【専門医が解説】補聴器を買うタイミングや選び方、正しい使い方は? 

健康

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補聴器は正しく選び、使わなければ、まったく役に立たないものになってしまいます。正しい診断を受け、適切な補聴器をつけることで、豊かな人生を送ってください。

この記事の監修

耳鼻科医もぱん

2012年、国公立大学医学部医学科を卒業。大学病院勤務を経て、現在は総合病院に勤務する耳鼻科医。専門分野は、難聴や耳科手術。日本耳鼻咽喉科学会専門医、補聴器相談医、補聴器適合判定医師の資格と、大学病院で補聴器外来を担当した経験を持つ。

高齢になると、耳の聞こえが悪い、いわゆる「耳が遠くなる」状態となり、日常生活が不便になるほか、心身に悪影響を与える場合もあります。
高齢の親が「耳が遠くなってきて不便そうだ」となると、補聴器の利用を考える人は多いでしょう。しかし、補聴器は正しく選び、使わなければ、まったく役に立たないものになってしまいます。

今回は、補聴器の正しい使い方・選び方と、補聴器の利用を始めるタイミングについて解説します。

耳が遠くなる原因

加齢の影響で耳の聞こえが悪くなった状態を、「加齢性難聴」といいます。
加齢性難聴は高音域の聴力が低下するため、「何か言っていることは分かるが、何を言っているのか分からない」「ざわざわした場所では言葉が聞き取りにくい」という自覚症状が現れます。

なお、本人の自覚がない場合の周囲が気付いてあげたいサインは、下記のとおりです。

  • 聞き返しが多くなる
  • テレビの音量が大きくなる
  • 会話の一部を聞き落とすことが多くなる
  • 話す声が大きくなる

「難聴者は非難聴者に比べて、認知症に1.9倍なりやすい」と報告する海外のレポートも存在します(※1)。これは、難聴になると家族との会話がうまく進まずイライラしたり、何人かで話すときに疎外感を感じたりするようになるからです。その結果、他人とのコミュニケーションが億劫となり、周囲から孤立し、うつ状態になることがあります。高齢の家族を持つ方は、こうした変化にも気付いてあげましょう。

補聴器の利用を始めるタイミングは?

一般的に、聴力レベルが40dB以上になると、「中等度以上の難聴」と判断されます。日常生活でも支障がでてくるため、このタイミングで補聴器の利用を検討する方が多くいらっしゃいます。一般的な人の声の大きさが大体40~50dBなので、これよりもレベルが悪くなると、聞き取りづらくなるからです。

出典:立木孝ほか. 日本人聴力の加齢変化の研究: 図1 年齢別平均 (参照 2021-06-30)

しかし、補聴器選びにあたっては、耳が遠くなる原因は人によって違うことを知っておく必要があります。これを説明する前に音が聞こえる仕組みを簡単に説明しておきましょう。

音は耳の穴から入って鼓膜にあたり、耳小骨を経て奥にある蝸牛(かぎゅう)に伝わります。蝸牛で音の信号が電気信号に変換され、蝸牛神経を通って脳に送られます。耳の穴から鼓膜までを「外耳」、鼓膜から蝸牛までを「中耳」、蝸牛や平衡感覚を司る三半規管がある部位を「内耳」といいます。

「看護roo!」耳の断面図のイラスト

外耳や中耳に問題があり、音の伝わりが悪くなる難聴を「伝音難聴」といいます。具体的な病気には、耳垢栓塞、中耳炎などがあります。一方、内耳や蝸牛神経に問題がある場合を「感音難聴」といいます。加齢性難聴は内耳に問題がある感音難聴=「内耳性難聴」の一種です。
「伝音難聴」の場合は、投薬や処置、手術で改善する可能性がありますので、補聴器を検討する前に近くの耳鼻科で相談してください。

「補聴器」と「集音器」の種類や違い

耳を聞こえやすくする器械には「補聴器」と「集音器」の2種類があります。ここでは両者の違いを説明しつつ、補聴器の正しい使い方と選び方を解説します。

「補聴器」と「集音器」の違い

補聴器と集音器の違いは下記のとおりです。

補聴器

集音器

価格帯

標準的には10万円台

数万円

認定の有無

薬機法にしたがい、厚生労働省の認定を受けた「管理医療機器」

特に認定はない。音響機器・家電扱い

安全性(出力制限)

問題はない。

大きな音が大きくなりすぎないように出力制限の機能がある

問題あり(耳を悪くする)

小さい音も大きい音も一律に大きくしてしまう

調節性

周波数(音の高さ)に合わせて細かい調節が可能。聴力に合わせて足りない音を大きくできる

周波数(音の高さ)に合わせた細かい調節はできないため、すべての音を大きくしてしまう

機能性

ハウリング防止機能、特定の方向から音を聴きやすくする指向性機能、雑音抑制機能などがある

特になし

亀井昌代, 桑島秀, 片桐克則, 平海晴一, 佐藤宏昭, 小田島葉子:補聴器と集音器 (助聴器) の特性および評価に関する検討.日本耳鼻咽喉科学会会報 123(7):580-585, 2020.より作成

まず、聞こえやすくする機器として「集音器」はお勧めできません。なぜなら、集音器は音の高さと大きさの調整ができないからです。補聴器はその人の聴力に合わせて、足りない高さの音を大きくするなど細かく調節できますが、集音器では低い音も高い音も同じように大きくしてしまいます。また、補聴器には、大きすぎる音が大きくならないよう出力を制限する機能がありますが、集音器にはそれがないので、耳を悪くするおそれがあります。

補聴器の正しい選び方

補聴器には、「耳掛け型」「耳穴型」「箱型」といった3種類の形式があります。それぞれのメリット、デメリットは以下の通りです。

基本的には、「耳掛け型」をお勧めします。軽度~重度のすべての難聴に対応ができ、価格帯も標準だからです。

「耳穴型」は、どうしても目立ちにくい補聴器にしたい場合に検討します。ただ、自身の耳の穴の形にピッタリはまるように印象材という粘土のようなもので型をとり、オーダーメイドで作成するので、価格は高くなります。また、高度以上の難聴の場合は、出力不足になる機種が多いため、難聴が悪化した際に買い替えが必要になる場合があります。

「箱型」は、手先や目に不自由がある方、認知症などの理由から自身では補聴器の管理ができない方に使用するケースがほとんどです。本体からイヤホンまでのコードが長いため、ひっかけてしまったり、衣擦れの音が入ってうるさかったりするので、普通に活動している方には使いにくいでしょう。

補聴器の正しい使い方

大前提として、補聴器をつけてもすぐにきれいに聞こえるようにはならないことを知っておきましょう。補聴器はかけてすぐきれいに見えるメガネとは違い、付けてからしばらくはうるさく聞こえます。これはどんなに性能の良い補聴器でも同じです。
難聴の脳はいままで音の刺激が少ない状態に慣れているので、急に大きな音を聞くとうるさく感じるようになっています。そこで、補聴器を使用するにあたり、難聴の脳を変えるトレーニングが必要になります。

補聴器は7割程度の音量から始めます。当初はうるさく感じますが、つけ続けているうちに耳が慣れ、うるさく感じなくなります。そうなったら少し音量を上げます。すると、またうるさく感じますが、しばらくして慣れるので、また音量を上げます。こうした定期的な調整を1~2週間に1回行って徐々に音量を上げ、十分な音量でもうるさく聞こえないようにしていきます。
そして、朝起きてから寝るまでのあいだ、常に補聴器をつけ続けることを最低でも3カ月続けることでようやく使い慣れてきます。

購入にあたって補助金も

補聴器は健康保険や介護保険の適応を受けることができません。しかし、補助金や医療費控除の対象となる場合があります。

身体障害者手帳

身体障害者手帳を持っている場合、以下の金額が国から支給されます。自己負担は原則1割なので、概ね1万円未満で購入できるでしょう。

名称

価格

耐用年数

高度難聴用ポケット型

4万1,600円

5年

高度難聴用耳かけ型

4万3,900円

5年

重度難聴用ポケット型

5万5,800円

5年

重度難聴用耳かけ型

6万7,300円

5年

耳あな型(レディメイド)

8万7,000円

5年

耳あな型(オーダーメイド)

13万7,000円

5年

厚生労働省資料「補装具種目一覧(平成18年厚生労働省告示第528号)」の情報を基に筆者作成

「聴覚障害」の身体障害者に該当するためには、以下のいずれかの基準(※2)を満たす必要があります。

  • 両耳の聴力レベルが70dB以上のもの(40cm以上の距離で発声された会話語を理解し得ないもの)
  • 一側耳の聴力レベルが90dB以上、他側耳の聴力レベルが50dB以上のもの
  • 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50%以下のもの

この基準は、話す相手の近くに寄って大声で話してもらってやっと聞き取れるレベルです。

申請には、身体障害者福祉法第15条に基づく指定医師の記載する診断書が必要です。これは、耳鼻科専門医であれば、誰でも発行できます。

医療費控除

補聴器の購入費は医療費控除の対象です。補助金ではありませんが、実質負担が減らせる制度です。ただし、控除を受けるには下記の手続きが必要です。

日本耳鼻咽喉科学会「補聴器購入者が医療費控除を受けるために」の情報を基に作図

つまりは、「補聴器相談医」がいる耳鼻科を受診し、「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」を書いてもらい、補聴器販売店に行って補聴器を勧めてもらう、という流れです。
なお、お近くの「補聴器相談医」を探す際には、日本耳鼻咽喉科学会「補聴器相談医名簿」を参照すると便利です。

日本耳鼻咽喉科学会「補聴器相談医名簿

医師と相談し、補聴器を上手に選びましょう

難聴が進むと、認知症やうつ状態になるリスクが高くなります。高齢の家族を持つ方は、まずは難聴の兆候に注意してあげましょう。そして、補聴器の使用に際しては、まずは補聴器相談医がいる耳鼻科を受診しましょう。

購入にあたっては「認定補聴器技能者」や「認定補聴器専門店」などの資格を持った補聴器販売店に行くことも重要です。販売店情報は、テクノエイド協会のウェブサイトで検索できます。ぜひご利用ください。

テクノエイド協会ウェブサイト

もちろん補聴器相談医を受診してもらえれば、近くの「認定補聴器専門店」を紹介してくれますし、「認定補聴器技能者」を院内に呼び、医師の診察と補聴器の調整・購入が院内だけで完結する「補聴器外来」を設けている医療機関もあります。

正しい診断を受け、適切な補聴器をつけることで、豊かな人生を送ってください。

※「令和2年度平均年収と学歴調査

※1 Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, et al :Dementia prevention, intervention, and care :2020 report of the Lancet Commission. Lancet 396:413-446, 2020.

※2 厚生労働省ウェブサイト「身体障害者手帳