糖尿病専門医に聞いた!知っておきたい体と食事のこと

学生時代に運動をしていた人ほど肥満要注意!?

身体のこれから

スポーツを長く続けてきた人にとって、引退は人生においてなんらかの区切りとなることでしょう。引退を機にそれらを一気に解放してハメを外すと、あとから生活習慣病という形で影響が出る可能性もあります。運動をやめたら食習慣を見直し、消費エネルギーに見合った形にしていく必要があります。

【監修】鈴木吉彦医学博士

運動=健康的なイメージを誰でも持っているのではないかと思います。若いころ、本格的に運動をしていた人であれば、体も鍛えられており、病気とは無縁に感じられるかもしれません。

ところが、糖尿病専門医であるHDCアトラスクリニック院長の鈴木吉彦先生は、「もともと運動をしていた人の方が、注意しなければ健康に悪影響になることもあります」と話します。今回は、運動をしていた人が気をつけたい生活習慣のポイントについて伺いました。

現役時代の食習慣に気をつけて

スポーツ選手や趣味で本格的にスポーツをやっている人などは、エネルギーを多量に消費します。筋肉がしっかりとついている分、基礎代謝量も高いですし、トレーニングでかなりのエネルギーを要するからです。それに見合うエネルギーを補給しようとすると、食事量も当然ながら多くなります。

運動をやめると、エネルギー消費量は大きく減少します。現役時代ほどの運動はしなくなりますし、トレーニングをやめれば筋肉量が落ちて、基礎代謝も減っていきます。それにもかかわらず、食習慣だけが現役の頃のままだと、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ってしまい、あっという間に太ってしまうのです。

筋肉量が減って、太ったことによって体も重くなると、動くのが億劫になってしまいます。すると、余計に活動量が減り、それに伴って消費エネルギーも減り、さらに太る......という悪循環に陥ってしまうかもしれません。運動をやめたら食習慣を見直し、消費エネルギーに見合った形にしていく必要があります。

元スポーツ選手は男女によって健康状態に差がある?

元アスリートを対象にしたある調査において、男性は引退後に体重増加した人が多かったのに対し、女性にはその傾向が見られなかったという結果が報告されていました。女性は引退後に妻や母親という役割にシフトチェンジし、生活習慣の乱れが少なかった可能性が指摘されています。

一方で、フィンランドで行われた調査では、元アスリートの男性は糖尿病になりにくい傾向が見られたとの報告もあります。その傾向がもっとも強かったのが、マラソンやクロスカントリーといった持久力を必要とするスポーツの経験者だったそうです。彼らは引退後も運動をすることが生活習慣になっているため、リスクが低くなったのではないかと考えられています。

こうした調査結果を見ていると、元スポーツ選手だからといって、一概に肥満や生活習慣病になるというわけではなさそうです。引退後も自分の状態に合わせて生活習慣を整えられるかが、健康状態を維持するために大事であると言えるでしょう。

基礎代謝と年齢

スポーツを引退するときに忘れてはいけないのが、基礎代謝量の低下です。運動を引退する頃にはそれなりに年齢を重ねているでしょうから、基礎代謝量は若い頃よりも落ちています。それまでは、スポーツをしている分同年代よりもエネルギーを消費していたかもしれませんが、やめればそれなりに消費量も落ちていきます。

厚生労働省がまとめた「食事摂取基準2020年度版」によると、男性では50〜60代で1480kcal/日だったのが、70代以上になると1280kcal/日へ減少します。女性では、同年代で1100kcal/日から1020kcal/日という変化です。これに加えて、活動量も減りますから、余計に1日の消費エネルギーは少なくなります。

年齢を重ねて行くうえで、スポーツをやめたことと加齢による変化の両方の影響を考慮して、普段の食事を見直すことが大切です。

スポーツをやめた後の生活習慣のポイント

これまでお話ししてきたことから、本格的なスポーツ習慣をやめた後は以下の2点に注意して、生活習慣を整えることが大切です。

可能な範囲で運動する習慣を続ける

肥満や糖尿病などが少なかった元アスリートは、運動習慣を継続していたことが報告されていましたね。そのことから、本格的なスポーツを引退したあとも、運動習慣は継続していくことが望ましいでしょう。

ジョギングやウォーキング、筋力トレーニングなど、毎日の生活に取り入れやすい運動を行うようにしてください。現役時代ほどの負荷でなくて構いません。習慣化して、継続することが大切です。

食習慣を整える

本格的にスポーツをされていた方は、引退後も食事量が多くなりがちな傾向があります。活動量が減ったことと、年齢による変化を考慮して、どのくらいの摂取エネルギーが適切かを把握する必要があります。

食事は量だけではなく、内容にも配慮しなくてはなりません。炭水化物やタンパク質、脂質のバランス、野菜など食材のバランスをできるだけ意識して食事を準備するようにしましょう。

スポーツ引退を機に生活習慣もシフトチェンジしましょう

スポーツを長く続けてきた人にとって、引退は人生においてなんらかの区切りとなることでしょう。その区切りと同時に、生活習慣も変化が必要です。スポーツの成果を残すために、制限してきたこともたくさんあるかもしれません。引退を機にそれらを一気に解放してハメを外すと、あとから生活習慣病という形で影響が出る可能性もあります。

引退後も元気に過ごすためにも、健康的な生活習慣を心がけましょう。

監修

鈴木吉彦医学博士

慶応大学医学部卒。元、日本医科大学客員教授。現、HDCアトラスクリニック院長。

糖尿病外来と併行し、自由診療としての肥満治療外来を立ち上げる。