マンションをフルリフォーム 費用・事例・注意点を解説します

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「長年住んできた分譲マンションを一新したい」「購入した中古マンションを使いやすくしたい」など、住まいをより心地よい状態にするためのフルリフォームが注目されています。これを実現するうえでまず気になるのが、やはり費用ではないでしょうか。また、漠然としたイメージを具体的にしてくれる事例、リフォームするうえでの注意点など、知っておきたい情報は数多くあります。

この記事では、マンションのフルリフォームにまつわる"気になる"ことをひとつひとつ解説します。

マンションのフルリフォームとは

「フルリフォーム」とは、柱や梁などの構造体を残したうえで、外装や内装を全面撤去して行うリフォームです。「スケルトンリフォーム」ともいわれています。新築よりも低予算でありながら、新築に近い性能の住宅を建てられるというメリットがあります。

戸建て住宅には、外壁や屋根などの撤去も含めた内外フルリフォームがありますが、マンションは外装材の撤去ができません。そのため、内装のみフルリフォームを行う「内部スケルトン」が基本です。設備や内装材を解体し、配管・配線・断熱材などを露出させたスケルトンの状態にし、そこから内装や設備のフルリフォームを行うという流れが、マンションでの施工方法になります。

構造別のメリットとデメリット

マンションは、外装や廊下、またそれに接する建具などは共用部となるためリフォームできません。また、構造体も共有部であるため耐震工事なども個人では行えず、共有部の工事や解体も発生しないので、戸建住宅と比べてリフォームできる範囲は限られます。しかし、そのぶん戸建てよりもフルリフォーム費用が安く収まるのがメリットでしょう。

▼マンションのフルリフォーム

スケルトンリフォームでできること

スケルトンリフォームでできないこと

・間取りの変更

・キッチン、浴室洗面所、トイレなど水まわりのリフォーム

・断熱リフォーム

・共用部(廊下や階段、ベランダなど)の工事

・耐震リフォーム

・玄関ドアの取り替え

・外壁に接する窓の取り替え

・耐震性に関わる壁の撤去 など

マンションの構造別メリットデメリット

マンションは建物の規模が大きいことから、鉄筋コンクリート造(RC造)か鉄骨造(S造)が一般的です。この構造の違いは費用にあまり影響しませんが、リフォームの内容で制限がかかってしまう部分がいくつかあります。また、耐久年数にも差があります。耐久性が高いほど総工費も高く、それにあわせて購入時の価格も高くなる傾向にあります。
フルリフォームを前提にマンションを購入する場合、相場を知る参考にもなるため、デメリットになる部分だけでも覚えておくとよいでしょう。

▼【構造別】メリットとデメリット

構造

メリット

デメリット

鉄筋コンクリート造(RC造)

・耐火性・耐震性・防音性に優れ頑丈

・柱の本数が少なく済むため、広い空間を取ることができる

・建築費用が高いため、購入価格が高くなる

・壁式構造など、耐震性を保っているコンクリート壁がある場合はそれを撤去することができない

鉄骨造(S造)/軽量鉄骨(6mm未満)

・施工費や材料費がRCや重量鉄骨に比べて安価であり、購入価格も比較的安い

・木造より耐震性に優れている

・耐震性や耐火性、防音性はRC造や重量鉄骨造よりも低い

・柱や筋交いなどの本数が多いため、広い空間を取りにくい

鉄骨造(S造)/重量鉄骨(6mm以上の鉄骨)

・軽量鉄骨や木造に比べて耐震性、耐火性、防音性が高い

・RC造に比べて工事費が安い

・耐震性、耐火性、防音性がRC造と比べて低い

・軽量鉄骨造よりも工事費が高い

フルリフォームの手順

ここでは、マンションのフルリフォームの手順をご紹介します。

1.相談、現地調査、設計、契約

(画像引用)実録マンションリノベーション  住友林業のリフォーム

マンションでは、外に接する部分や配管の縦管など多くの共有部分を除いた、それ以外の専有部分でリフォームを行わなければなりません。ベランダの位置など変更できない箇所もあるため、現地調査は重要です。

2.内装材の解体

(画像引用)実録マンションリノベーション  住友林業のリフォーム

配線や配管が露出することで、劣化の確認や修理などを行うことができます。

3.配線、配管工事、断熱材の施工

(画像引用)実録マンションリノベーション  住友林業のリフォーム

共有配管(縦管)はリフォーム不可ですが、専有配管(横管)は自由にレイアウトできます。マンションであってもキッチンや浴室の場所を変更することが可能です。

4.壁下地工事、間仕切り壁の設置

壁や天井は、木下地か軽量鉄骨に下地用のボードを張っていきます。

5.クロス、床材などの内装仕上げ

壁紙、床材を張っていきます。また造り付けの棚やその他の木工事なども行われます。

6.衛生設備、照明器具取り付け

キッチン、洗面台、トイレなどの水まわり設備や照明器具の設置、建具やエアコンなどの機器を取り付けます。

7.完了検査、引き渡し

完了検査では、図面どおりに工事が行われたのかはもちろん、クロスやフローリングにキズがないかなどのチェックも行います。その後、チェックした箇所の直しを経て、引き渡しとなり、フルリフォームが完了します。

気になる費用は

リフォームにあたり、もっとも気になることのひとつが費用ではないでしょうか。ここでは、施工単位でかかる費用の概算を説明します。

解体費用:30~50万円

内装のみの解体ですが、大型重機が使えないためマンパワーを用いつつ、共用部にキズを付けないように解体します。さらに上下左右の部屋への騒音や振動に注意を払いながらの工事となるため、戸建てと比べて手間と時間がかかる作業です。

キッチン:80~120万円

中くらいのグレードであれば100万円以下での施工が可能です。アイランドキッチンへの変更や広いキッチンの設置、食洗器や浄水器等の追加など、グレードやオプションによって金額が増減します。

洗面浴室トイレ:150~200万円

ユニットバスなどの設備はグレードによって見た目の高級感などに差が出ます。しかし、グレード云々は日常的に使ううえで問題はなく、寿命や耐久性なども変わりません。ハイグレードの製品では浴槽の断熱性や床暖房付きなど、バリアフリーやエコに対応しています。

間取り変更(内装含む):200~300万円

間仕切り壁や天井下地、壁クロス、床の仕上げ、建具などを新設します。グレードによる金額の差は大きくはありませんが、施工面積の広さなどによって金額が増減します。

横配管の取り替え等補修費用:20~30万

配管の補修などを単体で行う場合は配管自体の補修費用に加えて、壁の一部の撤去と復元といった費用がかかります。フルリフォームであればすべての作業がまとめて行えるため、工期の短縮や経費の節約になります。

 

以上すべてを行った場合の費用は、480~700万円になります。このように、マンションでは1,000万円以下でのフルリフォームが可能です。しかし施工面積が広い場合や住宅の性能を向上させたい場合、デザインにこだわりたい場合には1,000万円以上の費用を想定しておくと良いでしょう。

フルリフォームの事例を解説

S造マンション/東京都 S邸

鉄骨造/築15年/リフォーム面積77.75㎡/費用2,100万円

「夏暑く、冬寒い」といった問題を解決するためには断熱工事が必要です。特に鉄骨は鉄製であるため、熱しやすく冷めやすい特徴があります。
マンションの場合、外断熱は共有部分に該当するため施工はできません。内壁の下地内部に断熱施工するのが一般的です。

▼フルリフォームの流れ

  1. 内装、内壁解体
  2. 断熱工事
  3. 内装・内壁工事
  4. 電気工事・設備工事
  5. 検査・引き渡し

S造マンション/熊本県 I邸

鉄骨造/築43年/リフォーム面積79㎡/費用1,000万円

浴槽や水栓、洗い場を別々で施工している在来浴室は、劣化が早い、断熱性が低いなどのデメリットが多くあります。耐久性やバリアフリー、断熱性などを考慮すると、リフォームではユニットバスへの取り換えがおすすめです。
築年数が40年を超えている場合は、設備の取り換えだけでなく配管の修繕なども同時に行うと安心です。

▼フルリフォームの流れ

  1. 内装、内壁解体
  2. 断熱工事
  3. 内装・内壁工事
  4. 電気工事・設備配管工事
  5. 検査・引き渡し

RC造マンション/千葉県 O邸

鉄筋コンクリート造/築38年/リフォーム面積75㎡/費用1,100万円

マンションスケルトンの間取り変更では、家族との時間を共有するため、リビングやダイニングを広くするなどの内装工事が多く見られます。一方で、ワンフロアの空間で、家族の視線をある程度遮ることのできるプライバシー性も重要です。その点、デザイン性の高い下がり壁などは、家族のプライバシーも守りながら奥行きを広く見せてくれる効果があります。
戸建てと比べて面積が小さいぶん、こうしたデザインや間取りの工夫が大きな効果をもたらします。

▼フルリフォームの流れ

  1. 内装、内壁解体
  2. 断熱工事
  3. 内装・内壁工事
  4. 電気工事・設備工事
  5. 検査・引き渡し

SRC造マンション/岐阜県 I邸

鉄骨・鉄筋コンクリート造/築40年/リフォーム面積130㎡/費用3,000万円

マンション3戸分をひと世帯分にフルリフォームした事例です。
鉄筋コンクリート造のマンションでは、各戸の境界壁はコンクリート壁でできているため、隣室同士をつなげるリフォームの解体工事では、コンクリートを削る大がかりな作業が発生します。ただし、「壁式構造」と呼ばれる壁で耐震性を保っている鉄筋コンクリート造の場合、構造上抜けない壁もあるため、注意が必要です。また、単純にリフォーム面積が大きくなるので、内装などの工事費用も増額します。

▼フルリフォームの流れ

  1. 内装、内壁解体、コンクリート壁解体
  2. 補強・断熱工事
  3. 内装・内壁工事
  4. 電気工事・設備配管工事
  5. 検査・引き渡し

フルリフォームの注意点

マンションのフルリフォームのイメージが浮かび上がってきたでしょうか。ここでは、リフォームにあたって押さえておきたいポイントを解説します。

スケルトンリフォームを判断するとき

マンションでは騒音などが隣室や上下階にダイレクトに影響するため、なるべくなら工期を短くしたいと考える人も多いでしょう。こうした配慮を必要とする場合には、フルリフォームではなく、タイミングをずらした部分ごとのリフォームを行うケースもあります。
しかし、キッチンやユニットバスなどの住宅設備の寿命を考慮すると、築20年以上の物件においては、やはりリフォームが複数個所になってしまうものです。

なお、一般社団法人住宅リフォーム推進協議会の調査では、リフォーム実施者の約半数が2回以上のリフォームを行っていることが分かっており、リフォームの必要性・重要性がうかがえます。

一般社団法人住宅リフォーム推進協議会「「住宅リフォームの消費者・事業者に関する実態調査」について|図1-1 実施者・検討者:リフォーム実施回数」を基に作図

複数個所をリフォームする場合、個別にリフォームするよりも、フルリフォームのほうが総額は安く収まるでしょう。予算として500万円程度組めるようであれば、スケルトンリフォームを検討してみましょう。

相談時

予算に合わせてプランニングをしてくれることはもちろん、分からないことや困っていること、質問などにていねいに対応してくれる業者を選びましょう。低価格で工事を行ってくれる業者を選びたくなるところですが、残念ながら悪徳リフォーム業者による被害が後を絶ちません。特に期間限定のキャンペーンなどで、じっくり考える暇を与えさせず契約を急ぐ事業者は絶対に避けましょう。

見積もり、契約時

プランニングと見積もりまでは、複数の業者で相見積もりを取っても大丈夫です。価格の比較は悪徳業者による被害を防止するためにも役立ちます。また契約時に補助金や各種申請、マンションの管理規約の確認などの手続きは主に施工会社が進めていきます。
そのため、家主側は署名作業がほとんどですが、申請書類などにはしっかり目をとおし、分からない箇所は必ず確認するようにしましょう。

補助金・助成金制度について

リフォームの補助金は、主に環境に配慮した住宅や子育てに関連するリフォームが対象です。ここでは、利用できる補助金・助成金制度をまとめました。活用できそうなものがあれば、施工事業者に問い合わせてみましょう。

高性能建材による住宅の断熱リフォーム支援事業 最大120万円

(エコ住宅・省エネ化)

一般社団法人 環境共創イニシアチブ

次世代省エネ建材支援事業 最大200万円

(断熱パネルまたは潜熱蓄熱建材施工を含む省エネ化)

一般社団法人 環境共創イニシアチブ

長期優良住宅化リフォーム推進事業 100万円~300万円

(性能向上、三世代同居、子育てに適した環境化のいずれかを含むリフォーム)

国立研究開発法人 建築研究所

家庭用燃料電池システム導入支援事業補助金 最大4万円+α

(エネファーム設置)

一般社団法人 燃料電池普及促進協会

まとめ

マンションスケルトンは、戸建てと比べるとリフォーム可能な範囲が少なく、プランに制限がかかるデメリットがあります。その反面、費用相場は安く工期も短いため、比較的手軽に高性能住宅を手に入れられる場合もあるでしょう。
全体的な費用を抑えられるぶん、設備や内装に予算を多めに回すこともできます。生活の質を向上させるメリハリのあるリノベーションを行うことも選択肢のひとつです。