病気になると、体内の代謝に変化が生じ、ニオイの原因となる物質が生成されたり増えたりすることがあります。体臭が気になる場合は原因を考え、生活習慣の改善や医療機関受診のきっかけとしましょう。
この記事の監修

「体臭」と聞くと、汗のニオイや加齢臭などを思い浮かべる方も多いでしょう。このようなニオイはだれにでも生じうるものですが、病気などが原因で独特の体臭が生じることもあります。
実際、漢方医学では患者さんが発するさまざまな「ニオイ」もまた、診断を行ううえで大切な情報源とされています。その一方で、客観的に体臭があるわけではないのに、「自分の体臭が気になる」と悩む方もいます。
漢方医学における「四診」
四診の種類 |
診断方法 |
診断の対象 |
---|---|---|
望診 |
視覚で患者の状態を観察 |
顔色・皮膚の状態・動作・精神状態・舌の様子・排泄物の状態 など |
聞診 |
聴覚・嗅覚で患者の状態を観察 |
声・咳・体臭・便臭・尿臭・口臭 など |
問診 |
会話から症状に関する情報を得る |
自覚症状・病歴・家族歴・治療に対する反応・嗜好 など |
切診 |
患者に触れることで情報を得る |
脈の早さや強さ・腹のはり具合や痛む場所の確認 など |
診断の優先順位は、望診>聞診>問診>切診
今回は、主に病気などが原因で生じる体臭に焦点を当て、体臭と病気の関係、そして、体臭が気になる場合の対処法などを解説します。
消えにくい体臭はどこから?
運動をしたときなどに生じる「汗のニオイ」は、汗や皮脂などが皮膚にいる細菌(常在菌)によって分解されて発生するものです。分泌された汗や皮脂、常在菌はいずれも皮膚の表面に存在するものなので、こまめに汗をふいたり皮膚を清潔な状態に保ったりすることで、ある程度「汗のニオイ」はおさえることができます。
しかし、ニオイの原因がからだの中にある場合、汗や皮脂などのようにふき取ってニオイをおさえることはできません。たとえば、ニンニクやネギなどニオイの強いものを食べると、ニオイの元となる成分が汗や尿に混ざってニオイを発することがあります。また、口臭の原因になることもあります。
病気が原因で独特の体臭が生じることもあります。病気になると、体内の代謝に変化が生じ、ニオイの原因となる物質が生成されたり増えたりすることがあるからです。また、何らかの原因で便の排泄が滞ると、便のニオイが汗や皮脂に移行して、からだ全体から便臭を発することもあります。
からだのニオイの原因
発生場所 |
ニオイの原因 |
具体例 |
---|---|---|
からだの |
汗や皮脂などが細菌に分解されて生じる。 |
汗のニオイ、足のニオイなど |
体内 |
食べ物や病気が原因になることもある。 |
ニンニクなどが原因で生じるニオイ、糖尿病特有の体臭など |
腸内 |
便秘などが原因で発生する。 |
からだから何となくただよう便臭など |
以下に、体臭に影響を与える身近な病気・症状をいくつか紹介します。
糖尿病:甘酸っぱいニオイ
糖尿病になると、体内で「ケトン体」という物質が多く作られるようになります。ケトン体には甘酸っぱい強いニオイがあるので、糖尿病が進行してケトン体の量が多くなると、汗のニオイや口臭が甘酸っぱいニオイになってきます。
肝機能の低下:アンモニアのニオイ
肝臓の機能が低下すると、タンパク質を分解する過程で生じるアンモニアをうまく分解できなくなります。分解されなかったアンモニアは血液とともに体内をめぐり、汗や呼気に混ざって放出されます。
胃腸の機能低下:硫黄のようなニオイ
胃腸の機能が低下すると、食べ物を十分に消化できなくなります。消化できなかった食べ物は腸内で腐敗し、硫黄のようなニオイを発します。ニオイの成分が腸内から血液へ吸収されると、やがて汗と一緒に放出され、特徴的なニオイを放つ体臭となります。
便秘:便臭・硫黄のようなニオイ
便秘などが原因で排便が滞ると、腸内で便が腐敗します。腐敗した便から発生したガスが腸から血液へと流れ、汗として体外に放出されると、便臭や硫黄のようなニオイを発することがあります。
特徴的な体臭が生じる病気
特徴的な体臭が生じる病気や症状の例を、下表にまとめます。糖尿病などのようにニオイの原因が明らかなものもありますが、経験的に知られているものもあります。
病気や症状 |
生じるニオイ |
---|---|
腋臭症(わきが) |
すっぱいニオイ・濡れ雑巾のようなニオイなど |
脂漏性皮膚炎 |
脂っぽいニオイ |
糖尿病 |
甘酸っぱいニオイ |
痛風 |
古いビールのようなニオイ |
肝機能の低下 |
アンモニア臭 |
腎機能の低下 |
アンモニア臭 |
胃腸の機能低下 |
硫黄のようなニオイ・すっぱいニオイ |
便秘 |
便臭・硫黄のようなニオイ |
全身の疲労やストレス |
アンモニア臭 |
腸チフス |
焼き立てのパンのようなニオイ |
魚臭症(トリメチルアミン尿症) |
魚のようなニオイ |
メープルシロップ尿症 |
メープルシロップのニオイ |
フェニルケトン尿症 |
かび臭いタオルのようなニオイ |
体臭が気になるときの対処法
汗などからだの表面に体臭の原因がある場合は、汗をふいたり肌を清潔に保ったりすることでニオイを減らすことができます。わきが体質の人は、殺菌効果のある石けんやニオイをおさえる専用の塗り薬などを使用すると、ニオイを軽減できます。
一方、体臭の原因がからだの中にある場合は、食事の内容に気をつけたり、ストレスをためないように注意したりすると、体調が整ってニオイが弱くなることもあります。たとえば、胃腸の機能低下が原因で体臭が強くなっている場合は、肉類の過剰摂取を避けるようにします。肉類は重要なタンパク源のひとつですが、腸内の悪玉菌が増えやすくなります。肉類だけではなく、野菜もバランスよく摂取すると悪玉菌の増殖がおさえられ、便秘にもなりにくくなります。
また、肝機能の低下でアンモニア臭が気になる場合は、アミノ酸の一種である「オルニチン」を含む食品を摂取することで、ニオイの軽減が期待できます。オルニチンは、シジミやエノキダケなどに多く含まれています。
ただし、食生活などを改善してもニオイに変化がない場合や、急に体臭が強くなった場合は、医療機関への受診も考慮しましょう。
体臭は、本人の自覚が乏しい場合もあります。家族や親しい人の体臭が気になる場合は、相手を傷つけないように配慮しながら指摘し、症状に応じて受診をうながすことをおすすめします。
なお、体臭があるわけではないのに「自分のニオイが気になる」という場合は、「自臭症」という症状の可能性があります。自臭症は、重症になると「外出できなくなる」「人と会うことを極端に避ける」など日常生活に支障が生じます。このような場合は、心療内科などでケアを受けることが必要です。
からだのニオイは個性のひとつですが、体臭の変化は体調の変化に連動していることも少なくありません。体臭が気になる場合は原因を考え、生活習慣の改善や医療機関受診のきっかけとしましょう。