不動産を共有相続した場合に考えられるリスクと単独所有に変更する方法を解説します

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親が遺言書なしに他界した場合は、基本的に相続人全員による話し合いで財産の分け方を決めなければなりません。しかしながら、不動産は現金とは違い、きれいに分割できるものではないため、遺産分割協議でもめやすい財産となり、協議でまとまらないときには相続人全員で共有している状態のままとなってしまいます。

今回は、きょうだい間などで不動産を共有したままにしていることで考えられるリスクについて解説します。

不動産の「共有」「持分」とは

遺産相続は遺言書がある場合にはその内容が優先されますが、遺言書がない場合は民法が定めたルールに基づいて遺産分割が行われます。不動産など分割が難しい財産の場合は、配偶者・きょうだい間など2人以上で共有するケースも少なくありません。
まずは、不動産の「共有」と「持分」について解説しましょう。

1.共有

不動産の「共有」とは、ひとつの不動産を2人以上で共同して所有することをいいます。共有物を使用する共有者間においては、法令によって以下のようなルールが規定(※)されています。

  • 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う
  • 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない

平たく言うと、共有不動産を自分だけが独り占めしていたら、他の共有者は利益が得られません。そのため、自分の持分を超える「賃料相当額」を他の共有者に支払う必要があります。さらには、自分だけの不動産ではないため、一般的・客観的にみて納得を得られるだけの維持管理が求められる、ということです。

この維持管理に関しては、建物の修繕といった保存行為、賃貸物件の場合は共有物を不法占拠している人に対する明け渡し請求、損害賠償の請求といった申し立ては、単独で行うことができます。この場合、自分の持分割合を超える請求賠償を求めることは原則できません。

2.持分

不動産の「持分」とは、ひとつの不動産を複数の人が共同所有しているとき、それぞれの人がその不動産に対して持っている所有権の割合を指します。たとえば、相続発生後、配偶者と2人の子がひとつの建物を相続したとき、遺産分割が成立する前は、各相続人の共有持分は「3分の1」ずつになります。
相続人が複数で遺産分割協議がまとまらない場合は、各相続人の共有状態が続きます。

▼法定相続の範囲

相続人

割合

配偶者と子

配偶者2分の1・子2分の1

※子が複数人いる場合は全員で2分の1を均等分割して相続

配偶者と直系尊属(父母や祖父母など)

配偶者3分の2・直系尊属3分の1

※直系尊属が複数人いる場合は全員で3分の1を均等分割して相続

配偶者と兄弟姉妹

配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1

※兄弟姉妹が複数人居る場合は全員で4分の1を均等分割して相続

※国税庁ウェブサイト「No.4132 相続人の範囲と法定相続分|」を基に筆者作成

子ども、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、原則として均等に分けることになります。ただし、民法に規定された法定相続分は、遺産分割の合意ができなかったときの遺産の取り分であり、必ずしもこの相続分で遺産分割が決められているわけではありません。被相続人は遺言書などで遺産の配分を自由に決めることができます。

不動産の共有で発生するリスク

共有不動産は自由に利用することが制限されるため、一般的には単独で相続したほうがよいとされています。共有したままにしておくと発生しやすいリスクについて解説します。

1.共有者が際限なく増え続ける

共有者に相続が発生すると、不動産の共有者がまた増えることになります。相続した人が共有者となるため、新たな人が共有関係に入るからです。たとえば、きょうだい間で共有した場合、その子どもが共有者に、いずれはその子どもが共有者となります。
そうなると権利関係がますます複雑になり、共有のまま放っておくと2次相続、3次相続が発生し際限がありません。いざ、不動産を処分しようとも共有者が増えすぎてしまったため、手がつけられない状態になりかねません。
近年、わが国で問題となっている「所有者不明土地」が全国で増加している原因のひとつともいわれています。

2.建て替えや売却は全員の同意がなければできない

民法第251条では、「他の共有者の同意を得なければ共有物に変更を加えることはできない」と規定されています。変更とは、共有不動産の「建て替え」「増改築」など、現状を大きく変える工事を指します。これは、「売却」「抵当権設定」など、不動産の処分に関連する重大な行為も該当します。変更・処分に関しては共有者全員の同意が必要です。

3.管理がしにくい

不動産を共有していると管理行為も制限されます。賃貸物件として利用したり、リフォームしたりする場合に、他の共有者の同意を得る必要があります。これらを行うためには、持分価格の過半数におよぶ共有者の賛成を得ることが必要です。いちいち同意を得なければならないため、管理がしにくいといえます。

相続でもめないために「共有関係の解消方法」

何かと制限が加えられる共有不動産は、できれば単独で所有したほうが管理や変更、処分などがしやすいものです。遺言書がない場合は相続人全員で話し合いを行うことになります(「遺産分割協議」といいます)が、解決できない場合は裁判所に分割を請求することになります。

1.現物分割

共有物の形状を変更せずに分割する方法です。たとえば、遺産のうち現金は長男に、不動産は次男に、株式は三男にという具合です。土地においては、相続人の人数で分割して再登記を行い、それぞれが相続することになります。
これは遺産分割の原則的な方法とされていますが、たとえば、現金よりも不動産のほうが、価値が高いなど、財産によっては不公平が起きることも考えられます。分割する際にはお互い配慮が必要です。

2.代金分割

「現物分割が難しい」「現物取得希望者が代償金を他の共有者に支払えない」「取得希望者がいない」などの場合に、共有不動産を一括売却し、その代金を持ち分割合に基づいて分け合う方法です。換価分割ともいわれています。共有者間での協議でまとまらない場合は、家庭裁判所に審判をゆだねることになります。

3.代償分割(価格賠償)

共有物をひとりの取得希望者に取得させ、取得者から他の共有者に対して持分の価格を賠償してもらう方法です。現物分割が困難な場合に行われます。ただし、共有不動産を売却せずに他の共有者にお金を支払わなければならないため、ある程度の資力がなければできない方法です。

まとめ

今回は、「不動産を共有で相続したら」をケースに話題を進めてきました。
たとえば、遺産相続は、子ども世代に対しては、生まれ順に関係なく平等に行われることが原則です。遺言書が作成されている場合には、こちらに基づき相続すればよいのですが、遺言書がない場合、遺産は相続人である子どもが全員で共有している状態となります。

相続時は、きょうだいの関係性が良好な場合も、何かをきっかけに悪化することは残念ながら起こりうるものです。また、きょうだいで共有状態のまま、ひとりが亡くなると再び相続が発生し、権利関係がどんどん複雑になっていきます。

こうした事情も踏まえながら、きょうだいとともに親から遺産を受け継ぐとき、また自身の子どもたちに財産を残す場合には、将来に禍根を残さないよう相続財産についてきちんと考え、話し合うことはもとより、遺言状として明文化しておくことが大切と言えます。