自然素材の温もりを活かす!屋根断熱リフォームの魅力と注意点

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最近では、既存の住まいの梁をあらわしにして開放感のある空間を確保するリフォームがよく見られるようになり、特に古民家のリフォームで用いられるようになっています。

そうしたリフォームで採用されている天井断熱が「屋根断熱」です。
今回は、屋根断熱リフォームのメリットや注意点について解説していきます。

まだまだ多い無断熱の家

国土交通省の統計によると、日本の住宅ストック約5,000万戸のうち、昭和55年に定められた最初の省エネ基準を満たしていない住宅、つまりほぼ無断熱の住宅は約4割を占めています。一方で、現行の基準に近い平成11年の省エネ基準を満たす住宅は、20年以上前の基準にも関わらず、全体の5%に留まっています。

国土交通省「既存住宅ストックの現状について 住宅ストック約5,000万戸の断熱性能|P17 住宅ストックの性能(断熱性)」の情報を基に作図

しかし、無断熱の住宅と省エネ基準を満たす住宅のエネルギー消費量を比較すると、非常に大きな差があります。
上述した日本の住宅ストックの約4割を占める無断熱の住宅のエネルギー消費量を1とすると、平成11年の省エネ基準を満たす住宅のエネルギー消費量は0.39ほど。およそ6割のエネルギー消費を節約しています。

国土交通省「建物本体の断熱性の向上や建築設備の効率化による省エネ性能の向上|図Ⅰ-2-2-3 各省エネ判断基準に適合する住宅における年間冷暖房エネルギー消費量」の情報を基に作図

2つの統計を見ると、いまだ日本では断熱性能の低い住まいが多いのが実情です。そして、エネルギー消費量を比較すると、断熱リフォームにより省エネ化を行っていくことがいかに大切であるかがわかります。

屋根断熱と天井断熱の違いとは?

断熱リフォームでは、床面―壁面―屋根面―壁面の四方をぐるりと断熱材で囲うことになります。そのうち、屋根面を断熱する方法として、「屋根断熱」と「天井断熱」の2種類があります。
一般的に多いのは「天井断熱」で、水平な天井面の上に断熱材を充填する方法です。断熱材は天井の下地に載せるように設置されます。屋根から小屋裏を通って侵入してくる暑い空気や冷たい空気を、天井面で遮り断熱を行う方法です。

引用)住友林業のリフォーム 「天井断熱工事

一方、「屋根断熱」は屋根勾配に沿うように断熱材を充填し、その下に天井面を屋根勾配に沿って仕上げる方法です。断熱材は屋根の下地となる垂木の間に充填されることが一般的です。小屋裏空間はなく室内として現れてくるので、屋根に侵入してくる外気の熱は斜めの屋根面で遮られます。

このように断熱材を施工する場所によって、天井断熱と屋根断熱に分かれます。
一般的に天井断熱の住宅が多いのは、水平面に断熱材を充填するので屋根断熱と比べて施工性がよいこと、屋根の下となる2階の空間は寝室や子ども室として使われていることが多く、屋根断熱にして大きな空間を確保する必要がない住宅が多いことが理由として挙げられます。

屋根断熱の魅力

一般的に多いのは天井断熱ですが、屋根断熱はどういった場合に使えるのか、また屋根断熱とした場合のメリットや魅力はどこにあるのでしょう。

気積の大きい開放的な空間がつくれる

屋根断熱は屋根の勾配上に天井を設けるため、天井断熱ならば通常隠れてしまう小屋裏の空間を室内空間として使うことができます。そのため、天井断熱と比べて天井高が高くなるので気積(きせき:床面積×天井の高さで算出される。空間の大きさを指す)が大きくなり、開放的な空間をつくることができます。天井高の高いリビング、開放的な吹抜けなど、伸び伸びとした室内空間をつくりたい施主にとって屋根断熱は、有効な方法のひとつです。

架構を生かしてあらわしにできる

天井断熱では構造体となる梁は天井裏に隠れるので、室内からは見えません。ただし、屋根断熱とすることで、通常は見えなかった梁をあらわしにでき、木の温もりや素材感を取り入れたいときに有効な方法となります。古民家では太く立派な梁が使われていることも多く、古民家リフォームでは梁や束(つか)といった迫力のある小屋組みを見せる方法としてよく使われています。

引用)住友林業のリフォーム「施工実例 北近畿支店の旧家実例

小屋裏空間を有効に使える

天井断熱ならば使えない小屋裏が室内として使えるようになるので、空間を有効活用できます。"天井の高い空間"として利用するだけでなく、床をつくることでロフト収納など機能的な場所となり、屋根の下の空間全体を機能的に変えられます。

屋根断熱の注意点

屋根断熱には多くの魅力がある一方、採用する場合はいくつかの注意が必要です。ここでは屋根断熱を行う場合の注意点について解説します。

屋根の下の間取りをよく考える

屋根断熱を行う場合、屋根の下の空間を何に使うか、十分に検討することが大切です。
2階建ての場合、2階は寝室や子ども室となっている住宅が多いですが、そうした部屋で高い天井高を確保しても、それほど長時間を過ごす部屋ではないため、メリットはあまりないと言えます。ただ、屋根断熱とするとロフトが確保できるので、寝室などの上部を機能的に使うことも可能です。
リビング・ダイニングが2階にある場合や平屋建ての場合など、長時間を過ごす部屋が屋根の下にある場合、また吹抜けとなっていて開放的な空間としたい場所では、屋根断熱とすることは有効であると言えます。

引用)住友林業のリフォーム 「旧家・古民家リフォームのフォトギャラリー

このように、リフォームの際に屋根の下の空間を何に使うかによって屋根断熱とするか、天井断熱とするか、見極めることが大切です。

施工が天井断熱より難しい

天井断熱は水平に組んだ下地の上に断熱材を充填し、仕上げの天井材を張りますが、屋根断熱の場合は屋根に沿って斜めに断熱材や天井を張ることになるので、天井断熱に比べ施工が難しくなります。そのため、コストが天井断熱よりも高くなりやすい傾向にあります。必要な箇所だけを屋根断熱とし、他の部屋は天井断熱を採用するなど、うまく使い分けることでリフォームのコストを抑えることができます。

通気層の確保が大切

屋根断熱は天井断熱のように、空気の動きやすい小屋裏空間がないため、断熱層の上にしっかりと通気層を確保することが大切です。この通気層がない場合、屋根の中の空気の逃げ道がなく、湿気がたまって屋根の下地である野地板や垂木が腐朽し、雨漏れを起こす原因となってしまいます。屋根の下から空気を取り入れ、屋根の頂点から空気を逃がすための換気口(棟換気と言います)を設けることで、下から上へと空気が流れ、屋根内の結露を防止できます。

冷暖房効率に考慮する

屋根断熱は天井断熱に比べると部屋の気積が大きくなるため、冷暖房を行うにあたってエアコンの性能をしっかりと考慮する必要があります。特に暖房時は、高い天井高により暖気が上に上がっていくので、エアコンの位置、種類、性能を十分に検討して効率の悪い空調計画とならないように気を付けましょう。
大きい空間になると冷暖房効率が悪くなるようなイメージがありますが、高い性能の断熱材を使ったり、床暖房などの輻射式暖房と組み合わせたりすることで快適な温熱環境を維持できます。リフォームの際は総合的に冷暖房の計画を検討しましょう。

まとめ

屋根断熱は、新築ではそれほど採用されている例は多くないものの、リフォームでは既存の梁などの構造体を生かしたり、空間を有効に活用したりする手段として採用される事例も多くなっています。
開放的であるぶん、冷暖房効率が悪そうなイメージもある屋根断熱ですが、使用する断熱材や冷暖房器具の選定や位置、住宅の断面計画を工夫することで快適な熱環境をつくることは十分可能です。一般的な天井断熱に加えて、屋根断熱も断熱の選択肢のひとつとして考えることで、よりリフォームの幅を広げることができるのです。