リフォームでは「収納の質」を見直そう 生活快適度を向上させる片付けの考え方とは

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筆者は建築士をしていますが、"家は3度建てないと理想通りにならない"という言葉をよく耳にします。家は一度や二度建てたくらいでは満足のいくものにはならず、三度目にしてようやく自分にとっての完成形になる、ということでしょう。

大正から昭和にかけて活躍した建築家・藤井厚二は、日本の気候風土や日本人の感性、ライフスタイルに適した住宅の在り方を追求し、自邸を建てては人に譲り、建てては譲りを繰り返しました。その数なんと5回。最後に設計した聴竹居は2017年に国の重要文化財に指定されています。

筆者が以前手掛けた仕事では、はじめに新築を担当し、住まいのことをよく熟知した後にリフォームを担当するケースがよくありました。その時、とあるリフォームの担当者が話してくれた言葉が今でも印象に残っています。
「リフォーム物件を担当すると、お客様が新築の時にも増して喜んでくれることがあるので嬉しい。愛着のある家をさらに良くできるから。直したいところ、不満に思っているところが日々の生活を通してきちんとわかっているからだね。」

日々の暮らしの質を向上できる手段、それがリフォームの良さかもしれません。

さて、新築の家に入居した後に出てくる不満のひとつに、「収納」が挙げられます。住まいを散らかさずに保つためには、収納の「量」を確保することも大切ですが、それを確保する場所や、限られた空間の中に収納を確保するための工夫など、その「質」も重要なのです。
今回は、増改築時の収納の「質」をテーマに、話題を進めていきます。

玄関で脱いでおきたいのは靴だけではない

玄関から土間続きのシューズクロークの例
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「シューズクローク」という言葉がよく聞かれるようになり、多くの住宅で取り入れられるようになってきました。玄関のすぐ隣にあり、靴や傘など外で使うものを収納する空間のことです。玄関から土間続きとなっていることが多く、下駄箱以上の収納量を確保できることや、ベビーカーやアウトドア用品など大きな物をそのまましまっておける利点があります。
しかし、玄関で脱いでしまいたいものは靴ばかりではありません。コートや帽子、カバンなど、花粉やPM2.5、土埃の被った物もできれば玄関に置いておきたいものです。

シューズクロークの計画があるのならば、その一角にコートや鞄の収納場所を確保してみてはいかがでしょう。帰宅したら玄関の近くでコートを脱いでカバンをおろし、出かけるときは玄関でそれらを身にまとうのです。あっちへこっちへと使うものをかき集めて回らずに済むので、忙しい朝の時間を効率的に過ごせそうです。

収納は物を使う場所をよく考え、その近くにできるだけまとめて確保すると、使う時の動線を短くすませることができます。シューズクロークに十分な場所を確保できなくても、玄関でコートを脱ぐことを諦める必要はありません。壁にフックを取り付けたり、長押型のラックを取り付けたりするだけでも十分にその機能を果たすことができます。壁にフックやラックを取り付ける際は、重さに耐えられる程度の下地があるか、必ず確認しましょう。

ランドリー空間に「しまう」もプラス

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共働き世帯が増えたことや、花粉やPM2.5などアレルギー性鼻炎への対策から、洗濯物を室内干しで済ますケースも増えてきています。空調大手ダイキン工業の調査では、共働き世帯の約2割が「毎日」、約6割が「状況に応じて」、部屋干しをしていると回答しています。(※) 乾燥機のついたドラム式洗濯機の普及により、洗濯物を屋外に干して屋内に取り込むという洗濯動線もなくなりつつあります。ランドリーの空間だけで洗濯にまつわる家事が完了するケースも多くなってきたということです。

ランドリー空間に衣類をたたむ作業やアイロン掛けができる作業台を備えておくと、洗う~乾かす~たたむ・整えるまで済ませることができます。
せっかく洗濯動線が短くなったので、さらに短くできる方法も考えてみましょう。たたんだ衣類の中で、下着や寝間着、タオルなど入浴の際に使う物の収納を設置してみてはいかがでしょう。衣類全部をしまっておくような、大きな収納までは必要ありません。いつも使うものだけを、いつも使う場所のすぐ近くに収納しておく。無理せず欲張らずに始めてみることがポイントです。

食器収納は引出し型が便利だが、奥行の狭い棚にも意外な良さが

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引出し用金物の性能が良くなり、食器や鍋、フライパンなど重い物でも大量に納められるようになりました。モデルハウスやショールームでシステムキッチンの引出しを開けてみて、その収納量の大さに驚かれた方もいるでしょう。中身を上から見渡せ、出し入れも容易な引出し型の食器収納は、人気が高いのもうなずけます。

キッチンの引出しの他に食器収納の棚を造作するなら、奥行が狭いものであっても重宝することをご存知でしょうか。食器棚から食器を取り出す際、使いたい食器が奥に入っていて取り出しにくい、手前の食器がじゃまで奥まで手が届かないといった経験がある方も多いでしょう。多くの食器は、重く、割れやすいので、出し入れの時にこうした心配事があるとヒヤリとさせられます。その点、奥行の狭い棚はそうした心配がありません。食器を前後に並べず全てが前面に出ていることで、食器に直接アクセスできます。大皿などはともかく、多くの食器は奥行25㎝もあれば収納できます。おしゃれな細長い皿も、横長に置けば収納可能です。
大きなパントリーが取れない時でも、奥行の狭い棚なら設置できるかもしれません。しまいたい物の特徴をよく観察してみると、諦めていた場所にも収納スペースを確保できる可能性が出てきます。

図)奥行の深い棚と奥行の狭い棚(筆者作成)

終わりに

初めての住宅建設では「とりあえず収納を確保すること」しか考えられなかった方も、増改築のリフォームでは「使うこと、暮らすことを考えた、一歩先の収納」を手に入れるチャンスです。ご自身の生活動線や暮らしぶり、使う場所や物を思い返してみると、ご自身に合った使い勝手の良い収納が見つかるかもしれません。