リフォーム? それとも建て替え? 判断基準を建築士が指南します

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そろそろ家をきれいにしたいと考えたとき、リフォーム、リノベーション、もしくは建て替えのどちらを選択するのが最適なのか、迷う方も多いのではないでしょうか。その点、それぞれが持つ言葉の意味と違い、予算などの比較ができれば、よりよい判断につなげられます。

この記事では、戸建て住宅の「リフォーム」「リノベーション」、そして「建て替え」について比較してみましょう。ご自身のお住まいにとって、どれを選択すればよいのかを考える一つの基準になれば幸いです。

リフォームとリノベーションの違い

古くなった建物を、新築のようなきれいな状態に改修することを「リフォーム」もしくは「リノベーション」といいます。この2つの呼び方には、それぞれ次の意味があります。

リフォームは、経年劣化により状態の悪くなったものを、元の状態に戻す「原状回復」の意味が強い言葉です。たとえば、雨風にさらされた外壁を補修する外壁塗装工事や室内のクロス張替え、トイレ・バスの交換などが当てはまります。

一方、リノベーションは、工事によって性能やデザイン性を高め、資産価値を上げる意味合いの強い言葉です。たとえば、壁付だったキッチンを対面キッチンに変える工事や、時代や住む人に合わせた間取りの変更工事などが挙げられます。

このように、それぞれ違った意味を持つ言葉ではありますが、使い分けについて明確な線引きはありません。そのため、今回は建物の改修工事も含めたものをすべて「リフォーム」とひとくくりにして話を進めます。

建て替えとは

建て替えとは、既存住宅の解体工事からはじまり、新しく建物を建てることを言います。
建て替えは注文住宅になりますので、リフォームに比べて自由度がとても高い方法です。ただし、「再建築不可物件」と呼ばれる建て替えができない土地も存在しています。

建築基準法では、火災時の安全性から、すべての土地は幅4m以上(自治体によって6m以上)の道路に2m以上接していないといけないと決められています(※1)。
接する道路は、建築基準法上で道路と認められたものに限られ、細い「通路」などは接道とみなされません。

土地の条件、予算、そして建物の状況を見極めたうえで、リフォームなのか、建て替えなのか、もしくは別の土地に新築するのかを検討するとよいでしょう。

リフォームと建て替えの比較

リフォームと建て替えは、どちらも住まいを新しく美しく生まれ変わらせることは共通していますが、明確な違いがあります。それぞれの特徴を、下記にまとめました。

リフォーム

建て替え

定義

既存住宅を住みやすく改修する

既存の住宅を解体・撤去し、新しく家をつくる

費用相場

1003,000万円
(広さや設備グレードなど、内容によって異なる)

約2,000~5,000万円
(広さや設備グレードなど、内容によって異なる)

諸経費

基本的になし
(仮住まい費用と引越し費用。ローンを使う際の保証費・手数料がかかる場合も)

解体費用、処分費用、登記費用、仮住まい費、引越し費、住宅ローン保証費、手数料

確認申請

小工事は基本的に不要
(ただし、内容や規模による)

必要

工事期間

2週間~4カ月
(水まわりリフォーム~全面リフォームの場合)

46カ月
(構造や工事内容によって異なる)

再建築不可物件
の土地

リフォームできる

建て替えができないことがある

プランの自由さ

既存住宅に制限される

ゼロから自由に考えられる

築年数の目安

部分的なリフォームの場合:1020
全面リフォームの場合:30年以上

築30年以上

耐震性

耐震改修工事で耐震等級1はクリアできる
(等級2や3は費用がかかる)

予算や求める耐震性に応じて等級1~3まで選択できる。免震構造や減震構造も可能

固定資産税

変わらない
(耐震化、省エネ化で減税措置あり)

増額する
(自治体によって減免措置あり)

図:筆者作成

リフォームで住まいはどこまで変わるのか

リフォームによって住まいがどこまで変わるのか、気になる方も多いと思います。ここでは、筆者が過去に携わった3つの全面リフォームの施工事例を予算とともにご紹介します。

1.スケルトンリフォームで新築のような住まいに

こちらは、私鉄線沿いに土地を持つ、ご年配のお母さまと働きざかりの息子さんの住まいのリフォームの内容です。「スケルトンリフォーム」によって内装から外装まで新築のように生まれ変わらせました。
軸組と呼ばれる主な土台や柱、梁、小屋組み以外はすべて撤去し、一部傷んでいる箇所は新しい木材で補填しました。耐震改修工事も行い、最新のシステムキッチンや広々としたユニットバスルームを入れ、住みやすさや快適性、安全性も安心できるものになりました。この形がある意味、リフォームでできる究極の形と言えるでしょう。

築35年/木造2階建て住宅/予算3,500万円

工事内容

  • 既存住宅の軸組以外全て撤去
  • 構造材腐食部分取り替え
  • 耐震補強(金物施工、梁補強、筋交い増設)
  • 布基礎の土面にコンクリート施工
  • 断熱材敷き詰め
  • 外装サイディング張り
  • 屋根コロニアル葺き
  • 内装床木製フローリング、壁・天井ビニールクロス設置
  • 浴室ユニットバス1坪サイズ
  • トイレ2ヶ所
  • キッチン255cmサイズ
  • 洗面化粧台90cmサイズ1台、60cmサイズ1台
  • 照明設備設置
  • アルミサッシ設置
  • アルミ製玄関扉設置

2.床下から内装まで一新リノベーション

こちらは、閑静な住宅街に暮らすご年配の夫婦のリフォーム事例です。
築30年の住まいは手入れが行き届き、とてもきれいな状態でしたが、水まわりや内装の傷みが気になるご様子でした。そこで、古くなった水まわり設備の取り替えを中心に、内装と床下を改修、外装は塗装を行い、新築のような美しさと快適性を取り戻しました。

築30年/木造2階建て/予算2,100万円

工事内容

  • 既存水まわり設備、床壁天井仕上げ、一部サッシ撤去
  • 構造材腐食部分取り替え
  • 間取り変更に伴う梁補強
  • 布基礎の土面にコンクリート施工
  • 断熱材敷き詰め
  • 外装、屋根塗装
  • 内装床木製フローリング、壁・天井ビニールクロス設置
  • 畳表替え
  • 浴室ユニットバス1坪サイズ
  • トイレ2ヶ所
  • キッチン255cmサイズ
  • 洗面化粧台110cmサイズ1台
  • 照明設備設置
  • 玄関木製扉ピアノ塗装

3.集合住宅を全面リフォーム

最後に紹介するのは、細い道路に面したアパートを経営する40代ご夫婦のリフォームです。オーナールームに住まわれていたお母さまがお亡くなりになったため、住み継ぐために水まわり設備の取り替えを中心とするオーナールームの内装のフルリフォームと、賃貸用2部屋の内装リフォームを行いました。
育ち盛りの娘さんのために、アパートを取り壊して戸建て住宅に建て替えるか、全面リフォームをしてアパート経営を続けるか悩まれていましたが、低予算できれいな状態に生まれ変わった住まいに、ご満足いただきました。

築25年/軽量鉄骨造2階建て/予算1,200万円

2階オーナールーム工事内容

  • 床壁天井仕上げ、水まわり設備撤去
  • 床下地腐食部分取り替え
  • 床合板張り、CFシート、塩ビタイル張り
  • 壁・天井ビニールクロス張り
  • 浴室ユニットバス1坪サイズ
  • トイレ1カ所
  • キッチン240cmサイズ
  • 洗面化粧台750cmサイズ 1台
  • 玄関扉取り替え
  • 外壁塗装

1階賃貸ルーム工事内容

  • 壁天井仕上げ撤去
  • 壁天井ビニールクロス張り

リフォームと建て替えの判断基準

リフォームと建て替えの判断基準として、それぞれ適したケースをまとめると、以下のようになります。

1.リフォーム

  • 予算を抑えて住まいをきれいにしたい場合
  • 水まわり設備すべてを新しくしたい場合
  • 接道義務を満たせない土地の場合
  • 次の世代も住み続けるかわからない場合

リフォームで対応すべきケースは、上記のようになるべく費用を抑えたい場合や、既存の住宅を取り壊さなくても対応できる場合です。
接道義務を果たしていない土地は、新築工事ができないことがあるため、リフォームで対応せざるをえません。義務を果たすためにセットバックをしても敷地が狭くなり、現況よりも家が狭くなったり、満足な広さが確保できなかったりするケースもあり、この場合もリフォームで対応することが多くなります。また、子や孫との同居を想定していない場合も、現在住んでいる世代が満足できるような必要最小限の改修で済ませてもよいでしょう。

2.建て替え

建て替えで対応すべきケースは、リフォームでは対応しきれない場合です。主に下記のようなことが考えられます。

  • 建物の耐震等級に問題がある場合
  • 建物の劣化状況が著しい場合
  • 間取りや外観を自由に変更したい場合
  • 構造を変更したい場合

耐震等級に問題がある場合や、構造体(柱、梁、土台など)のほとんどの部分を補修しなければいけない場合は、リフォームで対応すると大規模な工事になり、費用もかかるため現実的でありません。
間取りや外観をゼロから考えたい場合や、そもそも構造を木造から軽量鉄骨造に変更したい場合も、リフォームでは不可能なため、建て替えで対応することになります。

リフォームと建て替え、それぞれの注意点

リフォームにしろ、建て替えにしろ、実施する際には注意点があります。

新耐震基準に適合させよう

リフォームに合わせて耐震診断を受け、「新耐震基準」に適合した住宅にしましょう。
新耐震基準では、建物の倒壊を防いだうえで建物の中にいる人が安全に避難できることを想定しています。
耐震工事では、基礎や柱や梁など、構造体を改修する必要がありますが、リフォームと同時に行うと費用面でもメリットがあります。
昭和56年6月以前に建てられた住宅は必ず耐震診断を受け、耐震レベルが現代の基準と適合しているのか、確認しておきましょう(※2)。

解体してから高額な工事費がかかることも

リフォームでは、建物の仕上げ材を撤去した際に構造体が腐食しているケースがあります。この場合は、構造体を一部交換しないといけないため、解体してから高額な工事費用が追加で必要になってしまうこともあります。
リフォームを行う際は、腐食があった場合の追加費用の相場を施工業者に確認し、予算に含めておくと安心です。

インフラ整備の費用もチェック

建物を建てて暮らすためには、水道やガスや電気などのインフラ整備が欠かせません。引き込み配管が劣化していたり、現在の設備に適合していない細いものだったりすると、新たな引き込み工事費用が必要になる場合があります。

建て替えで家が小さくなることも

新しい法律や条例に適合させると、既存住宅と同じ広さや高さの建物を建てられない場合もあります。これは建設会社による事前調査でわかりますので、リフォームにするか建て替えにするか判断の際に確認しましょう。

諸経費をチェック

建て替えはたいていの場合、建主の想像を超える諸経費がかかります。諸経費にはローンを使えないものもあり、手元の現金が不足するこ事態も考えられます。総額で何にどのくらいの費用がかかるのか、予算を立てる段階で必ず確認しましょう。

まとめ

リフォームと建て替えの比較と注意点、判断基準についてお伝えしました。どちらを選択するにしろ、多額の工事費がかかりますし、大切な住まいに手を加えること自体、大変なことですから、迷ってしまうのは当然です。
予算や土地の状況、将来性、そして家族の思いなどを考慮のうえ最適な選択ができるといいですね。

※「令和2年度平均年収と学歴調査

【引用・参照】

※1 国土交通省「建築基準法制度概要集」
https://www.mlit.go.jp/common/001215161.pdf

※2 国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html