訪れた親の家が「ゴミ屋敷」に。理由と解決方法は?

夫婦のこれから

行動の裏にある「原因」から探り、問題の解決にあたるようにしましょう。

【監修】清水 沙矢香

「ゴミ屋敷」。
家の中にゴミを溜め込み、足の踏み場がなくなっていたり、家の中からはみ出てベランダや敷地にゴミが溢れていたりする様子は、メディアなどで時折紹介され、騒ぎになっています。なかには、高齢者が自宅を"ゴミ屋敷"にしてしまっている例も見られますが、ゴミ屋敷は近隣トラブルだけでなく、室内で崩落や火災が起きる可能性もともなう命につながる問題です。
久々に親に会いに行った時、その家がゴミ屋敷になっていたら、どうすれば良いのでしょう。

減らない「ゴミ屋敷」問題

ドアが閉まらなくなるまでに溜め込まれたゴミ。近隣住民は悪臭や害虫などの被害を訴えているけれど、本人は悪びれる様子もない。
住人はひとり暮らしの高齢者。何度にもわたってテレビで紹介され、行政の度重なる注意にも応じることなく、最終手段として行政代執行でゴミが撤去される......
メディアなどで見かけるゴミ屋敷の印象は、このようなものではないでしょうか。

しかし実際、テレビで見かける事例は氷山の一角でしかありません。
環境省が全国1,145の自治体を対象に行ったアンケートでは、ゴミ屋敷問題を「認知している」と答えた自治体は34.2%に留まっています。

環境省「平成29年度 『ごみ屋敷』に関する調査報告書」 図1「ごみ屋敷」の事案の認知を基に作図

近所との明らかなトラブルに発展すれば自治体に認知される可能性はありますが、人知れずゴミ屋敷になっている住宅は多いのではないか、と考えられます。

一方、当事者は実際どんな状況にあるのでしょう。
行政が対処したゴミ屋敷の事例をいくつか紹介します。

新聞紙や弁当の空容器が山積みになった部屋でひとり暮らし。一方、使っていない部屋やキッチン周りはきれいな状態。本人は、アルツハイマー型認知症と診断され、成年後見制度と介護保険の利用に至った。

ひとり住まい。トイレは使用できず、2階は値札の付いたままの洋服が山積みの状態。本人は、入浴しておらず失禁状態。周囲からの臭気の苦情により行政が介入した。本人は、脳梗塞後遺症とアルツハイマー型認知症と診断され、成年後見制度と介護保険の利用に至った。

ひとり住まいの部屋に物があふれ、大家から退居を迫られ転居。しかし、転居先も物があふれている状態。本人は、数年前に統合失調症の診断を受け、服薬中。お金の管理や契約手続きは自分で済ますことができる。行政側が「また引っ越すのは大変だから」と説得し、援助を行った。

リサイクル店で買ったものが、部屋中に詰まったひとり住まいの部屋。居住者は、入浴や着替えといった生活行為は普通に行え、家賃の滞納もない。行政職員の繰り返しの介入で状況は一旦落ち着いたが、サポートを中止したら元の状態に戻ってしまった。

これら四つの事例には、いくつかの傾向が見て取れます。上3つの当事者には、認知症や統合失調症といった明らかな疾患がありますが、4つ目の当事者には、精神的な疾患が見つかっていません。それにも関わらず、はたから見れば普通とは思えない「ため込み」をしているのです。

テレビでよく見かける光景には、取材者や自治体の職員が呼びかけてもあまり取り合うことがなく、なんとなく意地を張ったような雰囲気で無言のままその場を去っていく、というケースがよく見られます。しかし、そうやって表面的に知れる情報以上に、ゴミ屋敷の住人が抱えている事情は複雑です。

「ため込み」の理由はさまざま

こうした「ため込み」をしてしまうのには、いくつかの理由があります。
まず、純粋に体力が追いつかず、片づけられなくなってしまったケースです。この場合、からだの病気やうつ病、認知症で体力が大幅に低下し、「そのうち片づけよう」と考えているうちにゴミが増えてしまいます。さらに、ゴミが増えるごとに「人に見られたくない」という意識が働き、ますます周囲に助けを求めにくくなってしまう、という悪循環も考えられます。
また、うつ病の場合は、病気が悪化すると「セルフネグレクト(自己放棄・自己放任)」してしまうことがあります。自分の身の回りのことを「放任」してしまうのです。
このような場合は、第三者が手助けし、その後は定期的にヘルパーが訪問することによって状況は改善します。

一方で、事態が複雑になるのは、身体的に「片づけができない」という状況ではないにも関わらず部屋中に物をため込んでいるケースです。この場合、本人は「ため込んだものの廃棄を拒否する」傾向にあります。

他人から見れば価値のない「ゴミ」なのですが、本人にとっては「意味のあるもの」「奪われたくないもの」であって、捨てられることに苦痛すら感じるというケースです。このような行動について、近年、ある病気の存在が明らかになっています。

ため込みをやめられない「ホーディング障害」

過剰にモノを収集し、集めたものを手放すことに対して強い抵抗を示す原因のひとつとして、「ディオゲネス症候群」という精神疾患があります。無意味な収集をしたり、孤独で衛生状態の悪い生活をしたり、外からの援助を拒否したりという特徴があります。ここから「ホーディング障害」という疾患へと発展し、これが原因で自宅をゴミ屋敷にしてしまう高齢者が多いとも考えられます。他人から見れば価値がないと思うようなモノでも大量にため込み、部屋はおろかキッチン、トイレ、風呂など生活に必要なスペースまでをモノで埋め尽くしてしまうといった具合です。

また、加齢や孤独、喪失感といったストレスに対処する方法としてこのような収集をし、モノに執着する行為に出るケースは、老齢期に多いとも言われています。周囲が「ゴミ」だと思っても、本人にはそのような認識がないので、多少のトラブルが発生しても気にすることはありません。他者が呼びかけても援助を申し出ても受け入れません。この場合の解決方法は、複雑なものになります。ディオゲネス症候群やホーディング障害といった精神疾患が原因である場合は、疾患を取り除かなければ、一時的に片づけをしても再び繰り返すからです。また、疾患の背景にある出来事や感情にまでもアプローチする必要があります。 ホーディングはモノに留まらず、動物の多頭飼いという「アニマルホーディング」という形で発現し、トラブルを招いていることもあります。

自宅をゴミ屋敷にしてしまう人をひとくくりに医学の枠組みに押し込んでしまうのが適切かどうかの議論はありますが、ゴミ屋敷問題の解決は一筋縄ではいかないということです。

ゴミ屋敷にどう対処するのか

さまざまな原因が考えられる「ゴミ屋敷」ですが、自治体に認知された場合は、「指導」という形から入るのが一般的のようです。

環境省「平成29年度 『ごみ屋敷』に関する調査報告書」 図2 「ごみ屋敷」への対応を基に作図

ゴミ屋敷の解決の難しさのひとつには、トラブルがあったとしても自治体もなかなか立ち入りできないという実情があります。これは、ゴミであったとしても、自宅に溜め込んでいるものはあくまで「私有財産」であり、他人が勝手に撤去することはできないのが現実だからです。
テレビで見かけるような「行政代執行」は、そう簡単にできることではなく、あくまで「最終手段」です。マスコミによって行政の知るところになる、というケースもあるでしょう。
また、ゴミの撤去にかかった費用は、最終的には本人に請求されるうえ、その後の本人の生活に関しては行政に強制力はありませんから、繰り返される可能性も多分にあります。ましてや、ホーディング障害が原因となっていた場合は、「自分のものを勝手に奪われた」という意識が強く働くため、よりエスカレートし、さらに引きこもっていく可能性があります。結果として、孤独死につながりやすい環境を作ってしまうのです。

また、ホーディング障害を持つ人は、IQが高かったり、かつて社会的に成功していたりする人も少なくないと言われています。加齢で思うように動けなくなってきた時、過去の自分と比較して生まれる喪失感がなおのこと強いからでしょう。ですから、「立派な親」だと家族が思っていても、老いた自分とのギャップに人知れず苦しみ、ホーディングという極端な行動に出る可能性が十分にあるのです。

親の住まいをゴミ屋敷にしないためにできることは、親元を訪れた時に異変がないか、そして、電話などのコミュニケーションで、どこか精神的に引きこもりがちになっているという変化はないか、を普段から観察することです。また、訪れた時にすでにゴミ屋敷になっていて、かつ本人が片づけを受け入れないという場合は、無理に片づけてしまう前に、自治体と医療機関に相談しましょう。
ゴミを「なぜため込むのか」を理解しなければ、本当の解決には至りません。
ぜひ、このような事態に直面した際には、その行動の裏にある「原因」から探り、問題の解決にあたるようにしましょう。

監修

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、大手放送局に主に記者として勤務。2017年退職後、Webライターとして、経済を中心とした取材経験や各種統計の分析を元に、お金やライフスタイルなどについて関連企業に寄稿。
趣味はサックス演奏。自らのユニットを率いてライブ活動を行う。