古民家の耐震補強 ゆがみはどうする? 土台の補強は? 気になるポイントを解説

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古民家は、歴史的価値のある社寺仏閣などと同じ工法で建築された建物です。地震大国の日本において、多くの災害を乗り越える耐震性能があったことは、現存する伝統的な建築物が証明してくれています。運良く地震や災害、火事などの被害から免れ残った建物もあれば、幾度の災害にも耐え抜いてきた建造物もあることでしょう。

しかし、これまで地震を耐え抜いてきたからとはいえ、この先も大丈夫とは限りません。現存する古民家が建築された、約100年前に発生した大地震では、濃尾地震(1891年)と、関東大震災(1923年)で多くの死者が出ていますが、この二つはどちらも震度6の地震でした。(※1) 一方、現代は阪神大震災や東日本大震災など、震度7を超える過去に例を見ない規模の地震が起きています。

こうした地震に備えるため、古民家の耐震リフォームでは、これまでの災害や経年による劣化などを修復する、耐震性能をより高めるための工事を行う必要があります。

伝統工法と在来工法

日本の住宅は「在来工法」と「伝統工法」の2種類がありますが、現代は約99%が在来工法で、現存する伝統工法の住宅は1%に満たないと言われています。

繰り返しになりますが、「伝統工法」は古民家や社寺仏閣など現存するわずかな建物に残された日本古来の建築工法です。ゆえに、伝統工法についての専門知識や専門技術を持っている人は多くありません。つまり、伝統工法の建築物に対しては、耐震改修を含むリフォームを施工できる事業者も限られるということになります。

伝統工法

引用:旧家・古民家リフォームは技術×実績で選ぶ 住友林業のリフォーム

現在の一般的な住宅と比べて柱や梁などの部材が大きく、壁量が少ない(障子や襖などで仕切られるだけの開口部が多い)のが伝統工法の住宅の特徴です。

構造の要である柱や梁は、釘や金具を一切使わない「仕口」「継手」という木組みによる工法が用いられ、壁や天井に覆われず露出しています。基礎は「石場立」と呼ばれる石の上に直接柱を載せただけのもの、柱や梁は壁は土壁で、屋根には重い瓦が載っています。

この構造が地震時には「揺れに抗わず、うまく揺れて地震の力を逃がす」という、いわゆる「免震」に近い耐震性能を発揮。地震の揺れを建物に伝えにくい基礎構造、柔らかくしなる柱や梁、ぼろぼろと崩れやすい土壁など、すべての部材がうまく地震の揺れをコントロールしていました。しかし、築年数が古ければ古いほど、経年劣化による構造体の腐食や害虫による浸食などが発生しているおそれがあり、本来の免震力を発揮できない状態になっている場合があります。また、たび重なる地震を乗り越えてきた結果、土台から柱が落ちそうな状態になっていることも考えられます。

これらを踏まえ、伝統工法の耐震リフォームでは、基礎や柱・梁など既存の構造体の補修・補強に加えて、本来の免震力を生かした制震装置を設置するなど、大規模なリフォームが必要になります。

在来工法

耐震性能や間取り、省エネ、工期など、さまざまなメリットがあるため、主流となっているのが「在来工法」です。
在来工法では、工場でプレカットした柱や梁などの構造体を現場で組み立て、筋交いや耐震金物などの補助材を施工し、耐震性能を持たせています。基礎は布基礎やベタ基礎など、基礎同士を繋げることで耐震性を高めているほか、壁量を多くすることに加え、基礎・構造体、壁などのすべての部材を金具で固定することによって、さらに耐震性を高めています。

在来工法においての耐震リフォームでは、耐震金具を新たに設置したり、筋交いや耐震壁を増やしたりする工事を行うことで、より頑丈な建物にします。

まずは耐震診断を

古民家の耐震リフォームは、既存の免震性能や現状の詳細な調査を総合的に判断する必要があるため、伝統工法の専門家の見解が必要です。
古民家の耐震診断は、3つの調査をそれぞれの有資格者が行い、それを元に報告書にまとめられます。

筆者作成

古民家鑑定

「古民家鑑定」とは、500以上のチェック項目を判定し、古民家の状態を判断するものです。古民家鑑定士が行うものですが、改修をともなう診断の場合では建築士、伝統再築士の資格も必要です。

古民家床下インスペクション

自走式床下点検ロボットを使用し、床下の腐朽、シロアリによる食害、またそれらの被害の今後の発生確率などを調査します。

伝統耐震診断(伝統耐震予備診断)

古民家が日常的に受けている振動(交通や風などによるもの)をセンサーで計測することで、地震時の地盤と建物の揺れを解析します。

古民家の耐震リフォームの内容

古民家の耐震改修は、在来工法にも使用されている耐震改修を行います。本来備わっている免震の性能や古民家の趣(おもむき)を活かすために、「耐震」「制震」「免震」の技術を駆使し、耐震診断を元にそれらを施工していくのが古民家の耐震リフォームです。

基礎(礎石)補強

古民家の基礎は、「石場立てを活かす」、または「新しく基礎を作り直す」の2種類に分けられます。既設の状態が悪い、建物がゆがんでいるなどの場合には、鉄筋コンクリートで新しく基礎を造り、そこに建物をジャッキアップして載せるという基礎工事が行われます。

構造材の根継ぎ、補強

柱などの構造体で腐食や害虫の食害による損傷がある箇所は、損傷部分を削り取り、新しい木材を継ぎます。
木材は、コンクリートや鉄骨と違い、年月が経てば経つほど構造材としての強度が増すため、残存する木材は貴重な資材です。残せる部分は、できる限り残す形で補強を行います。

梁などを追加設置

近年発生する大地震は、古民家の建築当時では想定されていなかったであろう規模の揺れやそれにともなう被害が発生しています。より強い地震にも耐えられるよう、構造材を追加することで地震への強度を高めます。

床補強

古民家では湿気が住宅や生活における最大の敵であることから、風とおりの良さを重要視して造られています。そのため床板も湿気が床下へ逃げやすいよう薄く造られています。
耐震性能を高めることはもちろん、危険の回避や断熱のためにも床の下地工事と床工事を行います。

耐力壁設置

伝統工法では障子や襖による間仕切りが多く、そのため壁の面積は非常に少ないものです。在来工法でも壁は耐力壁として壁自体が耐震性能を高めるための部材として設置されます。
耐力壁は、柱と柱の間に筋交いを設置したり、添え柱・添え梁などを設置したりしてつくられた水平力(横揺れ)に強い壁です。

引用:旧家・古民家の耐震リフォームに関する技術  住友林業のリフォーム

また、既存の壁を補強することも耐震性能を高める手段のひとつです。伝統工法のリフォームでは、耐震性能を高めること以外にも、現在の生活に合わせてプライバシー性も高めることを目的とした壁の増設も多く見られています。

ダンパー設置

(引用)旧家・古民家の耐震リフォームに関する技術  住友林業のリフォーム

ダンパーは、地震の力を吸収してくれる装置です。伝統工法による「地震の揺れをうまく吸収する」という性能を助けてくれるのがこのダンパーです。基礎や梁、柱間などに設置し、地震による水平方向への揺れを制御してくれます。

瓦の葺き替え等、修繕

屋根材の葺き替えは、耐震性能には直接の影響はありません。しかし、瓦屋根に欠陥があった場合、地震時に屋根から瓦が落ち、避難時のケガにつながるおそれがあります。
経年劣化や屋根の下地材の腐食などにより瓦が落ちやすくなっている場合は、屋根の補修を行うことも大切な耐震リフォームのひとつです。

耐震リフォームの注意点

伝統工法におけるリフォームは、限られた専門家や技術者のみが扱える、特殊なリフォームと言っていいでしょう。複数の専門家や診断士による判定や改修案が必要となるため、一般住宅の施工経験しかないリフォーム時業者では行えないものです。
なお、古民家に対して在来工法と同じ耐震リフォームを行うと、住宅にかかる揺れの力や揺れの周期が狂ってしまうため、逆に危険な状態に陥ってしまいます。

リフォームを依頼する業者の判断は慎重に行わなくてはいけません。古民家の耐震診断は、実際に耐震リフォームを行う施工業者とは別の第三者機関に依頼しましょう。客観的な判断をしてもらうことで、悪徳業者による被害や、施工不良を防止することにもつながります。

リフォーム業者に不安や不信を感じたら、国交省指定の登録サイトなどに業者の登録があるかどうかを調べてみましょう。

一般財団法人日本建築防災協会耐震診断・耐震改修実施事務所一覧

また、古民家耐震診断には古民家の築年数の分かるもの、これまでのリフォーム歴やその内容が分かる資料が必要になります。建物のことが分かる資料をなるべく多く揃えておきましょう。

まとめ

引用:旧家・古民家リフォームは技術×実績で選ぶ  住友林業のリフォーム

伝統工法は、在来工法のように工場で精密にプレカットされた木材とは違い、職人が手作業で切り出し、削り、組み立てて出来上がったものです。同じものはひとつとしてありません。
長い年月にわたって災害を乗り越えた結果、ゆがみやダメージも蓄積しているでしょう。そのため伝統工法の住宅では、地震に対する「揺れ癖」がそれぞれにあります。地震の際にどう揺れ、建物がどう動くのかは、1軒1軒異なるということです。古民家の耐震改修が難しいのは、こうした個性を診断し、適正な改修の内容を判断することができる専門家が限られているためです。

古民家の耐震リフォームは在来工法の耐震と比べると高額ですが、費用はもちろん大切な歴史的建造物を守るということも大切です。間違ったリフォームで家を傷つけてしまうことのないよう、複数のリフォーム業者に見積もりを依頼するなどし、リフォーム内容や実施方法もしっかりと比較することが大切です。