止まりや直角に曲がるコーナーなどは、できるだけ作らないようにする配慮も必要です。

よく利用する空間を一体化する

高齢になると、若い頃と比べて家事に負担を感じることが多くなってきます。他方、家事をして適度にからだを動かすことは健康維持につながるため、よく利用する空間を集約して生活の合理化を図るのが有効です。生活空間の一体化は、動線の整理にもつながります。

生活空間の一体化の例・工夫など

利用例や利点など

キッチン+パントリー+土間収納

導線が便利になる

土間で漬け物や野菜などを保管する

リビング+土間リビング

リビング+インナーテラス

リビング+デッキ

リビングと隣接する空間を趣味の場として利用

外から室内への車いすでの移動を容易に

介護サービスを利用しやすく

水まわりの一体化

スペースが広く使えるなる

介護がしやすくなる

家事動線が短くなる

寝室と水まわりをつなぐ

湯冷めせずに就床できる

転倒リスクが減る

介護者の負担が軽くなる

生活スペースを一階に集約する

家事動線が短くなる

階段を利用する機会が減るため、転倒・転落リスクが減る

介護者の負担が軽くなる

可動式間仕切りをつける・間仕切りを少なくする

空間を広く使える

掃除がしやすくなり、家事負担が軽くなる

車いすでの移動がしやすくなる

空き部屋・空きスペースの有効活用

子どもが独立すると、子ども部屋など利用しないスペースが生まれます。こうした余剰スペースを活用したアイデアとして、下記が挙げられます。

余剰スペースの活用例

利点など

趣味の部屋にする

趣味に没頭でき、イキイキとした暮らしにつながる

収納に使う

生活空間に余分なものを置かないで済む

転倒リスクが減る

廊下や水まわりに取り込む

車いすでの利用が容易になる

介護者の負担が軽減される

寝室から屋外に直接出入りできる動線を確保する

車いすでの利用が容易になる

介護者の負担が軽減される

介護サービスが利用しやすくなる

土間リビング・インナーテラスを整備する

趣味の空間として利用できる。

車いす使用時の出入り口として活用できる

介護サービスが利用しやすくなる

高齢になっても暮らしやすい家づくりはプレシニアのうちに

「平成30年住宅・土地統計調査」によると、2014~2018年のあいだにリフォームを行った年代は、「65歳以上」がもっとも多いことが分かっています。また65歳以上の20%が「水まわり」のリフォームを行っており、そのあとを「屋根・外壁等(13.9%)」「天井・壁・床等(9.1%)」が続きますが、いわゆる「断熱リフォーム(2.6%)」、「増築・間取りの変更(3.5%)」はさほど多くありません。

総務省「平成 30 年住宅・土地統計調査 住宅の構造等に関する集計 結果の概要|P2.  表2 家計を主に支える者の年齢,2014 年以降の住宅の増改築・改修工事等別持ち家数-全国(2018 年)」の情報を基に作図

しかし、健康面に不安を覚えるようになってからリフォームを計画・実行するのは大変です。経済面でも健康面でも余裕のあるプレシニアのうちに、将来を見据えたリフォームに取りかかることをおすすめします。

※ 高齢者の住宅と生活環境に関する調査 高齢者の住宅と生活環境に関する調査:平成30年度 高齢調査 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口