成年後見制度の手続きは? 親と自分のお金を守るための方法をわかりやすく解説

お金・資産

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後見人となることによって、家族にさまざまな負担が生じることもあります。事務的・精神的負担が大きすぎると感じる場合は、法律・福祉の専門家や法人を後見人とするのもひとつの方法です。本人も家族も安心して生活できるように、上手に制度を利用しましょう。

この記事の監修

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBS報道局で社会部記者、経済部記者、CSニュース番組のプロデューサーなどを務める。ライターに転向後は、取材経験や各種統計の分析を元に幅広い視座からのオピニオンを関連企業に寄稿。
趣味はサックス演奏。自らのユニットを率いてライブ活動を行う。
Twitter:@M6Sayaka

親や自分が認知症になったとき、どんなことを不安に思うでしょうか?
「家族や周りの人に負担をかけてしまうのではないか」「買い物や料理など日常のことができなくなってしまうのではないか」。イメージはさまざまあることでしょう。

そして、「判断能力が低下する」というのも認知症で見られる症状のひとつです。
巧妙な誘いに乗って高額の商品やサービスの契約を結んでしまったり、詐欺などの犯罪に巻き込まれたりすることも珍しくありません。
このようなことで老後の大切な財産を奪われないよう、「成年後見制度」について正しく知っておきましょう。

認知症への具体的不安とお金のトラブル

内閣府の世論調査(※)によると、「自分や家族が認知症になった場合、どのようなことに不安を感じるか」という質問に対する上位回答はこのようになっています。

【自分が認知症になったら】

  • 家族に身体的、精神的負担をかけるのではないか:73.5%
  • 家族以外の周りの人に迷惑をかけてしまうのではないか:61.9%
  • 家族や大切な思い出を忘れてしまうのではないか:57.0%
  • 買い物や料理、車の運転など、これまでできていたことができなくなってしまうのではないか:56.4%
  • 外出した際に家への帰り道がわからなくなるのではないか:44.1%

【家族が認知症になったら】

  • ストレスや精神的負担が大きいのではないか:65.1%
  • 家族以外の周りの人に迷惑をかけてしまうのではないか:58.3%
  • 経済的負担が大きいのではないか:49.7%
  • 自分や大切な思い出を忘れてしまうのではないか:47.1%
  • 買い物や料理、車の運転など、これまでできていたことができなくなるので、周りの人の負担が大きくなるのではないか:41.8%

人それぞれにさまざまな不安がありますが、「不要なものを大量に購入させられたり、詐欺的な勧誘の被害に遭ったりするのではないか」という項目に関しても、「自分が認知症になった場合」には27.2%の人が、「家族が認知症になった場合」には26.7%の人が不安を感じていると回答しています。

実際、警察庁の統計によると、オレオレ詐欺や還付金詐欺など、電話をかけて被害者を信用させ、預貯金をだまし取る「特殊詐欺」の被害者は、65歳以上の人が大半を占めています。

警察庁「令和2年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について|p3(4) 高齢者の被害状況」から転載

高齢になると、多かれ少なかれ判断能力は低下します。
もともと高齢の人が被害に遭いやすいこうした詐欺では、認知症でさらに判断能力が低下したところで被害者になるということも少なくありません。
このように、お金に関することで本人も家族も後悔することのないように知っておきたいのが「成年後見制度」です。

成年後見制度の種類と後見人の権限

認知症などの理由で判断能力が不十分になったら、預貯金などの財産管理や介護サービスといった各種契約を自分で適切に結ぶことが難しくなります。そこで、自分で十分な判断できなくなったときに備えて後見人を選定しておくで、法律に基づいた契約・解約といった手続きを代理で行ってもらうことができます。これを、「成年後見制度」と呼びます。

制度の利用にあたっては家族などの申し出を受け、家庭裁判所が後見人の要不要、そして誰が後見人となるのかを判断します。
なお、成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。

1.法定後見制度

法定後見制度では、すでに判断能力が不十分になっている状況で後見人を決定し、契約などの法律行為をしたり、本人の法律行為に同意したり、不利益な契約などの法律行為を後から取り消したりすることができます。これらは判断能力の程度によって、以下の3つに分類されています。

厚生労働省「法定後見制度とは(手続の流れ、費用)|法定後見制度の3つの種類(類型)」から転載

上記の表のとおり、本人の判断能力の度合いによって、「補助」「保佐」「後見」と、権限が広がっていくのが特徴です。
たとえば、親の判断能力が下がり、貸金業者を繰り返し利用するようになってしまっていた、という場合、成人後見制度を利用して子どもを「補助」の後見人とすれば、子どもが同意しない借金の契約は取り消すことができるなどの権限があります。

判断能力の低下は、同居していない場合には後からでしか知り得ないことが多くあります。久々に自宅を訪問したら不要なものを大量に買い込んでいたことがわかった、のように表からは見えにくいことに対し、それ以上の不必要、あるいは詐欺被害的な出費を防ぐために使われる制度です。

2.任意後見制度

判断能力が十分にある健康なうちに後見人を選び、自分の判断能力が不十分になったときに代わりにしてほしいことを取り決めておくものです。
法定後見制度との違いをまとめると、下記のようになります。

▼法定後見制度と任意後見制度の違い

法定後見制度

任意後見制度

制度の概要

本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度

本人が十分な判断能力を有するときに、あらかじめ任意後見人となる方や将来その方に委任する事務(本人の生活、療養看護、財産管理に関する事務)の内容を定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度

申立手続

家庭裁判所に後見等の開始の申し立てを行う必要がある

1.本人と任意後見人となる方とのあいだで、本人の生活、療養看護、財産管理に関する事務について任意後見人に代理権を与える内容の契約(任意後見契約)を締結。この契約は、公証人が作成する公正証書による締結が必要。

2.本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任の申立てを行う必要がある

申し立てができる人

本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長など

本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見人となる方

※本人以外からの申立てにより任意後見監督人の選任の審判をするには、本人の同意が必要。ただし、本人が意思表示できない場合は不要

後見人の権限

制度に応じて、一定の範囲内で代理したり、本人が締結した契約を取り消したりすることができる

任意後見契約で定めた範囲内で代理することができるが、本人が締結した契約を取り消すことはできない

後見監督人等(※)の選任

必要に応じて家庭裁判所の判断で選任

全件で選任

※後見監督人等=任意後見制度における任意後見監督人、法定後見制度における後見監督人、保佐監督人、補助監督人
法務省 ウェブサイト「Q1~Q2 成年後見制度について」を参考に筆者作成

成年後見制度と預貯金の保護

成年後見制度を利用できることになった場合、金融機関に届け出ることで本人のキャッシュカードを使えなくできます。後見人の知らないところで高額の引き出しや振り込みをしてしまうのを防ぐためです。
なお、後見人用のキャッシュカードは発行してもらうことができますので、本人に代わってお金の管理ができることになり、介護サービスの契約や料金支払いを後見人が本人の預貯金から支払うことができます。

成年後見制度の手続きの流れと注意点

任意後見制度の場合は、判断能力が十分なうちに誰が後見人になるのか、どのようなことをしてもらうのかをはっきり決めて契約しますが、即有効となるわけではありません。必要性が出てきたときに家庭裁判所に発効手続きの申し立てることで、効力を発生させることができます。

厚生労働省「成年後見制度|任意後見制度とは(手続の流れ、費用)」から転載

効力発生時には、「任意後見監督人」が選任されます。後見人が適正に仕事をしているかを監督する役割で、弁護士や司法書士といった専門家が選ばれることが多くなっています。

また、法定後見制度を利用する場合は、手続きが増えます。これは後見人を必要とするかどうかの判断、誰が後見人となるべきかの時点から決定する必要があるからです。そして、後見人を選ぶのは家庭裁判所です。家族だけでなく、事情を考慮できる法律や福祉の専門家、あるいは福祉関連の法人を成年後後見人とすることもあります。この場合、家庭裁判所の判断には不服申し立てはできません。

適切な後見人を選ぶためには、本人の日々の実態や事情を把握するところから始めなければなりません。家族が同居していれば、さほど難しいことではありませんが、そうでない場合は裁判所などに説明できるようにしておく必要があります。そのため、まずは自治体の地域包括支援センターや社会福祉協議会など成年後見制度に関係している団体の窓口に相談することから始めましょう。本人の実生活を把握するために定期的に見守りの訪問をしてくれるところもあります。また、こうした施設や団体には、必要な手続きについて相談もできます。離れて暮らしている場合、電話などだけでは本人の生活を具体的に把握するのは難しくなります。地域の関連団体に確認してもらうのが良いでしょう。

まとめ

成年後見制度は判断能力が低下している状態でも財産を守ってくれる便利な制度です。ただ、あらかじめ本人の意思で後見人を選び、互いが合意していれば良いのですが、判断能力が不十分になってからの制度利用は注意が必要です。財産管理を他の人に委ねることは安心感のある一方で、本人の行動を制限することがあるからです。

どこまでが認知症による判断低下なのか、どこまでが本人のしっかりとした意思なのかがわからず、その場になって親子でもめてしまっては話が先に進まなくなります。判断能力の低下が軽度で、本人もその自覚があるうちに話し合いが必要です。

また、法定後見制度を利用する場合、「補助」「保佐」「後見」と段階がありますが、途中で切り替えが必要になってくるタイミングもあるでしょう。それをつかむためにも、判断能力を含めた生活の変化について定期的に把握する必要があります。できれば1~2週間に一度は様子を見ておきたいところですが、遠方で暮らしていてそれが難しい場合には、地元の福祉協議会などに依頼しましょう。

後見人となることによって、家族にさまざまな負担が生じることもあります。事務的・精神的負担が大きすぎると感じる場合は、法律・福祉の専門家や法人を後見人とするのもひとつの方法です。

本人も家族も安心して生活できるように、上手に制度を利用しましょう。

※ 内閣府政府広報室「『認知症に関する世論調査』の概要|図5 認知症に対する不安(本人自身)、図6 認知症に対する不安(家族)」
https://survey.gov-online.go.jp/tokubetu/r01/r01-ninchishog.pdf