定年退職後の健康保険はどうなる? 任意継続や被扶養者など違いを解説

お金・資産

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会社で健康保険に加入している人は、定年退職後はそこから外れることになります。老後資金設計と同様に、定年後の医療保険も夫婦共同で最善の方法を選択することが、老後のより良い生活につながることでしょう。

この記事の監修

續 恵美子

生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに――。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。生きるうえで大切な夢とお金のことを伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。

会社で健康保険に加入している人は、定年退職後はそこから外れることになります。再就職や転職などで新たな健康保険に加入する場合は別として、退職後の公的医療保険は、自分で選択しなければなりません。

いままでは病気やケガとはさほど縁がなくても、歳を取るごとに病気のリスクは高まることが心配です。そのため、定年を機に公的医療保険の加入途切れがないよう、スムーズに手続きすることが必要です。しかし、公的医療保険選びは老後の生活費設計にも影響しますから、慎重に選びたいものです。

今回は、定年後の公的医療保険の選択肢や、それぞれの保障や保険料負担の違いなどを見ていきましょう。

退職後の公的医療保険、選択肢には何がある?

会社を退職すれば健康保険から外れ、国民健康保険へ切り替える――。このように考える方もいらっしゃることでしょう。
公的医療保険は大きく分けると「健康保険」と「国民健康保険」の2種類ですが、退職後は基本的に次の3つの選択肢から選ぶようになります。

1.国民健康保険へ切り替える

居住地の市町村が運営している医療保険に加入する方法です。自営業者や退職者など、被用者保険(健康保険)に加入していない人が加入します。
保険給付の内容は健康保険とほぼ同じですが、「傷病手当金」や「出産手当金」はありません。なお、これまで会社の健康保険に家族が被扶養者として加入していた場合には、家族もあわせて国民健康保険に加入することが必要です。

2.これまで加入してた健康保険を任意継続する

これまで会社で加入していた健康保険にそのまま継続加入する方法です。最長2年間まで加入できます。
国民健康保険に切り替える場合と同様、「傷病手当金」や「出産手当金」の給付は受けられなくなりますが、在職中と同様の保険給付が受けられます。
これまで健康保険に家族を被扶養者として入れていた場合には、手続きをすることで任意継続の被扶養者とすることができます。

3.家族の健康保険の被扶養者となる

配偶者や子ども自身が健康保険に加入している場合は、その健康保険に被扶養者として加入することも可能です。被扶養者となっても保険給付は同様に受けられ、自分自身が保険料を負担する必要はありませんし、扶養する人の保険料が上がることもありません。

なお、いったん定年を迎えた後に雇用継続する場合や、他の事業所に転職する場合は、勤務先の「健康保険」に新たに加入することになります。

まずは要件をチェック

上で紹介した3つの選択肢のうち、「任意継続」と「被扶養者」になる場合には、それぞれ定められている要件を満たしていなければなりません。

任意継続

任意継続をするためには、次の2つを満たすことが要件とされています。

  1. 退職日までに継続して2カ月以上の被保険者期間があること
  2. 退職日翌日から20日以内に手続きをすること

なお、任意継続の被保険者になると保険期間は2年間継続します。ただし、保険料の納付が1日でも遅れた場合には任意継続の資格を喪失してしまいます。

被扶養者になる

家族が加入している健康保険に被扶養者として加入するためには、その家族(被保険者)に生計を維持されていることが第一の要件です。続柄の範囲によっては被保険者と同居していることも必要です。

上の図は、健康保険の加入者本人から見た被扶養者の範囲を表したものです。定年退職後に自分の配偶者または子どもの扶養に入る場合、同居している必要はありませんが、配偶者または子どもに生計を維持されていることが要件のひとつです。

「生計を維持されている」という判断は、収入が基準になります。認定対象者が60歳以上の場合は、年間収入が180万円未満、かつ被保険者の年間収入の2分の1未満とされています。しかし、この基準をクリアするには、「定年退職日が年初早々」「定年退職金が支給されない」というケースでない限り、難しいのかもしれません。

公的医療保険、種類の違いで保障内容に違いはあるの?

老後生活に入ってからの医療保障は充実していることが望まれますが、冒頭で紹介した3つのどれを選んでも、保険給付内容は現在加入している健康保険とほぼ同じです。

▼公的医療保険の種類と保険給付内容(6~69歳までの場合)

健康保険

国民健康保険

本人

任意継続

被扶養者

自己負担割合

3割

3割

3割

3割

高額療養費

受けられる

受けられる

受けられる

受けられる

海外療養費

有り

有り

有り

有り

傷病手当金

有り

なし

なし

なし

出産手当金

有り

なし

なし

なし

埋葬料

有り

有り

有り

有り

筆者作表

「傷病手当金」と「出産手当金」が受けられなくなるのは前述したとおりですが、医療機関にかかったときの自己負担割合や、1カ月あたりの医療費が高額になった場合の「高額療養費」は、これまでと同様です。また、海外で医療機関にかかったときの「海外療養費」も、どの場合であっても同じように受けられます。

ちなみに海外療養費とは、海外旅行中などに急な病気やケガで、やむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる制度のことです。死亡したときの埋葬料(埋葬費)も、健康保険、国民健康保険ともに支払われます。

保険料負担はどう変わる?

保険給付の内容がどれも変わらないのであれば、保険料の負担額が選択を決めるポイントになりそうです。老後の家計支出に影響を与えることになりますから、しっかり確認しておきましょう。

被扶養者になる場合

家族の被扶養者になると、被扶養者自身は健康保険料を負担することはありません。被扶養者になるための要件を満たしているのであれば、選択すると良いでしょう。

任意継続

現役時代は労使折半の仕組みで健康保険料の半分を会社が支払ってくれていましたが、退職後は全額を自分で負担するようになります。これは、介護保険料も同じです。そのため、支払う保険料は基本的に現役時代の2倍になりますが、正確には退職時の標準報酬月額に「協会けんぽ」などの各保険者が決めている保険料率を乗じて、任意継続後の保険料が決定されることになります。
たとえば、「協会けんぽ(東京都)」の健康保険料率は9.87%、介護保険料率は1.79%です(※)。

なお、任意継続保険料計算に用いる退職時の標準報酬月額には上限が設けられています。令和2年度現在の上限は30万円です。つまり、「協会けんぽ(東京都)」の場合、最高でも健康保険と介護保険を合わせた保険料金額は、月3万4,980円(30万円×(9.87%+1.79%))になります。

保険料率は、現在加入している健康保険によって異なります。ご自身の保険料がいくらになるのかを確認しておきましょう。

国民健康保険の場合

国民健康保険の保険料は自治体ごとに算出方法が異なります。次の4つの区分から計算した金額を合計して算出しますが、どの区分を課すのかは自治体によって異なります。

▼国民健康保険料の計算区分

所得割

基礎控除後の所得金額に対して、市区町村が決定した料率を乗じて計算した額

均等割

市区町村が決定した1人当たり均等割額に世帯内での国保加入者を乗じて計算した額

平等割

一世帯ごとにかかる額。自治体によっては賦課しないしないところもある

資産割

保有資産にかかる額。自治体によっては賦課しないしないところもある

筆者作表

上記を見てもわかるように、料率などは自治体によって異なるうえ、自治体によっては4つの区分を組み合わせた保険料とするところもあるため、居住する自治体がどのような算出方法を採用しているかをまず確認しなければなりません。また、定年後に国民健康保険に加入する場合に知っておきたいのが、所得割の計算基準となる所得は前年のものを使用することです。退職前年の所得が多い人は、国民健康保険に加入してすぐの保険料は高くなる可能性があります。

国民健康保険料の場合、均等割が加算されますから世帯内で国民健康保険に加入する人員が多いほど保険料が上がります。これは、加入者全員の所得を合わせて計算するためです。たとえば、会社員時代はパートで働く妻を扶養に入れていたケースでは、定年後に国民健康保険に切り替えると妻も同時に加入することになります。すると、均等割が2人分になるうえ、妻のパート収入も所得割の計算基準に含めることになります。

自治体によってはウェブサイトで国民健康保険料をシミュレーションできるところもありますので、気になる方は確認しておきましょう。

国民健康保険税が引き上げに!?

国民健康保険料の算出方法は自治体によって異なるものの、加入する人数が多いほど、また加入者の所得が多いほど保険料が高くなる仕組みです。しかし、実は国民健康保険料(国民健康保険税)には年間の限度額が設けられており、一定額以上を超えないようになっています。この限度額が令和2年度の税制改正で、医療費給付分の限度額は年61万円から63万円に、介護納付金分は年16万円から17万円へ引き上げられました。そのため、所得または加入人数によっては保険料が増額になるケースも出てくることになります。
高齢化社会が進み、医療費負担や介護費負担が増えることを考えると、今後も国民健康保険料は支払う額が大きくなる可能性をはらんでいます。

前述したように国民健康保険料は自治体ごとに異なりますから一概には言えませんが、一般的には任意継続に比べて高くなる可能性があります。シミュレーションをしてみて保険料が高いと思ったら、まずは2年間任意継続を選択するのがいいでしょう。その後は夫婦の年齢や所得によりますが、働き方を調整してみるのもよいでしょう。妻がまだまだパートで働く場合は、妻自身が健康保険に加入できるよう労働時間を増やしてみるのも世帯全体の保険料を抑える方法のひとつです。

老後資金設計と同様に、定年後の医療保険も夫婦共同で最善の方法を選択することが、老後のより良い生活につながることでしょう。

※ 協会けんぽ「令和2年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r2/ippan_2/r2040113tokyo.pdf