病気で入院した親が突然、認知症に? いいえ、もしかしたら「せん妄」かもしれません

夫婦のこれから

高齢者に起こりやすい「せん妄」の原因・症状・関わり方のポイント

【監修】遠藤愛(えんどうあい)

高齢の親が入院し、「突然変なことを言い始めた」「見えないはずのものが見えている」といった症状が現れると、驚きとともに認知症を疑って不安になるケースは少なくありません。
環境の変化などで引き起こされる興奮状態や幻覚といった症状は「せん妄」と呼ばれ、認知症と区別して考える必要があります。

この記事では、高齢者に起こりやすい「せん妄」の原因・症状・関わり方のポイントについて解説します。

高齢者に起こりやすい「せん妄」とは?

せん妄とは、病気や外部からの刺激によって引き起こされる意識障害のひとつで、短期間のうちに、まるで人格が変わったかのように不穏な状態になるのが特徴です。

たとえば、高齢の方が病気やケガで入院した後に、急におかしなことを言い始める、興奮状態になる、幻覚が見えるといった症状が現れることがあります。さらには、大声や暴言で他者とトラブルを起こす、点滴を抜く、転んでケガをするといった二次的な事故もしばしば起こります。これらの急激な変化を目の当たりにすると、「入院して認知症になってしまった」と誤解されるご家族もいるのですが、一過性のせん妄であることがほとんどです。

高齢者は、加齢による身体機能の低下や環境への不適応、薬の影響を受けやすいなどの理由からせん妄を起こしやすいと考えられています。病気や治療による身体的な苦痛に加え、入院という非日常的な環境、治療上必要な薬剤の使用などが複合的に影響して、高齢者を強い不安や緊張、混乱へと追い込んでしまうのです。

せん妄を起こす具体的要因には、次のようなものがあります。

このように、せん妄は病気や治療にともなう心身のダメージが直接的要因になることが多く、間接的要因には、環境の変化や心理的ストレスなどがあります。

また、認知症の方や過去にせん妄を起こしたことのある方は、再びせん妄を起こしやすいといわれています。せん妄によって病気の悪化や合併症が起こると、入院期間が延びるだけでなく死亡率も増加することがわかっており、入院中のせん妄対策は決して軽視することのできない大きな課題のひとつです。

せん妄と認知症の見分け方

せん妄と認知症は、被害妄想や興奮が見られる点で混同されやすいのですが、発症の原因や症状、予後の経過は大きく異なります。

まず、認知症が記憶や認知機能が障害されても意識はおおむね正常であるのに対し、せん妄は急性疾患や中毒などによって意識障害が生じているという点です。急性期の医療現場では、せん妄を「脳の急性機能不全」と捉えて早急に治療・ケアを行います。さらに「心身のダメージに対する防御反応」「異常や悪化のサイン」とも考えられているため、細心の注意を払って全身状態を観察します。一方の認知症は、治療・ケアの対象ではあるものの、緊急を要するケースはほとんどありません。また、認知症が徐々に発症する進行性(治らない)の病気であるのに対し、せん妄は急激に発症するものの、多くは数日から数週間で治るという特徴があります。

せん妄と認知症の違い

 

せん妄

認知症

発症

急に発症する

徐々に発症する

経過

変動的。夕方や夜間に強い症状が出ることも

経過は緩やか。しかし、進行する

継続性

一過性のものも多く、数時間~数日で治まるなど可逆的なケースも多い

発症したら症状が治まることはない

症状

注意力を著しく失う

部分的な認知障害が出る

記憶を著しく失う

全体的な認知症状が出る

原因

内科的な疾患がほとんど。薬が原因になることも多い

アルツハイマー型認知症、脳血管疾患が原因になるケースが多い

治療

医師による速やかな診断と治療が必要

医師の診断と治療は必要だが、緊急性はさほど重要ではない

このように、せん妄と認知症は一見似ている部分もありますが、よく観察すると明らかに違うパターンが見えてきます。

せん妄の方に対して「認知症だ」と誤った判断で対応してしまうと、治療のチャンスを逃してしまうばかりか、病気の重篤化を招き予後不良となることもあります。せん妄に気づいたら、早急に適切な治療やケアを行う必要がありますが、せん妄と認知症が併存しているケースや、ときにせん妄から認知症に移行するケースもあるため判別は容易ではありません。精神的に不穏な症状が見られる方に対しては、正しい知識と十分な観察、人格を尊重したていねいな関わりが重要です。

せん妄の親との接し方、やってはいけないこと

せん妄状態の親を目の当たりにすると、多くのご家族は不安や恐怖、悲しみといった感情を浮かべてしまうことでしょう。つい否定したり怒ったりして、そのような対応をしたことに後悔の念を抱くかもしれません。しかし、このような感情は、家族としてはごく自然なことだといえます。

ここからは、せん妄が見られる方との接し方や、関わるうえで注意すべき点を見ていきましょう。

せん妄が見られるときに、まず優先すべきは「安心できる環境を提供すること」です。せん妄は意識障害のひとつであるため、専門的な治療やケアは医師や看護師に任せるとして、家族が関わるうえでは、以下2点を目指した関わり方を心がけましょう。

  • 穏やかで落ち着いた生活
  • 睡眠と覚醒のリズムをつくる

そのための具体的な方法を見ていきましょう。

不安を取り除く声かけをする

強い不安や興奮状態にあるとき、他者からの否定や非難はさらなる混乱を招き、症状を悪化させることがあります。落ち着いた声のトーンで、ゆっくりと短い言葉を使って話しかけるようにしましょう。

そばに寄り添う

孤独や疎外感は不安な気持ちを強めます。そばに寄り添う、手を握る、からだをさするなどのスキンシップで安心感を与えましょう。
せん妄は夕方から夜にかけて症状が強く現れる傾向にあるため、安心して眠りにつくまでそばで話を聞いてあげるのも良いでしょう。

気分を紛らわせる

環境の変化や治療のストレスがせん妄の引き金になっていることがあります。散歩やおしゃべりで気分を紛らわせることも大切です。

活動と休息のメリハリをつける

せん妄になると睡眠障害によって昼夜が逆転し、十分な休息が取れない傾向にあります。「まったく眠れない」と自覚しているケースも多く、それが新たなストレスになることもあるため、日中はなるべく動き、夜はぐっすり眠れるようにしましょう。食事をしっかりとる、顔を洗う、歯を磨くといった基本的な生活リズムを整えることも大切です。

逆に、やってはいけない関わり方として次のようなものがあります。

  • 本人の言っていることに対して、否定や非難をする
  • 理屈で説得したり、命令したりする
  • 行動を制止する

「なに言ってるの!」「そんなことしちゃダメでしょ!」といった言葉は、相手を追い詰めることになり逆効果です。家族にとってせん妄の親を見るのは辛いことですが、ご本人はさらに苦しい思いをしています。感情的に反応せず、相手に安心感を与えるような落ち着いた対応を心がけてください。

高齢の親を看ていくということ

親が高齢になるほど、病気やケガだけでなく、このような入院中のトラブル(せん妄による興奮、睡眠障害、事故など)に見舞われる確率は高くなります。しかし、せん妄は一時的なものであり、適切な治療とケアによって改善できる症状です。ご家族には、せん妄を正しく理解し、ご本人に安心感を与えられる落ち着いた対応が求められます。

頭では分かってはいても、せん妄状態の親を見るのがどうしても辛い、症状が良くなるのか不安だという方は、主治医や看護師に相談して不安を抱え込まないようにしましょう。

監修

遠藤愛(えんどうあい)

看護師として約13年間病院勤務。病院時代、高齢患者と家族の介護問題に直面したことをきっかけに、介護老人保健施設・訪問看護に従事、高齢者看護を学ぶ。現在は看護師の知識と経験を活かし、ライターとして活動中。