「住み慣れた家で健康な生活を送るための部分断熱リフォーム」

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古くからの日本の住まいは夏を旨として考えられ、風通しの良さや日射を遮る工夫がなされてきました。かつては食品の保存や下水を考慮しての策でしたが、衛生環境が整備された現代においては、冬の寒さに対する対策が重要です。

しかし、住まい全体の断熱リフォームはやはりコストがかかります。そうした場合、長い時間を過ごす居間など、一部の部屋に改修範囲を絞ってリフォームを行う部分断熱リフォームといった方法があります。

今回は、コスト性に優れる部分断熱リフォームについて解説します。

日本の住まいの断熱性能

ご自身の住まいが一般的にどの程度の断熱性能を持っているのか、ご存知でしょうか。
国土交通省のデータによると、日本の住宅ストック約5,000万戸のうち、現行の省エネ基準に近い平成11年の省エネ基準を満たす住宅は全体の5%に留まっています。それに対し、昭和55年の省エネ基準も満たしていない住宅、つまりほぼ無断熱の住宅は全体の約4割にも上ります。
このデータからわかるように、日本では多くの方が断熱性能の低い住まいで暮らしています。

国土交通省「既存住宅ストックの現状について」の情報を基に作図

住まいに潜む危険性

こうした断熱性能の低い住まいで起こる危険性が高いのが暖房が効いている部屋と、トイレや洗面所といった無暖房の部屋との間にある、大きな温度差による「ヒートショック」です。これは命に関わる問題で、実際に冬季には入浴中に多くの方が亡くなっています(※)。

このように断熱性能の低い住まいは、暖かい部屋と寒い部屋との温度差が大きくなる傾向にあり、特にからだの弱い高齢者にとっては命に関わるほどのリスクが潜んでいます。

断熱改修で健康な暮らしへ

住まいの断熱性能の向上は、寒さ対策や省エネ、ヒートショックの防止に限らず、健康にも影響することが分かっています。断熱改修によって室温が上昇することで、血圧が低下するといった結果が研究で示されており、上昇量が大きいほど血圧低下量も大きくなることが確認されています。
住まいの断熱性向上は単に省エネだけが目的ではなく、人の健康を改善することにも貢献しています。

国土交通省「断熱改修等による居住者の健康への影響調査」の情報を基に作図

小さなリフォームで実現できる部分断熱とは? そのメリットについて

断熱リフォームでは、無断熱の壁や天井に断熱材を新たに充填したり、既存の断熱材に新たな断熱材を付加することで住まいの断熱性能を高めたりします。しかし、断熱リフォームを行うためには、一度外壁や天井、床を解体する必要があり、その分リフォームのコストが高くなってしまうのも事実です。断熱性能の重要性を理解していても、住まい全体のリフォームにかかる費用の観点からリフォームを諦めるケースも多く見られます。

そのような場合に検討したいのが、住まいの中のある範囲に絞って断熱性能を重点的に向上させる「部分断熱」と呼ばれるリフォーム方法です。
収納スペースとして使っている使用頻度の低い部屋や廊下などは断熱改修を行わず、リビングなど長時間を過ごす範囲のみ断熱リフォームを行うことで、住まい全体のリフォームに対してコストを抑えながら居住部分の断熱性能を向上させることができます。

費用的に無理のない範囲で断熱リフォームを行うことができるので、最低限の対策から始めることができます。

部分断熱のもうひとつのメリットは、断熱性向上による快適性を実感しながら段階的なリフォームが可能であることです。
住まい手にとって、リフォーム前にどの程度快適になるのかを実感しづらいのが断熱リフォームの難しいところです。特に普段から寒さを我慢した暮らしに慣れていると、住まい全体を断熱リフォームする必要性を感じない方も多く見られます。

部分断熱リフォームでは小さな範囲から断熱環境の改善を行うことでその効果を確認し、快適さを実感できたら徐々に住まい全体の断熱性を高めていく方法を取ることができます。

また耐震リフォームやバリアフリー化、雨漏れなどの補修を行う場合など、局所的な工事が必要なタイミングで、その部分の断熱リフォームを行うことも考えられます。壁や天井などの解体が必要なリフォームが必要になった場合は、断熱リフォームも同時に検討することで必要以上のコストをかけずに効率よく断熱性を高めていくことができます。

部分断熱リフォームの注意点

比較的、気軽に行いやすい部分断熱リフォームですが、住まいの断熱性能を確実に向上させるためには、いくつかの注意点に気を付けることが大切です。

1.リフォーム範囲は4周を断熱材で囲む

まず断熱の基本として、リフォームしたい範囲の壁面、天井(又は屋根)、床で囲まれた4周を断熱材でしっかり囲むことが大切です。
住まい全体をリフォームする場合は、屋外に面する外皮全体を断熱することで住まい全体が断熱材で覆われますが、部分断熱の場合、リフォーム部分とそうでない部分との間仕切り壁が断熱ラインとなります。そのため、その境界となる壁にも断熱材を充填する必要があります。

もちろんリフォーム部分は、外側と窓のみ断熱効果を高めるだけでも一定の断熱効果はありますが、熱は断熱性能が低い部分からどうしても逃げていきます。確実に効果を得るためには、リフォーム部分・非リフォーム部分の境界となる箇所をしっかり断熱することが必要です。

また過去に増改築を行った建物は外側に凹凸が多く、複雑な形状になっていることもよくあります。そうした場合にも既存の建物の形状に合わせ、切れ目なく断熱材を施工しなければ十分な断熱性能を得ることはできません。断熱性能を十分に発揮するためにも施工精度は非常に重要です。そのため、断熱リフォームを行う際は断熱や省エネの知識に長けている事業者や設計士に相談することが大切です。

2.非リフォーム部分との温度差に注意する

もうひとつ気をつけたいのが、非リフォーム部分との温度差です。
居間などを断熱リフォームした場合、リフォームされていない脱衣室やトイレとの温度差が改修前より大きくなることもあります。急激な温度変化を避けるためにも、特にヒートショックのリスクが高い脱衣室・浴室は断熱範囲に含めることが賢明です。費用面や既存の間取り上、こうした部屋の断熱を行うことがどうしても難しい場合は、非リフォーム部分には暖房器具を設置しておくなど、住まいの中で急激な温度変化を起こさないための対策を考えることが重要です。

3.縁側や土間を生かす

古くからの木造住宅の場合、庭に面した縁側や土間を生かした断熱リフォームを行うことも考えられます。外周を断熱材でしっかり囲うことが断熱の基本ですが、こうした空間がある場合は、屋外に面する建具のみを断熱性能の高い製品にリフォームすることで縁側や土間自体が空気層となり、断熱層を担うといった考え方もできます。
既存の間取りや趣を生かし、かつコストを抑えながら断熱性能を高める方法を検討することも断熱リフォームでは大切な点です。

まとめ

住まいの断熱性能の向上は決して省エネだけが目的でなく、健康にも影響を与える重要な要素です。その一方で、現在の住まいの耐震性やバリアフリー化など、全体で考えると断熱性能は後回しにされがちであることも事実です。

そうしたなかでも、コストを抑えながら快適な暮らしを手に入れるためのひとつの選択肢になり得るのが部分断熱リフォームです。小さな範囲でも断熱性能の向上によってその快適性を実感することで、改めて自身の住まいを見つめ直す機会を与えてくれるはずです。