室温18度以下は健康寿命が短くなる!?
人生100年時代の家づくりとは
- 監修者
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近畿大学建築学部教授・副学長
岩前 篤(いわまえあつし)さん
最近の研究で、家の室内の温度が低いと健康寿命を縮める恐れがあることが分かってきました。近畿大学の岩前篤教授に、室温の低い家が健康にどのような影響をもたらすのか、またどんな対策を取るべきかを伺いました。
CONTENTS
室温18度以下は健康寿命を下げるリスクが!
現代では世界的に冬に亡くなる人の割合が高まってきており、日本も例外ではありません。冬を健康に過ごせるかどうかが大切です。
なかでも注目すべきは、冬の家庭内事故で亡くなる人の割合です。溺死、転倒、窒息などの事故は夏場に比べてはっきりと高くなるのですが、その要因のひとつとして、冬の「寒さ」があげられます。
例えば、冬「寒い」家は、血圧上昇や動脈硬化など、健康に深刻な影響が出るリスクが上がることが、調査でわかっています。また、「寒さ」によって熟睡できないことによる睡眠不足や夜間頻尿、自律神経の乱れなどの影響も計り知れません。
世界保健機関(WHO)でも、冬の最低室温は18度以上にすることを強く勧告していることを見てもわかるように、冬温かく過ごせない家は、健康を損なうリスクが高いのです。
室温が低いと、ヒートショックの危険も
家の室温が低いことによるリスクは、疾病だけでなく、危険な「ヒートショック」もあげられます。
ヒートショックといっても実は大きく2つに分けられます。ひとつは、温かいリビングから寒い脱衣所やお風呂に入ったときに起こる、急激な「温度差」によるもの。温度変化に対応しようと血圧が急上昇することで循環器系の疾患を引き起こしてしまいます。実はヒートショックが原因と推測される家庭の浴槽での溺死者数だけみても、交通事故による死者数のおよそ2倍(※)となるほど、身近に潜んでいます。ヒートショックは入浴時と並んで夜間や早朝の起床時にも起こることがあり、年齢を問わず起こりうることで高齢者だけに起きるものではありません。
※厚生労働省人口動態統計(令和3年)
もうひとつが、「低温」にさらされることによるヒートショックです。2015年に発表された海外の研究(※)によれば、日本人の死亡者のうち約10%に相当する12万人が冬の「低温」の影響で亡くなっていると報告されています。これは「温度差」によるヒートショックの約10倍に上り、「低温」で暮らすことの危険性がうかがえます。
※Gasparrini A. et al.; Mortality risk attributable to high and low ambient temperature: A multicountry observational study(2015)
健康的な家のキーワードは「ガマンしない」空間づくり
四季がある国で過ごす日本人は「冬は寒いもの」と考えています。そして、寒い状態を「春がくるまでの我慢」と、重ね着や局所的な暖房などで対応してしまいがちです。しかし、たとえば単なる厚着では、冷たい空気を吸い込み肺が冷えることを避けられず、結果免疫力低下を招くこともあります。
つまり、住まいの空間室内全体を「温かく」しなければ健康リスクを解消することにはつながらないのです。家族みんなが健康で過ごすためには、家のどこにいても寒さを感じないこと、そして、1年を通して暮らしの中で寒さによるストレスを感じないことが大切なのです。この目安がWHOの勧告する「室温18度以上」になります。
実は、北欧やカナダなど、1年を通じて気温が低い国の冬の寒さによる死亡者数は、多くありません。それは戸外が寒くても家の中で快適に過ごすために、家全体を温かくする工夫がされているからです。そうした国では、暖房器具などの使用は日本より少ないくらいですが、それでもストレスなく過ごすことができています。
ちなみに、高断熱高気密の「温かい家」に引っ越した家庭では、アトピー性皮膚炎など肌の悩みが改善したという調査もあります。服をたくさん着こまなくていいため、化学繊維やウール、ゴムなど肌を刺激しやすい衣類からの刺激が減ったことが要因のひとつではないかと考えられています。同じく、のどの痛みや目のかゆみ、気管支喘息など、さまざまなアレルギー症状の改善も見られています。
今すぐに自分でできる対策は?
では、自宅を温かな空間にするにはどうすればいいのでしょう?今すぐ家全体の断熱工事をするのは難しいという場合でも、できることはたくさんあります。
まずは、外からの冷気を防ぐこと。特に玄関からやってくる冷気を防ぐだけでもずいぶん体感は変わります。例えば玄関と廊下の間に厚手のカーテンをつけるのもおすすめ。その際、できるだけ床に沿うようにつけるとより効果的です。
逆に、家の中の熱が逃げていかない対策も大切です。特に熱が出ていきやすいのが、窓やドアなどの開口部。暖房時の熱は窓から6割近くも流出しているという調査もあります(※)。
※国土交通省 安心居住政策研究会「健康で長生きするための健康リフォームのすすめ」
窓の断熱対策には市販の断熱シートやボードなどを貼り付けるのもひとつ。窓との間に空気の層ができて断熱効果が高まります。ほかにもハニカムシェードというブラインドも窓との間に空気の層をつくるので、手軽に断熱対策ができます。
家を「冷え」から守るには「窓」がカギ
より断熱性を高めたいときは、窓のリフォームが有効です。窓ガラスを複層ガラスに替えたり、サッシの内側に内窓を取り付けたりすれば、断熱性が改善されます。
窓の工事というと大掛かりなイメージがありますが、実は壁を壊すことなく数時間から半日程度で施工できるものもあります(下図)。手軽な工事でより温かく快適に過ごすことができるようになります。
➀既存のサッシ枠を利用し、遮熱性・断熱性に優れた複層ガラス・Low-E複層ガラスなどに交換
②既存の窓はそのままに内側に窓をつけて、窓まわりの冷気やすき間風を抑える
窓のリフォームには、今なら補助金が出る可能性があります。(※2024年3月現在)
家族の健康のために、窓から始める家全体の断熱リフォームについても考えてみてはいかがでしょうか。
監修者プロフィール
- 近畿大学建築学部教授・副学長
岩前 篤(いわまえあつし)さん - 1961年生まれ。神戸大学工学部建築系環境計画学科卒業。同大学院工学研究科修了。大手ハウスメーカーに入社し、住宅の断熱、気密、防露に関する研究に携わる。95年、博士号取得(神戸大学)。2003年に退社、近畿大学理工学部建築学科助教授に就任し、09年に教授、11年には創設された建築学部の学部長に。22年から副学長、現在に至る。建築物、特に健康・快適でエネルギー性能に優れた住宅のあり方の研究を続けている。