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災害で家を失っても苦しまなくていい 「二重ローン問題」の助けとなる支援制度とは

お金・資産

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二重ローン問題とは、災害で家を失ったのに住宅ローンが残ってしまったり、新たな住宅ローンを組めなかったりする状態のことです。もしものときに備えて、二重ローン問題の支援制度について理解を深めておくことが大切です。

この記事の監修

大西 勝士

フリーランスの金融ライター。会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て、2017年10月より現職。10年以上の投資経験とFP資格を活かし、複数のメディアで執筆しています。

地球温暖化の影響もあり、近年、各地で台風や豪雨といった自然災害が多発する傾向があります。住宅ローン返済中に被災した場合は、自宅が損壊しても住宅ローンは残ってしまうことから、気になっている人も多いのではないでしょうか。再建のために新たにローンを組む場合、今までの住宅ローンと合わせた「二重ローン」を組むことになるため、金銭的に大きな負担になるかもしれません。

では、災害で家を失ったときに二重ローンで苦しまないためには、どうすればよいのでしょう。
今回は、二重ローン問題の支援制度について詳しく解説します。

二重ローン問題とは

二重ローン問題とは、災害で家を失ったのに住宅ローンが残ってしまったり、新たな住宅ローンを組めなかったりする状態のことです。地震や台風、豪雨などの災害に見舞われると、住む家や仕事を失ったうえ、住宅ローンなどの借金が残ってしまうケースがあります。

ローン返済が困難になった場合、通常は法的手続きによって債務整理を行います。通常の債務整理はローンを返済できなかった事実が個人信用情報として登録されるので、生活を立て直すための新たな借り入れが難しくなるのが問題点です。
資金を借りられたとしても、今までの住宅ローンとの二重ローンとなり、金銭的に大きな負担が生じてしまいます。

近年の自然災害における被害状況

近年自然災害は増加傾向にあり、2015年9月以降、災害救助法が適用された自然災害は30を超えています。(※1)

自然災害によって、全国各地でどのような被害が出ているのでしょうか。
たとえば、2018年に発生した北海道胆振東部地震では震度7(マグニチュード6.7)の大きな揺れを観測。死者42名、重軽傷者762名、家屋の全半壊等1万4,632棟の被害が出ています。
2019年の台風15号では観測史上1位の最大瞬間風速を観測し、千葉県を中心に関東地方で甚大な被害が出ました。7都県で最大約93万4,900戸の停電が発生し、特に千葉県では復旧までに1週間以上かかった地域もあったほどです。また、8都府県において約7万6,700戸の全半壊等の被害が出ています。(※2)

このように自然災害による被害は深刻化しています。災害リスクを軽減する取り組みや被災者の支援制度への理解は不可欠といえるでしょう。

二重ローン問題には支援制度がある

自然災害による二重ローン問題を解消するため、2016年4月から「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下 自然災害債務整理ガイドライン)」の適用が開始されました。(※3)

本ガイドラインを利用すれば、法的手続きではなく、金融機関との話し合いによってローンの減額・免除を受けられる可能性があります。

自然災害債務整理ガイドラインの対象者と適用要件

自然災害債務整理ガイドラインは、東日本大震災または2015年9月2日以後に災害救助法の適用を受けた自然災害の影響で、住宅ローンなどの債務を弁済できなくなった個人の債務者が対象です。(※4)
ガイドラインを利用するには上記に加えて、主に以下の要件を満たす必要があります。(※5)

  • 財産状況を対象債権者(金融機関)に対して適正に開示していること
  • 災害発生前に債権者に対する債務について期限の利益喪失事由がなかったこと
  • 破産や民事再生と同等額以上の回収が見込めるなど、対象債権者にとって経済的な合理性が期待できること

「期限の利益喪失」とは、金融機関から督促があったにもかかわらず滞納を続け、ローンの分割払いができなくなることです。

なお、2020年12月には、新型コロナウイルス感染症の影響による失業や収入減少などで住宅ローンなどの返済が困難となった場合に、本ガイドラインを活用する特則が適用開始となっています。(※6)

自然災害債務整理ガイドラインの利用状況

ガイドラインの利用状況(2021年6月末時点)は以下のとおりです。

自然災害案件

コロナ案件

合計

登録支援専門家に手続き支援を委嘱した件数

1,189件

1,085件

2,274件

 うち、手続中の件数

61件

785件

846件

 うち、特定調停へ申立済の件数

4件

7件

11件

債務整理成立件数

556件

3件

559件

一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関「運営状況」を参考に筆者作成

自然災害・コロナともに、専門家に対する手続き支援は1,000件を超えています。また、自然災害については、すでに550件を超える債務整理が成立しています。

自然災害債務整理ガイドラインを活用するメリット

災害で家を失ったときに、自然災害債務整理ガイドラインを活用して住宅ローンを整理するメリットは以下のとおりです。

  • 専門家による手続き支援を無料で受けられる
  • 財産の一部を手元に残せる
  • 個人信用情報として登録されない

債務整理を専門家に依頼する場合、通常なら着手金や報酬金などの費用が必要になりますが、本ガイドラインを活用すれば、弁護士などの登録支援専門家による支援を無料で受けられます。
通常の法的手続きとは異なり、個人信用情報として登録されないのも大きなメリットです。新たな借り入れに影響が及ばないので、債務整理後に新たな住宅ローンを組みやすいでしょう。

自然災害債務整理ガイドラインの手続きの流れ

自然災害債務整理ガイドラインに基づく住宅ローンの免除・減額を希望する場合は、以下の流れで手続きを進めます。(※7)

  1. 手続き着手の申し出
  2. 専門家による手続き支援を依頼
  3. 債務整理の申し出
  4. 調停条項案の作成、提出、説明
  5. 特定調停の申し立て、調停条項の確定(債務整理の成立)

まずは住宅ローンを借りている金融機関へ連絡し、ガイドラインの手続き着手を希望することを申し出ます。金融機関から同意を得られたら、全国銀行協会に対して登録支援専門家による手続き支援を依頼しましょう。その後は専門家の支援を受けながら必要書類を作成し、債務整理の申し出や調停条項案の作成に取りかかります。簡易裁判所へ特定調停を申し立て、調停条項が確定したら債務整理は成立します。

自然災害による二重ローンを回避するための対策

二重ローンの支援制度を理解しておくことは大切ですが、災害リスクを軽減する取り組みも重要です。ここでは、自然災害による二重ローンを回避するためにできる対策を紹介します。

火災保険・地震保険に加入しておく

火災保険は火災だけでなく、落雷や風災、水災なども補償対象です。火災保険に加入しておけば、自然災害で自宅に被害が出ても一定の補償を受けられます。
火災保険に加入するときは、地震保険もセットで加入しましょう。地震保険は単独では加入できません。また、火災保険のみでは地震による火災や建物の倒壊、津波などは補償対象外となってしまいます。

内閣府の資料によると、地震保険の加入率は増加傾向にあります。しかし、2019年度末における地震保険の火災保険への付帯率は66.7%、世帯加入率は33.1%にとどまっています。

内閣府「令和3年版 防災白書 附属資料56 地震保険の契約件数等の推移」を基に作図

自然災害は増加しており、どこに住んでいても被害にあうリスクがあります。もしものときの備えとして、火災保険と地震保険の両方に加入しておきましょう。

自然災害に強い物件を選ぶ

住宅を購入するときは、自然災害に強い物件を選ぶと災害リスクの軽減を期待できます。河川に近い地域や地盤が弱い地域などは、自然災害で建物に被害が出るリスクが高まります。
自治体のウェブサイトでは、ハザードマップが公開されています。火災や地震、浸水などの水害、土砂災害などのリスクを確認し、自然災害の影響を受けにくい地域で物件を探すといいでしょう。

まとめ

災害によって家を失った場合、自然災害債務整理ガイドラインの適用によって住宅ローンの免除・減額が認められるかもしれません。もしものときに備えて、二重ローン問題の支援制度について理解を深めておくことが大切です。

それ以上に大切なのは、災害リスクを軽減できる自然災害に強い物件を選ぶことです。これから住宅を購入する場合は、こういう視点を大切にしながら一生の財産である住まいで安心安全の暮らしを実現しましょう。

※1 一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関「被災された皆さまへ

※2 国土交通省「近年の自然災害の発生状況

※3 一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」P10

※4 一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」P1

※5 一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」P2

※6 一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関「新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則について

※7 一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関「手続の流れ