50代から気をつける病気。予防・対策

家族を家で看取りたい 「終末期医療」で知っておきたいこと

50代から気をつける病気。予防・対策

終末期医療では、患者本人はもちろん、残される家族もつらい立場にあります。「本人と家族の思い」を確認することから始め、死をタブー視せず、率直な気持ちを伝え合うとともに、最期の瞬間まで生きる喜びや希望を持ち続けてほしいと思います。

【ライタープロフィール】遠藤愛

高齢の親を持つ方にとって、「親の最期をどう看取るか」というのは大きな問題です。
今回は「親の看取り」をテーマに、終末期医療の考え方と準備すること、知っておいてほしいことをお伝えします。

「人生の最終段階」を支える終末期医療

近年「看取り」や「終末期医療」という言葉をよく耳にしますが、これらの言葉は公的に統一した定義はされておらず、医療・介護に携わる専門家でさえ、その捉え方はさまざまです。

ひとつの参考として、公益社団法人全日本病院協会が定める終末期の3つの定義を見てみましょう。

  1. 複数の医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること
  2. 患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること
  3. 患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること

公益社団法人 全日本病院協会「終末期医療に関するガイドライン」p.2より引用

つまり、終末期とは「治療を行っても回復の見込みがなく、死が避けられない状態」であり、終末期医療はそのような方を対象とした「人生の最終段階を支える医療」ということになります。

写真①

親が終末期と宣告された場合、まず考えるのは「どこで看取るか?」という問題です。
以下は、内閣府資料からの引用です。

60歳以上の人に、万一治る見込みがない病気になった場合、最期を迎えたい場所はどこかを聞いたところ、約半数(51.0%)の人が「自宅」と答えている。次いで、「病院・介護療養型医療施設」が31.4%となっている。

内閣府「令和元年版高齢社会白書(全体版)|4 高齢期の生活に関する意識」より引用

半数以上の方が自宅での看取りを希望する一方で、約8割の方は医療施設で最期を迎え、自宅で亡くなる方は、2割に届かないのが現状です。

政府統計の総合窓口「人口動態調査|人口動態統計 確定数 死亡 年次 2018年」のファイルを基に作図

自宅での看取りに踏み切れない理由として、次のようなことが考えられます。

  • 介護を担う人手がない
  • 終末期医療に関する知識がない
  • 状態が変化したときの対応に不安がある

老夫婦や単身高齢者世帯が増加しているのに加え、子ども世代の多くは共働きで、「介護の担い手がいない」「自分が介護をすることに対し、漠然とした不安がある」などの理由で看取りに抵抗を示す方は少なくありません。
「終末期医療」という言葉そのものに不安を感じる方もいるでしょう。

「終末期医療」とは、残された時間を穏やかに過ごすための医療・ケアです。
人生の延長線上に「死」があると考えれば、終末期医療は生活を支えるケアそのものといえます。医療・介護の専門家のサポートを受けながら、残りの人生を豊かにするためのケアと考えてもらうとよいでしょう。

その人らしい最期を迎えるために 看取りに必要な準備とは?

自宅での看取りに必要な条件として、次の2つがあります。それぞれ順に見ていきましょう。

1.本人・家族ともに「自宅で最期を迎える意思」があること

本人・家族の合意なしに「自宅での穏やかな死」は実現しません。そこで重要になるのが、「リビングウィル」「APC(アドバンス・ケア・プランニング)」という考え方です。

リビングウィルとは「生きている間の遺言」、APCは「終末期医療について本人や家族が専門家を交えて繰り返し話し合うこと」を意味します。

「残された時間をどのように過ごすか」「どのような医療・ケアを望むか」などを確認し、それを叶えるための方法やサポートについて話し合うプロセスです。本人の意思が確認できない場合は、家族や親しい知人などが専門家の意見を聞き、最善と思われる方法を選択します。

本人の尊厳を守り、残される家族が慌てないためにも、生前の話し合いは非常に重要です。
また、人の気持ちは移り変わることを前提に、折に触れてリビングウィルについて話し合うことが求められます。

ところが、実際には「生前の意思確認」が十分に行われていないのが現状です。

日本医師会総合政策研究機構「日医総研ワーキングペーパー|第6回日本の医療に関する意識調査 - 」の情報を基に作図

上記の調査によると、65才以上の人のうち、「家族などに意向を伝えた」「書類に意思表示をした」とする65才以上は合わせて3割強、「必要になったら意思表示をしたい」と答える人は5割程度おり、自分の思いを示したいと考える人は、8割以上にのぼっています。しかし、「どのように行えばよいかわからない」(13.5%)、「特に意思表示をしたいとは思わない」(6.3%)、「わからない」(6.7%)と答える人も一定数おり、4人にひとりは、リビングウィルが十分に浸透していないことがうかがえます。

2.自宅での看取りを支えるためのサポート体制が整っていること

終末期医療は、本人の病状や希望に沿って行われるため、「こうしなければいけない」という決まりごとはありません。本人のベッドをどこに置くか、からだはどの程度動かせるか、必要な医療処置はあるかなど、「スムーズな療養生活が送れること」を基本に準備を行います。

必要に応じて介護用ベッドや床ずれ防止のマットレス、歩行器や車イスなどの福祉用具を手配しますが、これらをサポートする専門家がいるので心配は無用です。大型の福祉用具やケア用品の置き場所、転倒防止なども考えて、本人の過ごす居室には不要な物を置かず、すっきりと片付けておくとよいでしょう。

写真②

介護保険の申請・ケアマネジャーの選定

看取りに限らず、自宅で介護を行うために必要なのが「介護保険」と「ケアマネジャー」の存在です。

「これまで一度も介護サービスを受けたことがない」という方は、まずは市区町村の窓口で申請を行う必要があります。介護保険の認定がおりたら、最寄りの居宅介護支援事業所でケアマネジャーを探しましょう。

ケアマネジャーは本人や家族の意向に沿って自宅介護の方針を決め、介護サービスの内容・費用などの計画を立てる専門家で、あらゆる相談に乗ってくれます。

写真③

サポート体制を整える

自宅での看取りは、食事・トイレのお世話だけでなく、床ずれの処置や点滴の管理など医療処置が必要になることもあります。しかもそれが毎日続くとなると、家族だけで支えるには限界があり、家族も倒れてしまいかねません。

家族の負担を軽くするために、医療・介護のプロとして寄り添ってくれるのが在宅医・訪問看護師・訪問ヘルパーの存在です。24時間対応の診療所や訪問看護ステーションにお願いすれば、「いつでも対応してもらえる」という安心感があります。

終末期医療では、基本的に「できないこと」はありません。日常生活のお世話だけでなく、注射や点滴などの医療処置、こころのケア、同じような状況にある患者・家族の会など、受けられるサービスやサポートはたくさんあります。本人・家族の意思とそれを支える専門家の助けがあれば、終末期であっても充実した日々を過ごすことは可能であり、それこそが終末期医療の本質だと言えます。

終末期医療における家族の心がまえ

終末期医療では、患者本人はもちろん、残される家族もつらい立場にあります。
表面上は冷静を装っていても心の中では悲しみに暮れ、何から始めたらよいのか不安に押しつぶされることもあるでしょう。

このような不安や悲しみを乗り越えて、最期を看取るために知っておいてほしいことをいくつかご紹介します。

「死」をタブー視しない

リビングウィル・APC(アドバンス・ケア・プランニング)という考え方は、これから迎える多死社会において非常に重要なものです。
本人・家族が人生の最期について話す機会を持ち、「死ぬことをどのように考えているか」「どのような最期を迎えたいか」「絶対にしてほしくないこと」などの価値観を共有し、折に触れて確認することが大切です。

専門家の言うことが絶対ではない

終末期と宣告され、自宅で看取りをすると決めたときから、医療・介護の専門家からいろいろな指導やアドバイスを受ける機会があります。
家族は初めてのことに不安を感じ、「先生や看護師さんの言った通りにしなくては!」と考えがちですが、病院と自宅では環境も使用する物品もまったく異なります。
あまり構えすぎず、「自宅でケアをしながらやりやすい方法を見つければいい」くらいの気持ちで大丈夫です。

終末期特有のからだの変化を知っておく

いつ「そのとき」が来るのかは、一日一日を見守り続ける家族にとっては非常に重要なことです。死期が近いことを知らせる特徴的な症状のひとつに、「呼吸の変化」があります。

死期が近づくにつれて呼吸が荒くなり、下顎(かがく)呼吸という状態になる。下顎呼吸とは、呼吸による換気が不十分で体の中の酸素が足りなくなり、脳からもっとしっかり呼吸せよとの司令が出て、それにこたえる形で顎を上下に大きく揺らすような呼吸である。この状態になると、数時間から長くても一両日中に呼吸は停止して亡くなる。

苛原実『家族と介護職のための看取りハンドブック』,メディカル・パブリケーションズ,2012,p.19-20.(ISBN978-4-902007-62-6)

また、老衰や慢性疾患の末に終末期を迎える方の多くが、食事がとれない、歩けない、意思の疎通ができないなどの経過を数年〜数カ月かけてたどるのに対し、がん患者の方は亡くなる直前まで会話ができ、数日前までトイレにも行けたということが少なくありません。
「あとどれくらいですか?」という家族からの問いに答えるのは非常に難しいのですが、今後予測される症状や変化を在宅医や訪問看護師に事前に確認しておくことは大切です。

ひとりで抱え込まず、不安なこと・困っていることは専門家に相談する

24時間続く介護の負担や、いつ容態が変化するかわからない不安など、専門家のサポートがあるとはいえ家族が背負う重圧は相当のものです。自宅での看取りに自信をなくしたり、疲れやストレスできつく当たってしまったりと、さまざまな葛藤があるでしょう。そんなときは家族だけで抱え込まず、ぜひ信頼できる人や専門家に相談してください。家族だけでは思いつかない考えや、打開策を提案してくれることがあります。

写真④

適度に息抜きをする

自宅で看取ると決めたときから、「常に緊張感が張り詰めている」という家族は少なくありません。ショートステイを利用して介護から離れる、散歩に出かける、外食をするなど、自分を取り戻す時間を持つようにしましょう。

写真⑤

本人だけでなく、家族にとっても無理のない「終末期医療」を

終末期医療では、まずは「本人と家族の思い」を確認することから始まります。
死をタブー視せず、率直な気持ちを伝え合うとともに、最期の瞬間まで生きる喜びや希望を持ち続けてほしいと思います。
また、不安や悩みを家族だけで抱え込まず、無理のない穏やかな看取りが実現できるよう専門家のサポートをうまく活用することが大切です。

【写真】

写真①年配の母娘

写真②車椅子と女性

写真③介護保険

写真④白衣の女性

写真⑤木もれ日

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ライタープロフィール

遠藤愛

看護師として約13年間病院勤務。外科・内科病棟、地域連携室、介護老人保健施設、訪問看護に従事。現在は看護師の知識と経験を活かし、ライターとして活動中。