「吹き抜け」で後悔しないために メリット・デメリットを建築士が解説

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「吹き抜け」の構造はデザイン性が高く、開放感のある空間をつくることができるため、幅広い層に人気があります。しかし、デッドスペースができてしまうことや空調効率など、「空間や光熱のムダが発生するのでは?」という不安も付きものです。吹き抜けに憧れはあるけれど、快適性やランニングコスト等を考慮すると、「現実的には使い勝手が悪くなってしまうのかな?」と思う人も多いでしょう。

近年の家族構成や生活習慣、さらには住宅設計の傾向においては、これらの不安を打ち消すほどのメリットがあります。

吹き抜けのメリット

(引用)リフォーム事例  住友林業のリフォーム

吹き抜けをつくることには、たくさんのメリットがあります。順番に見ていきましょう。

開放感がある

天井が高いぶん、圧迫感が少なく開放感のある空間になるのは、一番の魅力です。リビングやダイニングの床面積が広く取れない場合でも、天井高を広く取ることで狭さを感じにくくなります。

採光性に優れている

近年の住宅では断熱や省エネ、プライバシーの観点から、窓を少なく設計する傾向にあります。採光性や換気率の低下が気になりますが、吹き抜けをつくれば高い位置に窓を設けられるため、床に近い窓よりも長い時間、採光を確保できます。
隣家との距離が近い場合、プライバシーの観点から1階に窓を設置したくない場合にも、目隠しや採光の面で有効でしょう。

コミュニケーションに役立つ

吹き抜けの空間は、1階と2階がつながる面積を広くしてくれます。ひとつの大空間ともなるため、家族間の距離を近く感じられます。特にお子さんがいる家庭では、コミュニケーションが取りやすくなる、という効果を見込めるでしょう。

吹き抜けのデメリット

続いて吹き抜けのデメリットを見ておきましょう。

空調効率

もっとも懸念されるのが空調効率です。一般的な木造住宅の天井高は2.4m程ですが、吹き抜けの部屋では天井の高さは5m以上となる場合もあります。しかし、人が生活する高さは2m程度。半分以上の高さが、空調が不要な空間となってしまうのです。

掃除などのメンテナンス

窓や化粧梁などの掃除や電球の交換などは、手が届かず定期的な手入れができないことも多々あります。接近することのない窓や、使用可能年数の長いLED照明がほとんどであるため、定期的なメンテナンスは不要ともいえますが、不具合があった場合にすぐに自分で確認や対処できないところが難点でしょう。

騒音、防火

ダイニングやリビングはキッチンや浴室にも近く、住宅内において生活音が一番多いスペースでもあります。そのため、1階の話し声や足音なども、吹き抜け空間を通して2階に伝わりやすくなってしまいます。来客が多い家庭では、2階の個室にいても静かに過ごせないなど、致命的なデメリットとなる場合も考慮する必要があります。
また、伝わりやすいのは音だけではありません。キッチンやリビングダイニングで、もしも火事が発生した場合、吹き抜けをつたって2階に火がすぐに回るため、延焼のスピードが早くなってしまいます。

プライバシー性

吹き抜けの間取りはコミュニケーションに役立つ一方で、プライバシー性が低くなります。
二世帯同居や三世帯同居など、視線にある程度の配慮が必要な家族構成であったり、生活時間帯が家族内で異なったりする場合は要注意です。

吹き抜けのデメリット解消方法

いくつかのデメリットを紹介しましたが、これらを軽減する方法がいくつか考えられます。

可動式の間仕切りや建具でシーンに合わせて部屋を区切る

少人数で過ごす時間帯や、部分的に冷暖房を使用したい場合に、部屋を区切ることができる可動式の間仕切りや建具を設置すると良いでしょう。
シーンに合わせて居室の広さを変えることにより、空調効率を高めることが可能になります。

シーリングファンを使用して空気の流れを調整する

(引用)リフォーム事例  住友林業のリフォーム

シーリングファンを取り付け、天井から真下に向け気流を作れば、"見えない天井"が生まれ、空調効率を高める役割をしてくれます。そのためにファンを設置するための化粧梁を設けることもおすすめです。機能性だけでなく、インテリアとしても見栄えがする設備です。

高気密、高断熱

国土交通省パンフレット「快適安心なすまい なるほど省エネ住宅|P4 省エネ住宅の性能①」を基に作図

ご覧のとおり、住まいには熱の出入りが大きい部分があります。これは、その部分の断熱性能を高めることで空調効率のデメリットをカバーできる、とも言い換えられます。断熱材、断熱窓の施工などにより、住宅の省エネ化にもつながります。また、面積の広い窓を設置する場合は、断熱性の高いカーテンを用いるとよいでしょう。
ただし、高気密・高断熱住宅の場合、住宅内の音が響きやすく、吹き抜けのデメリットである騒音問題が顕著に出てくる場合があります。階下の音が上階に届きやすい吹き抜け構造では、吹き抜けの近くに寝室を配置しないなど、間取りにも注意しましょう。

デッドスペースになりやすい廊下や階段室を有効活用

(引用)リフォーム事例  住友林業のリフォーム

廊下や階段室はデッドスペースになりやすい箇所です。しかし、吹き抜け構造を生かして、階段室や2階廊下を本棚の並ぶライブラリースペースや家事室、物干し場とすることで、空間の有効活用ができます。
吹き抜けを取ったぶん、2階の面積が狭くなるデメリットがありますが、これらの使い方をすることで、空間のムダを削減できるでしょう。

吹き抜けは必要か

ここまで吹き抜けをつくることのメリット、デメリットを克服する工夫について解説しました。そのうえで、ずばり"吹き抜けのある家"に適した家族構成や生活スタイルとはどういうものなのでしょうか。

ファミリー向けの構造

吹き抜けをつくると住宅全体に目が行き届きやすくなるため、コミュニケーションが必要なファミリー層にはおすすめです。
反対に、夫婦2人など少数世帯にはメリットよりもデメリットの影響が大きく、お住まいの構造やライフスタイルによっては、住まいに違う工夫を取り入れるほうが良策という場合も考えられます。

片付けが苦手な人には不向き

吹き抜けをつくると、1階だけではなく階段や2階の廊下などが1階から丸見えになることも。ゆえに、常にキレイに片づけたり掃除をしたりしなくてはならない部分も多くなってしまいます。1階に物が落下する危険性がともなうことも頭に入れておきましょう。

あえて現実的かつ実用的な活用方法も

来客などが特になく、見た目を気にしないということであれば、吹き抜けの階段や2階の廊下、階段の手すりなどを納戸や物干しとして利用する活用方法も考えられます。高さと通気性、採光を、いかに活用するかを探っていくのも楽しいものです。

まとめ

省エネ住宅、エコ住宅が進む現在の建築様式では、吹き抜けによるデメリットは減少しつつあります。一方、フルタイムで働く世帯が一般的となりつつある現代は、限られた時間のなかで最大のコミュニケーションを家族間で図りたいという思いも高まっています。その点、吹き抜け構造は、"現代の生活に適した間取り"として、生活に大きなメリットをもたらしてくれるでしょう。

吹き抜けのデメリットの多くは、省エネ住宅の技術で解消できる点も、大いに注目したいところです。ただし、プライバシーの尊重が必要となる二世帯同居や、2階へ上がることの少ない高齢者世帯にとっては、吹き抜けはメリットのほうが大きいと言い切れない部分もあります。

住宅の間取りを考える際には、家族構成や生活習慣、子どもの成長や将来のプランもとても大切です。メリットとデメリットを踏まえたうえで、家族にとってその間取りが「向いているか、向いていないか」という点を重要視すると、より比較検討がしやすくなるでしょう。