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高齢者の介護食の作り方!調理のポイントと危険を避ける方法

夫婦のこれから

加齢とともに「嚥下」「咀嚼力」機能が低下します。高齢者においしく安全に食事をしてもらうため、食べやすい工夫をしましょう。また、今はレトルトの介護食や高齢者向けの配食サービスも充実しているので、利用を検討してみるのもいいですね。

【監修】渡辺 有美

高齢になると、誰でもからだのあちこちに老化現象があらわれてきます。食事をするときの「噛む力」や「飲み込む力」もそのひとつ。
こうした「食べるための機能」が衰えてくると、これまで普通に食べていた料理が食べづらくなったり喉に詰まりやすくなったりして、食事をすること自体を負担に感じてしまう人も少なくありません。

今回は、高齢者に安全に食事を楽しんでもらうための、「介護食の調理のポイント」や、「食事をする際の注意点」をまとめました。
ご両親と同居していて日々の食事づくりに悩んでいる人、介護食について知りたい人は、ぜひ参考にしてください。

高齢者の食事にひそむ問題点とは?

高齢になると、食事の面でいったいどんな不具合が生じてくるのでしょうか。周囲の人にぜひ知っておいてもらいたいポイントをお話しします。

年齢とともに衰える「食べるための機能」

加齢とともにあらわれてくる主な症状は、以下のとおりです。これらの症状により、「低栄養」や「誤嚥(ごえん)」といった深刻な状況をまねく懸念があります。

(1)飲み込む力が低下する

口に入れたものを噛み砕いて飲み込むことを「嚥下(えんげ)」といいます。高齢になると、この嚥下機能が低下し、食べ物や飲み物が飲み込みづらくなったり、むせたりして、スムーズに食事をすることが難しくなってきます。
また、嚥下機能が衰えると、口に入れたものが食道ではなく気道の方に入ってしまう「誤嚥」が起こりやすくなります。誤嚥は、「誤嚥性肺炎」を引き起こす恐れがあり、死亡者も少なくないことから、高齢者の誤嚥には細心の注意を払わなければなりません。

厚生労働省「平成25年国民健康・栄養調査概要|嚥下の状況」の情報を基に作図

(2)噛む力が弱まる

食べ物を噛む力、「咀嚼(そしゃく)力」は、年齢を重ねるごとに弱くなります。原因は、歯の本数が減ること、噛むための筋力の低下などが考えられます。
噛む力が弱くなると、食材を噛みくだくことが難しくなり、食べ物をのどに詰まらせるなど最悪の事態につながることも。また、胃腸に負担がかかり、消化吸収に悪影響を与える可能性もあります。

厚生労働省「平成25年国民健康・栄養調査概要|咀嚼の状況」の情報を基に作図

(3)歯の本数が少なくなる

本来28~32本ある永久歯は年齢とともに減少していき、70才で20本、80才で15本、90才で9本というのが、残存歯の平均値になっています。歯の数が減ると噛む力は当然弱まり、食べられないものが増え、栄養が不足したり偏ったりするリスクが生じます。

大阪大学大学院歯学研究科 池邉一典「特集『口から食べる』を支援する栄養管理 高齢者の口腔機能が、栄養摂取に与える影響 」『日本静脈経腸栄養学会雑誌 31(2)681-686:2016 図3 年齢群による現在歯数の違い』の情報を基に作図

(4)味覚が衰える

高齢になると濃い味を好むようになるといわれますが、これは「味覚の衰え」が原因のひとつと考えられます。味覚が低下すると、料理の味を薄く感じたりまずく感じたりして、食欲の低下につながることがあります。

高齢者の低栄養がまねくトラブル

誤嚥などの危険に加え、高齢者の食に関して心配なのが、「栄養不足」です。
低栄養や栄養の偏りは下記のようなリスクをはらんでいるため、高齢者のからだに深刻な影響を与えます。

(1)筋肉量の低下

転倒リスクや寝たきりになる可能性が高まります。

(2)骨量の低下

骨粗しょう症を発症したり、ちょっとしたことで骨折しやすくなったりします。

(3)免疫機能の低下

風邪などの感染症や病気にかかりやすくなります。

食にかかわる危険や栄養不足を防ぐ「介護食」のポイント

ここからは、高齢者においしく安全に食事をしてもらうための、介護食のポイントをご紹介していきます。

食材は食べやすい工夫を

咀嚼力の低下している高齢者にとって、ものを噛み切ったり硬いものを噛み砕いたりすることは大きな負担です。そのため、食材はひと口大に切り、硬いものはさらに小さく刻んだりやわらかく煮込んだりして食べやすい状態にしましょう。噛む力がかなり弱まっている場合は、舌や歯ぐきで楽につぶせるくらいやわらかく調理してください。

飲み込みの不安な人の場合、料理をミキサーにかけてペースト状にすると、比較的安全に食べることができます。味噌汁やお茶などの水分は専用のトロミ材を利用すると、むせたり誤嚥を起こしたりする危険を減らせます。

栄養バランスを考える

ただでさえ少食になりがちな高齢者の食事は、栄養バランスがとても重要です。
まず、筋力低下を予防するために、筋肉の材料となる「たんぱく質」をなるべく毎食とるようにしましょう。たんぱく質を多く含む食材は、肉類(牛・豚・鶏)、魚類、卵、大豆製品(豆腐・納豆)などです。
また、カルシウムがとれる牛乳やヨーグルト、ビタミン・ミネラル・食物繊維がとれる野菜や果物類も積極的にメニューに組み入れましょう。野菜は加熱してカサを減らすと、たくさん食べられます。

食欲のわく工夫をする

食の細い人や、食欲が低下している人の場合、香りのよい食材を使ったり、盛り付けを工夫したり、季節の食材を取り入れたりすると、料理に興味を持ち食が進むこともあります。たとえば、ハーブやしょうが、シソ、お酢、わさびなどは、独特の香りがあり料理の味を引き立てるほか、食欲増進の作用もあるといわれています。また、赤、オレンジ、黄などの暖色系の色も食欲促進にプラスに働くといわれているので、トマトやにんじん、卵を料理に使ったり、デザートにイチゴやオレンジなどの果物類を食べたりするのもおすすめです。

このような食材を活用して視覚や嗅覚といった五感を刺激し、食事を前向きな気持ちで楽しんでもらいましょう。

本人の好きなメニューを

上記を試しても、思うように食べてくれない高齢者の場合、まずは栄養面よりも本人の好きな食べ物を中心にメニューを考えましょう。どんなに栄養価が高くバランスのよい食事を用意しても、食べてもらえなければ意味がありません。
まずは美味しく食べてもらうことを優先し、食事に対する抵抗感を減らしていきましょう。

百寿者の習慣をヒントにする

厚生労働省の資料(※)によると、100才以上長生きしている"百寿者"は、40才ごろから現在まで、下記のような食事を心がけているそうです。

  • 1日3回規則正しく食べる
  • 腹八分目を心がける
  • 家族そろって食べる
  • 緑黄色野菜を食べる
  • 魚肉、卵等を食べる
  • 大豆製品を食べる

このほか、「栄養バランスを考える」「間食や夜食をとらない」「海藻類・果物類・乳製品を食べる」といった回答も3~4割と多くなっています。これらを心がければ必ず長生きできるとは限りませんが、高齢者が健康を維持するための食のヒントが詰まっているので、ぜひご家庭で実践してみてください。

高齢者におすすめの介護食レシピ

ここでは高齢者向けのメニューや、普段の料理のアレンジ法をご紹介します。

高齢者に適したメニュー

基本的には、かんたんに噛みつぶせる食材を使うか、食材がやわらかくなるまで火を入れるのがポイントです。煮物豆腐料理ハンバーグや肉団子などミンチ状の料理は、高齢者に最適なメニューです。
肉類も圧力なべを使うとやわらかく仕上がり、高齢者でも食べやすくなります。肉類は大切なたんぱく源なので、噛みにくいからと敬遠せず、工夫して積極的に食卓に出しましょう。肉をやわらかくなるまで煮込んだ「シチュー」や「カレー」は介護施設でも人気の定番メニューです。
ほかにも切った野菜を鍋に入れてくたくたになるまで煮込み、片栗粉でトロミを付けたスープや、肉や野菜を細かくしてあんかけにした料理などもおすすめです。

普段の料理を介護食にアレンジ

続いて、食事に配慮が必要な高齢者も、普段から食べ慣れたもの、家族と同じものを食べられるよう通常の料理を介護食にアレンジする方法をお伝えします。
介護食のポイントは、「トロミ」「刻み」「やわらかさ」の3点。そこで活用したいのが、「トロミ材」や「ミキサー」です。

市販のトロミ材は粉末状になっており、料理や飲み物に適量を混ぜて使用します。料理であれば片栗粉でもよいですが、トロミ材は冷たい飲み物にも使えるので、状況に合わせて使い分けましょう。

噛む力が低下している人には、ミキサー食がおすすめです。ミキサー食は、咀嚼が弱い人でも無理なく食べられるほか、胃に負担がかからず消化吸収しやすいというメリットがあります。通常の料理を手軽にミキサー食にできるハンドミキサーはとても便利なので、ひとつ持っておくと重宝するでしょう。

たいていの料理は、細かく刻んでトロミを付けることで、高齢者でも安全に食べられるようになります。ただ、普通食を食べられる人が刻み食やミキサー食ばかりを食べていると、咀嚼の機会が減り、かえって噛む力が衰えてしまうことも考えられます。そのため、安易に介護食に切り替えるのではなく、本人の状態に合わせて段階的に調整していきましょう。

安全に食べてもらうために家族が心がけること

高齢の親御さんの食事中の危険を減らし、快適に食べてもらうためのポイントを紹介します。

姿勢に気をつける

食事中はできるだけ背筋が伸びるよう、イスに深く腰かけてもらいましょう。食べ物がのどに詰まったりむせたりするリスクを減らせます。

食事の前に喉をうるおしておく

最初に水やお茶、味噌汁やスープなどの汁を口にすると、のどの通りがよくなります。また、食欲のスイッチが入りスムーズな食事につながります。

よく噛むように促す

食事中はよく噛むよう促しましょう。よく噛むと唾液が出て飲み込みがスムーズになるうえに、消化吸収を助けてくれるので一石二鳥です。

適切な補助具を使う

麻痺やリウマチなど手が不自由な人向けの箸やスプーン、フォークといった「補助具」があるので、ぜひこれらを活用しましょう。
家族が食事介助をした方が早く食べられるのは確かですが、食事は可能な範囲で本人に自分の手で食べてもらうのが望ましい姿です。補助具のほかにも、滑り止め付きの食器や防水エプロンなど、食事をサポートするさまざまな便利アイテムがあるので、利用を検討してみてください。

普段から口の中を清潔に保つ

口の中に汚れや異物があると味覚に影響が出てしまいます。料理をおいしく味わって食べるには、口腔内を清潔に保っておくことが欠かせません。とくに味を感じる舌は清潔にしておくことが大事です。歯磨きの際は、歯と一緒に舌のお手入れもきちんと行いましょう。

入れ歯のお手入れと点検はこまめに

入れ歯が合っていないと噛む力が弱まり低栄養につながる恐れがあります。入れ歯のお手入れや点検は怠らないようにしましょう。

まとめ

食事は、高齢者にとって大きな楽しみのひとつ。咀嚼や嚥下の機能が低下している人でも、今回ご紹介したような介護食なら無理なく食べることが可能です。もしこのような介護食を毎日準備するのが難しい場合、今はレトルトの介護食や高齢者向けの配食サービスも充実しているので、利用を検討してみましょう。
本人が安心して食事を楽しめるよう、今回ご紹介した介護食のポイントを日々の食事づくりに活かしてください。

※厚生労働省「超高齢化社会を見据えて、高齢者がよりよく生きるための日本人の食事を考える」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000015824.pdf

監修

渡辺 有美

介護やマネー関連が専門のフリーライター。

独身時代は都市銀行に勤務し、その後、結婚と子育てを経て介護の道へ。介護福祉士としてデイサービス・特養・訪問介護の現場で10年以上働いた経験を活かし、高齢者の方々の役に立つ記事を多数執筆しています。