免震工事とは 木造住宅リフォームの仕組みと免震装置に関する基礎講座

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免震は、「耐震」「制震」「免震」のなかで、もっとも地震に強い技術といってよいでしょう。この免震とは、建物と地面のあいだに装置を設置し、建物を地面と切り離すことで、地震の揺れを直接伝えないようにするものです。

この記事では、木造住宅に免振装置を備え付けるリフォームを行うときに知っておきたい基礎知識について取り上げます。

免震リフォームとは

(引用)博多リフォームショールーム福岡支店からのお知らせ 住友林業のリフォーム

免震リフォームによる地震への備えを行った建物は、倒壊や損壊などの被害が少ないことはもちろん、家具の転倒や食器の落下を防げる効果もあり、地震の被害を最小限に抑えることができます。

東日本大震災以来、多くの人が住宅の安全性や耐震性能に強い意識を持っています。住宅展示場協会が行った調査でも、「多少建築費がアップしても安心・安全な住宅を取得したいと思う意識」は、80%を超えています。

住宅展示場協会「総合住宅展示場来場者アンケート 2020 調査報告書|自然災害を踏まえた住宅計画の意識・導入意向」を基に作図

近年では震度7を超える大地震、頻発する余震など、これまでにない規模の災害が発生していることも考慮しなくてはいけません。
こうした現状において、さらに高い耐震性能を求める場合の選択肢のひとつとなるのが「免震リフォーム」なのです。

免震の仕組み

免震装置は、基礎の一部として常に建物を支えながら、地震時には地震の揺れのスピードとパワーを大きく減少させてくれるものです。
免震装置には「アイソレータ」という地震時の揺れを減速させる装置と、「ダンパー」という地震のエネルギーそのものを吸収する装置があり、これを組み合わせて設置することで効果を発揮します。

1.アイソレータ

免震装置のひとつであるアイソレータは柱の真下に設置し、建物を直接支えます。地震時には水平方向に建物を動かしながら、地震の揺れのスピードを減速させます。主に「ゴム支承」「すべり支承」「転がり支承」の3種類に分類されます。

ゴム支承

ゴム支承は、揺れが発生したときにゴムが変形することで、地震の揺れを低減させ、建物に揺れを伝わりにくくしてくれる装置です。ゴムのあいだの鋼板により、建物を安定して支えます。
変形による性能の変化が無いことなどから、免震装置のなかでは特に多く利用されています。ビルなどの重量建築物には高い免震性能を発揮しますが、木造住宅などの軽量住宅では効果がうまく発揮されない場合もあります。

すべり支承

すべり支承は、柱の真下に設置された滑り材が鋼板の上を滑ることで地震の揺れを伝わりにくくするものです。建物側の部材は地面側の鋼板と接続されておらず、載っているだけの状態です。
アイソレータは揺れのスピードを低減させるものとして用いられますが、すべり支承では摩擦により、地震エネルギーをある程度吸収する働きが期待されています。

転がり支承

立体的に交差させたレールに載せたローラーやボールが転がることで地震の揺れを軽減するものです。すべり支承と同じく地面側と建物側の部材は接続されておらず、ボールを挟んで載っているだけの状態です。地面側の部材にレールを敷くことで、任意の方向に揺れを制御することが可能です。

2.ダンパー

ダンパーは地震のエネルギーを吸収してくれる装置です。オイルの粘性や金属の延性など、強い力を利用して地震のエネルギーを吸収します。ダンパーの種類や、その配置により、地震時に建物をどう動かすかを細かく設計できます。また、アイソレータの働きにより地震時に水平方向に動いた建物を、元の位置に戻す役割も果たしています。

オイルダンパー

内部に粘性オイルが仕込まれたオイルダンパーは、地震時にダンパーが伸び縮みすることにより地震の揺れを吸収してくれる仕組みです。左右の揺れにしか対応していないため、四方からの揺れに対応できるよう、それぞれの方向に配置する必要があります。

鋼材ダンパー

金属の延性により地震のエネルギーを吸収するものです。形状はU型やループ型などがあり、求める強度によってバネの本数や太さが違います。
地震の揺れを受けて鋼材が変形した際に、塗料の剥がれが生じることがありますが、この塗料は錆防止の役割があるため、地震後には塗装補修などのメンテナンスが必要です。

鉛ダンパー

湾曲した鉛の柱でできた鉛ダンパーは、鋼材ダンパーと同じく金属の延性により地震エネルギーを吸収します。ただし、大きな地震が発生し、地震の揺れを吸収すると、鉛にひびが入るなどして性能が劣化することがあります。また、アイソレータによって動かされた建物を元の位置に戻す性質が鉛ダンパーにはありません。そのため、鋼材ダンパーと組み合わせて設置します。現在では使用率が減ってきている装置でもあります。

免震のメリット・デメリット

免震のメリット・デメリットはいわば、「地震に一番効果があるものの、費用が高額」というものです。なお、木造住宅のような軽量建築物においては、軽度の地震ではアイソレータやダンパーを動かしたり変形させたりするほどの強いエネルギーが生じないこともあります。木造住宅用のさらに特殊な免震装置が必要ですが、取扱事業者はそれほど多くありません。免震技術は比較的新しい技術であるため、施工できる業者が少ないのも現状のデメリットのひとつと言えます。

免震のメリット

  • 建物へのダメージが限りなく少ない
  • 家具の転倒や食器類の破損まで防止できる
  • 揺れをかなり軽減できるため、地震による恐怖感を軽減することができる

免震のデメリット

  • 耐震、制震と比べて費用が高い
  • 地下室を設置できない
  • 台風など、横方向からの強い力が加わると地震時以外でも揺れが発生する
  • 施工できるリフォーム会社が少ない

「耐震」「制震」「免震」どれが良いのか

地震の被害や恐怖を一番抑えられるのは、間違いなく「免震」です。しかし、費用が高額なこと、台風などでも揺れが発生するなど日常生活に影響するというデメリットもあるため、免震が最適とも言えません。

建築基準法上は震度6~7で倒壊しないだけの耐震性能が必要ですが、耐震リフォームでも十分にその性能を持たせることが可能です。現在では戸建て住宅においては、耐震リフォームが一番多く施工されています。しかし、「費用負担が大きいから」を理由に自宅の耐震リフォームをためらう人も多く存在しているのが実情です。

国土交通省「住宅・建築物の耐震化率の推計方法及び目標について 住宅・建築物の耐震化率のフォローアップのあり方に関する研究会とりまとめ参考資料 令和2年5月| P.14 4.今後の耐震化目標のあり方について (2)住宅の耐震化に向けて

とはいえ、費用がネックになって対策が進まないままでは、大きな不安が残ります。つまり、無理のない地震対策を選択するのも大切なことです。耐震改修では補助金の申請もできるので、築年数などの建物の価値に合わせて選択するのも良いでしょう。
なお、耐震リフォームの種類によっては、施工不可能な条件や土地などがあるため、事前に耐震診断や現地調査により、専門事業者に判断してもらうことがおすすめです。

免震リフォームで押さえておきたいポイント

(引用)リフォーム事例 茨城県 K邸 住友林業のリフォーム

改めて免震リフォームのポイントを押さえておきましょう。

住宅の周囲にスペースの余裕が必要

免震システムは、地震の揺れを吸収するために建物自体が水平方向に動きます。そのため、そのぶんの可動域が必要になりますが、住宅密集地など可動域を十分に確保できない場合、施工が不可能と判断されるケースがあります。

軟弱地盤では施工不可の場合も。地盤改良が必要

免震技術ではさまざまな装置を組み合わせて効果を得るものであるため、地盤が軟弱な場合には免震の効果が発揮されにくい場合があります。また、免震装置の変形が大きくなるおそれがあるため、それを想定した免震設計が必要です。

免震リフォームをできる事業者は少ない

免震は技術自体が新しく、設計施工の難度も高いことから、施工経験が豊富な事業者は、耐震や制震の施工事例と比べると少ないでしょう。さらにリフォームでの施工となると、基礎を切り離し、建物を持ち上げ、地面と建物のすき間に装置を設置するという工程になるため、緻密かつ難しい技術が必要です。そのため、免震施工を請け負っている事業者でも、リフォームでの施工には対応していないところは多くありません。

まとめ

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、震度7、M9.0の地震の発生により、下記のような大きな被害が出ています。(※1)

住家全壊:12万1,996棟

住家半壊:28万2,941棟

住家一部破損:74万8,461棟

もっとも大きな被害は津波によるもので、耐震性能の効果が及ばない範囲の被害により倒壊してしまった住宅も多いのが事実です。しかし、津波のように地震後に訪れる二次災害では、住宅よりも命を守ることが最優先です。1分1秒を争うような迅速な避難を想定した場合、ガラスの破損や家具の倒壊などによるケガを防止することはとても重要です。
その点、免震工事を施した住宅は地震後のダメージがなく、危険が発生しにくいため、迅速で安全な避難につながります。二次災害の影響がない場合には、自宅避難も可能であり、被災後の生活の不安も軽減してくれるでしょう。

住まいの地震に対する最大限の備えとして、免震リフォームはこれにかなう方法のひとつです。お住まいの立地条件や予算、事業者の選定など、クリアするハードルはいくつかありますが、ぜひ検討してみることをおすすめします。