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人生100年時代の「学び直し」を楽しむために 「自分が置かれた環境」をプラスに転換する発想を!

夫婦・家族

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学び直しの実践者として、わたしの経験をお伝えしたいと思います。

この記事の監修

横内美保子

この30年間、日本語教育や日本語教師養成、地域の日本語学習支援に取り組んできました。「日本語ゼロ初級の外国人と日本人が楽しくおしゃべりするための本」の開発にも携わりました。パートナーとの関係は「山あり谷あり」です。

1枚のポスターが私をここに連れてきました。
はじまりは、ふと目にした1枚のポスターでした。唐突に始まった「学び直し」の旅。それは、長く、タフなものでしたが、喜びに満ちたものでもありました。40才を前にして急に生き方を変えたそのプロセスで、私が何を感じ考えたか。そこから得られた気づきや学びはどのようなものであったか――。

今回は、学び直しの実践者として、わたしの経験をお伝えしたいと思います。

学び直しが注目を集める背景

まずは、「学び直し」が注目を集めている背景について、少しみていきましょう。

「人生100年時代」という言葉をよく耳にするようになりました。
2019年12月に発表された「全世代型社会保障検討会議 中間報告 (案)」では、人生100年時代のライフスタイルとして、「幾つになっても、学び直しをしながら、新たなチャレンジができるような、複線的かつ多様なマルチステージの人生」を掲げています (※1)。

また、現在は、第4次産業革命とも呼ばれる技術革命のただ中にあります。
IoTやビッグデータ、ロボット、AI などの普及にともない、今後は就業構造に変化が生じることが予測されています(※2)。
経済産業省は、そのような変化に対応するための「2030年代に向けて目指すべき将来像」を提示し、以下のような個人の将来像を提示しています(※2)。

  • 「市場環境やライフステージの変化に対応しつつ、常に自身のキャリアをリデザインし続ける『キャリア・オーナーシップ』を持つ」こと
  • 「能力・スキルを生涯アップデートし続け、ひとりひとりがプロフェッショナルとしての価値を身につける」こと

これはそのまま、学び直しの意義といってもいいでしょう。
「学び直し」は、もはや個人的な問題に留まらず、この時代を生きる私たちに対する、社会的な要請といえるかもしれません。

「学び直し」の効果

では、学び直しには、どのような効果があるのでしょうか。その前に、まずは学び直しの方法をおさえておきましょう。以下の図をご覧ください。

内閣府「平成30年度 年次経済財政報告|第2章 人生100年時代の人材と働き方:社会人の学び直し(リカレント教育)とキャリア・アップ」を基に作図

こちらを見ると、学び直しの方法は、大きく「通学」「通信講座」「その他」の3つに分類することができます。

続いて、学び直しの効果です。収入、就業確率、費用対効果に分けてみていていきましょう。
下の図をご覧ください。これらは、「学び直し」をした人の年収の変化を表しています。左側が学び直し全体における年収の経年変化、右側は学び直しの方法別になっています。

内閣府「平成30年度 年次経済財政報告|第2章 人生100年時代の人材と働き方:社会人の学び直し(リカレント教育)とキャリア・アップ」を基に作図

「年収の経年変化」をみると、学び直しにより年収が徐々にアップしていることがわかります。また、「スタイル別」では、通学(教育機関における学び直し)が、一番効果あるとみてとれます。

次に、就業確率をみてみましょう。

内閣府「平成30年度 年次経済財政報告|第2章 人生100年時代の人材と働き方:社会人の学び直し(リカレント教育)とキャリア・アップ」を基に作図

上の図と比べると、就業への効果は年収より速やかに現われていることがわかります。つまり、学び直しは即時的に就業につながりやすいということです。なお、「スタイル別」では、ここでも通学が最も効果のあることがわかります。

最後に、費用対効果についてみていきましょう。
左の図は「学び直しに費やした時間」、右の図は「費やした金額」を表しています。

内閣府「平成30年度 年次経済財政報告|第2章 人生100年時代の人材と働き方:社会人の学び直し(リカレント教育)とキャリア・アップ」を基に作図

これまでみてきたように、「通学」はどの分野においても効果が高い反面、時間的にも金額的にもコストが高いことがわかります。一方、「通学」以外の方法で学び直しをする場合、効果は低いものの、その分コストもかからずに済むことがみてとれます。

以上の結果から、学び直しは中期的には費用対効果が高いといえるのではないでしょうか。

実践にあたって考えるべきこと

では、「学び直し」を始める前に考えておくべきこととは何でしょうか。

何を学ぶ? かけるコストは?

まず、学習対象は、これまで取り組んできた仕事の内容や今後のキャリア・プランをもとに選択することになるでしょう。

現在、文部科学省が社会人を対象とした「職業実践力育成プログラム(BP)」を展開しています(※3)。このプログラムは社会人が学びやすいように配慮されており、短期間で学べる過程もあります。また、一定の条件を満たせば、「専門実践教育訓練給付金」が支給されます。学び直しを検討している方は、一度チェックしてみると良いでしょう。

続いて、学び直しのコストですが、先述のデータを基にご自分の状況に合わせて時間的、金額的な適切性を判断し、目指すべき方向性を探るのもひとつの方法です。ただ、それをキャリア形成にどう生かすのかは、現在のお勤め先や、今後働きたいと考えている企業が、あなたの学び直しをどの程度、処遇に反映させるかを確認しておく必要があるでしょう。

ケース・スタディ 「自分が置かれた環境」をプラスに転換する発想を!

ここからは、少し私の話をしましょう。

「困難な状況」からの出発

「ねえ、ママ、あれ、なあに?」
娘が指さした先に、そのポスターはありました。
「ええとね・・・・・・、にほんごきょうし、ようせいこうざ、だって。日本語を教える先生になるためのお勉強」

その瞬間が、学び直しとの出会いでした。39才の誕生日を間近に控えていたあの頃――、もう20数年前のことです。それから始まる学び直しが、その後、10年間にもわたるものになろうとは、そのときの私には知る由もありませんでした。

先ほど、学び直しは金額的コストの観点からみれば、費用対効果が高い可能性があるとお話しましたが、時間的コストという面では、非常に高いものになる可能性も指摘されています。
幼い子どもと高齢の義父母を抱え、仕事もしていたあの頃は、家庭内での責任が重く、毎日、自分の役割を果たすのに追われていて、学び直しがしやすい環境とは、とうてい言い難い状況でした。

今、学び直しへの一歩を踏み出そうとしている方、あるいはその一歩がなかなか踏み出せないでいる方も、その頃の私と同じように、学び直しが困難な状況を抱えているのかもしれませんね。働きながらの学び直しを考えているのであれば、性別関係なく事情は同じでしょう。
でも、発想次第で困難な環境でもプラスに転換できることを、私はこの経験から学びました。振り返ってみると、むしろ困難な状況だったからこそ、充実した学び直しができたとさえいえます。

では、話を進めましょう。

学び直しの効果はあったのか

さて、下の図は、私の学び直しとキャリア形成を表したものです。

この図を基に、私の学び直しには果たして効果があったのか、検証してみましょう。

最初の学び直しである「日本語教師養成講座」の効果として、「検定試験(日本語教育能力検定試験)」に合格し、結果、日本語学校で職が得られたことが挙げられます。
次に、大学の研究生、大学院生として学び、修士の学位を取得したことが、大学の非常勤講師の職につながりました。一般的に大学で働くためにはこの学位が必要だからです。
さらに、大学院で学び続け、博士の学位を取得したことが、大学の専任(准教授、教授)の職を得るうえで競争力を高めました。

以上のことから、私の場合、学び直しはキャリア形成に役立ったといえるでしょう。

ただ、学び直しを始めた頃は、そもそも学び直しという意識すらなく、目の前の「おもしろそうなもの」に飛びついたに過ぎませんでした。しかし、その後、次の学び直しに取り組み、そこでキーパーソンと出会えたことが、私のキャリア形成に大きな影響を与えました。

こうしたプロセスを、順を追ってお話ししていきたいと思います。

こうして「学び直し」が始まった

結婚後、私は夫の経営する会社で働いていましたが、事業拡張にともない、新たに社員を雇い入れることになったため、今の仕事を続けるのか、辞めるかの選択は私に任されていました。翌年に下の子どもの幼稚園入園を控えてもいたことに加え、その頃はちょうど日本語講師という新しい仕事の可能性を探っていた時期でもありました。

資格取得に向けて講座に通うにあたり、幼かった子どもたちは、幸い実家の母が預かってくれました。

母親になって5年半。子どもの成長は多くの喜びを与えてくれました。でも、一方で、知的欲求不満とでもいうべき感情が次第に膨れ上がってきてもいました。ポスターを見て、すぐに受講を決めたのは、そうした欲求不満が起爆剤になったからかもしれません。

新しいことを始めようとするときは、心が浮き立つ反面、それと同じくらい不安にも駆られるものです。そんなとき、第一歩を踏み出すには、起爆剤が必要です。あなたの起爆剤は何でしょうか。

そして、次のステップへ

大学卒業後、10数年ぶりの勉強は予想以上に楽しく、その面白さにはまっているうちに講座が終了しました。受講中に日本語教育能力検定試験に合格したこともあり、講座修了と同時に講座を主宰した日本語学校に職を得ることができました。
そこで2年近く働いてきましたが、この仕事をずっと続けていくのなら、もう一度基礎から学び直し、専門性を身につけるべきだという気持ちが抑え切れなくなっていました。

そして、ある日、私はついに、キーパーソンと出会うことになるのです。

次の扉が開いた

会ったこともない人にいきなり電話をかけるのは勇気がいるものです。あのとき、勇気をふり絞ってかけた電話がもし繋がらなかったら、私の学び直しはそこで終わっていたかもしれません。

「一面識もない人間がこんなお願いをして、本当に申し訳ありません。でも、一度、会っていただけないでしょうか」

翌日は、よく晴れた寒い日でした。ダイヤモンドダストが煌めく中、車を駆って大学へと向かいます。 N先生の研究室は本で溢れかえり、本棚に収まり切らない本がソファの一部を占領していました。

「これまでの人生で、心から勉強したいと思ったのは、これが初めてなんです。先生、どうか私を研究生として受け入れていただけないでしょうか」

やがて、N先生が、静かに口を開きました。

「わかりました。学びたいという人を拒否することなど、私にはできません。今から教務へ行って、申請書をもらってきてください」

次の扉がこうして開きました。

ハードルはステップアップにつながる

ハードルは、確実にモチベーションを高めてくれます。まず、それを乗り越えようと思ったときに。そして、それを乗り越えたときにも。
N先生のキーパーソンたる力が発揮されたのは、その数カ月後のことでした。

「大学院へ進学する気はありませんか」

もともと日本語教師としての基礎力を養い、専門性を身につけるのが、研究生にしていただいた目的です。大学院での勉学など全く望んでいなかった私は、N先生の提案を固辞しました。

「先生、それは無理です。そもそも今からでは受験準備が間に合いません」
それに、大学院に進学したら、家族への責任が果たせなくなってしまうだろう・・・・・・。

でも、結局、断り切れなかったのは、一面識もなかった私を"拾ってくださった"、N先生に対する恩義からでした。

ご縁というものは本当に不思議なものです。あのとき、もし別の先生にお願いしていたら、あるいはN先生への電話が繋がらなかったら、私の人生は今とは違うものになっていたでしょう。

豪快なN先生はいつも唐突にハードルを突き付け、「ほら、できるでしょ? 乗り越えてごらんなさい」と、こともなげに言う方でした。大学院の修士課程が終わる頃、今度は博士課程への進学を強く勧めてくださる先生に、「今度こそ、もう絶対に無理です!」と、何度か固辞したものの、研究のおもしろさに目覚めてしまっていた私は、修士論文を抱えつつ、またしても受験準備に取り組むことに陥りました。

博士課程は論文で単位を取得するため、通学は週1回でしたが、遠方の大学へは特急電車を使って片道3時間。なかなかタフな通学でした。家庭の事情による休学を挟みながら、博士課程を修了したのは、その5年後のことです。
こうして大学院で学び、学位を取得したことは、先ほどお話ししたように私のキャリア形成にとって大変有益でした。

このように、ハードルはステップアップにつながります。もし、「いつでもできる」ところから始めたとしても、その先にハードルがあったら、それは障害ではなく、チャンスかもしれません。果敢に挑んでみてください。

制限は自由を生む

昼間はやることが目白押しで駆けずり回っていても、明け方はいつも私ひとりのものでした。子どもに添い寝しながら早い時間に休み、3時か4時に起きる。そして、課題が仕上がる頃に、きまって朝がやって来ました。
私だけの自由な時間。それは学び直しをしなければ、得られないものでした。レポートを書きながら、本を読みながら、論文の構想を練りながら、学ぶということはなんと奥深く、面白いものだろうと感嘆しているうちに、周りが白んでくるのでした。

もし、あの頃、自分のために使える時間がもっとあったなら、あのように集中して取り組むことができたでしょうか。今、このときしかない、そういう限られた時間だったからこそ、束の間の時間を愛おしみ、大切に使うことができたのだと私は思います。

後に、ある大学で、文部科学省「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」の推進員を務めたとき、受講者は2年半で約250人に上りました。年齢層も18~75才と幅広く、ひとりひとりが仕事や子育てや介護を抱えながら、キラキラした目でタイトなプログラムに取り組んでいました。そのパワーに圧倒されながら、彼らの姿にかつての自分を重ね合わせ、学ぶことの尊さを再認識する日々でした。

もっと勉強したいのに時間がないと焦りながらも、まずは自分の責任を果たして、持ち場を守る。逆説的ですが、だからこそ、限られた時間をフル活用して、真剣に学ぶことができるのではないでしょうか。学び直しの本質は、むしろそこにあるといってもいいのではないかと私は思います。

学び直しのプライオリティーが2番目でも3番目でも、きっとだいじょうぶ。
制限が生み出す自由―、それを楽しみながらの学び直しが、あなたの人生を豊かにしますように!

エビデンス

※1 首相官邸HP(2019)全世代型社会保障検討会議「全世代型社会保障検討会議 中間報告 (案)」
(2019年12月19日)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/zensedaigata_shakaihoshou/dai5/siryou1.pdf

※2 参考・引用)経済産業省HP(2017)「第4次産業革命について 『産業構造部会 新産業構造部会』における検討内容」
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/daiyoji_sangyo_skill/pdf/001_04_00.pdf

※3 参考)文部科学省HP(2019)「『職業実践力育成プログラム』(BP)認定制度について(概要)―Brush up Program for professional―」
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/05/10/1360258_3.pdf

参考)文部科学省HP(2019)令和元年度「職業実践力育成プログラム」(BP)認定課程一覧
https://www.mext.go.jp/content/20191216-mxt_syogai03-1411849_00001_2.pdf