親の持つ家や土地、子どもに貸すと相続時にどうなる?

お金・資産

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使用貸借は、所有者の善意のもと無償で貸し借りをする契約です。トラブルを防ぐためには、権利関係が複雑にならないよう、相続が発生する前から「契約満了期日」「使用目的」「目的外での使用禁止」「返還時の原状回復」などの内容を定めた使用貸借契約書を書面で作成することをおすすめします。

この記事の監修

矢口ミカ

複数のメディアで執筆中です。宅建の資格を活かし、家族が所有する投資用不動産の入居者管理もしています。住まいに関する資格である整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級も取得済みです。趣味は整理収納と料理。

親の土地に子どもが地代や権利金などを払わずに、無償で家を建てることがあります。親の存命中は問題がなくても、相続が発生した場合には、税金の取り扱いなど気になる点は多いものです。

この記事では、こうしたケースの税金の取り扱いや法的な解釈、身内間のトラブル例ついて解説をします。

不動産の使用貸借とは

モノの貸し借りを法的に表すと、「使用貸借」と「賃貸借」の2種類に分かれます。「賃貸借」はマンションなどを契約する際によく聞きますが、「使用貸借」は日常的にあまり聞きなれない言葉です。
最初に、不動産における「使用貸借」について見ていきましょう。

1.無償で土地や建物を借りること

不動産の使用貸借とは、土地の場合なら地代や権利金、建物の場合なら家賃を支払うことなく「無償で不動産を借りる」ことを意味します。つまり、お金を一切支払わず、タダで借りるということです。たとえば、「親の土地を使用貸借して子どもが家を建てる」「親の所有する家を借りて住む」などがあげられます。

通常、土地や建物の貸し借りが行われる場合には、借主は地主や建物のオーナーに対して地代や家賃を支払うものです。しかし、不動産の使用貸借では、親子間や親戚、友人など密接な関係を前提にしている場合が多く、所有者の好意から成り立っています。なお、無償であることから借主の権利は弱く、借主を保護する借地借家法は適用されません。

2.契約書は存在せず口約束でも成立

通常、不動産の貸し借りには賃貸借契約書などの書類が必要となりますが、使用貸借の場合は契約書が存在せず、口約束で行われることがほとんどです。契約は法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成をしなくても成り立ちます(民法522条)。とはいえ、子や親戚だからと口頭で済ますと、万が一のことが起きたときは非常に厄介です。契約期間や使用目的をきちんと書面で定めておくほうがお互いに安心でしょう。

親子間での使用貸借における税金の取り扱い

続いて、親子間での使用貸借における税金の取り扱いについて解説しましょう。

1.贈与税の対象にはならない

親子間での使用貸借は贈与税の対象にはなりません。理由として、無償で使用しているため借主には借地権を設定するような強い権利はなく、税務上の権利価額はゼロであることがあげられます。
贈与税の対象になるのは、親が子に土地を時価よりも安く売った場合です。「みなし贈与」として贈与税の対象になります。また、一般的な取引価格の地代を払うと「賃貸借」となり、借地権の設定があったとされるため、権利金の相当額が贈与税の課税対象とされます。なお、親の土地の固定資産税を支払う程度は、贈与税は課税されません。親が所有するマンションなどの建物に子どもが無償で住んでいる場合も、贈与税の対象外となります。

2.相続税の対象となる

通常、不動産を借りる場合には、地代や家賃などを所有者に支払うものです。しかし、親子間で使用貸借する場合は、無償で借りられるだけでなく贈与税も対象外となるものの、相続が始まると対象となる不動産には「相続税」がしっかり課税されることになります。この場合、自分が使っている土地(自用地)として評価されるため、「貸宅地」としての評価額はされません。よって相続税を減額することはできず、更地としての評価額で課税されます。

使用貸借における身内間のトラブル事例と解決方法

使用貸借は、あくまでも所有者の善意によって成立する契約であり、貸主と借主のみに効力を持っています。無償という点からも親子間や親戚など極めて近しい関係の人同士で行っていることが多いようです。それゆえに、一度関係がこじれると厄介な問題へと発展することも少なくありません。

ここでは、親の遺産である不動産に絡んだ、使用貸借における身内間のトラブル事例と解決方法をご紹介します。

【トラブル1】共同相続人のひとりが不動産の全部を占有(※1)

共同相続人のひとりBが不動産の全部を占有しているため、他の共同相続人C・Dが不当利益返還請求をした事例です。共同して相続した不動産は「共有」状態になりますが、不動産は現金のようにキッチリと配分できないため、しばしば"争続"の原因となります。このような例は、実家などひとつの不動産を兄弟で共有相続した際によく見られるトラブルです。
この事例では、建物に住んでいる共同相続人Bが相続開始前から「家族のひとり」として、被相続人(亡くなった人)Aと当該建物で同居をしていました。そのため、他の共同相続人C・Dが「持分に応じた家賃相当額の損害が発生した」といって、家賃相当額の支払いを求めたものです。

裁判の結果、被相続人Aと共同相続人Bとのあいだには「使用貸借契約が成立する」と推認されました。Aの許諾を得て、遺産である建物にAと同居していた場合、特段の事情のない限り、AとBとのあいだで同建物の相続開始から遺産分割までの期間、使用貸借契約が成立していたとみなされたからです。

使用貸借契約は、貸主が死亡しても契約は終了しません。貸主の地位は相続により承継した相続人にあり、契約は相続人とのあいだで継続されます。したがって、他の共同相続人は貸主の地位を引き継ぐため、少なくとも遺産分割終了までは使用貸借契約を存続すべきという判決が下されたのです。結果、不当利益返還請求は破棄され、高等裁判所に差し戻されました。

親が所有する建物に子どもが無償で同居するというのはよくあることです。ただ、遺言書がなく、他に兄弟がいる場合は実家の処分についてトラブルになる例が少なくありません。相続税を納付するために現金が必要な場合、別の場所に住んでいる兄弟は実家を売却して等分に分けたいと思っていることも考えられます。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内です。こじれそうな場合は専門家を交えて、早めに話し合いを進めましょう。

【トラブル2】親戚がいつまでたっても出ていかない(※2) 

親が無償で貸していた建物から親戚がなかなか退去しないという事例です。相続発生後、土地建物の売却を予定しているが、親戚が退去しないため売却ができずに困っているというものです。

このケースは地方から出てきた親戚に対し、「次の新居が見つかるまでのあいだ」という約束で貸していましたが、6年経過しても新居に移る様子がありません。相続税を納付するため売却することになり建物の返還を求めましたが、相変わらず「次の新居が決まるまで住んでいたい」と主張し、売却が進まないという事例です。

この形態は「使用貸借契約」にあたるため、相続人は親戚に対し、建物の返還請求が可能です。使用貸借は借主の建物使用や収益する目的が完了してなくても、使用や収益に足りる期間が経過すれば使用貸借の終了が認められているからです。したがって次の新居がいまだに見つかっていないという状況でも、6年という長い年月が経過していることから、新居を見付けるのに必要な期間は十分経過したものとみなされます。

親戚など身内間ではどうしても「甘えの構造」があるため、ずるずると居座ってしまうことも少なくありません。話し合いで解決できない場合は、裁判所に「家屋明け渡し請求」を申し立てることになります。なお、途中からでも親戚から家賃などを受け取ってしまうと「賃貸借契約」になり、借家借地法が適用されてしまいます。そのため売却を検討している場合、金銭の授受には慎重になったほうが良いでしょう。

まとめ

使用貸借は、所有者の善意のもと無償で貸し借りをする契約です。親子間では特に多く、「子を思う親の心」から金銭を受け取ることなく、子どもに土地や建物などを貸しているご家庭は多いでしょう。その際、このタイミングで贈与税がかかることはありませんが、最終的には相続税として納付することになります。
また、こうした家や土地の貸借は、契約書が存在しない「口約束」でも成り立ちます。不動産の場合、高額な相続税を納付しなければならないことなどから、きょうだい間の身内でトラブルが発生することも少なくありません。

トラブルを防ぐためには、権利関係が複雑にならないよう、相続が発生する前から「契約満了期日」「使用目的」「目的外での使用禁止」「返還時の原状回復」などの内容を定めた使用貸借契約書を書面で作成することをおすすめします。