ユニバーサルデザインとバリアフリーの違いとは? リフォームに活かしたい住みよい家の考え方

公開日: 更新日:

バリアフリーと聞くと具体的にどんなもので、どんなところで使われているか、ほとんどの人がイメージできるかと思います。バリアフリーの認知や普及は現在ではかなり進んでおり、多くの人が日常的に接している身近なものです。

一方、ユニバーサルデザインも、近年ではよく耳にするワードです。何となく"バリアフリーに近いもの"というイメージが湧くのではないでしょうか。
ユニバーサルデザインは公共施設や交通機関、さらに製品や道具などに対しても用いられるもので、多くの人に使いやすいようデザインされたものです。身体の不自由な人にも苦労なく使えるようにデザインされているため、ユニバーサルデザイントイレなどはバリアフリーによく似ていて、その差はとても分かりにくいでしょう。

しかし、「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」には、実は明確な違いがあります。
方向性は同じなのですが、必ずしも同じ目的を達成できるとは限らないのです。

今回は、バリアフリーとユニバーサルデザインのそれぞれの意味と、その代表的な例などをご紹介していきます。

バリアフリーとは

バリアフリーは、高齢者、障害者など、身体の機能が不自由である人にとってのバリア(障壁)をフリーにするものです。病院や社会福祉施設はもちろん、公共交通機関や公共施設、駅やショッピングモールなど、多くの人が利用する建物や場所において整備されています。

車いすでの利用を前提としているため、車いすの寸法を元に設計されています。また、手指などの上半身の機能に不自由がある人にも使いやすい設備を置くことでもあります。もちろん、足腰が弱く、膝の関節や握力などが衰えている高齢者や、身体障害を持つ人が苦労なく1人で利用できるもの、介助をする人も使いやすいものであることが前提です。こうした身体機能の障害をフォローし、利用を可能にしてくれるのが、バリアフリーの考えかたです。

ユニバーサルデザインとは

(引用)リフォーム事例  住友林業のリフォーム

バリアフリーとの大きな違いは、「障害者や高齢者を区別しないこと」にあります。
障害者や高齢者が使いやすい設計であるバリアフリーに対して、ユニバーサルデザインは「多くの人にとって使いやすいデザイン」という基本理念のもとに設計されるものです。
高齢者や障害者に限らず、妊婦や子ども・セクシャルマイノリティや国籍などの、広い個性に対しても柔軟であることを前提としています。

なお、ユニバーサルデザインの提唱者である、ロナルド・メイス氏は、ユニバーサルデザインの原則を、以下の七つにまとめています。

  1. 誰にでも同じように利用できること
  2. 幅広い個人の好みと能力に対応できること
  3. 直感で誰にでも使い方がわかること
  4. 五感や言語の能力に関係なく情報がすぐに理解できること
  5. 安全性の高いデザインであること
  6. 安全な体勢を保ち、苦労なく使えること
  7. 動作を行うために余裕のある寸法を確保すること

サイズや寸法などに明確なマニュアルや規定はありませんが、ユニバーサルデザインのすべてはこの7つの原則にしたがって行われます。

ユニバーサルデザインの例

身近にあるユニバーサルデザインは、建築物よりも製品のほうが分りやすいと思います。
たとえば、マヨネーズに使われている、星型と細口のどちらでも使えるダブルキャップ、胴を細くし、握りやすく持ちやすいようにしたペットボトルや瓶、パキっと折り曲げるだけで、ジャムやケチャップなどを押し出せるディスペンパックが挙げられます。これらは手指の機能や握力、視力が弱い人にも使いやすいように配慮された製品です。

シャンプーとコンディショナーの容器には、目が不自由な人にも区別が付くよう、シャンプーのボトルにだけ、容器の側面に突起が付いています。さらには、多くの人が目を閉じた状態で使うことまで想定してデザインされたものです。

街中や公共施設においては、セクシャルマイノリティに対応できるユニバーサルデザイントイレの設置なども進んでいます。男女のピクトグラムをカラーで区別しないなどの工夫がされているところもあり、気持ちの面にも配慮がされています。
東京オリンピックの開催に向けては、海外からの利用者に備え、ピクトグラムも世界的な基準に合わせ統一されてきています。表記されている文字を理解できなくても、絵やサインですぐに理解できるように案内表示することもユニバーサルデザインの代表例なのです。

住宅にユニバーサルデザインを取り入れる

原則に示されているように、ユニバーサルデザインとはデザインの変更や特別仕様などを行わず完成するものです。つまり、もともとバリアフリーやユニバーサルデザインではない住宅に、後付けでスロープや手すりを設置することは、ユニバーサルデザインの原則に沿わないと言えることから、リフォームで取り入れることは難しいでしょう。

ユニバーサルデザインの原則にしたがいリフォームするためには、該当箇所を総リフォームするだけでなく、そこまでの動線も含めてユニバーサルデザインとする必要があります。しかし、既設の柱や基礎がある以上、どうしても現状の間取りに合わせた設計を行うしかないのが現状です。
リフォームでユニバーサルデザインを取り入れる場合は、「ユニバーサルデザインの理念や原則を元にリフォームに応用する」という考え方で行います。

(引用)介護・車椅子用トイレ紹介  住友林業のリフォーム

とはいえ、バリアフリーとユニバーサルデザインは、背景や考え方に違いはあるものの、住宅などの建物においては最終的なデザインや設計に大きな違いはありません。バリアフリーは、障害がなく身体的機能に特に問題のない人にとっても使いやすいものであり、もともと多くの人に対応できるものであるからです。

バリアフリーとの使い分け

では、建築物においてバリアフリーとユニバーサルデザインをどう使い分けたらよいのでしょうか。

ユニバーサルデザインは、すべての人が同じように利用できることを目指すものです。たとえば、車いすの人と歩行者が連れ添って移動している場合では、二人が同じ道のりを同じように進めることを目的としています。スロープを利用する場合には、二人並んで同じスピードで進めることが前提です。そのためにスロープに必要なのは、車いすと歩行者が並べる広さと、歩行者と同じスピードで車いすを操作できるようなゆるやかな勾配です。車いすが通るためにスロープを毎回設置しなくてはならないものや、傾斜が急でスロープを越えるのに苦労がある場合は、歩行者と同じように進めているとは言えません。
また、バリアフリーと表記のあるトイレは、高齢者や障害者以外の人にとっては利用しにくく、利用できない場合があります。
これらのように、バリアフリー環境が、必ずしもユニバーサルデザインであるとは限らないのです。

(引用)商業・施設のリニューアル 寺社・宿坊  住友林業のリフォーム

まとめ

東京オリンピックの成功に向けて、海外からの多くの旅行者を想定しているいまの日本では、こうしたオールマイティに対応できる設備やデザインが特に求められています。利用者もこの理念を理解し、誰もが利用しやすくするための目と心を持つことが必要です。

ユニバーサルデザインは一見、バリアフリーと見分けが付きにくいため、表記がない限り、気がつきにくいものかもしれません。しかし、新たに整備された公共施設や、新商品、リニューアルした製品を中心に、ユニバーサルデザインは生活のなかにどんどん増えています。利用した施設、買い物で目にした製品のデザインに目を向けてみると、ユニバーサルデザインとして工夫されているものをきっと見つけられるでしょう。