雇用保険制度は、離職したときに給付金を受け取れる制度です。定年退職も失業に含まれ、条件を満たしていれば基本手当をもらえます。しかし、いつ辞め、どの給付をもらうかを考える場合には、再就職プランもしっかり検討してから退職準備をするようにしましょう。
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定年後もできるだけ働こうと考える人は多いと思います。しかし、少しゆっくりしたい気持ちもあったり、収入ダウンが気になりそのまま継続雇用で職場に残ることを考えたり、迷うことも多いのではないでしょうか。生活のことを考えると、収入として得られるものはできるだけ欲しいものです。
そこで、今回は定年退職後にもらえる雇用保険からの給付金について解説します。
雇用保険からの給付はあくまで働く意思があることが前提ですが、概要や受給条件を知っておくことで定年後の生活設計の役に立つかもしれません。
そもそも定年退職で失業保険をもらえるの?
雇用保険制度は、離職したときに給付金を受け取れる制度であることを、ほとんどの方がご存じだと思います。「失業保険」「失業給付」とも呼ばれていますが、正式には「基本手当」といいます。
以後、雇用保険からの他の給付についても紹介しますので、ここからは「基本手当」として話を進めていきます。
さて、失業といっても「自己都合退職」、解雇や倒産などによる「会社都合退職」など、さまざまな事情がありますが、定年退職も失業に含まれます。なかには、「定年退職でも基本手当をもらえるのか」という疑問を感じている人もいることでしょう。
結論から言うと、基本手当をもらえます。ただし、次の2つの条件を満たしておかなければなりません。
1.雇用保険への加入期間
1つ目の条件として、離職の日以前2年間に12カ月以上雇用保険に加入していることが必要です。ただし、解雇や倒産など会社都合で退職した場合は、離職の日以前1年間に雇用保険加入期間が6カ月あれば基本手当の対象となります。ちなみに、このときの1カ月とは、「賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月」のことを言います。(※1)
2.失業後の働く意欲と求職
2つ目の条件は、失業後も働く意欲や就職できる能力があり、求職活動を行っていることです。
ここでいう「求職活動」とは、ハローワークで求職の申込みを行い、求職の活動を行っていることを指します。そのため、「定年後も働こうとは考えているけど、しばらくは休養して、そのうちゆっくり仕事を探そう」という場合には、基本手当は支給されないことがあります。
実は、定年退職の場合、もうひとつ条件を満たしておくことが必要です。それは、定年退職の年齢が65歳未満ということです。
後述しますが、雇用保険の加入や給付は65歳を境に、65歳未満の人と別の取り扱いがなされます。
基本手当は前述2つの条件を満たし、かつ65歳未満で退職した人に支給される手当です。2013年に施行された改正高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用の確保についての義務付けがされ、以前の60歳定年から65歳定年に変わった、という会社もあるかもしれません。お勤め先の定年年齢や定年退職日の定め方をあらためて確認しておくことが大切です。
65歳未満で定年退職、基本手当はいくらもらえる?
定年退職される方のなかには、これまで40年近く働き続けて失業とは縁がなかった人もいるでしょう。この場合、雇用保険からお金がもらえることは知っていても、具体的な内容を知らないという人もいると思います。
前述の3つの条件をすべて満たしているとした場合、いつから、いつまで、いくら基本手当をもらえるかを把握しておきたいところです。
定年退職の場合、基本手当は、ハローワークで求職申込みをした日(受給資格が決定した日)から通算して7日間の待期期間を経て、支給が開始されます。定年前に自己都合で退職をする場合には、この待機期間に加えて3カ月間の給付制限期間があることも知っておくといいでしょう。
基本手当の所定給付日数は、自己都合および定年退職の場合、被保険者期間によって次のように定められています。
被保険者期間 |
1年未満 |
1年以上 |
10年以上 |
20年以上 |
---|---|---|---|---|
所定給付日数 |
― |
90日 |
120日 |
150日 |
ハローワーク「基本手当の所定給付日数」を基に筆者作表
また、基本手当の日額は、「賃金日額×所定の給付率」で計算されます。
「賃金日額」とは、離職した日の直前の6カ月に毎月きまって支払われた賃金合計を180で割って算出した金額のことで、賞与や退職金等は含まれません。なお、給付率は年齢により異なります。(※)
- 60歳未満の人:50~80%
- 60歳以上65歳未満の人:45~80%
通常、賃金が低いほど給付率が高くなるように定められています。このように、基本手当の金額は人それぞれに異なることがおわかりいただけると思いますが、年齢区分ごとに基本手当日額の上限額が定められています。
▼基本手当日額上限額(2020年3月1日現在)
年齢区分 |
基本手当日額上限額 |
---|---|
30歳未満 |
6,815円 |
30歳以上45歳未満 |
7,570円 |
45歳以上60歳未満 |
8,330円 |
60歳以上65歳未満 |
7,150円 |
ハローワーク「基本手当の所定給付日数」を基に筆者作表
仮に63歳で定年退職するとして、雇用保険加入期間が20年以上、基本手当日額が7,000円だとしましょう。この場合、基本手当は最大で105万円(7,000円×150日)受給できることになります。
ただし、あくまで基本手当は失業期間中、4週ごとに失業認定を受けて支給されるものです。失業要件を満たさなくなったり、再就職が決まったりした後は手当の支給はなくなります。
65歳で定年退職、失業保険はもらえない?
お勤めの会社によっては定年が65歳のところもあるでしょう。
雇用保険の加入や給付は65歳を境に条件が変わり、65歳以上の被保険者のことを「高年齢被保険者」といいます。ただし、65歳以上であっても短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者などは、「高年齢被保険者」ではありません。
さて、この「高年齢被保険者」が失業した場合には、これまで見てきたような基本手当は支給されなくなります。その代わりとして支給されるのが、「高年齢求職者給付金」です。
この給付金は基本手当のように4週ごとに失業認定を受けた後に支給されるのではなく、離職後にハローワークで求職の申込みをして資格確認を受けた後に一時金として支給される、1回限りの支給です。
支給額は先に見た基本手当の日額に、雇用保険加入期間によって定められている日数分を乗じた金額となります。
被保険者期間 |
1年未満 |
1年以上 |
---|---|---|
高年齢求職者給付金の額 |
30日分 |
50日 |
ハローワーク「基本手当の所定給付日数」を基に筆者作表
このほか、基本手当の場合と異なる点がいくつかあります。これをまとめると次表のようになります。
▼「基本手当」と「高年齢求職者給付金」の違い
|
基本手当 |
高年齢求職者給付金 |
---|---|---|
離職時年齢 |
65歳未満 |
65歳以上 |
支給条件 |
|
|
支給時期 |
4週ごと(要失業認定) |
資格確認後1回のみ |
所定給付日数 |
定年の場合(被保険者期間により) |
(被保険者期間により) |
出所)筆者作表
他の条件が同じでも、定年退職の年齢が1歳違えば受給できる金額は大きく変わります。その差は最大で100日分になります。
改正高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用の確保についての義務付けがされ、今後65歳で定年退職する人は増えることが考えられます。そのため、これからリタイアメントプランを考える人はきちんと知っておきたいポイントです。
もうひとつ大切なポイントもあります。それは年齢の数えかたです。実は、雇用保険上では「誕生日の前日に満年齢に達する」とされています。つまり、65歳で離職といっても、実際には、どの時点の離職かで給付される手当が次のように変わります。
離職日 |
雇用保険からもらえる給付 |
---|---|
65歳の誕生日の2日前まで |
基本手当 |
65歳の誕生日の1日前~ |
高年齢求職者給付金 |
出所)筆者作表
受けられる給付がどちらになるかは、定年後の生活設計においても大切なことです。定年年齢の定めがある会社にお勤めの方は、定年となる日がいつなのかもきちんと確認しておきましょう。会社によって、誕生日当日、誕生日の前日、誕生日の属する月の月末など、さまざまです。
なお、冒頭でも説明しましたが、雇用保険からの給付はあくまで「働く意思と能力があり、求職活動をしていること」が条件です。リタイアしてしまう場合にはどちらの給付も受けられません。また、雇用保険の給付を受けるために、いったん退職を選ぶのもひとつの方法ですが、希望どおりに再就職できるかどうかはわかりません。雇用保険の給付をアテにするよりも、継続雇用でできるだけ長く就労することも老後の収入を高めるための方法です。
いつ辞め、どの給付をもらうかを考える場合には、再就職プランもしっかり検討してから退職準備をするようにしましょう。
※ハローワーク「基本手当について」
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html