一級建築士がレクチャー"耐震リフォーム"のポイント

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「もし、大きな地震がきたら、我が家は大丈夫なのだろうか......」
地震大国である日本に住まいを持っている人なら、誰もが地震のたびに心配することかもしれません。しかし、住宅の耐震性に不安があっても、いったい何から始めていいものかわからないという人も多いものです。耐震リフォームとひと口にいっても、どのような工事を行うのか、そもそも我が家に耐震リフォームの必要があるのか、わからない方がほとんどではないでしょうか。
そこで本コラムでは、耐震リフォームの概要について解説を進めていきます。

耐震リフォームまでの流れ ~まずは耐震診断から~

住宅を人間にたとえるならば、耐震リフォームは外科手術のようなものといえるかもしれません。 当然「このところ具合がよくないようだ」というだけで手術は行えません。まずは、本当に病気なのか、どのような状態なのかを正確に把握するために診察や検査を行います。耐震診断は、いわば住宅の健康診断。まずは専門知識を持つ建築士(リフォームエンジニア)が、建物の状態について現況調査を行うことからはじめます。

国土交通省「新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法」を基に作図

耐震診断の結果は、「評点」と呼ばれる数値によって耐震補強の必要性の有無を判定し、「倒壊する可能性がある」などの場合には、建物全体の状態から耐震補強の方法を検討していきます。耐震補強は、数ある補強方法の中からいくつかの方法を組み合わせて行うことが一般的です。施工の期間や範囲、予算、住みながら行うのか、仮住まいを行うのか等、建主の要望を伺いながら打ち合わせを重ねて補強方法を決定し、耐震補強工事へと進みます。
耐震性に不安を感じたら、まずは正確に状態を把握するために耐震診断を行ってみましょう。耐震診断の結果、倒壊しないという判定であれば安心できますし、耐震性の弱い危険な箇所やその度合いが明確になることで漠然とした不安から解放されます。

耐震リフォームの種類とは?

耐震診断結果から、地震の揺れに対して建物のどの部分が弱く補強が必要なのかが具体的にわかります。木造住宅の耐震リフォームで行われるさまざまな補強の中でも代表的な3つの方法をご紹介します。

1.基礎を補強する方法

1995年1月の阪神淡路大震災をはじめとした過去の大地震では、柱や壁で囲まれた建物自体は無事であっても、基礎が崩れたり建物が横転したりしてしまった住宅がありました。地面と建物をつなぐ基礎に主な問題があった住宅です。耐震診断で現況調査を行うと基礎に鉄筋が入っていなかったり、ひび割れが激しくコンクリートの強度を損なっていたりする住宅もあります。
基礎の補強方法としては、現在のコンクリートの基礎に鉄筋コンクリートの基礎を抱き合わせる工事がかつて主流でしたが、コンクリートを打つスペースや工期が必要となる大掛かりな工事となってしまうため、実施困難な場合も多々ありました(下図左)。最近では技術が進み、基礎表面にアラミド繊維シートを接着するだけで、鉄筋コンクリートと同等以上の強度が得られる方法が行われています(下図右)。こちらは、高速道路の脚柱の補強にも採用されています。

住友林業のリフォーム「オリジナル耐震技術スミリンREP工法『基礎・土台を補強する技術』」より

2.基礎の上にある"柱""土台"との接合を強固にする方法

2016年4月に発生した熊本地震では、「新耐震基準」と呼ばれる1981年以降に建築された住宅の被害も深刻でした。新耐震基準で倒壊した住宅77棟のうち、95%にあたる73棟で接合部の状態が不十分であったことが報告されています(※)。新しい住宅であってもボルトが緩んでいるなどの施工不良により、必要な強度が得られなかった住宅もありました。

主な倒壊要因
  • 基礎と柱、土台が金物で接合されていなかった。
  • 金物が接合されていても、地震の揺れで接合部に力が加わり負荷に耐えられなかった。

これには「2000年基準」と呼ばれる建築基準法の改正で、木造住宅の「柱梁や筋かいの接合部」について具体的な接合方法が定められたことが関係しています。そのため改定のあった2000年以前に建築された住宅は、接合部の状態が不十分である可能性が考えられ、耐震診断を行うことが推奨されています。
接合部の補強は、下図右のように金物で補強します。建物の外側から取り付けるタイプや、建物の内側から取り付けるタイプなど状況によって使い分けることができるため、取り組みやすい補強方法です。

住友林業のリフォーム「オリジナル耐震技術スミリンREP工法『接合部を強固に緊結する技術』」より

3.壁を強くする方法

木造住宅では、筋交いや構造用合板で補強された壁を「耐力壁」とよび、耐震性を高めるうえで重要な役割を担っています。建物の中で東西南北の各方向に、バランスよく耐力壁が配置されていることがポイントとなります。窓や扉などの開口部が多い南面や、リビングやダイニングといった大空間で耐力壁が不足し、バランスを欠いている場合に、必要な箇所に耐力壁を追加することで、建物全体の耐震性を高める補強方法です。
しかしリフォームで耐力壁をつくるには、天井や床をはがすこととなり、工期も長くコストも余計にかかってしまうため合理的ではありません。そのため天井や床など壊す範囲を出来るだけ抑えるなど、さまざまな状況に合わせて施工できる技術が開発されています。和室の壁を補強する方法をはじめ、光を取り入れるため壁の代わりにガラスブロックを耐力壁として使い強度を上げる方法、門型のフレームによって大空間を維持しながら補強する技術などがあります。同じ住宅であっても、どこをどのように補強するのか、複数の方法を考えられる場合も少なくありません。
これまで述べた方法だけをとっても比較検討は難しく、そのため信頼できるリフォーム業者を選定することが大切といえます。

住友林業のリフォーム「オリジナル耐震技術スミリンREP工法『壁を強くする技術』」より

耐震リフォームのまとめ

耐震リフォームの工事では、建物全体のバランスを考慮しながら、基礎の補強、接合部の補強、壁の補強に代表されるいくつかの補強方法を組み合わせて耐震性を高めます。中でも接合部や壁の補強では、柱や梁、土台といった構造部位に施工するために天井や床、壁紙といった内外装材を剥がすことが多くなります。そのため、耐震リフォームを行うときには断熱リフォームや水回り設備の更新、間取り変更や内外装のリフォームなどを同時に行うことで、工事期間や費用の面で効率的に進めることができます。何らかの住宅のリフォームを考えているときが、耐震リフォームを考えるよいタイミングであるともいえるでしょう。

また、耐震診断や耐震補強を行う場合には、費用の一部を地方公共団体が補助する制度があります。その他にも一定の条件を満たすことで、所得税や固定資産税の減税を受けられる場合があります。工事が終わってからでは、必要な手続き等の条件を満たせない場合がありますので、利用に際してはあらかじめお住まいの自治体や税務署に確認しておきましょう。

耐震リフォームは、現在の住宅の状態をしっかり把握することが大切です。築年数が経過している建物では、雨漏りやシロアリ被害、湿気等による柱や土台などの腐食をはじめとした劣化状況が建物の耐震性に大きな影響を与えます。早期に発見し、早期に対策を行えば、より小規模な工事で済む場合も少なくありません。まずは我が家の健康診断から、はじめてみてはいかがでしょうか。

※「令和2年度平均年収と学歴調査

【参考・引用】
※国土交通省「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント
http://www.mlit.go.jp/common/001155087.pdf