「うちの父が徘徊老人だなんて...」認知症高齢者の徘徊の実態と家族が備えるべき対策

夫婦のこれから

認知症の方にとっても介護する方にとっても無理や負担の少ない介護を目指しましょう。

【執筆者】中西 真理

認知症の症状にはさまざまなものがありますが、その中でも「徘徊」は、行動が広範囲に及ぶと帰宅が困難になることもあるため、認知症の方の生命・身体を脅かすおそれのある症状のひとつといえます。
警察庁の資料によると、認知症または認知症の疑いのある行方不明者は、調査を開始した平成24年から増加し続けています。平成30年には、届出の約2割に迫っています。

警察庁「平成30年における行方不明者の状況について(全体のポイント)」を基に作図

また、年齢別・原因別で解析すると、認知症が原因とみられる行方不明者は50代以降からみられるようになり、80歳以上では行方不明になる原因の8割以上が認知症となっています。さらに、認知症の行方不明者のうち、約3%が警察において死亡が確認されています(※1)。

徘徊を含む認知症の周辺症状は、全ての人に現れるわけではありませんが、適切な対応をしなければ重大な事態を招きかねません。ここでは、認知症による徘徊についてその原因を知り、家庭でもできる対策について解説します。

徘徊にはきちんとした理由や目的があることも

認知症の症状には、記憶障害・見当識(時や場所を把握すること)障害・判断力の低下など脳の機能が低下することで生じる「中核症状」と、性格や環境などが影響して生じる「行動・心理症状」があります。そして徘徊は、行動・心理症状のひとつとされます。

政府広報オンライン「くらしに役立つ情報:もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン」の図を基に作図

徘徊は、中核症状である「記憶障害(出かけた目的を忘れてしまう)」「見当識障害(どこにいるのかわからなくなってしまう)」「理解・判断力の障害(道に迷った時にどうすればよいかわからない)」が原因で現れることがあります。さらに、不安やストレスが徘徊を引き起こすこともあります。また、指定難病のひとつ「前頭側頭葉変性症」が原因で認知症が起こっている場合、同じ行動(決まった散歩コースを毎日歩くなど)を繰り返すこともあります。

徘徊のきっかけは、日常生活や今までの習慣に関連する些細なものであることも少なくありません(下表参照)。そのため、徘徊を減らすためには、行動の背後にある理由や本人の気持ちに寄り添うことが重要です。

徘徊が起きる理由と具体例を以下にまとめました。

行動途中で目的を忘れてしまうことで生じる徘徊

  • ハガキを出しに行こうと出かけたものの、目的を忘れて歩き回る
  • 買物途中で、レジへ行くことができなくなる、など

「場所」がわからなくなってしまうために生じる徘徊

  • トイレの場所がわからず、家の中をウロウロしてしまう
  • 自宅にいるのに「家へ帰る」と言って出て行ってしまう
  • 入院・転居などで自分の居場所が把握できず、自宅やもとの家に戻ろうとする、など

時間感覚がズレてしまうために生じる徘徊

  • 夜中に買物や散歩に出かける、など

過去のある時期を「現在」と勘違いしてしまうために生じる徘徊

  • 仕事へ行こうとする
  • 子どもを迎えに行こうとする、など

道に迷った時の対処方法がわからないために生じる徘徊

  • 携帯電話を持っていても使おうとしない
  • 人に道を訪ねようとしない、など

不安やストレスから逃れようとするために生じる徘徊

  • 幻覚などから逃れるために家から出て行ってしまう
  • 今いる場所が面白くないために、出て行ってしまう、など

家庭でできる徘徊対策

徘徊は介護者を悩ませる症状のひとつですが、認知症の人の行動を抑制しても不安やストレスが増大するだけなので、問題の解決にはなかなかつながりません。しかし、ちょっとした工夫で症状を軽減し、介護者の負担を減らすことは可能です。以下に実践しやすい工夫例を場面ごとに紹介します。

家の中で特定の場所を探し歩き回る場合

  • 「トイレ」「洗面所」など、わかりやすい表示を付ける

家族の知らない間に出て行くことが多い場合

  • 「鍵は故障中です」といった貼り紙が有効なこともある
  • 外出に気づきやすくするために、玄関扉にチャイムやセンサーを設置する

家から出て行こうとする場合(家族が気づいた場合)

  • 「出かける前にトイレに行きましょう」「寒いから上着を着ていったほうが良いですよ」などと言って気をそらせる
  • 「今日はもう遅いから明日にしましょう」と他の方法を提案する

家から出て行くことを止められない場合

  • 一緒に出かけて「そろそろお茶でも飲みませんか」と家に誘う
  • 車などに乗せて近所をドライブし、表情がやわらいだら帰宅する

家に帰ることを嫌がる場合

  • 「では、お迎えの方が来るまででいいので、こちらで待っていてください」と家へ誘導する
  • 「今日はもう遅いから(家に)泊まっていってはどうですか」と提案する

入院先などから出て行こうとする場合

  • できるだけ面会に行って不安をやわらげる
  • 安心できる場所であることをやさしく説明する
  • 自宅にある本人が安心する思い出の品などを用意して渡す

このような工夫をしても、認知症の人は時に思いもよらない行動をすることがあります。そこで、徘徊に備え安全対策を講じておくと安心です。
対策は、本人の身を守るための対策と、帰宅をサポートする対策とに分けることができます。

認知症の方の身を守るための安全対策

  • 夜間でも目立ちやすいように明るい色の衣類を着用させる
  • 反射素材つきの衣類や反射素材付きの靴を常用させる
  • 暑さ対策や転倒時のケガ予防のために、帽子の着用を習慣づける
  • 歩きやすい靴・滑りにくい靴を用意する。サンダルなど脱げやすい靴は見つけにくい場所にしまう。
  • 気温の低い時期は、コートを玄関先に用意する

帰宅をサポートする対策

  • 衣類や靴、持ち物に連絡先を書く。本人が嫌がらなければ、目立つところに大きく連絡先を書くようにする。
  • 小型GPSを携帯させたり、靴や鞄などに取り付けたりする。
  • 交番や警察署などに、あらかじめ顔写真や氏名・連絡先を届けておく。
  • 近所に事情を説明しておき、見かけたら家族に連絡するようにお願いする

なお、自治体によってはGPS端末の貸出しや費用の補助をしているところもあります。また、民間企業との連携により、徘徊する人を発見する取り組みを独自に行う自治体も出てきています。

認知症の方にも家族の方にも負担の少ない介護を目指そう

加齢にともないあらわれる認知症は、薬物治療などで症状を遅らせることはできるものの、残念ながら治すことが難しい病気です。介護する家族にとっても長い付き合いとなることが多いので、ときには自治体のサービスなどを上手に利用して、介護の負担を減らすことも考えましょう。たとえば、各市町村に設置されている「地域包括支援センター」では、高齢者の生活や介護に関する相談のほか、仕事と介護の両立の悩みなどにも対応しています。

支援の手は多ければ多いほど介護は楽になります。家族だけで悩みを抱えるのではなく、認知症の方にとっても介護する方にとっても無理や負担の少ない介護を目指しましょう。

※1 警察庁「平成30年における行方不明者の状況について(全体のポイント)」
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/fumei/H30yukuehumeisha_zuhyou.pdf

執筆者

中西 真理

公立大学薬学部卒。薬学修士。

医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。