木の香りをかぐだけで血圧が低下!?
木の家がもたらす驚きの効果
- 監修者
-
国立研究開発法人
森林研究・整備機構 森林総合研究所
杉山真樹(すぎやま まさき)さん
「木がたくさん使われている住宅はなんとなく心地良い」。そう感じている人は少なくないでしょう。その“なんとなく”の正体が、最近の研究でわかりつつあります。木を見たり、触ったり、その香りをかいだりすることが私たちにどんな影響をもたらすのか、森林総合研究所の杉山真樹先生に教えていただきました。
CONTENTS
木の香りは心を落ち着かせ、リラックスさせてくれます。
森など木々の香りに囲まれた場所にいると、気持ちが穏やかになりますよね。これは気のせいではなく、れっきとした木の効果。
例えば、スギチップの香りをかいだ前後で血圧がどう変化するかを比較した実験があります。スギチップをかいだ後は、血圧が下がったという実験結果に。血圧はストレスがかかると上昇するので、この結果はスギの香りが私たちをリラックスさせる効果があることを示しています。
※「スギチップの香り物質吸引による収縮期血圧の変化」恒次祐子ほか;木材工業,60,598-602(2005)
スギ材は日本の木造の家にも多く使われる木材。「木の家はほっとする」という感覚は、思い込みや気のせいではないことが明らかになりました。
木質空間は、集中力を高めてくれます。
木の効果は香りだけではありません。木質空間が血圧や心拍などに良い作用をもたらし、集中力アップや、気持ちのリフレッシュにつながることがわかってきています。
例えば、オフィスワーカーに材質の異なる3種類のテーブルを使ってもらい、それぞれ仕事のしやすさがどう変わるかを実験で調べました。
5日間、それぞれのテーブルで日々の業務を行ったところ、「木材」のテーブルが、最も仕事に対して集中しやすく、アイデアを出しやすいといったアンケート結果になりました。
※オフィスにおける新たな構造を有する木製家具の「効能」検証実験(実施者:株式会社イトーキ) 出典/(公財)日本住宅・木材技術センター.令和2年度 内装木質化等促進のための環境整備に向けた取組支援事業 内装木質化等の効果実証事例集.p18~20(2021)
集中力、そして発想力にも良い影響を与えたのは、木材の空間だったわけです。
ならば、とにかく木をたくさん使えばよい! と思いたくなりますよね。でもそこが木の不思議なところで、たくさん使えば使うほど効果があがる、というわけではありませんでした。
とある実験で、空間の木の使用割合を「0%」「45%」「90%」と3段階に変えた部屋を用意し、中にいる人の血圧や心拍数を測りましたが・・・
リフレッシュできているという結果になった部屋(=心拍数の増加がもっとも高かった部屋)は、意外にも木を「45%」使った部屋だったのです。
なお、最も快適な木材の使用比率割合は部屋の広さや使用目的によっても変わってくると考えられます。
※内装デザインー1/(木材率を変えた内装) 出典/Tsunetsugu,Y.,et al : J. Wood Sci , 53,11-16(2007)
日本人は長年、木を建材や内装材に使ってきましたが、今後は「どのくらい」「どのように」使うかを意識的に考えることで、仕事やプライベートでのパフォーマンス向上が期待できるかもしれません。
ぬくもりを感じられる「木」
「あたたかみのある木の家」「木のぬくもり」、というような表現をよく聞きますが、この木特有の優しい「触り心地」も、私たちに好ましい影響を与えることがわかっています。
20代の男女に、目を閉じて「無垢の木材」、「塗装した木材」、「金属やプラスチック」の手すりを握ってもらい、その時の血圧の変化をみたところ、無垢の木材は血圧の上昇がもっとも少ないという結果がでました。
木に触れてぬくもりが感じられるヒミツは、実は木の内部にあります。
木の断面には中空のパイプ状の組織が並列に並んでおり、その中に多くの空気を含んでいます。この空気が断熱材の役割をすることによって、熱の移動が起こりにくくなっているのです。
それにより、無垢の木材は熱の移動があまり起こらないのでぬくもりを感じ、逆にアルミニウムは、触った瞬間手のひらから手すりへ多くの熱が移動するので、触った時にヒヤッと感じるのです。
※各種材料を握った時の血圧の変化 出展/Tsunetsugu Y, Sugiyama M., J Wood Sci (2021) 67:27
赤ちゃんでさえも木の香りの効果を感じて、リラックス!
ここまで見てきた木の効果は、「木は良いもの」という先入観を持つ大人が実験しているからでは?とも考えらえますよね。なので、赤ちゃんや子どもに参加してもらった実験例も見てみましょう。
生後1~3ヵ月の赤ちゃんに、ヒノキやマツなどに含まれる香り成分(α-ピネン)をかいでもらうと、リラックスしている状態だという結果が出ました。
香りを流している間は、脳の活動が上昇し、心拍数も減少していることが観察されたのです。
※自然由来のにおい物質による嗅覚刺激に対する乳児の生理応答 出展/森林総合研究所,第3期中期計画成果集,p.30-31(2013)
また、小学生低学年の子どもに素材の異なる3種(ヒノキ、プラスチック、ゴルフボール)のボールプールに入ってもらう実験では、やはりこちらもヒノキボールのプールに入った時のほうが副交感神経系活動が優位になり、リラックス状態になっていることがわかりました。
改めて見直したい、心と体がリラックスできる木の家
これまでお伝えしてきた以外にも、木や木の家にはモチベーションや積極性を高めたり、免疫力をアップさせたり、疲労感を緩和したりする効果があることもわかっています。また質の高い眠りを引き出す効果や、転倒を防ぐ効果があるという実験結果も出ています。
※参考:住友林業の家「木の家Lab.」(https://sfc.jp/ie/tree/lab/)
これからもさまざまな研究によって木の効果が注目され、その効果をより強く求める人が出てくるかもしれません。ですが、木の効果において大切なのは、こうした効果がなんとなく感じられて「ほど良い」程度であるという点です。作用が強すぎると反応が出すぎて困る人も出て来てしまうでしょう。家族が長く過ごす住まいという空間において、効果が「ちょうど良い」のが木の良さと言えるかもしれません。
私たちが無意識に感じている木の家が持つ心地よさを、改めて見直してみてはいかがでしょうか。今日は家でぜひ胸いっぱい深呼吸して、木を感じてみてくださいね。
監修者プロフィール
-
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
木材研究部門木材加工・特性研究領域チーム長 (特性評価担当)
杉山真樹 (すぎやま まさき)さん - 京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、森林総合研究所研究員に。2013年より現職。2019年より三重大学 大学院生物資源学研究科 資源循環学専攻 連携准教授を兼務。専門分野は木材物理学・木質居住環境学。木材および木質空間の快適性に関する研究、国産早生樹の利用、国内における家具・内装用木材の流通・利用に関する研究に従事。