床材をリフォームしてみよう 快適性・機能性へのこだわりを建築士が解説

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リフォームで床材を決めるとき、どんなことにこだわるとよいのでしょうか。
フローリングの色味や柄、板の張り方など見た目に対するこだわりかたがあれば、「水に強い」「硬くて傷つきにくい」など機能性を重視する方法もありそうですよね。

今回は、3つ目の視点ともいえる「快適性」や「熱環境への影響」に目を向けて、床材選びのポイントを見ていきましょう。

心地よいフローリングとの出合いは、素足で踏み感じることから

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床や壁、天井やカーテンなど、住まいにはさまざまな内装材があります。その中でただひとつ、常に人と接しているのが「床材」です。歩いて屋内を移動しているとき、ふと立ち止まったとき、椅子に腰かけているとき、足は常に床を踏みしめています。日本の住宅では床に直接座ることも多くありますので、床は他の内装材に比べてより身近な材だといえるでしょう。そんな床材を選ぶのですから、自分に合うか、快適かどうかを見分けるには手触りや見た目だけではなく、自分の足に聞いてみるのが一番。「百聞は"一触"に如かず」です。

もしも大きめのフローリングサンプルを用意してもらえるのならば、素足になって踏んでみましょう。樹種やフローリングの種類によって温かさや硬さの違いがあることに驚くはずです。足の裏はとても敏感にその違いを感じ取ります。

ちなみに、金属製のドアノブは触るとひんやり冷たいものの、木製のドア本体は冷たさを感じない、というのは誰しもが経験則として知っていることだと思います。ドアノブとドア、同じ環境の中にあるのに、こうした違いを感じる理由は、金属と木材の「熱伝導率」の違いです。熱伝導率とは熱の伝わりやすさの指標で、熱伝導率が高いほど熱が伝わりやすいことを示しています。熱伝導率が高い物体に触ると、手の熱はその物体に移動します。手から熱が奪われるため、冷たいと感じるのです。

物体に触り熱が移動するモデル 筆者作成

下の表は主な素材の熱伝導率をまとめたものです。ドアノブにも使われるアルミニウムは熱伝導率が236、ドア本体にも用いられる乾いた木材は0.14と、その差は歴然としています。
こうした差から、物に触れたときに冷たいと感じるもの、感じないものの違いがうまれています。

改訂4版 木材工業ハンドブック」森林総合研究所. 丸善株式会社. p.118、大阪教育大学Webサイト「熱伝導率[熱の伝わる速さ]」を参考に筆者作成

金属と木材ほどの差はないのですが、樹種によっても熱伝導率に違いがあります。フローリング材を素足で踏んでみると、この違いを感じることができます。
柱などの構造材や天井板といった内装材など広く使われるスギは、熱伝導率が低く素足で踏んでみてもひやっとした感覚があまりありません。一方、フローリングや家具造作によく使われるブナやケヤキの熱伝導率は高く、ひんやりとした感覚を覚えます。
ブナやケヤキは、他の樹種に比べて密度が高く硬いという特徴があります。そのため、家具やフローリングといった衝撃を受けやすい部分に使われることが多いのです。

「改訂4版 木材工業ハンドブック」森林総合研究所. 丸善株式会社. p.425-426を参考に筆者作成

欧米では室内でも靴を履く文化です。イスや机の脚など小さい面積に大きな荷重がかかることにもなるため、フローリングに硬さを求める必要があります。また、日本でも小さなお子さんのいるご家庭では、物の落下やおもちゃの衝撃に耐えられるように硬い床を希望される場合があるでしょう。しかし、日本ではイス文化は広く浸透している一方で、室内では靴を脱いで過ごしています。ダイニングセットなども使わずに暮らしている方も多くいらっしゃいます。お子さんが成長するにつれ、床に物が落ちる頻度が減ったというご家庭もあるでしょう。
このような場合はフローリングに硬さを求めず、熱伝導率の低い快適な床材を採用してみましょう。

床には昼間の熱を夜間に放出する役割がある

日当たりが良く、気密性が高く、しっかり断熱がなされている住宅では、冬場に熱を取り込みすぎて室温が上がり、オーバーヒートを起こすことがあります。ありがたいはずの太陽の恵みを、暑すぎるがゆえ窓を開けて外に熱を逃がしている、となると、なんだかもったいない感じがしますよね。とはいえ、床材には、この日射の熱を逃すことなく床に蓄える「ダイレクトゲイン」という役割が期待できます。日中は日射を床に蓄熱して室温が上がりすぎることを防ぎ、夜間は床に蓄えた熱を放出して室内をじんわり暖めるというものです。熱を蓄える能力は「容積比熱」で測ります。容積比熱が大きいほど熱を多く蓄えることができます。

図)床による日中と夜間の熱モデル 筆者作成

容積比熱の大きい材料には、コンクリートやタイルが挙げられます。内装用のタイルは広く普及していますので、リフォームの際にも採り入れやすい素材です。日差しのよく当たる窓際に敷けば、日中は快適な室温を保ち、夜にはゆっくり放熱してじんわりと暖かく過ごすことができます。空調機や床暖房ほどの温熱効果はないものの、電気やガスのエネルギーを使わない環境にやさしい手法です。

主な材料の容量比熱 建築省エネ機構「材料の熱定数表」の情報を基に筆者作成

そんな床材もあったのか! マイナーな床材

床材といってすぐに思い浮かぶのは、木質フローリング、畳、カーペット、タイルやフロアシートといったところでしょう。しかし、あまりメジャーではないものの快適性の高い床材や、見た目も良く機能性の高い床材もあります。個性的なリフォームを希望する際には、選択肢として検討するとよいでしょう。

コルク

熱伝導率が低く、寒さをあまり感じないのがコルクの床材です。断熱材にも用いられるガラスウールに並ぶ熱伝導率の低さを誇ります。
コルクは防滑性に優れていて、滑りにくく歩きやすいのも特徴的です。居室や廊下はもちろん、特殊な処理を施すことで水にも強くなり脱衣室や浴室にも使えます。とても汎用性の高い床材です。

サイザル麻カーペット

サイザル麻という熱帯地方で育つ植物を織ったカーペットです。自然素材特有の素朴な見た目や質感が好まれ、リビングや寝室、廊下などいろいろな場所に用いられています。耐久性が高く、断熱性や防音性、調湿性が高いことも知られています。

塩ビ製織物

塩化ビニール製の床材といえば、フロアシートやフロアマットが思い浮かぶのではないでしょうか。水や汚れに強くメンテナンスが簡単で、洗面室やトイレといった水回りに用いられることが多い床材です。その機能性を保ったまま高い意匠性を実現したのが塩ビ製織物の床材です。織物特有の折り目からできる陰影で、質感がありあたたかみのある空間を演出することができます。

終わりに

床は歩いていても、立ち止まっていても、座っていても人に接している身近な存在であり、住まいの中の多くの部分と違って、直に触れて感じながら過ごすものです。ですから、リフォームでは見た目にこだわることと同じくらい、暖かさ、足ざわりといった「快適性」にも目を向けてみましょう。リフォームした我が家にいっそうの愛着がわくと同時に、その快適さをきっと実感できるはずです。