老後の新しい暮らし方「日本版CCRC」とは? 事例モデルの紹介と今後の課題

夫婦のこれから

「日本版CCRC」は健康維持や認知症予防の視点からも、とても有意義な暮らし方だといえます。

【監修】渡辺 有美

最近、テレビや新聞で「CCRC」という言葉をよく耳にするようになりました。

CCRCとは「Continuing Care Retirement Community」の略称で、高齢者が健康な段階で入居し、継続的なケアを受けながら終身で暮らすことができる生活共同体のことをいいます。

CCRCの発祥は米国ですが、日本でもセカンドライフの選択肢のひとつとして、今後広く注目を集めることが予想されています。

高齢者の暮らしを変えるきっかけになるかもしれない「日本版CCRC」とは、一体どのような暮らし方なのでしょう。実際の例を交えながら、メリットやデメリットをご紹介します。

CCRCとは?

日本版CCRC研究の第一人者である松田智生氏は、自身の著書のなかで、米国CCRCを訪れたときのことを以下のように語っています。

米国のCCRCは、全米で約2000カ所、約70万人が居住しており、市場規模は3兆円」ともいわれる、一大マーケットを形成しています。(中略)初めてのCCRCへの訪問は、ある意味『明るい衝撃』でした。ニューハンプシャー州の緑豊かな街にあるCCRCには、平均年齢84歳のシニアが約400人住んでいましたが、約8割の方が元気で、重介護や認知症の方は2割のみでした。居住者は明るい笑顔が絶えず、健康で充実した日々を過ごしています。また介護になったとしても家賃が変わらずに継続的なケアが保証されているというのです。 松田智生「日本版CCRCがわかる本」(株式会社法研,2017)p.20

先述のとおり、CCRCは、米国で普及している、高齢者向けの地域共同体の名称です。通常の介護施設と異なる点は、元気なうちからコミュニティに移り住むこと、そして、いずれ医療や介護が必要になっても他の施設へ移る必要はなく、ずっと同じ場所で適切なケアを受けながら暮らせることです。

CCRCでは、健康を促進するべく食事や運動などトータルで予防医療に取り組んでおり、仕事をしたり学校に通ったり趣味を楽しんだりと、高齢者が生きがいをもって暮らせるようなプログラムやサービスが充実しています。

たとえば、米国で増えている大学連携型CCRCでは、高齢者が大学で好きな学問を学んだり教えたりと、ただ生活するだけでなく「生涯学び続けたい」という自己実現の場にもなっています。

日本版CCRCとはどんなもの?

このCCRCの仕組みを、日本の社会に合うようにと考案されたのが「日本版CCRC」です。 日本に適したCCRCの形を、具体的にみていきましょう。

日本版CCRCで目指すもの

日本版CCRCで目指すのは、以下の3点です。(※1)

  1. 高齢者の希望の実現
  2. 地方へのひとの流れの推進
  3. 東京圏の高齢化問題への対応

そして、日本版CCRCの基本コンセプトは、以下の7点です。(※2)

  1. 東京圏をはじめ、地域の高齢者の希望に応じた地方や「まちなか」への移住の支援
  2. 「健康でアクティブな生活」の実現(健康な段階からの入居を基本とする)
  3. 地域社会(多世代)との協働
  4. 「継続的なケア」の確保(人生の最終段階まで継続して受けられるケア)
  5. IT活用などによる効率的なサービス提供
  6. 居住者の参画・情報公開等による透明性の高い事業運営
  7. 構想の実現に向けた多様な支援(情報支援・人的支援・制作支援等)

いわゆる「老後生活」という言葉から思い浮かぶような、受け身で消極的な生活ではなく、健康なうちから希望の地方へ移住し、積極的に社会参加をしてアクティブに暮らすことがCCRCの狙いです。

引用)首相官邸「『⽣涯活躍のまち』構想参考資料

また、地方での医療介護サービスの提供と雇用の維持によって、都心への人口集中による「東京圏の高齢化」「地方の人口減少」といった問題に対応していく試みも、日本版CCRCの特徴といえます。

このように、高齢者の新たな暮らし方の可能性にとどまらず、東京圏から地方への流れを生み出し、地方の活性化・地域のまちづくりに貢献するといった点においても、日本版CCRCは非常に意義のある取り組みだといえるでしょう。

引用)株式会社三菱総合研究所 主席研究員 松田智生「地方創生のエンジン「日本版CCRC」の可能性」を基に作図

基本機能として「コミュニティ機能」「健康・医療・介護機能」「居住機能」の3本柱があり、そこへ「社会参加」や「多世代共創」の機能が加わってCCRCを形づくっています。

この仕組みを支えるのが、地域の行政や企業などとの連携です。前述の「大学連携CCRC」のほかにも、たとえば「商店街連携型CCRC」「フィットネスクラブ連携型CCRC」「美術館・博物館連携型CCRC」などの個性的なCCRCが今後実現したら、ぜひ住んでみたいと興味を抱く人も少なくないでしょう。

日本版CCRCのメリット

CCRCによって、私たちの将来にいったいどのようなメリットが生まれるのでしょうか。

老後の生活を想像したとき、現状ではほとんどの人が「医療や介護が必要になるギリギリまで自宅で過ごす」という道を選択するのではないかと思います。

でも、今の日本社会では、仕事をリタイヤした高齢者は何かにつけて「支えられる立場」としての側面が強くなります。

日本版CCRCの一番のメリットは、高齢者にも多くの活躍の場がひらけており、能動的に社会と関わっていくことができる点です。自らが社会の支え手となることで生活にハリが生まれ、より充実したセカンドライフの可能性が広がります。

では、一般的な高齢者向け施設と、日本版CCRCを比較してみましょう。

引用)首相官邸「『生涯活躍のまち』構想(最終報告)

現在の高齢者住宅では、医療や介護が必要な人が移り住むケースが多数です。ただ、病気や要介護になったタイミングで施設へ入居すると、生活は完全に受け身の状態になってしまいます。そのうえ、環境の変化や孤独感から心理的なダメージを被り、人によってはうつ病や認知症を発症してしまう例も......。これは適応能力が徐々に低下してくる高齢者特有の現象で、「トランスファーショック」といいます。

その点、CCRCでは要介護状態になってもそのまま同じ環境で生活を続けられるため、トランスファーショックの予防が期待できます。慣れ親しんだ地域の仲間とずっと一緒に過ごせることも心強いでしょう。

日本版CCRCのデメリット

高齢者にはメリットの多い日本版CCRCですが、デメリットもゼロではありません。

それは、「地方ならどこでも移住できるわけではない」「人気の地域は希望者が集中して移住できないこともある」「住み慣れた家・土地を離れなくてはいけない」といった点です。

日本版CCRCの構想自体はとても魅力的ではあるものの地域の受け入れ態勢の問題もあり、誰もが好きな土地に住めるとは限りません。また、長く住んだ自宅を離れて遠い場所へ移住するのは、高齢者にとって非常に勇気のいることです。子どもや孫と頻繁に会えなくなる寂しさを感じる人もいるでしょう。

さらに、人によっては地域の住民たちと馴染めなかったり、その土地での生活が肌に合わなかったりして、CCRCでの暮らしをかえって苦痛に感じるケースもあるかもしれません。

ただ、東京在住の50代60代の男女に聞いた移住希望のアンケートによると、50代男性では約半数の人が、60代男性と50代女性では3割以上の人が、「地方への移住をしたい」、あるいは「検討したい」と考えていることがわかります。

引用)首相官邸「『⽣涯活躍のまち』構想参考資料

需要は決して少なくない日本版CCRCですが、いまだ情報が十分に浸透しているとはいえないこと、情報の入手先がわかりにくいこと、参考にできるモデルケースが少ないことも、興味のある層を悩ませる理由となっているようです。

引用)首相官邸「『⽣涯活躍のまち』構想参考資料

CCRCで広がるセカンドライフの未来

現在、約230もの地方自治体によって、それぞれの地域特性を生かした日本版CCRCが検討されています。その中から、神奈川県三浦市の「三浦版CCRC」の取り組みをご紹介します。

東京から約90分とほど近い三浦市は、美しい海岸の景観と温暖な気候が特徴のまちです。自然が多く観光施設も充実しており、「桜まつり」「三崎港町まつり」などお祭りやイベントも盛んで、魚介はもちろん、三浦ダイコンをはじめとした三浦産野菜も豊富です。

三浦版CCRCでは、2つの構想モデルが示されています。

ひとつが、「施設型CCRCモデル」。市内の遊休地に「分譲マンション」と、クラブハウスやグラウンドなどの「コミュニティ施設」を組み合わせた複合施設をつくり、おもに首都圏のアクティブシニア層を対象に、リゾートのような生活を提供するモデルです。

引用)神奈川県三浦市公式サイト「三浦版CCRC

もうひとつが、「エリア型CCRCモデル」。こちらは、地域資源・観光産業連携型コミュニティとして、市街地の空き施設や空き家をリノベーションし、地場産業と連携して独自商品のブランド化や地域イベントの手伝い・PRなどに貢献していくというモデルです。

引用)神奈川県三浦市公式サイト「三浦版CCRC

三浦版CCRCの導入によって、移住者には「豊かな自然や食」「健康寿命の延伸」、地域住民には「新産業の創出による雇用の増加」「社会活動への参加」、まちには「遊休地の有効活用」「経済波及効果」「税収増加」などの効果が期待されています。

日本版CCRCの実例モデル紹介

日本版CCRCには、住み替えの整備パターンとして、新しく施設をつくる「新設型」と、既存の施設や建物を利用する「ストック活用型」の2種類があります。さらに、転居パターンを以下の4つに分類しています。(※3)

  • 近隣転居型......自宅近くへの転居
  • コンパクトシティ型......郊外から中心部への転居
  • 地方移住型......大都市圏から地方へ転居
  • 継続居住型......自宅居住CCAH

この中から、「地方移住型」の実例モデルとして、総理官邸公式Webサイトで紹介されている「ゆいま~る那須」(※3)をご紹介します。

日本版CCRC的要素をもつ「ゆいま~る那須」での暮らし

栃木県那須市に所在する「ゆいま~る那須」は、開放的な大自然の環境のもとで里山の暮らしを楽しめるサービス付き高齢者向け住宅です。広大な敷地に天然無垢の八溝杉を使用した木造平屋建ての住宅が建ち、自然の息吹を身近に感じながら生活を送ることができます。

引用)ゆいま~る那須「フォトギャラリー

東京から約1時間半という利便性のよさもあり、居住者は首都圏から移住してきた人も少なくありません。併設するデイサービスや医療機関との連携により、必要に応じて医療や介護のサービスを受けられます。

特徴的な点が、移住希望の高齢者たちが自ら施設の計画や運営に加わり、竣工前から部屋のつくりや食事の内容、各種プログラムのメニューなどが話し合われてきたこと。

「ゆいま~る那須の暮らしは、オープンする前から、入居を検討している方々と集まりを持って、みんなで話すなかから出てきたアイデアや希望を反映したものです。」(※4)

施設内には、図書室、音楽室、自由室などの共有スペースをかまえ、書道、体操、ピアノなどの教室のほか、コンサート、映画上映会、講演会なども開催。明るい光が差し込む「ゆいま~る食堂」では地元の豊富な食材を使った家庭的な料理が味わえ、毎週土曜日開催の「ゆいま~る居酒屋」で気の合う仲間とゆっくりお酒を酌み交わす、といったひと時も楽しめます。

引用)ゆいま~る那須「フォトギャラリー・ゆいま~る食堂

また、ここでは居住者が働ける仕組みをつくっています。厨房で食事の準備をしたり、庭の整備をしたり、敷地内のデイサービスで働いたりと、誰もが生活のなかで役割をもって生き生きと暮らすことが可能です。

1カ月の生活費の目安は以下のとおり。

※引用)ゆいま~る那須「ハウス概要

このほかに、以下の家賃がかかり、下記いずれかを選択して支払います。

  • 一括前払金......1,175万円~2,489万円
  • 月々払い方式......5万8,000円~13万9,000円

下記の表に、ゆいま~る那須の施設概要をまとめました。

参考)ゆいま~る那須「ハウス概要」を参考に筆者作成

まとめ

仕事や学びを通し、現役世代のように社会とかかわりを持って生きがいを感じながら暮らせる「日本版CCRC」。健康維持や認知症予防の視点からも、とても有意義な暮らし方だといえるでしょう。

とはいえ、まだまだ課題もあり、多くの人に浸透するにはもう少し時間がかかるかもしれません。日本版CCRCの今後の動向に注目したいところです。

(※1)首相官邸「『生涯活躍のまち』構想(最終報告)」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/ccrc/h27-12-11-saisyu.pdf

(※2)首相官邸「『⽣涯活躍のまち』構想参考資料」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/ccrc/h27-12-11-ccrc-kousou-sankou-1.pdf

*5
参考)「日本版CCRCがわかる本」松田智生著 p108

*6
引用)首相官邸「日本版CCRC実現への視点」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/ccrc/h27-02-25-siryou4.pdf

*7
引用)ゆいま~る那須
https://yui-marl.jp/nasu/

監修

渡辺 有美

介護やマネー関連が専門のフリーライター。

独身時代は都市銀行に勤務し、その後、結婚と子育てを経て介護の道へ。介護福祉士としてデイサービス・特養・訪問介護の現場で10年以上働いた経験を活かし、高齢者の方々の役に立つ記事を多数執筆しています。