二世帯リフォームで考えたい、高齢の親の健康と生活

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親世帯・子世帯それぞれの生活をある程度切り離すことが可能な「分離型」の間取りは、二世帯住宅のなかでも特に人気が高いタイプのものです。「同居するなら、なるべく分離したい!」と思っている方も多いのではないでしょうか。

完全分離型二世帯住宅は、それぞれの世帯に浴室やキッチンが設置され、食事や家事もそれぞれで行うので、基本的には別々の生活を送ることになります。

同居には、親世帯・子世帯どちらにもメリット・デメリットがありますが、プライバシーや生活様式の違いによるすれ違いといったデメリットの多くを解消してくれるのが分離型の特徴です。「同居」と言うよりは「隣居」というほうが近いかもしれません。
しかし、この分離型はそれぞれの世帯がきっちり境界分けされているぶん、世帯間の交流や行き来には少々不便なところもあるのです。分離型のメリットのいくつかは、介護や育児などのお互いの生活の助けをする場合には、デメリットと化してしまう場合もあります。

世帯間が助け合ううえで、そうした「分離」と「助け合い」のバランスを取る方法とは。
今回は分離型二世帯住宅における、日常生活の見守りあい方についてご紹介します。

分離型二世帯住宅における、将来の課題点

高齢者に見られる老化の特徴として、思考力や読解力などの低下があります。こうした能力の低下は、80~90歳くらいの後期高齢者に限られたことと思いがちですが、実は、50歳以降から急激に下がり始めます。こうした症状を踏まえ、親世帯の生活には常に気を配らなくてはなりません。認知症などの症状がある場合は、特に注意が必要です。

火災など非常時の対応

生命に直接的な危険を及ぼす原因となるものが「火気の取り扱い」です。死亡者の出る住宅火災の原因になったものとして、「ストーブ」や「たばこ」など、私たちの身近にあるものが並んでいます。火を使うものが原因になるだけでなく、電気系統の漏電やショートによる出火に気がつかず大きな火災になってしまうケースなどもあります。

消防庁「平成30年版消防白書|2.火災による死者の状況 第1-1-11図 住宅火災の発火源別死者数」を基に作図

火災による死者の年齢層は圧倒的に高齢者が多く、逃げ遅れてしまった原因も、身体的な問題や異常を感知するための嗅覚・聴覚・視覚などの低下が関係していると言えます。

消防庁「平成30年版消防白書|2.火災による死者の状況 第1-1-14図 住宅火災の死に至った経過別死者発生状況」を基に作図

とめ忘れ、消し忘れなど

生命に直接影響はしないものの、よくある物忘れとして「水の出しっぱなし」「電気・電化製品の点けっぱなし」「食品の出しっぱなし」などがあります。これらは長時間の放置により建物にダメージを与えるほか、エネルギーやコストの無駄遣い、衛生管理の不徹底につながってしまいます。

分離型は世帯ごとに生活が切り離れているぶん、どちらかに起こっている異常に、もう一方は気が付きにくいということがあります。しかし、火災や水漏れが起こってしまえば、同じ建物ですから、当然、両世帯に影響が生じます。

介護時に負担となりうる、世帯間の移動の手間

分離型は玄関も別々であり、世帯間を行き来するには一旦玄関から外へ出て、相手世帯の玄関から入る、という回り道をしなくてはいけません。
普段はこうしたわずかな手間は気にならないかもしれませんが、介護が始まると精神的・体力的に余裕が無い日もあるでしょう。重い物を持っているときや、荒天の日などには、こうしたわずかな変化が苦になることもあります。
そして介護される側も、認知症の高齢の方などは、家からの出入りの把握がしにくく、知らないうちに徘徊してしまうなどの危険もあります。

「みまもり」や「介護」の問題点を解消する二世帯住宅

自宅で介護をしたいと考えている家庭には、部分共有型はいかがでしょうか。これは、介護される親世帯のためと言うよりも、介護する側である子世帯の負担を減らす目的があります。

(引用)リフォーム事例  住友林業のリフォーム

一般的には玄関だけを共有する「部分共有型」が多いのですが、介護のレベルによっても、キッチンダイニング、リビングなどのスペースを共有することも可能です。車イスを使用するようになると、玄関は広いスペースが必要です。
バリアフリーのためにも、動線を短縮するためにも、ひとつの広い玄関を共有することにはメリットがあります。

部分共有型は、玄関以外の居住スペースは分離されており、キッチンも浴室もそれぞれに設置するので、基本的な日常生活は分離型と同じです。
親世帯が元気で、家事や日常生活に特に支障がないあいだは、それぞれの生活を送れます。

別々で生活していても、火の気し忘れやガス漏れ、水道の蛇口の締め忘れ、電気の消し忘れになるべく早く気がつけるようにするには、日常的に子世帯が親世帯の生活スペースに様子を覗きに行ける環境も必要になるでしょう。

これには世帯間の良好な関係と、定期的なコミュニケーションが欠かせません。部分共有型では玄関を共有することで、毎日のあいさつなど、日常的なコミュニケーションを自然と取るメリットがあります。こうしたコミュニケーションによって、親の健康状態を常に確認することができるのです。

健康寿命を支える、分離型での生活

高齢者の暮らしの負担を軽減し、安全に生活するためには、最初から完全同居とし、同居と同時に家事や料理を子世帯に任せるほうが、より安全に暮らせるかもしれません。しかし、老化の進行を遅らせ、健康寿命を延ばすためには、身体を動かすことや頭を使うことがとても重要です。

日常的にコツコツと動くことが筋肉量の低下を防ぎ、脳を活性化させてくれます。家事をこなす、出来ることは自分たちでやる、という生活の動作や、毎日の食事のメニューを考えて調理することは、高齢者にとって身体と脳の健康に大きなメリットがあるでしょう。

(引用)リフォーム事例  住友林業のリフォーム

各世帯が自立・独立することは、子世帯にとっても「親に頼り過ぎない」「あてにしない」という自立を促す意味でもあります。
また、それぞれが別々に生活する期間があることで、子世帯は過干渉に悩まされず、親世帯はゆっくりと好きに過ごす時間ができるというメリットもあります。特に近年の高齢者の趣味は多様化し、老後にはさまざまな楽しみ方があるので、子世帯の手助けなどに時間を取られすぎないことも必要でしょう。

まとめ

「それぞれの自立」と「お互いの助け合い」の両立は、そのバランスが大切です。しかし、年月を経るにつれて、その比重も変わっていくでしょう。介護が必要になった時には、症状の度合いや進行に合わせて、住環境や生活を変えていかなくてはならないこともあるかもしれません。

子世帯にとっても、仕事の環境や出産・育児など、計画外のことも絶えず起こりうる日常で、親を支援するつもりが逆に助けられてばかりになってしまうこともあるでしょう。家族の将来設計に合わせて建てた住宅でも、想定していなかった不測の事態が起こるかもしれません。

家族の人生に合わせて、住む環境も変えていく。そうした「家族の人生に合わせて変わる二世帯住宅」が、これからの時代には必要です。
そして、将来のためだけでなく、介護の必要のない今の時間も大切に。ときに夫婦だけ、ときに子世帯とにぎやかに過ごすといいうように、メリハリのある充実した時間もたくさん作れる二世帯住宅を、ぜひ目指してください。