古民家のリフォーム・リノベーション 建築士が考える、魅力を引き出すポイント

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古民家は歴史的な価値だけでなく、古来の趣を楽しむことができる優れたデザインとしても多くの人に楽しまれています。国内外の観光客の目に魅力として映るほか、レトロな雰囲気が若者のあいだでも人気です。空き家となった古民家を観光用にリフォーム・リノベーションし、カフェや宿泊施設として活用している地域も多く、さまざまな形で古民家の魅力が受け継がれています。

その造形の美しさを見いだせるひとつが、日本古来の住宅の特徴でもある「梁」や「土間」ではないでしょうか。日本建築の造形技術の高さや、建物の歴史を感じさせてくれる、古民家ならではの持ち味です。

今回は古民家の梁や土間を残し、うまく活用するリフォーム方法をご紹介します。

古民家の特徴とは

(引用)リフォーム事例 兵庫県 K邸  住友林業のリフォーム

旧家・古民家は、「伝統工法」という日本古来の建築技法で建造されている建物です。現在の住宅に用いられる「在来工法」とは違った構造で、伝統工法ならではの特徴がさまざまにあります。そのなかでも、古民家の特徴としてよく知られているのが、存在感あふれる大きな「梁」です。

古民家の梁は、1本の丸太を削り出し、荷重を分散させるためにあえて湾曲させるなど、一本一本職人の手で加工されています。また、伝統工法の建物では襖や障子の開口部が多く、壁が少ないのが特徴です。そのため、壁で建物を支えることはできないぶん、建物の荷重を支え、地震や台風などの災害に耐えるため、梁は太く頑丈に造られています。

大きく広い玄関も古民家の魅力です。靴を履いたまま歩いて進める玄関土間が、家の奥の炊事場や裏口の土間まで続いている住宅もあり、古民家ならではの趣を感じさせてくれます。

柱や梁を活かすメリットとリフォームのポイント

梁は本来、天井裏にあり、天井材を張ると隠れてしまう部分です。これを天井材で隠さず、あえて露出させるのが梁を活かすリフォームです。

梁を見せるメリット

(引用)リフォーム事例 兵庫県 I邸  住友林業のリフォーム

古民家の梁は職人の手作業で削られた木材で、構造材としての力強さや、建物の歴史が感じられます。そのため、デザイン性が非常に高く、古風かつレトロなインテリアとして楽しむことができるでしょう。また、梁に使用されている木材は、国産の樹齢100年超の太い原木が使用されていることも珍しくなく、歴史的価値も高いと言えます。
木材は年数が経つほど耐久性が増すため、将来的に構造材として住宅を守ることにも役立ってくれるでしょう。

古民家リフォームは天井材を張らないことで、高さのある広い吹き抜けのような空間を取ることができます。リビングやダイニングなどの人が集まる部屋に、思い切って古民家の間取りを活かした広いスペースを作るのもおすすめです。
古い住宅のリフォームでは廃材処分の費用も多くなってしまうものですが、梁だけでなく柱や欄間など、使える部材を活かすことで廃材処分にかかるコストの削減にもつながります。

梁を活かしたリフォームのポイント

(引用)リフォームエピソード 旧家ものがたり Vol.03『66年目の冬』 住友林業のリフォーム

古民家は歴史的なものなので、そのままの状態で残したいと思う方もいるかもしれません。しかし、木造でもある古民家は本来、腐食や害虫の被害を受けやすい建物でもあります。
既存の状態を保ちながら、腐食や欠損箇所は削るなどの補修を行い、再塗装を施すことで、さらに何十年も長持ちさせることができます。梁は天井に近い部材であるため、雨漏りなどの水濡れ被害を受けている場合もあります。カビや腐食がないかを事前にしっかり確認しましょう。
古民家のなかには、醸造業や養蚕業などをしていた建物もあります。こうした場合は天井高にかなりの余裕がある造りになっている場合も多く、ロフトや屋根裏部屋をつくることもおすすめです。

土間を残すメリットとリフォームのポイント

土間や広い玄関は現在の生活様式において、必要性は小さいと言えます。そのため、古民家リフォームでは土間を無くし、その分のスペースを居室に回すことも多いものです。しかし、古民家の建築様式や昔の生活の面影を残したいという場合には、土間の雰囲気そのままに、日常に活用できるようにリフォームすることもおすすめです。

土間を残すメリット

(引用)リフォーム事例 京都府 I 邸  住友林業のリフォーム

土間は水で簡単に洗い流すことができる場所なので汚れたものを置く場所として適しています。ガーデニングや家庭菜園で使った道具や泥だらけの靴、子どもの遊び道具など、外に出しっ放しにしておきたくない汚れものを置く場所に活用できます。また、土間は燃えにくい素材でつくられるため、薪ストーブの設置場所として利用するのもよいでしょう。
基本的にはコンクリートなどで仕上げるため、夏場は涼しく、ペットが好んで休む場所にもなります。土間の涼しさを活かし、野菜などの収納用に棚を設置するのも便利です。
広い玄関の土間にはベンチやイスを設置すると、来客とのコミュニティスペースとしても活用できます。

土間を活かしたリフォームのポイント

(引用)リフォーム事例 栃木県 N邸  住友林業のリフォーム

土間はコンクリートだけでなく、タイル張りや石張りなど、さまざまな床材を選択できます。タイルや石を敷いて、旅館のような高級感のある仕上げにするのもよいでしょう。場所に合わせてさまざまな仕上げを施すことで、いろいろなデザインを楽しめます。

梁、土間リフォームの注意点

(引用)リフォームエピソード 旧家ものがたり Vol.08『父の形見』  住友林業のリフォーム

古民家をリフォームする場合は、専門家に鑑定を依頼しましょう。過去にリフォーム歴がある場合はその際の工事内容の分かる設計図書などを用意しておくと、現地調査がスムーズに行えます。

梁を見せるリフォームの注意点

梁を見せるリフォームで一番問題となるのは、空調効率です。天井高のある吹き抜けの間取りは空調の効率が格段に悪くなります。梁を利用し、シーリングファンを設置するなどの対策を行い、空気の流れを調整しましょう。
屋根には必ず断熱を行います。一般的には天井裏に断熱材を敷きますが、梁を露出させる場合は天井板を張らないため、下地に吹付けの断熱材を施工し、その上から仕上げをしていきます。
暖房では、囲炉裏や薪ストーブなどの暖房器具との併用もおすすめです。古民家では古来より囲炉裏などによる火を使った暖房を使用しており、これらは湿気対策としても有効です。
なお、露出した梁はどうしても上部に埃がたまるため、高所専用の掃除道具などが必要になります。

土間リフォームの注意点

コンクリートやタイルなど、土間に使用される床仕上げは冷えやすい素材であるため、冬場はとても寒くなりなります。土間の冷気を居室に伝えず、また居室内の空調を逃がさないよう、居室と土間、廊下との空間をしっかり分断できる間取りを計画しましょう。
また、既存の土間と床高にはかなりの高低差があるので、高齢者や小さなお子さんの安全のためにバリアフリー設計を取り入れると安全です。

冷えやすい場所は湿気もたまりやすいため、風が通る窓や換気扇の設置など、換気設計も大切です。また、日中でも暗くなる場合は照明の設置を。掃除用の排水溝や勾配にも注意しましょう。

まとめ

梁を見せることや土間を残すことは、現代の生活において必ず必要なことではありません。
ムダと感じたり、維持やメンテナンスが大変かなと思ったりもするでしょう。古いものを補修し、これから先も長く使えるようにリフォームするには費用もかかるため、残すかどうかを悩むかもしれません。
古民家の活用法は、どう生かすかのプランニングや発想もとても重要です。家族の生活や活用方法になかなかよい案が出ない場合は、古民家のリフォーム事例を参考に、イメージをふくらませてみると良いでしょう。