不動産鑑定基準とは? 不動産鑑定士の仕事と不動産価格の決定要因を解説します

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不動産の正しい評価を知りたい場合は、不動産評価の専門家である不動産鑑定士に評価を依頼することになります。

不動産鑑定士は登記簿、地積測量図、公図などの公的資料に基づいて土地や住宅などを評価する不動産鑑定のプロです。

今回は、不動産鑑定士が不動産を評価する際の基準としている「不動産鑑定評価基準」についてわかりやすく解説します。

不動産鑑定評価基準とは

不動産鑑定評価基準とは国土交通省が定めている「不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たっての基準」です。
不動産には、「持ち運びできない」「同じものがない」「量に限りがある」などの特性があるため、一般的な商品と違って価格形成を統一できない面があります。そのため、不動産評価の専門家である不動産鑑定士が、適正な不動産価格を判定することが必要となります。

ただし、不動産の価格は取引をする当事者同士で自由に価格を決めることが可能です。したがって、必ずしも鑑定結果どおりに価格を決めなければならないということはありません。売主側の希望価格に買主側が納得すれば売買価格が成立します。とはいえ、本来であれば、土地基本法などの理念に沿って取引がされるべきであり、投機的な取引の対象にすることは、はばかられるべきことと考えます。

不動産鑑定士は、このような基本的な認識に立って不動産の鑑定評価を行う使命があります。自分が判定した評価により、対象不動産の財産価格が決まるため、その責務を十分に自覚することが必要ですし、自分や自分と関係する人の利害の有無、その他いかなる理由があろうとも、"不動産のプロ中のプロ"として公平に判定することを求められています。

不動産鑑定評価の手法

不動産鑑定評価の主な手法は「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」の3つです。ここでは、それぞれについて解説をします。

1.原価法

原価法は、「その不動産にどれほどの費用がかかっているのか」という費用性に着目したものです。
対象不動産の再調達原価(その不動産を新たにつくったらいくらかかるかという価格)を求め、この再調達原価に対して減価修正(傷んだり古くなったりしたぶんの価格を差し引き調整すること)を行って対象不動産の試算価格を求めます。

2.取引事例比較法

取引事例比較法は、「対象不動産と同程度の不動産が、市場においてどのくらいの価格で取引されているのか」という市場性に基づいて算出する手法です。
多数ある取引のなかから適切な事例を用い、地域別の要因や個別的な要因を勘案しながら補正や修正を行い、対象不動産の価格を求めます。

3.収益還元法

収益還元法は、「対象不動産を利用すると、どのくらいの収益があげられるのか」という収益性で算出する方法です。「直接還元法」と「DCF法」の2種類があります。対象不動産が将来生み出すとされる純収益の総和(全体の合計)を求め、対象不動産の価格を決定します。

一定期間の純収益を還元利回りで求める「直接還元法」が一般的で、DCF法の対象となるのは一部の商業地域に限られています。
収益還元法は一般的に、賃貸用不動産など事業用不動産の場合に用いることが有効とされている方法です。商業地のように純収益が算出しやすいエリアでは有力な手法です。

不動産の価格が決まる要因

不動産の価格が決まる要因には、「一般的要因」「地域要因」「個別的要因」の3種類があげられます。ここでは、それぞれについて解説します。

1.一般的要因

世界情勢や国内の政治情勢、経済の状況、気候等など、一般的な経済社会における不動産のあり方や、価格の水準に影響を与える要因を指し、主に下記のようにまとめられます。

要因

内容

自然的要因

・地質、地盤等の状態

・地理的位置関係

・気象の状態 など

社会的要因

・人口の状態

・家族構成及び世帯分離の状態

・生活様式等の状態 など

経済的要因

・財政及び金融の状態

・物価、賃金、雇用及び企業活動の状態

・税負担の状態 など

行政的要因

・土地利用に関する計画及び規制の状態

・不動産に関する税制の状態

・不動産の取引に関する規制 等

国土交通省「不動産鑑定評価基準|P6-7 第3章 不動産の価格を形成する要因 第1節 一般的要因」を基に作表

2.地域要因

地域要因とは、都道府県や市区町村などの地方自治体単位で制定される条例など、対象となる不動産が存在する地域の事情を指します。地域特性が不動産価格の形成に全般的な影響を与えます。主に下記のようにまとめられます。

地域の種類

内容

住宅地域

・日照、温度、湿度、風向等の気象の状態

・都心との距離や交通施設の状態

・上下水道、ガス等の供給、処理施設の状態 等

商業地域

・商業施設または業務施設の種類、規模、集積度等の状態

・商業背後地や顧客の質と量

・繁華性の程度や盛衰の動向 等

国土交通省「不動産鑑定評価基準|P7-8 第3章 不動産の価格を形成する要因 第2節 地域要因」を基に作表

3.個別的要因

不動産には、「更地なのか、空き家が建っているのか」「戸建なのかマンションなのか」「都心にあるのか、地方にあるのか」など、さまざまな種類があります。個別的要因とは、こうしたその不動産が持っている個別の要因を指します。したがって、同じエリアにある不動産でも、個別的要因によって価格に与える影響は異なる、ということです。
個別的要因は、「土地」「建物」により区分されています。住宅地における個別的要因を、それぞれを表にまとめました。

不動産の種類

内容

宅地

・地勢、地質、地盤等

・日照、通風及び乾湿

・間口、奥行、地積、形状等

建物

・建築(新築、増改築等または移転)の年次

・面積、高さ、構造、材質等

・設計、設備等の機能性 等

国土交通省「不動産鑑定評価基準|P9,11 第3章 不動産の価格を形成する要因 第3節 個別的要因」を基に作表

不動産鑑定を依頼するメリット・デメリット

不動産鑑定を依頼するメリットは、「相場を知ることができる」「第三者の意見を聞くことができる」「買う側の納得を得やすい」などが挙げられます。さらには、"不動産のプロ"から、所有する不動産の有効活用法について助言を得られることも大きいでしょう。

反面、デメリットとして考えられるのは、「鑑定費用がかかる」「依頼する手間がかかる」「鑑定してもらうための資料を準備しなければならない」「結果が出るまでに時間を要する」といった経済的・時間的コストが大きいといえます。

鑑定を依頼する場合には、こうしたメリットとデメリットをあらかじめ認識しておくことが大切です。

まとめ

不動産の値付けには法的な規制がないため、基本的に誰もが自由に決められます。しかし、鑑定評価ができるのは不動産鑑定士しかいません。不動産鑑定評価基準に沿って判定された不動産の価格は、適正なものとして社会的に評価されます。

不動産を売買する、相続するなどにおいては、不動産鑑定士に依頼して正しい鑑定評価を確定しておけば、その後の納得度の高い取引につながることでしょう。