【特集】家事のこれからを考える:家事したくない

家事を手放す、受け取る! 第二の人生で考える家事とライフスタイル

夫婦のこれから

家事について考えることは、第二の人生を夫婦ともども幸せに過ごすためのひとつの手段であり、大切なプロセスです。

【監修】横内美保子

ある日、突然、あなた(妻)が単身赴任することになったらどうしますか? しかも、夫は仕事人間で、家事はずっと妻に任せきり。 さあ、どうしよう。とにかく、生きていてもらわねば。
まっ先に教えるべきは、ご飯の炊き方。それから、洗濯機の使い方と洗濯物の干し方も。ほこりで死んだ人はいないというから、掃除のしかたは最後でいいか。ああ、忘れてた、ごみの出し方も......。
これは、10数年前、実際に我が家に起こった出来事です。

そして、妻が初めて赴任先から帰宅した夜のこと。いびつな球体がお皿にごろん。
あ、塩むすび!
ほおばると、ほろっとほどけ、ひろがってゆく。教わったとおりに、そっとむすんだ塩むすび。無骨な掌でゆるりとむすばれた塩むすび。噛みしめたのはご飯だけではありません。塩むすびひとつ分の幸せがありました。
でも、またすぐに腹は減り、米はなくなり、冷蔵庫は空になります。ほこりはたまり、部屋は散らかり、洗濯物の山ができます。庭の雑草は抜いても抜いても生えてくる――。塩むすびばかり食べているわけにはいきません。う~ん、面倒ですね。

家事を担ってきたのは?

では、その家事を担ってきたのは誰でしょう。
まず、家事関連時間を性別にみてみましょう。家事関連時間とは、家事、介護・看護、育児、買い物に費やす時間の合計です。
以下は、2016年に約20万人を対象に行われた、総務省による「社会生活基本調査」の結果です。1週間の家事にとりかかった時間を7で割り、1日の平均時間を算出しています。

総務省 統計局:「平成28年社会生活基本調査―生活時間に関する結果― 結果の概要」を基に作表

この表をみると、平成23年から平成28年の家事関連時間の男女差、ほとんど縮まっていないことが分かります。女性は男性よりも、1日につき2時間44分多く家事関連に時間を割いています。

家事関連時間を5歳ごとの年齢階層別・男女別に比較したのが下記の図です。20歳以降はどの年代でも男女差が大きいですね。

総務省 統計局:「平成28年社会生活基本調査―生活時間に関する結果― 結果の概要」を基に作図

夫よりも妻の家事負担が非常に大きな日本ですが、こうした傾向は国際的にもみられるものでしょうか。以下は、1日当たりの家事関連時間の国際比較です。

男女共同参画局「共同参画 2018年5月号」家事関連時間の国際比較(6歳未満の子どもと親で構成される世帯)を基に作図

日本人の夫は1時間23分ですが、これは6歳未満の子どもをもつ夫婦のデータになるので、参考値として見ていただきたいのですが、冒頭で紹介した男性の平均家事関連時間を39分上回っています。それでも日本は他の先進国に比べて、夫は極端に短く、妻は長いことがわかりますね。

家事分担に関する満足度とその背景

次に、家事分担に関する妻と夫の満足度とその背景をみていきます。
まず、妻と夫は、こうした家事分担をどう思っているのでしょう。以下は、働き方別に「家事・育児の分担に関する満足度」を表したものです。

内閣府「少子化社会対策に関する調査(2016)」第2章 4.(5)家事・育児の分担の満度 4.仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を基に作図

夫婦の働き方にかかわらず、夫の満足度は総じて高いのに対し、妻のスコアは夫と比べて約20%低く、満足度には開きがあることがわかります。この結果についうなずいてしまう妻は、多いのではないでしょうか。

なお、家事は通常ならば無償で行われます。このように、経済的に評価されない『支払われない労働』を、「アンペイドワーク」と呼びます。このアンペイドワークの経済的貢献を可視化するために、貨幣評価が行われています。古いデータではありますが、ご紹介します。下のグラフによると、「社会活動」以外の項目全てを家事関連が占めていることがわかります。

内閣府経済社会総合研究所「家事活動等の評価について-2011年データによる再推計-」を基に作図

これらのアンペイドワークを貨幣評価したのが、下記のグラフです。

内閣府経済社会総合研究所(2013)「家事活動等の評価について-2011年データによる再推計-」を基に作図

妻が家事に充てる時間だけ外に働きに出ると、年間180万円超の収入が得られる――。言い換えれば、これほどポテンシャルの高い人が家族の中にいて、その人が無償で家事を引き受けているということです。
でも、その人は家事を担うことを「報われない」と感じているかもしれませんね。その「報われない」という思いが先ほどの満足度に反映している可能性は、十分考えられます。

ひとりだけの幸せはない

このような状態が続くと、家庭はいったいどうなるでしょう。
総務省の調査(2017年)によると、有職男女の1日当たりの仕事時間は、男性6時間49分、女性4時間47分。仕事時間は、女性よりも男性のほうが1日あたり2時間2分長いことがわかります。(※)
こうした仕事にかける時間の違いが、妻と夫の家事時間に影響を与えているのでしょうか。それとも逆に、妻が家事を引き受けていることが要因となって、仕事時間の男女差が生じているのでしょうか。

続いて、65歳以上の高齢者の仕事時間と家事関連時間をみてみましょう。以下は、65歳以上の人の主な行動時間を種類別にまとめたものです。

総務省統計局「平成28年社会生活基本調査―生活時間に関する結果― 結果の概要」を基に作図

この表によると、65歳以上の男性の仕事時間は平成28年現在、2時間7分ですから、先ほどの6時間49分より1日当たり5時間17分も短いことがわかります。ところが、家事関連時間は女性のほうが2時間34分長く、夫の仕事時間が大幅に短くなっても、家事にかかる時間には依然大きな開きがあるというわけです。

このまま何もせず流れに任せていたら、老後は今と何も変わらない状況になるでしょう。そうなると、妻はますます不満を募らせストレスを抱えてしまい、家庭の平和は保てなくなってしまうかもしれません。夫も妻も揃って幸せな老後を過ごすためには、何かを変える必要がありそうですね。

目指すのは「手放すこと」と「受け取ること」

では、これからの家事分担をどのように考えたらいいのでしょうか。
目的は、第二の人生を夫婦ともども幸せに過ごすこと。家事について考えるのは、その目的に近づくためのひとつの手段であり、大切なプロセスです。

これまでみてきたように、日本の妻は十分すぎるほど家事をやってきました。それにもかかわらず、多くの妻は家事を返上せず、"手抜き"などの工夫を凝らしながらなんとか切り抜けようとしています。しかし、一極集中という構造に問題があるのですから、その構造自体を変えないことには根本的な解決にはつながりません。

妻が家事の一部を手放すという選択は許されないのでしょうか。そして、妻が手放した分を夫がひょいと受け取ったとしたら......事態は変わるかもしれません。

では、妻は家事をどのくらい手放せばいいのでしょうか。夫婦によってその関係性や家事分担の割合、ライフスタイルが違いますから、それはそれぞれの夫婦が考えるべき問題でしょう。

ここでは、参考になりそうな指標をふたつご紹介します。
まず以下は、分担割合別に妻と夫の家事・育児に関する満足度を表したものです。

内閣府「少子化社会対策に関する調査等:第2章4.(5)家事・育児の分担の満足度 4.仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」(2016年)を基に作図

まず、夫からみてみましょう。妻が10~6割の家事を担う場合、夫の満足度はいずれも80%以上と高く、最も高い満足度を示すのは意外にも夫4割・妻6割状態になっています。
次に妻の満足度ですが、夫の分担が3割以上になると80%に、夫が4割以上の場合には90%にまで上がります。最も満足度が高い家事分担の割合は夫5割・妻5割です。
以上を踏まえると、夫が3割以上の家事を受け持つことがひとつの目安となりそうです。

次に、妻と夫がどのような家事を分担しているかをみてみましょう。
以下はアンペイドワークに費やす時間を男女別、種類別にまとめたものです。

総務省 統計局「平成28年社会生活基本調査―詳細行動分類による生活時間に関する結果― 結果の概要」を基に作図

このうち、妻(女性)が分担している家事の種類とそれぞれの時間割合を表したのが、下の円グラフです。

総務省 統計局「平成28年社会生活基本調査―詳細行動分類による生活時間に関する結果― 結果の概要」を基に作図

女性の家事時間のうち食事の管理にかける時間が、全体のちょうど半分を占めることがわかります。毎日、料理や食材の買い物など、多くの時間を費やしているのですね。

なお、夫婦間の家事分担に関する研究の中には家事の種類に注目したものがあります。それによると、家事頻度の男女差と男女が分担する家事の種類には相関関係があるということです。

女性は日常的で、ある程度のスキルが必要な「食事準備」や「あとかたづけ」「洗濯」を担当しているのに対し、男性は「掃除」や「買い物」など、あまりスキルを必要とせず、週末などにまとめて行うことができる家事を行う傾向が強いというのです。

家事分担の割合を変える場合、こうした状況をどう解決するかもそれぞれの夫婦の選択ですね。つまり、ルーティンの家事をこのまま妻が担い続けるのかどうかという問題です。

「塩むすび」はいくつもある

ふたたび塩むすびの話です。
「塩むすび」とは、何でしょうか。それは、スキルが必要な分野においても、スキルなしで立派に成立するもののシンボルです。塩むすびはたったひとつのコツを守るだけでご飯の旨味をこれ以上ないくらい引き出す優れた調理法です。しかも、材料は炊きたてのご飯とわずかな塩だけ。

実は「塩むすび」はいくつもあるのだということに、もうお気づきでしょう。
たとえば、ほうれん草と豚バラだけのお鍋。あるいは、あつあつのご飯にバターをのっけて醤油を一滴たらしたり。ガーリックトーストや卵かけご飯、海苔弁当もこの類ですね。ちょっとだけいい食材にすれば、もう無敵。
この上なくシンプルなのに1食になるところが「塩むすび」たる所以です。1日3食のうちの1食をこれにすれば、分担割合は33.3%。そう考えれば、肩肘はらずに、楽々分担クリアです。

冒頭の話にもどりましょう。
妻が単身赴任を終え、夫婦がまた一緒に暮らすようになるまでに9年の月日が流れました。
環境は人を育てる! 夫は立派に家事をこなすようになり、炊事、洗濯、掃除の各分野において「一家言あり」という境地にまで達しました。今では家事を楽しんでいるように見えることさえあるくらいです。
現在の家事分担割合は、仕事をリタイアした夫が少なめに見積もって7割、まだ仕事を続けている妻が多めにみて3割です。お掃除ロボットと食洗器もいい仕事をしてくれています。

きっかけとなった妻の単身赴任はレアケースかもしれません。でも、それは、きっかけさえあれば変われるのだという証明でもありました。
最後に我が家の掟をご紹介したいと思います。

その1:どんな料理も感謝していただくこと

その2:よほどの理由がない限り、パートナーのやり方には口を出さないこと

その3:愚痴をこぼしそうになったら、パートナーに助けを求めること

出典元
※総務省 統計局HP(2017)「平成28年社会生活基本調査―生活時間に関する結果― 結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/shakai/2016/pdf/gaiyou2.pdf

監修

横内美保子

博士(文学)。元大学教授。

この30年間、日本語教育や日本語教師養成、地域の日本語学習支援に取り組んできました。パートナーとの家事分担は、かつては妻が99%、妻の単身赴任を経て、現在は夫が70%です。