「フルリフォームと増築を同時にしたい」事例から費用まで一挙解説

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フルリフォームとは、柱や梁などの構造体だけを残し、外壁や屋根、内装などを全面撤去し行うリフォームです。骨組みだけを残したスケルトン状態にしてからリフォームを行うため、「スケルトンリフォーム」とも呼ばれます。

中古住宅の購入をきっかけにフルリフォームを検討している人のなかには、増築を同時に行えないか、と考えている人もいることでしょう。たしかに、フルリフォームと増築をあわせて行うことにはたくさんのメリットがあります。

この記事では、フルリフォームと増築を同時に行った場合の流れや費用感、さらには事例まで一挙解説します。より快適な暮らしを送るための住まいづくりのヒントになれば幸いです。

フルリフォームとは

国土交通省の資料(※1)によると、中古物件を購入する最大の理由は「新築に比べ価格が安いから」だそうです。建物の費用を抑えたぶん、土地代や設備改修にお金をかけたいと考える人も実際多くいます。しかし、中古物件では、設備を含めあらゆる性能に不具合が生じていないか、と不安視してしまうデメリットも、正直なところ存在しています。

上述の調査では、中古住宅検討時に困ったことや分からなかったこととして、「物件に隠れた不具合や欠陥があるのではないか」、水まわりを含んだ「設備がそのくらい使えるのか」といった項目が上位に挙がっています(※2)
こうした問題点の多くを解決できるのが、フルリフォームです。フルリフォームでは、外壁などをすべて撤去したうえで構造体のすみずみを調べることができます。問題があれば、耐震補強を行い、設備を入れ替えます。これらを行うことで、住まいを新築に近い状態にすることができます。なお、フルリフォームは新築や建て替えと比べ、間取りなどに多少の制限がありますが、建て替えができない土地ではこうしたフルリフォームが有効となります。

増築とは

増築リフォームのポイントや事例を詳しく解説|住友林業のリフォーム

「増築」とは、床面積が増える工事を指します。建物の階数を増やしたり、同敷地内に新たな建物を増やしたりする工事ですが、既存の建物を壊さず行うため、増築もリフォームの一種になります。
ちなみに、現在の建物と同じ形状、同じ規模で工事を行うものを「改築」「改装」と言います。これらは基本的に申請や許可を取る必要はありませんが、「増築」の場合は建物の形状と規模が変わってしまうため、工事の許可が必要となるケースもあります。具体的には、「床面積の増加が10㎡以上の増築を行う場合、建築確認申請が必要」と建築基準法で定められています。

フルリフォームと増築をする場合の流れ

ここでは、フルリフォームと増築を1回で行うにあたっての流れを解説します。

1.相談、現地調査

まず、増築が可能であるかの調査が重要です。市街地化調整区域など建築に関する規制が厳しい区域においては、増築が不可能である場合があります。また、どの住宅においても建築基準法によって敷地に対する建物の割合(建ぺい率)が必ず定められており、これを超えて増築をすることはできません。
リフォーム会社に下調べと現地調査を行ってもらい、増築が可能かどうかを判断してもらいましょう。

2.設計図、見積書の作成

間取りなどのプランニングは家主の要望だけでなく家族構成や日常生活なども参考にして作成されます。また、増築の場合は、増築分の基礎工事を行うため、費用も高くなります。増築が本当に必要なのか、どの程度増築するのかをプランニング時に検討しておきましょう。

3.各種申請、契約手続き

増築分の建築確認申請や住宅ローンの申請などを経て、リフォーム工事の契約をします。このときに調べておきたいのが、リフォームの内容に応じて支給される自治体からの補助金です。耐震改修やエコ住宅化などの性能向上に関わる内容や、三世帯住宅化などが対象で、これらの申請は着工前が原則です。該当するのではないかと思う補助金がある場合は、リフォーム会社に相談のうえ申請を済ませておきましょう。

4.工事

フルリフォームは建て替えや新築と比べて工期が短い点もメリットですが、居住しながらの工事は不可能のため、一時的に仮住まいに引っ越しをする必要があります。
解体後の構造体のチェックや耐震診断などで問題があった場合は、家主立ち合いのもと必要な処理の説明が行われます。

5.立合い検査、引き渡し

3~6カ月程度の工期を終え、引き渡しです。最終チェックと同時に各設備の使い方の説明も行われます。アフターフォローに対応するリフォーム会社では、今後のメンテナンスについても説明があります。
機器の説明書や建築に関する書類は、次のリフォームや不具合の修理などを行ううえで必要です。必ず保管するようにしましょう。

フルリフォームと増築の費用感

リフォーム工事を検討するうえで押さえておきたいのが、費用感です。実際、何にどのくらいの費用がかかるのかによって優先順位が決まる場合もあるでしょう。ここでは、リフォームの対象となるそれぞれの項目について、金額の目安を解説します。

解体費用:50万円

スケルトンリフォームでは、基礎や構造部を残しての解体工事となるため、ていねいで慎重な作業が必要です。しかし、構造部は解体しないぶん廃材処分費用などの節約になるメリットがあります。
増築工事では、既存の建物を一部解体し、増築部分を新設する場合もあります。こうした場合には基礎や構造部の部分解体なども行われます。

キッチン:80~120万円

キッチンは、中くらいのグレードであれば100万円以下での施工が可能です。アイランドキッチンへの変更では、ダクト工事や配管配線の工事が追加になるため、費用が増額します。

洗面浴室、トイレ:150~250万円

浴室は断熱性や施工費用、バリアフリーの観点からユニットバスへの取り換えを検討すると良いでしょう。浴室を増築する場合は100~250万円程度、トイレを増築する場合は70~180万円程度の費用がかかります。

間取り変更(内装含む):300~400万円

水まわりなどを既設の位置から大きく移動すると、配管や配線を延長するなどの工事が追加されます。しかし、築年数が古い住宅などでは、キッチンとダイニングが別の部屋に分かれているなど現在の生活環境にそぐわないことも多いため、生活シーンに合わせた間取りに組みなおしたいものです。予算に応じ、既設の間取りを活かす部分と自由なレイアウトのバランスが大切です。

外壁屋根:300~500万円

増築工事のみを行う場合、増築した部分と既設の建物の古い部分の境界が目立ってしまうという見た目のデメリットが発生しますが、フルリフォームと増築を同時に行う場合は、外装を統一できるため、見た目の違和感の無いリフォームを実現できます。

耐震補強:150万円

築30年で平均150万円前後の費用感です。なお、築100年前後の古民家は在来工法ではなく、伝統工法で建築されています。こうした住宅では、リフォームには専門的な知識と技術を要するため、古民家の施工経験の豊富なリフォーム業者を選びましょう。

増築工事:80~320万円(木造2~8畳 ※1階の場合)

2階以上に増築をする場合、費用は1階に増築する場合の約2倍かかります。これは屋根の撤去に加え、耐震性などの強度を上げるための補強工事が必要になるためです。

合計:1,110~1,790万円

これらの工事費用に加え、確認申請などの申請費用、税金や登記費用など諸費用が追加されます。さらにエコ住宅やバリアフリー住宅など、高性能住宅化を行う場合は、相場よりも施工材料や設備費などの価格が上がるため、3,000万円以上かかることも少なくありません。結果として、小規模住宅の新築工事と大差のない金額になることもありますが、床面積に対する費用でみると、新築よりも抑えられるでしょう。

フルリフォームと増築の事例を解説

ここからは、具体的なフルリフォームと増築の事例を紹介します。

1.東京都 T邸

木造在来工法/築40年/リフォーム面積100㎡/費用2,900万円

耐震性、外壁メンテナンス、断熱、間取りの悪さなど、多くの問題点を改善したい場合はやはりフルリフォームがおすすめです。また、二世帯同居などでは、浴室やキッチンを世帯ごとに設置する場合もありますが、空間やスペースの確保が難しい場合は、増築工事を行うことで解消できます。

リフォーム事例:東京都 T邸

▼リフォームの流れ

  • 外壁、内壁、屋根の解体
  • 耐震補強・増築部の基礎工事
  • 木工事
  • 外壁、屋根工事、断熱工事、建具取り付け
  • 内壁、内装工事、電気、設備工事
  • 検査、引き渡し

2.広島県 O邸

木造伝統工法/築100年/リフォーム面積280㎡/費用5,500万円

古民家では外壁の劣化や間取りの不便さなどに加えて、耐震改修や断熱工事がほぼ必ず必要となります。過去にリフォームを行っている場合も多いのですが、部分リフォームを重ねるよりも、フルリフォームを行うほうが費用面でもおすすめです。
フルリフォームと増築を同時に行うことで外観の仕上げが統一できるため、見た目のメリットも大きいでしょう。

リフォーム事例:広島県 O邸

▼リフォームの流れ

  • 外壁、内壁、屋根、建物の一部の解体
  • 耐震診断、構造部のチェック
  • 耐震補強・増築部の基礎工事
  • 木工事
  • 外壁、屋根工事、断熱工事、建具取り付け
  • 内壁、内装工事、電気、設備工事
  • 検査、引き渡し

3.神奈川県 S邸

木造在来工法/築15年/リフォーム面積112.6㎡/費用2,500万円

すでに平屋住宅に2階部分を増築済み。今回の工事で増築部分の拡張工事を行いました。
増築の場合、既設との接続部の工事をていねいに行っていないと、雨漏りや強度の問題などが発生するケースもあります。そのため、前回のリフォームの詳細なデータや内容を把握することがとても重要です。
同じ業者に依頼できない場合は、前回の工事を依頼した業者に、新たな施工業者を紹介してもらうなどすると、工事内容の共有が図れるでしょう。

リフォーム事例:神奈川県 S邸

▼リフォームの流れ

  • 一部の外壁、内壁、屋根の解体
  • 木工事
  • 外壁、屋根工事、断熱工事、建具取り付け
  • 内壁、内装工事
  • 電気、設備工事
  • 検査、引き渡し

フルリフォームと増築を一緒に行うときの注意点

フルリフォームを判断する時

フルリフォーム+増築を行う場合、リフォーム金額も高額になるため、「どうせなら建て替えを」と勧められることも少なくありません。たしかにリフォームでは、間取りを自由にレイアウトできない点、解体作業に手間がかかるなどのデメリットもあるため、建て替えもひとつの選択肢です。
建て替えもリフォームもどちらも可能な場合では、どういった方法で住宅を新しくするか迷うかもしれません。プランニングや見積もりを進めてみないことには、建て替えかリフォームかの判断が難しい場合は、どちらの案も提案してもらうのがおすすめです。

相談時

悪徳業者による被害を防ぐためにも、いくつかのリフォーム業者に相談してみることがおすすめです。まずは展示会や相談会などに参加してみると、気軽に相談ができるでしょう。

見積もりをとる時

フルリフォームの場合は、外壁を解体してはじめて柱や梁の重大な損傷が発見される場合もあります。また、耐震診断では構造部の状態だけでなく、基礎や地盤なども調査する必要があるため、耐震補修など追加予算が発生することもあるでしょう。
こうしたケースやその場合の対応についても、契約前までにしっかり説明してくれる業者を選ぶことを心掛けましょう。

契約時

リフォーム会社との契約だけでなく、ローンや補助金など着工前に済ませなければならない申請が同時にいくつも進行します。また、仮住まいの決定や引っ越し業務なども重なるタイミングです。工期が伸びてしまうと工事にかかる費用も増えるため、契約からの流れはスピード感を持って進行していきます。大切な書類の署名はしっかり目を通し、不明な箇所は必ず確認をすることが大切です。

活用したい補助金・助成金制度

増築はリフォームの一種であるため、リフォームに関わる補助金制度を利用できます。
これらの制度は、「エコ住宅・省エネ化」「バリアフリー・耐震改修」「子育てに特化した環境化」が主な補助対象です。

高性能建材による住宅の断熱リフォーム支援事業 最大120万円

(エコ住宅・省エネ化)
一般社団法人 環境共創イニシアチブ

次世代省エネ建材支援事業 最大200万円

(断熱パネルまたは潜熱蓄熱建材施工を含む省エネ化)
一般社団法人 環境共創イニシアチブ

長期優良住宅化リフォーム推進事業 100万円~300万円

(性能向上、三世代同居、子育てに適した環境化のいずれかを含むリフォーム)
国立研究開発法人 建築研究所

ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)支援事業 60万円~

(太陽光など高効率な設備システムを導入し、住宅内エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅)
一般社団法人 環境共創イニシアチブ

地域型住宅グリーン化事業 50~140万円

(省エネルギー性能や耐久性等に優れた木造住宅)
一般社団法人 木を活かす建築推進協議会

家庭用燃料電池システム導入支援事業補助金 最大4万円+α

(エネファーム設置)
一般社団法人 燃料電池普及促進協会

まとめ

「デザイン性を重視したい」「最新設備を使いたい」「相場が高くても土地で妥協したくない」など部分的に強いこだわりがある場合は、費用が抑えられる中古戸建てのフルリフォームがおすすめです。こだわりのない部分や不要なものにかかる費用を削ったぶん、こだわりの強い部分に予算をかけられるため、より個性が現れる住宅に改装できます。また、戸建てリフォームでは、廃材費用や木材のムダ使いを削減できるため、環境の保全にも貢献できます。
補助金制度などをうまく活用してエコ住宅にするのもおすすめです。自分と家族の納得のいくリフォームで、時代と環境にあった住まいを実現しましょう。

※「令和2年度平均年収と学歴調査

※1 国土交通省「既存住宅流通・リフォーム市場の現状|P.6 既存住宅取得の検討理由」
https://www.mlit.go.jp/common/000039409.pdf

※2 国土交通省「既存住宅流通・リフォーム市場の現状|P.7 既存住宅取得の検討時に困ったこと・分からなかったこと」
https://www.mlit.go.jp/common/000039409.pdf