壁紙選びはなぜ難しい? 選ぶ基準とコツ、リフォームのポイントを建築士が解説

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内装リフォームを検討しているときの楽しみのひとつに、壁紙選びがあります。室内の壁は床以上に面積が大きく、必ず目に飛び込んでくる重要な存在です。色や柄使いで部屋ごとに印象を変えられますし、いまの住まいの壁紙がリフォームを経て新品になるだけで気分が晴れやかになりそうです。

壁紙の分厚いサンプル帳をひろげると、そこには色鮮やかなもの、柄のすてきなもの、風合いの豊かなものなど個性のそろった壁紙が現れます。おしゃれな部屋の写真が添えられていると、ますます心は踊り、新しく生まれ変わる我が家に大きな期待が膨らみます。

その一方、壁紙選びで疲れ切ってしまう人も、いるものです。白いクロスと一言でいっても模様の違うものはいくつもありますし、色柄物を選んだところで手持ちの家具やテキスタイルと色が合うのか、おしゃれな空間になるのか、悩みは尽きません。壁紙は洋服と違い、似合わなかったら人に譲ったり、違うものを買ったりできるものではありません。いろいろと考えた結果、「壁紙で冒険はできない」と、無難な白いクロスを選び、せっかく楽しみにしていた気持ちのトーンが少し下がってしまうこともあるかもしれません。
反面、とても気に入って選んだ壁紙のはずが、リフォーム完了後に見たらサンプル帳と印象が違ってびっくりすることもよくあります。

このように、壁紙選びはなぜ難しいのでしょうか。今回は、その理由をはじめ、壁紙選びのポイントやコツを解説します。すてきな住まいづくりに、ぜひお役立てください。

サンプル帳とリフォーム施工後の印象が違うのは当たり前!?

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「思っていたのと違う。何度も確認したのになぜだろう。記憶違いかな」と、リフォーム後の壁の前に立って考え込んでしまう、というのはよく聞かれる話です。サンプル帳で見たものより、色の印象を強く、きつく感じてしまうのです。これは、「色彩の面積効果」と呼ばれる現象で、同じ色でも面積の違いから明るさ・あざやかさを異なって感じるというものです。色が明るいほど、また面積比が大きくなるほど、より明るく感じ、色鮮やかなものほどその鮮やかさを強く感じます。

下のイラストではどちらも同じ色を使っていますが、ピンクのように明るいものは面積が大きくなると明るくあざやかに、グレーのように暗いものは暗く感じます。

筆者作成

画面で見るぶんには数センチ四方の四角形ですが、壁一面ともなると迫力が増します。ある研究によると、色や明るさ、鮮やかさにもよりますが、実際の空間と同程度の印象をもつには、サンプルのサイズが50cm角程度必要であったという話もあります。(※)

このほか、サンプル帳を見て検討している場所に問題がある場合もあります。実際にリフォームを行う場所で、リフォーム後も使う家具を前にして、実際の日差しや照明の中でサンプルを見ていればよいのですが、記憶を頼りにショールームでサンプル帳を開いているときは注意が必要です。私たちが記憶している色は強くデフォルメされた色である場合が多く、実際の色とは大きく異なっていることがあります。このような現象を「記憶色」といい、一般に実際の色彩よりあざやかさが増したり、色が強調されたりする傾向があります。

見慣れた我が家のことだから、と記憶を頼りに色合わせをしてしまうと、ちぐはぐな空間に仕上がってしまうかもしれません。色や柄選びは、センス以前に多くの難しさがあるのです。

無難な壁紙もひとつの選択肢

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白はどんな色や柄でも引き立てるオールラウンドプレーヤーで、木製品や金属製品、植物との相性も抜群です。たとえば、大きな白いキャンバスに絵を描くように、大きな白い壁に大柄で大判のテキスタイルを掛けると、空間が一気に華やぎます。季節ごとに床の間の掛け軸を変えるように気分次第でテキスタイルを変えると、日々の暮らしの中に楽しみがひとつ増えそうです。お気に入りのキャビネットやソファがある方は、ここに色や柄のある物を置いても良いでしょう。
カーテンに色や柄があっても、白い壁なら受け止めてくれます。淡い色や薄い色とももちろん相性が抜群です。

いつかDIYで壁を塗ってみたいのなら

日々暮らすなか、「やっぱりこの壁には色があった方がいい!」と思う時がやってくるかもしれません。そうしたときにオススメしたいのが「塗装用下地壁紙」です。これは、紙と木の繊維を使用した壁紙で、名前に「下地」とありますが、その風合いの良さからそのまま仕上げとして使う人もいます。

この壁紙のうれしい特徴は、何度も塗り直しが可能なことです。たとえば、初めは白いままで使い、気が向いたら色を塗る。また気分が変わったら別の色を塗る、のように、壁紙を更新し続けることができます。大掛かりなリフォームをしなくても空間の印象を自分好みに変えられ、何よりやり直すことができます。こうして試行錯誤しながら手を加えていくと、我が家への愛着はいっそう増して、家を眺める時間を愛おしく感じられるようになるかもしれません。

まとめ

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壁紙選びが難しいのは、センスや思い違いのせいだけではありません。「色彩の面積効果」や「記憶色」といった選択を惑わす現象があり、また「良い空間で過ごしたい」という気持ちから勇気が出ず無難なほうを選ぶこともあります。でも、そこで焦らず急がず、先に延ばせることは楽しみとしてとっておきましょう。リフォーム工事の完了を、必ずしも住まいの完成とする必要はありません。
永く暮らしながら住まいを育てていける「余地」を残しておくことも、良い選択のひとつなのです。

※ 武田紀子、堀越哲美、田中稲子、鈴木健次著 建築の実大空間における壁面色彩の印象とサンプルとの対応に関する基礎的研究 p.12