断熱リフォームが居住者の健康に与える影響

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日本人には「冬が寒いのは当たり前」といって、家の寒さ対策をせず我慢してしまう傾向があります。しかし、暖房をしていないとすぐに部屋が冷えてしまうような環境で生活すると、血圧が上昇するなど健康に悪影響を及ぼすことが分かっています。特に小さな子どもや高齢者は、室温の影響を強く受けてしまいます。

家は生活の大切な基盤。健康な生活のためには、寒さを我慢するのではなく住環境を整えることが重要です。

高齢者ほど要注意「室温の低下と血圧の関係」

寒さを我慢すると、健康に様々な悪影響を及ぼします。その悪影響のひとつが「血圧の上昇」です。血圧の上昇は、脳卒中や心疾患のリスクを高める要因になるため、注意が必要です。

国土交通省「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する調査の中間報告」P2のグラフを基に作図

室温の低下と血圧の上昇
気温の低い場所へ行くと、血管は温度を逃がさないように収縮し、血圧が上昇します。国土交通省の発表した調査(※1)では、起床時に室温が10℃低下していた場合、血圧が7.3mmHg上昇していたことが分かりました。
また、室温の低下にともなって血圧が上昇する傾向は、高齢者ほど顕著にみられることも分かっています。そのため、高齢の人が住む住宅では特に夜間の冷えに注意する必要があるのです。

冬季は起床時の室温が低下する
冬季の寒い時期でも、室内では暖房等での温度調節が可能です。しかし、多くの人が就寝時には暖房を消します。家の断熱ができていない場合、熱はすぐに外へと逃げてしまうため、就寝時には暖かかった室内も、起床時には冷えてしまうのです。
夜間の冷えは、暖房を使って防ぐことができません。夜の寒さを改善するためには、家が冷えてしまう原因を取り除くことが必要なのです。

断熱リフォームで血圧の上昇を防ぐ

そんな夜の冷えを防ぐために有効な方法が、断熱リフォームです。

断熱性能を上げることにより、熱の出入りは小さくなります。逆に断熱がされていないと、家の中の熱は自由に外へ逃げて行きます。そのため、断熱性能が低いと暖房の効きが悪かったり、暖房を消すとすぐに寒くなったりしてしまうのです。

このように熱の出入りが大きい状況では、日中部屋を暖めても眠っている間に熱が逃げてしまいます。そのため、起床時の室温を高くするためには、家の断熱性能を高めることが重要となります。

温暖な気候の地域ほど注意が必要
冬期の死亡率の増加は、寒冷な気候の地域よりも温暖な地域で顕著にみられます。これは寒冷な北海道などでは、住宅の断熱に対する意識が高いためだと考えられています。それに対して温暖な地域では、夜間の冷え込みも我慢できてしまうため、断熱に対する意識が低い傾向があるのです。

夜間の冷え込みは我慢していると健康にも悪影響を及ぼします。我慢できるからといって、家の寒さ対策を怠ることは危険です。健康な生活のためには、寒さは我慢するものという意識を変え、部屋の寒さを改善していくことが重要です。

国土交通省「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する調査の中間報告」P4の図を基に作図

適切な室内温度とは

国土交通省の調査(※2)によると、健康上のリスクを抑えるために必要な室内温度は、最低18℃と言われています。
18℃というのは最低限必要な温度であり、常にそれ以上になるように室温を管理する必要があります。東京でも、冬期は最低気温が0℃近くまで下がります。冬に向けて自宅の断熱性能や夜間の室温の状況などを把握し、対策をすることが重要です。

また、夜間は室温を高く保つだけではなく、体を温めることも重要です。暖かい布団や服、毛布などを有効に使って、体の冷えを防ぎましょう。

特に65歳以上の高齢者は室温管理だけでなく、就寝時に体を温めることに気を配る必要があります。通常であれば、人の体は寒い環境にいるときには血流量を減らすことで、熱が逃げるのを防ごうとします。このような体温調節機能は年齢と共に衰えるため、高齢者は体が冷えやすくなってしまうのです。

断熱リフォームの方法

断熱リフォームには、家全体を改修するものもありますが、部分ごとに断熱する方法もあります。家の状況や生活スタイルによって、適切な施工方法は異なるため、専門家にしっかりと相談することが重要です。

窓の断熱
ガラスは熱を通しやすいため、窓は家の中でも最も熱が逃げやすい場所のひとつです。
窓の断熱性能を上げる方法は主にふたつあります。ひとつは、内窓の設置。もうひとつは複層ガラスへの交換です。内窓は、既存の窓の内側にもうひとつ窓が設置されるため、窓が二重になります。それに対して複層ガラスへの交換は、窓に取り付けられているガラス自体が二重になるので、窓は1つのままです。

天井の断熱
天井の断熱は、屋根裏に断熱材を敷き込むか、断熱材を吹き付けることで行います。
温かい空気は上へ移動する性質があるため、天井の断熱が不十分だと家の熱が逃げてしまいます。逆に夏は外からの熱が天井近くにこもってしまいます。そのため、夏場に2階部分だけ暑さが気になる場合は、天井の断熱が不十分な可能性が考えられます。

床の断熱
床の断熱は、床下にボード状の断熱材を張り付けることで行います。
暖房を付けていても床が冷たかったり、足下が寒かったりという場合には、床の断熱性能が悪く、冷気が入り込んでいる可能性があります。このような問題は床の断熱性能を上げることで改善できます。

壁の断熱
壁の断熱は、壁をはがして中に断熱材を入れるか、壁の内側に断熱材を張り付けることで行います。
壁の中に断熱材を入れるためには、既存の壁を1度はがさなくてはいけません。それに対して、内側に断熱材を張り付ける工法では壁紙などははがしますが、壁自体を解体することなく断熱性能を高めることができます。

壁の気密
断熱とセットでよく言われるのが気密化です。気密化は家の隙間をふさぐことで、熱が逃げたり、冷たい風が吹き込んだりすることを防ぎます。

壁の気密化には、『気流止め』という工法が用いられます。壁の中には空洞があり、床下や天井裏とつながった状態になっています。気流止め工法では、この空気の流れを止めるために壁の上下に断熱材を詰め、気密性能を上げます。

まとめ

家の断熱が不十分な場合、冬の寒さは暖房だけで補うことになります。しかし、暖房だけでは夜の冷え込みを改善することができません。起床時の室温の低下は血圧の上昇にもつながる重大な問題です。

特に高齢になると体の機能が衰え始めるため、冷えによる影響を受けやすくなります。少しくらい寒くてもと我慢せず、積極的に家の寒さ対策を行うことが必要です。

状況に応じて適切な断熱リフォームを行うことで、健康で快適な住まいづくりを心掛けましょう。

出典

※1 国土交通省「断熱改修等による居住者の健康への影響調査 概要」資料
http://www.mlit.go.jp/common/001158517.pdf

※2 国土交通省「断熱改修等による居住者の健康への影響調査 概要」別紙2
http://www.mlit.go.jp/common/001270049.pdf