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親の介護が必要になったら実家は売るべき 知っておきたい助成金や諸制度あれこれ

夫婦・家族

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いざ介護が必要な切羽詰まった状態で急いで結論を出そうとすると衝突を生みやすく、親の認知症が進んでいれば、まともに意見を交わすことすらできないかもしれません。親が元気ないまのうちに、一緒にじっくりと考えておくことが肝心です。

この記事の監修

釈迦堂容子

銀行で主に資産運用アドバイザーとして積み重ねた経験を活かし、現在は独立系FP事務所「株式会社グライブ福岡オフィス」に在籍。資産形成やお金の基礎知識に関するセミナー講師や相談業務に取り組んでいます。

世界に先駆けて「超高齢化社会」に突入した日本。
「人生100年時代」と言われるなか、2025年には65歳以上のおよそ5人にひとりが認知症高齢者になるとも推計されています。(※1) 今後、介護が必要なお年寄りが増えていくことは、間違いないでしょう。

では、親の介護が必要になったとき、子どもはどのように支えればよいのでしょうか。多くの方が直面するのは、「実家をどうするのか」という難題です。一家にとって愛着ある家ですので、頭を悩ませるのは当然です。

まずは、「在宅介護と施設入所のどちらが良いのか」「お金はどのくらいかかるのか」といったポイントをしっかりと押さえておきましょう。親の介護のために、子どもが自分の人生を犠牲にすることは避けるべきです。

本記事では、親を持つ現役世代の方に向けに、筆者がファイナンシャルプランナーの立場から「実家問題」の具体策をご紹介します。

介護を考えることを先延ばしにしてはいけない

本題に入る前に、とても大切なことを述べておきます。それは、「介護は、誰にとっても他人事ではない」ということです。当たり前のように思えるかもしれませんが、実際、多くの人が自分の目の前に介護の必要性が迫ってくるまで、介護について深く考えていないのです。

アクサ生命保険株式会社「介護に関する親と子の意識調査2019」3ページの情報を基に筆者作図

アクサ生命保険が、40代50代の介護経験がない男女を対象に調査をしたところ、自分の親に介護が必要になる年齢は、「84歳」(平均)と回答しています。
84歳といえば、男女の平均年齢のちょうど中間あたり。誰もが、「自分の親は死ぬまで自立した生活を送れる」と思っているのでしょうか?
本調査でも、親の介護を「楽観的に考えている人は少なくない」と指摘しています。(※2)

なお、下のグラフは、介護受給者の割合を示したものです。「80~84歳」の割合は男性が15.6%、女性が22.5%と、一定の人数の高齢者が介護を受けているのが実態です。

厚生労働省「平成30年介護給付費等実態統計の概況 受給者の状況」5ページを参考に筆者作図

介護費用の平均は「787万円」

親が健在であれば、介護について真剣に考えるのに「早過ぎる」ということはありません。そのうえで気になるのは、介護にかかる費用ではないでしょうか。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社が、介護経験のある20~69歳の男女を対象に行った調査では、介護期間は平均3年7カ月、介護費用の平均総額は787万円という結果が出ています。

介護の形態別に見ると、「入居型施設」を利用した場合は平均1,164万円、「同居介護」では平均655万円、「別宅介護」では平均415万円という結果に。
施設側に介護の一切をお任せできる「入居型施設利用」が圧倒的に高額になることは、皆さんも容易に想像できることでしょう。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社「介護費用に関するアンケート(2019年4月15日)|図表 1.介護期間と介護費用」の情報を基に筆者作図

なお、介護にかかる初期費用の平均は98.1万円。項目別では、住宅改修が最も高額になっています。(※3)
在宅介護でも、まとまった相当額がかかることを覚悟しなければなりません。

在宅介護に潜むあらゆるリスク

施設入所はお金がかかるから、在宅介護のほうが良いのだろうかというと、そうではありません。在宅介護は、介護をする人に大きな負担がかかります。

介護離職

介護によって離職したり、働き方を変えたりすることによって、キャリアや収入を犠牲にする人は、少なくありません。下の図は、介護にともなう働き方の変化を形態別にまとめたものです。損害保険ジャパン日本興亜株式会社の調査からです。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社『「介護費用に関するアンケート」の調査結果』6ページの情報を基に筆者作図

総務省によれば、介護をしている人は、全国に627万6000人、そのうち仕事を持っていない「無業者」は281万3000人(全体の約45%)にのぼります。
働き盛りの40歳未満に限ってみると、男性では4人にひとり、女性では3人にひとりが「無業者」で、介護と仕事を両立する難しさを浮き彫りにしています。(※4)

介護ストレス

介護をする人の「ストレス」も懸念されます。厚生労働省の調査(※5)によると、同居介護者の約7割が「日常生活の悩みやストレスがある」と答え、その原因として「家族の病気や介護」が一番に挙がっています。

厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査の概況Ⅳ 介護の状況」33ページを参考に筆者作図

介護生活が行き詰まった末に起こる悲劇的な家庭内事件も後を絶ちません。老いた親の世話は子がするもの、という強い責任感のもと介護に臨む人もいることでしょうが、子どもの人生は子どものもの。「自分の人生の幸福度を上げる」ことを、筆者は重視します。在宅介護でなければならない、よほどの理由がないのであれば、日常の介護をプロに委ねる「施設入所」を選択肢のひとつとして、考えてみてもよいのではないでしょうか。

「空き家」にするなら、売却を

ここからは、介護が必要な親が施設に入所した場合の実家の処遇について考えます。
まず、実家を「空き家」にするのはなるべく避けましょう。放火のリスクがあるうえ、振り込め詐欺の現金送付先など、犯罪に悪用されるケースが社会問題化しています。また、不審者が侵入したり、ごみの不法投棄や害虫などで荒れたりすることも考えられます。固定資産税をはじめ、維持管理のための費用や労力もかかってきます。

先に述べたように、介護施設に入所した場合には相当の費用がかかります。資金確保のためにもなるべく売却したほうが良いでしょう。

売却する際には、タイミングにも注意が必要です。
居住用財産(マイホーム)を売却する場合、「3000万円特別控除の特例」と呼ばれる税制面の優遇措置を受けられますが、時機を逃すと適用されなくなります。

この優遇措置について、簡単に解説します。
不動産を売却すると、以下の計算式で算出される譲渡所得に対して、所得税などが課税されます。

譲渡所得=収入金額(売却価格)-取得費-譲渡費用

これが「3000万円特別控除の特例」を利用すると、以下の計算式になります。

譲渡所得=収入金額(売却価格)-取得費-譲渡費用-特別控除額(3000万円)

これがどれだけ「お得」なのか、3000万円で取得(購入)した土地・建物の価値が高騰し、4000万円で売却できたと仮定して、以下に例を示します。

この図のとおり、特例の適用を受けると、多くの場合で売却にともなう課税が免除されることになります。ただし、この特例を受けるには要件が6つあります。特に注意しなければならないのは、住まなくなってから3年が経過した年の12月31日までに譲渡しなければ、適用が受けられなくなることです。
上記の例であれば、早めに売却すれば支払わずに済んだ税金を最大で約330万円も納めなければならなくなり、「大損」をしてしまうことになります。

あくまで、売却による相当程度の差益が見込まれると想定した場合の特例ではありますが、念頭に置いておきましょう。

どうしても手放したくない場合は、「リバースモーゲージ」を活用!

「誰も住まなくなった実家であれば、売却したほうが良い」という考えがあることを理解したうえでも「やっぱり思い出のつまった家を手放せない」という人もいることでしょう。また、実家で親御さんと一緒に暮らしている人なら「住み慣れた家を離れたくない」と考えるのも当然です。
そういう時は、「リバースモーゲージ」の活用を検討してみてください。

リバースモーゲージとは、持ち家を担保にしたローンの一種です。実家に住み続けながら借入金を年金のような形で受け取ることができ、毎月の返済に追われることもありません。契約者である親が亡くなった後、銀行が持ち家を売却するなどして返済に充ててくれるので、残される子どもの立場としても安心できます。

親が元気なうちに、一緒に考えておきましょう

ここまで、親の介護で子どもが人生を犠牲にしないよう施設入所を検討することや、自宅もなるべく売却することをおすすめしてきました。ただ、いざ介護が必要な切羽詰まった状態で親と話し合うことは避けたいところです。急いで結論を出そうとすると衝突を生みやすく、親の認知症が進んでいれば、まともに意見を交わすことすらできないかもしれません。
親が元気ないまのうちに、一緒にじっくりと考えておくことが肝心です。

※1 内閣府「平成29年版高齢社会白書(概要版)」図1-2-11
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/gaiyou/s1_2_3.html

※2 アクサ生命保険株式会社「介護に関する親と子の意識調査2019」3ページ
https://www2.axa.co.jp/info/news/2019/pdf/190809.pdf

※3 損害保険ジャパン日本興亜株式会社『「介護費用に関するアンケート」の調査結果』4ページ
https://www.sompo-japan.co.jp/~/media/SJNK/files/news/2019/20190415_1.pdf

※4 総務省統計局「平成29年就業構造基本調査 結果概要」5ページ
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kgaiyou.pdf

※5 厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査の概況Ⅳ 介護の状況」33ページ
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/05.pdf